遊戯王ARC-V アンサングビジター 作:名も無きパラサイト
ハートランドの路地裏に一人の少女の姿があった。
彼女の名前は丸藤レン、このハートランドがあるエクシーズ次元とは別の次元、融合次元にあるアカデミアという組織の決闘者だ。
彼女はアカデミアの総責任者であるプロフェッサーの指示でこのエクシーズ次元に偵察に来ていた。
目的はエクシーズ次元の決闘者の実力を測ることだ。
「この次元の一般的な決闘者の実力はおおよそ測れたか」
彼女が挑んだ相手はガラの悪いチンピラがメインだった。
口封じにカード化しても目立たないから都合がよかった。
「こんなことを、いつまで続ければいい……」
アカデミアでエリートだったレンからすればこの程度の相手では話にならない。
彼女からすればこんな決闘はただの弱い者いじめであった。
はっきり言ってしまって全く乗り気ではない。
「あと数人データを取れば問題ないはずだ。さっさと終わらせて帰ろう」
そして彼女は路地裏を出た。
次はせめて自分と対等に渡り合える相手と戦いたいと願いながら。
それからしばらく経った頃。
人気のない夜の公園、少女はそこに潜伏していた。
理由は言わずもがな、目立たずに獲物を狩るためである。
しかし、こんな時間に公園に来る決闘者などあまりいない。
そんなことはアカデミアで育った身ではわからないためにここで待ち伏せていた。
そこへ奇跡的に一人の男が歩いてきた。
「ふう、ランニングは疲れるな。辞めたい。いや、決闘者たるもの筋肉は必須だ、うん」
何やらぶつぶつと言っている男は遊佐であった。
彼は日課のランニングの途中、水分補給のために公園の自販機にドリンクを買いに来たのだ。
「おい」
「ん?」
「決闘しろ」
急に声をかけられたと思ったら決闘を挑まれた。
お前はどこぞのメカニックかと脳内で突っ込みながら遊佐は決闘盤を構える。
「いいだろう。相手になってやる。だが俺は、レアだぜ?」
ひょっとしたら通じるかと思い、ネタを挟んでみたが首をかしげ、「意味が分からん」とつぶやいているあたり通じなかったことが見て取れた。
「「決闘(デュエル)!!」」
「私のターン! 手札から《サイバー・ドラゴン・コア》を召喚!」
「何!?《サイバー・ドラゴン》だと!?」
遊佐が驚きの声を上げる。
まともな融合関連のカードを今生において初めて見たのだ。
無理もない驚きだった。
しかし、それを知らないレンは遊佐の驚きが知識にないカードに対する驚きと勘違いしていた。
「効果で《サイバネティック・フュージョン・サポート》を手札に加え、機械複製術を発動!《サイバー・ドラゴン・コア》はフィールド上では《サイバー・ドラゴン》として扱われるため、デッキから《サイバー・ドラゴン》を呼ぶことができる!現れろ、《サイバー・ドラゴン》!」
レンのフィールドに2体の機械竜が現れる。
遊佐は改めてサイバー流の恐ろしさを思い出していた。
「《サイバー・ドラゴン》が3体……」
「これで終わりと思うな。手札から《融合》を発動!」
「3体の機械竜よ、今一つとなりて、全てを貫き、破壊せよ!融合召喚!現れよ《サイバー・エンド・ドラゴン》!!」
《サイバー・エンド・ドラゴン》
ATK/4000 DEF/2800
《サイバー・ドラゴン》3体が融合し、3つ首の機械竜が現れる。
遊佐は正直焦っていたが、プロを目指す身として、ここでそれを態度に出すことは抑えた。
「ほう、たった3枚のカードを駆使してこれほどのモンスターを呼ぶとはな。その上デッキからのサーチで手札消費は実質2枚か。なるほど、少しは楽しませてくれそうだな」
「その余裕がいつまで続くか見ものだな。私はカードを1枚伏せてターンエンド」
「俺のターン、ドロー」
遊佐のターンとなり、改めて手札を見る。悪くない手札だ。
「俺は手札から魔法カード、《光の援軍》を発動! デッキからカードを3枚墓地に送り、デッキからライトロードと名の付くモンスターを手札に加える。俺は《ライトロード・アサシン ライデン》を手札に加え、そのまま召喚する。そしてライデンの効果でデッキトップから2枚墓地に送る。この効果でライトロードが墓地に送られたため、攻撃力が200ポイントアップする。そして、手札からソーラー・エクスチェンジを発動、《ライトロード・プリーストジェニス》を墓地に送りカードを2枚ドロー。そしてデッキトップから2枚墓地へ送る。そして墓地に送られた《ライトロード・ビーストウォルフ》を効果で特殊召喚する」
《ライトロード・アサシン ライデン》
ATK/1700→1900 DEF/1000
《ライトロード・ビーストウォルフ》
ATK/2100 DEF/300
レンに比べ、1ターンが実に長いがライトロードの特性上、長くなるのは不可抗力だった。
「墓地の2体の《ボルト・ヘッジホッグ》の効果発動。フィールドにチューナーがいるとき墓地から特殊召喚する」
《ボルト・ヘッジホッグ》
ATK/800 DEF/800
「チューナーだと!? 馬鹿な、エクシーズ次元にシンクロはないはずだ!」
レンは思わず叫んでしまった。
それほどの衝撃だったともいえるが、本来であれば言ってはならないことを言ってしまっていることまでには頭が回っていなかった。
「エクシーズ次元?なるほど、ここがエクシーズ次元だと仮定するなら、お前は融合次元から来た、ということか」
レンはしまったという顔をしたが、慌てて表情を取り繕った。
かなりまずいレベルの情報を渡してしまったと狼狽えたが、勝って口を封じてしまえば問題ないと心を落ち着けた。
「だからどうした。続けろ」
「中断させたのはお前だろうに。まあいい、俺は二体の《ボルト・ヘッジホッグ》でオーバーレイ!天駆ける人馬よ、今こそ光臨し、その槍で活路を開け!エクシーズ召喚!現れよ!ランク2!《神騎セイントレア》!」
神騎セイントレア
ATK/2000 DEF/0
「バトル!セイントレアでサイバーエンドを攻撃!」
「馬鹿な?!攻撃力倍の相手に攻撃だと?!」
「セイントレアはオーバーレイユニットがある限り戦闘では破壊されない!ぐわあぁぁ!」
遊佐LP4000→2000
遊佐の体に今まで感じたことがない激しい痛みが襲う。
明らかにただのソリッドビジョンではない。
体を鍛えていなかったら痛みに耐えられたかどうか疑わしい。
遊佐は、やはり決闘筋肉は決闘者の必需品だと確信した。
「やはり……これは……ただの決闘ではない、か。セイントレアの効果、発動。このカードと戦闘を行ったモンスターを手札に、戻す!そして、ライデンでダイレクトアタック!」
「なんだと?!くっ!トラップ発動!《レインボー・ライフ》!このターン、受けるダメージを無効にし、その分回復する!」
遊佐は攻撃が通らなかったことで一瞬顔をしかめたが、突如笑い始めた。
「ふふふ、面白い。この程度で終わりじゃないのだろう? 俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド。エンドフェイズ時、ライデンの効果でデッキから2枚墓地送りだ。見せてくれよ、お前の限界を」
「いいだろう、その目にしかと焼き付けるがいい!私のターン、ドロー!私は手札から速攻魔法、《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動!これにより私はこのターン、融合召喚を行う際の素材を手札、フィールド、墓地から除外することで選択することができる! 私は手札から《パワー・ボンド》を発動!再び現れよ!《サイバー・エンド・ドラゴン》!!《パワー・ボンド》の効果によりサイバー・エンドの攻撃力は倍となる!これが私の全力だ!ライデンに攻撃!エターナル・エヴォリューション・バーァスト!!」
「残念ながら、その程度は読んでいたぞ。トラップ発動、光の召集。手札を全て捨て、その枚数だけ墓地の光属性モンスターを手札に加える。そして、手札から、オネストの効果発動!サイバーエンドの攻撃力分、ライデンの攻撃力をアップする!」
「馬鹿な?!ぐああぁぁ!!」
レンLP5900→4000
《レインボー・ライフ》で回復した分のライフが削れる。
「《パワー・ボンド》の効果はエンドフェイズ時に融合召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。つまり、このままではお前は4000のダメージを受けて終わるぞ。《レインボー・ライフ》は本来ここで使うつもりだったのだろう?さあ、どうする?」
遊佐の指摘通り、このままではレンは《パワー・ボンド》のデメリットダメージで負けてしまう。しかし、それは本来融合を知らないはずのエクシーズ次元の決闘者が知るはずのない効果だった。
「お前はいったい……?私は……私の手札に、この状況を打開できるカードは、ない」
レンは震えていた。目の前の得体のしれない男に、そして何よりも抗うことすらできない敗北への恐怖に。ターンエンドを宣言できない。負けることが確定した上で、みっともなく茫然としていた。それはまるで駄々をこねる子供が如き行いだと、決闘者にあるまじき行いだと、わかっていた。しかし、それでもターンエンドの一言が言えなかった。
すると遊佐が決闘盤を操作し、決闘を中断した。
「な、なにを?」
「この決闘、一時預けさせてもらうぞ。お前はまだサイバー流の真の使い手とは言えない。お前が真のサイバー流決闘者となった時、改めて決闘するぞ」
「ま、待って!」
そう言って立ち去ろうとする遊佐をレンは引き留めた。
先ほどまで恐怖すら感じていた相手を、わざわざ引き留めた理由はレン自身もわからなかった。
しかし、ここで行かせてしまってはもはや自分は決闘者として致命的な何かが終わってしまう、そう確信していた。
「何故、サイバー流を知っている?貴様は、いや、あなたは一体……」
遊佐はサイバー流の使い手、遊戯王GXのカイザーこと丸藤亮を知っていた。そして敗北を確信しながらも、それをことが出来ないレンの姿にかつて画面越しに見たカイザーの面影を見た気がしたのだ。
「そんなことはどうでもいいことだ。お前、名前は?」
「丸藤、丸藤レンです」
遊佐はその名字に少なからぬ動揺を覚えた。カイザーの関係者なのか、偶然の一致なのか、それともパラレル世界のカイザーなのか。いずれにせよ、このままにしておくには惜しいと感じた。
「レン、サイバー流は常に進化しなくてはならない。お前にはまだまだ足りないものがたくさんある。そしてそのうちの一つは、ここにある」
そう言って取り出したのは《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》だった。
それはレンにとっては人生を左右する選択肢だった。
エクシーズを使うということ、そして何より遊佐の、エクシーズ次元の決闘者の手を借りるということは融合次元を、アカデミアを裏切ることになるのではないかという葛藤からそれを受け取ることが出来なかった。
「私は……私は、アカデミアの……」
「お前は決闘者だ。今のお前はそれ以上でもそれ以下でもない。立場を言い訳に使うな。お前がどうしたいかだ」
「私は、勝ちたい!その為なら全てを捨てても構わない!」
それはレンの本音だった。
今まで、アカデミアからの命令をただこなしてきたレンにとって、初めて他人に零した本音の言葉だった。
遊佐はフッと笑いかけながら答えた。
「それが聞きたかった。とりあえず、もう遅い。講義は明日からだな。帰るぞ、ついてこい」
遊佐はレンの発言から融合次元とやらに帰る気はないと判断し、自宅に持ち帰ることとした。