遊戯王ARC-V アンサングビジター 作:名も無きパラサイト
次回からはスタンダード次元編を予定しています。
おかしい。
決闘できない辛さをぶつけるはずが決闘できてない。
つ、次の話では決闘がある予定なので、がんばります。
ハートランド。
それは決闘と化学によって発展した未来型の都市で、観光客の絶えない平和な街だった。
そんな街が今、廃墟然とした様相を呈している。
侵略してきたアカデミアに対し、光の結社とレジスタンスは和解し、
融合メタの戦術を取り入れた決闘者を中心に対アカデミア部隊カウンターを結成した。
アカデミアとの戦いは苛烈を極め、当初千人を超えていたカウンターのメンバーはたったの三百人程度まで減っていた。
それでもアカデミアを撃退し、一時ながら、ハートランドは平穏を取り戻していた。
「これから復興が始まる。そんな時に、何故……何故瑠璃が攫われなければならない!」
机に拳を落とし、怒りの形相を浮かべるのは、カウンター第一部隊隊長、黒咲隼。
レジスタンスで中心メンバーとして活躍し、アカデミアとの戦いにおいても元々得意としていた多対一での殲滅力を発揮し、多くのアカデミアを倒してきた実力者だ。
そんな彼の妹、瑠璃が何者かに誘拐された。
誘拐だとわかったのは瑠璃らしき女性を担いで消える怪しいフードの決闘者が目撃されたからだ。
「落ち着け。喚いた所で事態は好転しない。幸いなことにアカデミアに潜伏中の仲間からの情報では攫われた者は今まで危害は加えられていない。警備が厳重で軟禁された部屋に近づけないために詳細はわからんが、アカデミアに捕まっているということは現状ではある意味最も安全だ。何せカードにされる心配はないからな。故に今はまず今後の対策を立てるべきだろう」
冷静に説明しながらも端末を操作し、カウンターへの指示を行っている少女。
彼女はカウンター統括司令部スパイ統括部門部長の丸藤レン。
元アカデミアでありながら現在はアカデミアを内部から崩壊させようとすら企んでいる。
遊佐の計画表通りに組織を結成し、その後も計画通りに事を進めているが、その計画表が遊佐がいなくなっても問題ないように計画されていることに気が付き、次会ったら問い詰めようと考えている。
「今後の方針としてはありだと思うけどね。攫われた瑠璃ちゃんの救出ってのも。後はカード化された仲間を開放する方法を探すでもいいと思うよ」
そう返すのはカウンター第二部隊隊長、浅倉リリ。
ハートランドプロ養成学校の生徒で、光の結社に所属していた決闘者だった。
現在は洗脳も解けているが、元々遊佐の友人だったためにこれといった確執もない。
ただし、次に会った時は一度殴ろうと心に決めている。
「救出のためにはアカデミアに乗り込む必要がある。しかし、そうなった場合、現行の戦力では質も量も足りない。黒咲の妹の件は我々元アカデミアの方で情報を集める。危害を加えられる心配がない以上、確実に救出できるタイミングを目指すべきだろう」
アカデミアには光の結社の洗脳を受けた決闘者がいる。
しかし、アカデミアでは記憶を覗ける。
それをかいくぐるように洗脳するのはなかなか難しい。
故に、アカデミアに送り込んだスパイのほとんどは使い捨てだ。
しかし、中には洗脳が解けてもカウンターに協力する決闘者もいた。
そういった者たちは現在、アカデミア内部で破壊活動やらに勤しんでいる。
「だが、戦力を回復するにも、カード化された仲間を戻す方法はアカデミアに乗り込んで調べる他あるまい。それともそれも調べてくると言うつもりか?」
「いいや、戦力なら他にあてがある。スタンダード次元とシンクロ次元。この二つの次元の決闘者を協力させることが出来れば大幅な戦力増強になる」
そう、融合次元に対抗するのにエクシーズ次元のみで行う理由はない。
故に遊佐の計画では最初から残る二つの次元との交渉が予定されていた。
「なるほど、別次元ね。確かに味方に出来れば心強いかも。それにしてもシンクロかー。遊佐くんから話には聞いたけど、やっぱり実際に決闘してみたいなぁ」
「貴様、遊びに行くのではないのだぞ。」
呑気なことを言う浅倉に黒咲が叱咤する。
しかし、浅倉はそれをどこ吹く風と流し、笑いながら答えた。
「だって決闘は楽しまなきゃ。どんな時でも、誰が相手でも」
その言葉は、アカデミアを恨む黒咲にとっては出来もしない理想であり、アカデミアで戦士として育ち、決闘を戦う術とするレンにとっては理解できない思考だった。
「まあ、この際、個人の主義主張については置いておこう。まずはスタンダード次元を偵察し、味方に出来るか、また、その価値があるかを検証しよう」
レンの提案に二人は同意し、偵察隊のメンバーを選定して会議は終了した。
会議終了と共に、各隊の隊員を召集をかけ、スタンダード次元との交渉に向けての準備が始まった。
エクシーズ次元で、カウンターが反撃の準備を進める頃、融合次元では一人の少女が脱走していた。
「どこへ行った?!」
「あっちだ!あっちにいたぞー!!」
「追え!追えー!」
アカデミアの教官からアカデミアの精鋭部隊であるオベリスクフォースまでもが入り乱れ、少女を探す。
しかし、少女はまるで捕まらなかった。
そのことを最も疑問に思っているのは、追われている少女本人であった。
「おかしい。さっきからでたらめな情報を流している奴が何人かいるぞ」
脱走した少女、セレナは物陰に隠れながらその疑問を口にした。
そう、先ほどからでたらめを叫んでいる者が多すぎるのだ。
最早セレナがもう一人いないと説明が付かないほどに奇妙な情報が飛び交っている。
「まあいい。好都合だ。このまま別次元へと向かい、手柄を立てればプロフェッサーも私を戦場に出さなかったことを後悔するだろう」
理解できない状況に考えることを放棄したセレナは次元移動機能が付いた決闘盤を探し始める。そして、決闘盤第二保管庫の扉が半開きになっているのを発見した。
「ふん、ずさんな管理だな。管理担当者を変えるよう進言すべきだな。最も今回ばかりは助かった。見逃してやる」
命令違反の挙句逃亡という自身の現状を全力で棚上げした上から目線な発言だった。
そしてそのまま保管庫に入ると目的の物を手に取った。
「ごきげんよう、迷子の子猫ちゃん」
「誰だ!!」
セレナは突如背後からかかった声に飛び退いて距離を取り、決闘盤を起動する。
そこに立っていたのはアカデミアの制服に身を包む見知らぬ男だった。
「やあ、君がセレナだね。僕は天上院シグレ。君に届け物があって君を待ち伏せさせてもらったよ」
「私はここに誘導されたというわけか……」
シグレは手に持っていた小型モニターをセレナに投げてよこした。
慌てて受け取ったセレナはその電源を入れた。
するとどこかの街が映る。平和そうな、のどかな街だ。
「これがなんだと言うんだ」
「まあまあ、最後まで見てよ」
セレナが再び映像に目を向けると、突如として街の様子が一変する。
炎を上げ、倒壊する建物。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
そして、それを嗤いながら狩り、カードにしていくアカデミア。
それはハートランドがアカデミアに襲撃された日の記録だった。
「馬鹿なッ!誇り高きアカデミアの戦士が……これではまるで……」
「それが、アカデミアの真の姿だよ。誇りある決闘戦士なんて嘘っぱちだね。エクシーズ次元を蹂躙して楽しんでいる様は、まさに悪魔の所業だった。僕もこんなことに加担したことを心の底から後悔されられたよ」
シグレは捲し立てる様にアカデミアへの不信感を煽る。
セレナの表情は段々と険しいものになっていった。
「だ、だがこれが全てではあるまい!確かに一部の者がこのような暴挙を行っているかもしれないが」
「ほぼ全員だよ。それどころか決闘も3人がかりで1人をリンチだったり、負けた腹いせに次元転送装置でどっかにぶっ飛ばしたなんて話もあったよ。決闘戦士としての誇りなんて欠片も感じないね」
セレナの反論を最後まで言わせることなく否定する。
それは怒りに任せた言葉で、始めの軽い態度からは考えられないほどに余裕が見られなくなっているのが見て取れた。
「正直、信じられない気持ちだ。だが、何故私にこんな話をする。いったい何が目的だ」
「僕は今アカデミアを止めるために動いている。それで情報を手に入れるためにアカデミアまで来てみたらこの騒ぎ。警備が厳しくって何にもできやしないよ。だからせめて君を仲間に引き込めないかと思ってね」
「私にアカデミアを裏切れと言うのか」
「そうじゃない。僕らの気持ちを先に裏切ったのはアカデミアだ。気持ちの整理が必要なら、まずは僕とスタンダード次元に来てくれればいい。そこで実際に見てほしいんだ。平和な場所を、嬉々として壊すアカデミアの姿を。それを見て、君がどうするかは、君自身で決めてくれればいい」
セレナはしばらく考えるような素振りを見せた。
しかし、セレナの元々の目的も別次元に行き、手柄を立てることだ。
事実がどうであれ、行く先は変わらないならこの場は悩む必要はないと結論付けた。
「いいだろう。お前の提案に乗ってやる」
「それじゃあ行こうか。そろそろここも危なそうだしね」
そう言ってシグレは次元転送装置を起動し、セレナをスタンダードに送り、すぐに自身もスタンダード次元へと向かった。
そうして無人になった倉庫に一人の少女が駆け込んでくる。
少女は決闘盤を一つ取り、起動した。
そのタイミングで入り口から声が響く。
「見つけたぞ! セレナ様だ!」
少女は見つかった焦りと、自身とは異なる名前が叫ばれている事への疑問で混乱するも、今はとにかく逃げることを考えるしかないと思考を切り替えた。
「さあ、もう逃げられはしません。おとなしく……決闘盤!別次元に行く気だ!止めろ!」
そしてようやく起動した決闘盤を操作し、少女は逃げた。
しかし、少女は焦りからか、本来行きたかった次元とは別の次元へと跳んだ。
少女もまた、スタンダード次元へと跳んだのだった。