謎の光と共に現れた少年を救護室に運び込んだのが一昨日。丸三日眠り続けている少年を横目に検査結果を聞いて、思わず聞き返してしまった
「記憶喪失の可能性がある?」
「はい。脳波の1部に異常が見られます。海馬なのがどうも気になりますね」
脳波のCTすキャンを見ながら、言うIS学園の専属医師の言葉を聞きながら
(侵入者の線が無くなった訳ではないか)
侵入の際に強く頭を打った可能性がある。だから記憶喪失と言うだけで侵入者ではないと判断するのは早計だろう
「しかし不思議なのは身体のどこにも打撲の形跡がないんですよ」
「なに?」
打撲の形跡が無いという事は、侵入の際に頭を打ったという可能性が無くなる。じゃあこの記憶喪失の少年はどうしてIS学園の敷地内に倒れていたんだ?
「それと所持品もへんな物でしたね」
医師が取り出したのは僅かながらの物品だった。S.E.E.Sと書かれた赤い腕章と剣の装飾が施されたブレスレット。それと手紙
「S.E.E.S?組織名か何かか?」
組織名の略称のような気もするが……見たところただの腕章。それにこんなに目立つ物を身につける組織はないだろう
「これはISか?」
ISの待機状態に似たブレスレットを指差しながら尋ねる。本来なら私が主導して調べるのだが、入学間近と言うことで殆どこちら
に回れなかったのが痛いと思いながら尋ねると
「いえ。これはただのブレスレットです」
紛らわしい物を……しかしこれで侵入者の線は完全になくなった。これがISだとしたらあの光はISによる現象だと言えるし、もしかすると亡国企業によって発見された男性操縦者と言う可能性もあったが、それも消えた。あとは
「手紙か。どれ」
所持していたという手紙の封を切り中身を改める
『この方に色仕掛けを仕掛けたらぶち殺すので、覚えてやがれでございます。それとその場所から追い出したら、その学校を更地に
するのでご覚悟願います エリザベス』
とんでもない内容の手紙だった。しかも本気具合を示すつもりか、一番最後には
『なおこの手紙は開封後。2分後に大爆発を起こします』
慌てて窓を開けて手紙を捨てる。それから数秒後強烈な閃光が私達の目を焼く
「な!?とんでもないことをしますね」
「全くだ。しかしあれだけの高性能爆弾を手紙に仕込むとは驚きだ」
強烈なフラッシュグレネード。至近距離で見たのなら失明してもおかしくないレベルだ。この手紙を書いた人物は何を考えているのか?と思い溜息を吐くと
「ん……うん?ここは?」
少年がゆっくりと目を覚ます。そしてそれと同時に私の頭に上に落ちてくる手紙
『それでは私が迎えに行くまで、どうか彼をよろしくお願いいたします。それでは御機嫌よう』
その手紙を握り潰し。身体を起こしてキョロキョロと辺りを見ている少年を見る。髪で右目を隠している少年に
「私は織斑千冬。君の名前は?」
私がそう尋ねると少年は私を見返して
「湊。有里……湊」
ぼそりと呟いた少年は辺りを見て、私を見て、自分の手を見て
「ここはどこで、僕は誰なんですか?」
不安の色を目に写し、私にそう尋ねてきたのだった……私は頭を掻きながら
「湊は私が面倒を見る。学園長にそのように説明してきてくれ」
医師にそう声を掛け。左手を湊に差出し
「ここを案内しよう。君が落ち着くまでここにいるといい」
出来るだけの笑みを浮かべて言うと、少年はゆっくりと私の左手を握り
「よろしくお願いします。千冬さん」
ぎこちなく笑う湊の手を引いて、私は救護室を後にした。あの手紙の差出人の事を考えると、もし来たときに湊がいないと今度は本当に爆弾を使いかねない。そして記憶喪失で不安そうな顔をしている湊を放り出すことも出来ず、とりあえず保護するという方向で行こうと思い
(名目は何にするか)
IS学園に男は入れない。ISを使えないからだ、湊もそれは同じだろう。その湊をここで保護するにはどうしたものか……私はそんな事を考えながらゆっくりと歩き出した
「あいえす……女性しか使えない兵器で、ここはその操縦者を育てる学校」
記憶喪失だと教えるとそうですかと呟き終わり。その後はこうして学園の事を説明しているのだが
「そうだ、だから男はこの学園にはいない。1部の例外を除いてな」
学園長である。「轡木 十蔵」と弟の「一夏」が入学予定だが、それを除けば今この学園には十蔵さんしか男はいない
「それだと僕はどうなるんですか?ここで暮らせと言ってましたが?」
「それはまぁ何とかする」
記憶喪失なのは確実なのだが、どうも記憶力と頭の回転はかなり速いらしい。記憶喪失なのに記憶力と言うのもおかしな話だがなと苦笑し
「ISを見てみるか?」
「良いんですか?」
ISに興味を示していたみたいだし、見てみるかと尋ねると。湊は見てみたいと頷く丁度教員用のISハンガーが近くにある。私は
そこに湊を案内した
「これがIS」
「そうだ。第2世代型IS「打鉄」だ。これは教員用だから改造してあるがな」
正規の打鉄よりも一回り大型のブレードと、楯を装備している打鉄を見た湊は
「触っても?」
「構わない」
どうせ起動しないだろうしなと思い触って良いと言う。湊はゆっくりと胸部装甲に触れ、次の瞬間
「あの千冬さん。これはどうすれば?」
打鉄を展開し手首を傾げる湊。私はやれやれと肩を竦めて
「どうもお前もこの学園に入学することになりそうだな」
名目がどうするかは決まった「IS学園専属男性操縦者」として保護すれば良い。私はそう判断し
「ようこそ。IS学園へ」
きょとんとしている湊は記憶が戻るまでよろしくお願いします。と頭を下げたのだった
「と言うわけだ。更識、これを頼む」
「どうも」
突然来て、記憶喪失の少年を預かれと言う織斑先生に
「は?」
余りに突拍子過ぎて理解出来ず呆けいていると。任せたぞと言って出て行ってしまう。残されたのは紙袋を抱えた少年が1人
「有里湊。記憶喪失なのでご迷惑を掛けると思いますがよろしくお願いします」
「え、更識楯無。よろしくね」
挨拶をされたら挨拶を返す。これは常識なのだが……
(突然連れて来られても困るんですけど!?)
1人部屋だからつれて来たと言っていたが、何の連絡も無しに連れて来る?世界最強の考えていることは今一よく判らない。
「この箪笥使ってもいいですか?」
「あ、それは駄目。私の着替え入ってるから、あっちの奥のは空だからそっちを使うといいわ」
マイペースで荷解きをしている湊君の背中を見て
(いや!?違うでしょ私!?)
何が違うかは判らないが、この反応は絶対に違う。10代女子としてあるまじき反応であることはわかる、普通に考えて男と女をいっしょに部屋にするというのがおかしいはずだ。湊君を見ると荷解きを終えてIS学園の参考書を読んでいる。電話帳並みに厚いあれだ
(とりあえず襲われるとかの心配はなさそうね)
無論そうなっても迎撃する自信はある。ロシアの代表の肩書きは伊達ではないし、それにこれでも更識家現当主として何の訓練もしていない年下の少年に負けるわけが無い
「ここ判りますか?」
「え?どこ?」
参考書を持ってきて教えてくれと言う湊君を邪険に扱うことも出来ず、私は湊君にISの事を説明し始めた
(中性的って感じねえ)
前髪で右目を隠している。そしてその髪は私と同じ青色だが、私の髪より少し色が濃い。そして見える肌は白く、筋肉も余りついていないようで女子に見えなくも無い。
(記憶喪失だから不安に思っているのよね)
態度には出していないが、不安に思っているはず。ここで警戒すると湊君は頼れる人間がいなくなってしまう、ここはやはり必要以上に警戒せず、弟に接するような感じで振舞えば良いと判断し
「ここはそっちの参考書の7ページを見ると判りやすいわよ」
「これですか?」
「そう。それちょっと英語が多いけど、英語はわかる?」
「はい。大丈夫です。判らないのは自分のことだけなので」
自分の記憶が無い。もしかするとこの喋り方とかも違うのかもねと思いながら
「じゃあ5時まで勉強して、その後は同じ部屋で暮らす上での取り決めをしましょう。いいわよね?」
一応。男と女。そこの所はしっかりしないとと思いながら言うと、湊君は判りましたと返事を返す。
「じゃあ頑張って勉強しましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
こうして私。更識楯無と記憶喪失の有里湊君の奇妙な同居生活が始まったのだった……
「!あの方にお邪魔虫が近づいている気配がします」
エレボスとの戦いを終え、湊の所に行こうとしていたエリザベスは楯無の気配を感じ取っていたりする。恐ろしいのは死を与えるニュクスでも、悪意の化身のエレボスでもなく、恋する乙女と化したエリザベスだったりする。そして無限
に発生するはずのエレボスはと言うと
「「「ギギイイ……」」」
メギドラオンの連打により叩きのめされた挙句。エリザベスが手にした鍵の力で完全に封印され、2度とニュクスへは近づけないようにされていたりする……