Armored Core farbeyond Aleph 作:K-Knot
「ミッション開始!まずはVOBで、進行中の敵部隊を背後から突破する。できるかぎりの損害を与えておけ…後が楽だ 」
またVOBを使用するミッションということなので少々警戒しながら指示を出す。
今回はBFFの所持する大規模エネルギープラント・スフィアに進行する爆撃機部隊を撃破する任務となっている。
通常なら迎え撃つところを、後ろからVOBを使い無理やり追いつき撃破しながら追い抜き、その後VOBを外して反転、残敵を掃討していくのが概要となっている。
先日の昼間のこともありBFFからの依頼は王の思惑がなにかあるのではと警戒をしたが、先日の出来事よりも前に依頼が来ていたのでその可能性も薄そうであったので今のところ警戒はしていない。
「……」
目の前に迫るヘリに向けてマシンガンを放つが想定からかなり逸脱した速度の影響か、まともに当たらない。
彼我の距離200mくらいになってようやく当たるか当たらないかだ。
そもそもVOBとは敵の包囲網を突破するための物であるのでこのような使い方は向いていない。
しまった。速度の影響を受けにくいエネルギー兵器を持って来るのだったとガロアは反省する。
シミュレーター上での戦闘回数はカラードにいる誰にも劣ることはないが、VOBでの戦闘はシミュレーションで経験していない為まだまだ未熟なところがある。
ほんの数秒の思考のうちに狙っていたヘリは遥か後ろへと過ぎ去っていたため後回しだ。
目の前に三機で編隊飛行をしている爆撃機が見える。
角度をつけて撃つと想像以上にあらぬ方向へ飛んでいくことを踏まえて射線を合わせようと背中の右側でエネルギーを爆発させるイメージをし左へとクイックブーストを吹かす。
「…!」
その時、左へと移動すると同時に2000km/hはあった速度が一時的に800km/hまで下がる。
というよりは、前方への推進力のいくらかが左へ進む力へとなったような感覚。
恐らくはベクトルの絶対値の和が変わらないのであろう。
その発見をすぐに生かし目の前の編隊を撃破していく。
ビリビリと体中が前から見えない壁に押されて潰れていくような感覚がする。
それは気のせいなどではなく、コックピットと装甲の隙間にある衝撃吸収用ジェルの内側にいてすら打ち消しきれないGそのものにプラスして、
アレフ・ゼロに叩きつけられる空気の壁の感触がガロアにフィードバックされているものを合わせたものなのだ。
「……」
ネクストに乗ること自体が身体に良くないのは百も承知だがこれはそれに輪をかけて良くないに違いない。
手際よく撃破していると囁くようなセレンの声が入ってくる。
『VOB、使用限界近いぞ。通常戦闘、準備しておけ』
実際はセレンが囁いているわけではなく、VOBの爆音と風の音に慣れた耳がセレンの声を微かにしか認識できなかっただけなのだが。
「!!」
これから敵の爆撃機が蹂躙する予定だったはずの地にアームズフォートがあるのが見える。
これはブリーフィングでは聞いていない。敵か味方かもわからない、と思考しながらさらに目の前のヘリを撃ち落としているとセレンの声がまた耳に入る。
『AFランドクラブを確認、大物もいるな、気をつけろよ』
あれは敵か。左手のブレードをアクティブにする。後はVOBが解除されるのを待つだけだ。
「ネクストです!あれは…!ガロア・A・ヴェデットです!」
白く巨大な閃光を背にした黒いネクストが左手のブレードを蒼く光らせながら高速で迫ってくる。
「クソ!雪で発見が遅れたか!」
スフィア防衛長距離狙撃ノーマル部隊、サイレント・アバランチがメンテナンスで不在という情報を入手したオーメルは、ランドクラブで強襲し炙り出されて出てきた人員や部隊を爆撃機で焼き払う…という作戦だった。
「最悪だ…あいつは二回目の出撃でアームズフォートを落としているリンクスだぞ!近づけるな!撃ちまくれ!」
「ダメです!VOBの速度を捉えられません!」
「謀ったか王小龍!」
サイレント・アバランチの不在は事実で、そのことはオーメルの上層部も整備しているサイレント・アバランチの画像を確認することで今回のスフィア侵攻作戦に踏み切っていた。
だが、その情報を漏らしたのは王であった。
防衛戦力がいない時に攻め込むというのは至極当然の理由であるため、今回の襲撃の予測は容易い。
サイレント・アバランチに代わる戦力を置いてあるだろうことを想定してそれなりの戦力で攻めてくるはず、ということを見越した王は、
そこに攻めてきた「それなりの戦力」をそのまま削ってしまおうという計画を立てていた。
実際アームズフォートを一基失うだけで企業にとっては馬鹿に出来ない痛手となる。
あとはその「それなりの戦力」とぶつかりあえる戦力を用意するだけだった。
王が何かの陰謀でこの作戦を出したのではないかというセレンの勘繰りは偶然にも当たっていたのだ。
「VOB、使用限界だ!パージする!」
VOBの解除のタイミングはオペレーターに委ねられるため、そこもまた経験が出てくるのは当然の事である。
(しまった!遅かったか!)
この時のVOBパージのベストなタイミングは、ガロアがブレードをアクティブにしていることも踏まえれば、視界に入ってすぐだったのだ。
アレフ・ゼロはランドクラブを飛びこしそのままさらに奥へと飛んでいく。
「!アレフ・ゼロ、ブレード射程外に飛んでいきました!」
「なんだ…?VOBを外すタイミングを間違えたか!ちょうどいい、今のうちに一斉砲撃しろ!」
絶望しかなかったランドクラブの乗組員たちに一縷の希望の光が差し込んだのを見て艦長は指示を全体に飛ばした。
「…!!!」
後方へと過ぎ去ったランドクラブの方に向こうと急激な方向転換をした結果、雪に足をとられバランスを失う。幸いにも転びはしなかった。
バランスを取り直していると予感と呼ばれる雷光がガロアの頭を駆け巡り、一も二もなく右側へと飛びずさる。10分の1秒前にガロアがいた場所はランドクラブの3連砲の連射により雪と地面ごと消え去って行った。
さらに目の前には迫りくるミサイル。
ガロアの眼の波紋をミサイルが横切った。
「やったか!?」
3連砲は避けられたがその後のミサイルで大爆発が起こる。
舞い上がる煙と雪で確認が取れない。
「…ダメです!ミサイル、全て撃ち落とされています!」
「なんだと…」
確認よりも早くオーバードブーストを起動した黒衣のネクストが白銀の煙幕を掻き分け、アクティブにしたブレードでガリガリと地面に跡を残しながら急接近してくる。
「ヒイィ!」
冷静さを失った乗組員の放つ砲撃もミサイルもほとんど当たること無く、さらにダメ押しとばかりにアレフ・ゼロから放たれたフラッシュミサイルによりロックオンが機能しない。
わずかにネクストの方へ飛んでいったミサイルも全て撃ち落とされる。
「もうだめです!接近された時点で…!」
「馬鹿野郎!あ_」
諦めるなという艦長の言葉は衝撃と共に暗くなった視界に押しつぶされ、発されることはなかった。
『ランドクラブの撃破を確認。あとは雑魚だけだ』
既に戦力の大多数を削っていた事も手伝い、撃ち漏らしたヘリと爆撃機を全て消し飛ばすのに1分とかからなかった。
「VOBパージのタイミング、よくなかったな。すまなかった」
ロッカールームで待っていたセレンが開口一番に謝ってくる。
セレンが謝るというのは滅多にないことであるため、ガロアは少し動揺しながらも気にしていないことを告げる。
自分自身もVOBの扱い方にまだまだ未熟なところが多かった。
これから磨いていけばいい。それだけの話だ。
「…すまん」
リンクスとして生きられなかったからせめて一流のオペレーターになろうとした。
気持ちとやる気はあっても経験はやはり足りなかった。
このミスがガロアの命に関わるようなことにならなくて本当によかったと思うと同時に、自分ももっと勉強しなくてはと決意を新たにしていた。
「おいガロアー、うおぉ!?」
とある言伝を預かってガロアの元へと来たカニスは男子用ロッカールームに女性がいたことに腰が抜ける程驚いた。