Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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これは109話まで読んで疑問が残っている・もう世界観を全て明かされても平気という方向けの設定集です。
重大なネタバレを含んでいますので、閲覧は自己責任でお願いします。


設定集&短編『R.I.P.4/V』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理者 (もしくは主任)

 

身長 ???cm 体重 ??kg

 

出身 ???(地球かどうかも定かでは無い)

 

古の王やIBISなど、様々な名称があり、『Hustler One』『Lana Nealsen』『Serre Croire』という具体的な名前まで残っているが、信憑性に欠けるとされていた。

 

その正体は今から〇千年前に作り出された最初の電子化された人間(ファンタズマビーイング)

もちろんただの凡人のファンタズマなどではなく人類最高の肉体、頭脳の持ち主たちを選りすぐり掛け合わせて生まれた存在。

この世界のあらゆるしがらみから隔絶した存在であり、作中では男のように描かれているが性別はなく、見た目も声も自由に変えられる。

 

彼(便宜上彼とする)は、ただ一つの目的の為にファンタズマ化された。

それは『人類を守れ』というものであり、彼が絶対に逆らえないただ一つの命令でもある。

 

管理者の予想から大きく逸脱した存在『イレギュラー』に対して、人類を守るために以下の二つの選択肢が存在した。

 

1.素養の持ち主の積極的処分

 

2.素養の持ち主の観察、イレギュラー化の要素の判断

 

そこで彼は夜警国家的な考えを持って、後者を選択し、かつての素養の持ち主も、後々イレギュラー化するガロアも観察することにした。

ガロアの強さの理由はその眼に存在すると判断して、手駒でありガロアに恩を持つCUBEをガロアの元へと行かせた。

ちなみにCUBE自身は彼の正体に気が付いていない。

手術が必要だったが、当然それらしい理由が必要であり、声を与えるということにした。

そういう理由にすればガロアもセレンも断らないと分かっていたからだ。

そして彼は『眼を奪うついでに』声を与えた。

だがガロアの強さは眼にあったというのは間違いだったようで、

完全に逸脱し、予測不可能の力を持ってしまったガロアを抹消しようとしたがそれも失敗し結局彼はガロアに破壊され消滅した。

 

 

 

無人AC『UNAC』と、人を電子化して隷属化する『ファンタズマ技術』を持っている。

UNACは度々登場し、ファンタズマ化されたかつての猛者たちもかなり登場した。

 

ファンタズマ化には二つの方法がある。

 

1.遺伝子データを用いて一から作る

 

2.本体をそのまま電子化

 

Jは1からジナイーダは2から。

 

1の場合には自由な思想教育が可能だが時間がかかる。

2の場合はそれまでの戦闘経験や記憶を引き継げるので手っ取り早く強力な戦士を作れる。

記憶の改竄や性格変更も可能だが、戦闘能力に著しい影響を及ぼす可能性がある。

 

死体の状態(特に脳)や環境にもよるが死後三日までならファンタズマ化可能。というよりもファンタズマビーイングとなる際に肉体は死を迎える。

 

強力な支配を受けてなお逆らおうとする者も多く、ジナイーダは完璧に支配を跳ね除け自分の意志のみで行動していた。

レオスは支配されていないが同意している。

 

また、虐殺ルートでガロアの死後、彼は速やかにガロアの死体を回収しファンタズマ化した。

自分にとっての大切な存在の記憶だけを忘れさせられ、ただひたすらに自分でも分からない何かに怒り続けるガロアはその後の世界で主任の最強の矛として人類に牙を剥いた。

 

それ以前にもガロアの遺伝子を欲しがり誘拐計画を実行したことがあるが、失敗に終わっている。

もっとも、その時は遺伝子を回収し身体を一通り調べた後に返すつもりではあった。

 

 

 

彼自身もファンタズマだが、他のそれとの違いは、彼だけが即座に他のデバイスに移動できるという権限を持っているということ。

作中で表現されている通り、完全に支配されている者とそうでない者がいるので謀反を防ぐ為でもある。

自分のコピーも作れるが権限やその他の問題のせいで劣化コピーしか作れず、戦力としても他のファンタズマの方がいいのでしていない。

 

また、かつてのあらゆる分野の天才たちの遺伝子データも保管しており遺伝子操作によるデザインドを作り出し各地に存在させ人類を監視させている。

カミソリジョニーが登場したときにアブ・マーシュの名も出たが、それは彼らが管理者に作り出された存在だからだ。

名前だけしか登場していないがコータロイドもその一人である。

一人一人が凡人とは比べ物にならない天才であるため、各研究機関や企業などの中枢に存在しており、過去の残滓の発見を握り潰し、最新技術を取りこんで報告したりしていた。

だがその情報統制と報告の義務さえ果たせば、(不満を募らせて裏切りを誘発させるような事態を防ぐ為にも)何をしても基本的には自由が与えられており、コータロイドのように音楽に没頭したりジョニーのように変なデザインのネクストを作り続ける者もいればアブのように男漁りに精を出す者もいる。

しかし、彼らは天才であるがその反面倫理観やセンスなどのネジが飛んでいる面が数多くみられる。

結局彼らの大元はガロアに完全に破壊されたが、彼らに言えるのは一つ。

別段喜んでも悲しんでもいないということだけだ。

 

 

人類が取り返しのつかないミスを犯したり、大戦争や大災害により絶滅の危機に瀕する度に保護していた。今回の取り返しのつかないミスはコジマ粒子の運用と国家解体戦争であり、その時点で人類の保護及び処分が決定していた。

当然彼らは世界最高の戦力を持つが、全ての人類を相手にしては流石に泥沼化が必至だったので戦争を煽り人類が一定数まで数を減らすのを待っていた。

 

元は人間だった彼は根本的に人類を愛しており、その為にこの任に何千年も一人で就いていた。

だが、度重なる失敗と神の意志を感じるようなイレギュラーの出現から、自分達の観察や庇護から解き放たれ真に自由になるべきなのではないか?

実は戦いこそが人間の可能性なのでは?と思うようになったが、『人類を守れ』というプログラムからは逃れられなかった。

人は月日とともに変わっていくもので、彼もやはり人だったのかもしれない。一言で言えば、彼は孤独とこの任務に疲れ果てていた。

 

言うなれば管理者は過去の全てであり、どちらにしろそれを超えなければ『戦いは人間の可能性』などといえない。

人類を試す為に、そして『過去を乗り越えてもらうために』正面からの戦争を申し込んだ。

 

作中で語られている通り、混沌極まり支配力が弱まったところを解き放つイレギュラーというものは度々経験してきたが、

支配の準備も終わり、完全な準備と戦力を整えたところを潰されたのは初めての、そして最後の経験だった。

 

ガロアに管理者の座に就け、と言ったがそれは彼の意志では無い。

だが最後の愛の告白は真実だ。

 

この勝利は果たして人類の為になるものなのだろうか。

 

趣味

???

???

 

好きなもの

???

人間

 

 

 

 

 

・登場したファンタズマビーイング達

 

レオス・クライン

 

ジャック・O

 

エヴァンジェ(自分から勝手に吸収されたためちゃんとファンタズマ化されていないが、主任から見たら使い勝手は変わらないので放置されていた)

 

ジナイーダ

 

J(隊長)

 

K

 

D

 

N

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・イレギュラーとは?

 

正しくは、

 

『管理者の予想から大きく外れた力の持ち主』を指す。

それ以上でもそれ以下でもない。

 

管理者にとっては管理を大幅に妨げる可能性のある邪魔な存在であり、最大の敵であると同時に、『どうして現れるのか?』と長い間研究されていた。

 

人と獣の明らかな違いの一つとして、人は血が繋がっていなくとも、あるいは見た事が無くとも、同じ時代に生きていなくとも、偉大な行いをした人々を口で伝えていく。

それがイレギュラー。

 

 

 

・黒い鳥とは?

 

イレギュラーと根は同じだが、そこから長い時間と形骸化を経て、何もかもを焼き尽くしやり直す為の存在という神の使いのような存在になってしまった。

管理する者を破壊したなど、断片的な情報は正しいが、各地の神話や伝承、風土と混じり合い利用されてどれが正しいのか分かる人間がいなくなった。

仏教においての末法思想と絡み合い、終末論者に利用されたりと元の形がほとんど分からなくなってしまったが、

それら宗教に利用されることによって爆発的に世界に広まり、世界中で『黒い鳥』は知られることとなった。

世界中で『黒い鳥』という伝承が存在することから実在した物なのではないか?と度々研究対象になったが上手く進まなかった。

 

虐殺ルートではガロアの死後でも、黒い鳥は終焉をもたらす絶対神として崇められている。

 

主任はそれを面白がり、その伝承にならって手の付けられない力の持ち主かつ周りを焼き尽くす暴力を黒い鳥と呼ぶ。

周りを片づけてくれれば主任はその後の作業が楽になるので少なくともイレギュラーよりは主任の味方という感覚。

 

 

 

 

・人類史

 

現生人類の誕生

   ↓

文字・文明の発生

発展←ここのどこかで管理者誕生

   ↓

大破壊&復興(数回 AC1~2世界、3世界へと続く)

   ↓

人類、再び地上へ(何百、あるいは何千年前の事か不明)

   ↓

再び発展、進歩しACfAの時代に

 

 

 

 

 

ゲームの順番で言うと

 

AC1、2世界(ネストと共に管理者『主任』誕生?)→3世界(保護失敗の描写が明確にあり)→V→人類は勝利したが地上は汚染されきっていたのでどうすることも出来ず滅亡寸前まで追い込まれる→保護→人類から全ての記憶を削除、地上に開放→4、fA世界→VD?

 

 

つまり、主任は滅びかけた人類の進歩を西暦〇〇〇〇年まで世界を戻そうとし、実際にそれが成功していた。

保存していた文化遺産をもう一度元にあった場所に戻し、文献を残し、街を、世界を作り直した。

 

 

人類を地下で保護している間に地上の復興に努め、またその間に後の古代遺跡となるような建造物をあえて作っていた。

その分野の専門家の遺伝子データも存在し、実際に昔あった建造物のデータもあったので時間さえあればそんなに難しいことではなかった。力仕事は機械に任せればいい。

この時代にこんな技術が?というものが出来てしまったのはご愛敬。

結局地上に放たれた後にその場で住みついたり、遺跡としてありがたがる連中も表れるのでますますわからなくなる。

ストーン・ヘンジなどはその一例。

 

いつからが『本当』の人類の歴史なのかは不明。

100年もの間、世界中で嘘の歴史を伝え続ければ、それは本当になってしまう。

世界中に存在する管理者の手の者達は嘘の歴史を伝え続けた。

特に、人類が再び地上に出てからの半世紀、役人・教師などは全て主任の手の者達であり、何も知らない子供たちに嘘の歴史を教え続け、全てを知る大人たちは何も言えなかった。

 

そして一世紀も時間が過ぎれば自分達が地下から出た事を知る者は誰もいなくなり、数百、あるいは数千年前に人類が経験した歴史を自分達の歴史と勘違いした人類が出来上がった。

 

 

それでも歴史を覆しかねない発見があったとして、

 

発見

研究者への依頼

検証

発表

 

というプロセスは絶対であり、そのどこかで手が加えられた。

特に、時代の特定などは単独で一般人が行えるものではなく、それが重大な証拠でありそうな物であればあるほど有能な研究者の元へと行ったので管理者の手の者の目に入りやすかった。その時点で99%を闇に葬れる。あるいは主任の手の者に直接依頼されることもあるというお笑い種もあった。

残った1%が世に出ても、作りあげられた歴史との整合性が取れず、愚昧な一般人に扱き下ろされそちらが間違いだと言われることに。

 

特にインターネットが発達してからは、あらゆる情報にアクセスでき集合知を利用できるようになったように見えて、管理者にとっては情報の改竄や偽装、削除などの工作がしやすくなってしまった。

 

人類の数千年の歴史の間に人類種の顔付きや体格などは徐々に変化しているが、身の周りの技術や文化が進歩したとしても人間の頭脳自体は世代ごとに進化するわけでは無い。

分かりやすく言えば、今の技術が500年前より進んでいるからといって今の人間が全員ダ・ヴィンチやオイラ―よりも頭がいいわけでは無い、ということ。

 

猿から大して進歩していない現生人類を、頭一つ分ほど進化した遺伝子の持ち主達がずっと支配していたということになる。

 

 

 

 

 

 

 

・結局ラストレイヴンでどんなルートに?

 

ラスジナルート。最後のパルヴァライザーは登場しなかった代わりにインターネサインの決定的な部分は生き残っていた。

 

ジャック→ストーリー通り死亡、後にファンタズマ化

エヴァンジェ→自分から取りこまれる(笑)

ジナイーダ→主人公に倒された後にファンタズマ化

主人公→どこかで死亡しファンタズマ化(作中に登場はしていないがどこかでリンクス達と戦っていたのだろう)

 

ジナイーダにインターネサインは破壊され、バーテックスは(数的にしょうがないが)滅びた。

力は低下していたがそれでも使命を持つ主任がアライアンスの残党に接触、後に力を取り戻し人類を『保護』した。

 

またその後に『イレギュラー』が表れ保護は失敗、Vの世界へ。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

虐殺ルートから数百年後のお話。

 

 

『R.I.P.4/V』

 

 

 

 

 

新しく手に入れたパーツの詳細を書いた書類にある数値を眺めて頭に叩きこんでいく。

自分は天才じゃない。少なくとも自分ではそう思っている。自分が今まで生き残れたのだって、そういう小さな一つ一つを積み重ねてきたからだ。

 

『だからこそ さよならなんだ このまま何も残らずに――』

 

(悲しい歌……)

適当な店で買った安いCDに入っている曲がイヤホンを通して流れ込んでくる。

明るい曲調なのになんだか悲しい歌詞だった。

と、考えていると頬に熱い物が押しあてられた。

 

「ひゃぁ!?」

 

「お疲れさま。コーヒー飲むでしょう?」

 

「あ、うん……驚かさないで。ありがとう、マギー」

イヤホンを外しながら、しまったとノエルは心の中で舌打ちをした。

どうやってコーヒーを入れているのか、見てみたいのにいつも忘れてしまう。

そっとコーヒーカップを置いたマギーの肩には、普段は髪に隠れている火傷の痕が見える。

服の奥にまで続くその痕は、きっと腕までも焼いていったのだろう。マギーには左腕が丸々ない。

 

(こんなに美人なのになぁ。何してた人なんだろ)

火傷の痕がちらりと見えるだとか、左腕が無いだとか、そういうことを除けばマギー……マグノリアはそんな不運なんか避けて通るべきだと言いたくなるくらいの美人だ。

こんな怪我を負うこと自体、信じられない。片腕しかないのにどうやってコーヒーを入れるのかということ以上にその人生でこれまで何をやっていたのかが気になるが、そう言ったことを聞こうとする時にマギーが放つ無言の圧力はやはり一般人のそれとは思えない。

分かるのは――

 

「だらしないったら……もう」

隣の椅子で大きないびきをかきながら眠るファットマンのお腹をマギーがぺしぺしと叩く。それでも起きる気配はなく、顔の上に乗せたエロ雑誌が軽く揺れた程度だった。

そもそもイヤホンで音楽を聴きながら書類を眺めていたのはファットマンのいびきがうるさかったからだ。

 

そう、分かるのは。

戦場で半ば伝説と化している幸運の運び屋であるファットマンと何かしらの繋がりがある……つまり、どうしたってマギーが戦場に携わる人間だったと言うことだ。

 

 

「疲れているんじゃない? そっとしておいてあげなよ」

 

「そんなわけないでしょ。更年期障害よ、まったく」

そう言ってマギーは後ろの机に置いてある二つのコーヒーカップを睨んだ。

わざわざ入れてきてあげたのだろう。

 

「あはは……もう60歳超えているんだもんね」

本人も『こんな爺さんでいいなら構わんぜ』と言って契約を結んでくれた。

格安だったが、まずそこからして幸運の始まりだったと思う。確かにいびきはうるさいし足は臭いが。

どこをとっても凄腕と言わざるを得ない運び屋だ。

 

「今度は何を買ったんだっけ?」

 

「うん、今度は……物理属性に強い盾ね。どの程度まで耐えられるか、しっかり頭に入れておかないと」

 

「ふーん……。またタワーから持ちだした技術で作り出したのかな」

 

「どうだろう……」

窓の向こうで吹き荒れる黄砂のさらに向こうに立つ、巨大な『タワー』を見る。

未知の技術の泉。三大勢力の戦争の原因の中心だ。

 

「あれは一体なんなんだろう?」

マギーの口にする疑問はこの世界のどんな人間でも一度は持つものだ。

だが誰もそれを真面目に調べようとはしない。それよりもそこから溢れだす技術を貪る方が大事だし、恩恵にあやかれるからだ。

ちょうど『石油は動物が腐敗せずに変化したモノから由来する』ということは知らずとも、燃える水という性質を知って利用する人間と似ているかもしれない。

 

動物が腐敗せずに土の中で変化したモノ?だから何?

要は燃える水でしょう?

と。大事なのはそこだろう、と。

 

「……。飛行機だと思う」

 

「何それ。ひょっとして冗談?」

 

「いや、本気なんだけど……」

一般人は近づけないし、望遠カメラも黄砂のせいで役に立たないため薄ぼんやりとしか見えない。

だがスケッチをしてみると、馬鹿でかい飛行機が墜落したのを要塞として改造した物のように見える。

そしてあらゆる技術や物を積んでいた飛行機から今も物を取り出しているのではないか。

少なくとも、ノエルはそれをあまりぶっ飛んだ想像だとは思っていない。

 

「それにしても、頭が下がるわ。こんなオフの時まで仕事に関わることをするなんて」

 

「私は……。天才でもないし、別段腕が良いわけでもない。一つ一つ積み上げていかないとあっという間に崩れ去ってしまうから」

ノエルの駆るAC『スコール』に決まった形はない。ミッションごとによくよく吟味して装備を大きく変える。

昨日はタンクにミサイルかと思えば明日は軽量逆間接にショットガンと、激しい天候変化(スコール)のように形を変える。

唯一変わらないのは風と雲、そして太陽を描いたエンブレムだけだった。装備をしょっちゅう買いかえるものだからミッション成功率は100%でも全然儲けは出ていない。

二人の給料を払って自分も食べていくのが精いっぱいだ。それでも何故、こんな傭兵なんて仕事をしているかと問われれば――分からない。ただ、心惹かれてしまったのだ。

 

「そうは思えないけどね。もう……最初の頃のあなたなら絶対にクリアできないミッションも……才能というのは本人も知らないところで……」

 

「え?」

なんだって?どういうこと?

と聞く前にファットマンが開きっぱなしにしていたパソコンから音が鳴った。

それまで何をしても起きなかったファットマンが目を覚ます。

 

「んあ……。仕事か。ノエル、受けるんだろ」

 

「ええ、もちろん」

数カ月前にこの世界に入った新人傭兵ノエルはまだ若干20歳という年齢だが、それでも仕事は多々入ってくる。

理由は二つある。

この世界から戦いという物が全く消えないから、というのは一番大きな理由だろう。

 

もう一つは――

 

 

『なんでミッションを断らないの?』

バラバラとヘリの駆動音に混じってマギーの通信が入る。

そう、ノエルは絶対にミッションを断らない。その評判は徐々に広まり、ノエルには仕事が舞いこんでくる。

 

「なんでだろう……。うっぷ……。強く……強くありたいから……かな」

この釣り下げられて揺られる感覚は好きじゃない。スコールの中で吐きそうになるのを抑えながらノエルは答える。

 

『…………そう』

ほとんど理由になっていないような答だったはずだが、マギーはやたらと重いトーンで短く返事した。

 

「そっ、それにほらっ! あんまりお仕事を断っていたらお給料が払えなくなるでしょう?」

 

『はっはっは。まぁ、そんな適当な理由でも生き残っているんだからたいしたラッキーマンだ。いや、ラッキーガールかな』

 

「ラッキーね……そうかも」

自分がどれだけ強いかはよく分からない。

ミッション成功率なんかを見たら結構強い気がするし、それだけ積み重ねてきたという自信もないわけではない。

だが上には上がいくらでもいるのだろう。よく分からない。

確かめてみたい気もする……、いや、気がするどころでは無い。その気持ちは日に日に強くなっていく。

 

『俺の爺さんの爺さんの……まぁいい、爺さんは、どうもものすごいラッキーマンだったらしい』

 

「そうなの?」

またファットマンの雑談が始まった。

仮にも戦場に向かうヘリを操縦しているのにこの緊張感の無さは呆れるが、これで数十年もの間戦場で運び屋をしながら生き残っていたのだからその危機を感じとる感覚は間違っていないのだろう。

それに、何よりもその年の功の光る話はどれも楽しく、緊張もほぐれるためひそかな楽しみでもある。

 

『ファットマンのお爺さん? ファットマンにもそんなのいるの?』

マギーの率直な感想に笑ってしまう。

ファットマン自体、もう白髪の生えたお爺さんだというのに。

 

『ああ、詳しくは知らんが、爺さんは戦士だったらしい。そんで、他のお仲間全員が死んでも爺さんだけは生き残ったんだとよ』

 

「本当の話?」

 

『仮に嘘でも爺さんが生き残ったのは本当だよな、はっはっは。じゃなきゃ、俺はここにはいないからな』

 

『おしゃべりは終わりよ。作戦領域に入るわ』

マギーがびしっと雑談を遮るとスクリーンに何やら機械仕掛けの鳥のような物が浮かぶ。

 

「なにこれ?」

 

『今回の目標よ。どうもその鳥みたいなのが数機、暴れまわっているみたいなの。ヴェニデはノエル以外にも複数の傭兵に依頼している上、自分達の陣営からもUNACや兵器を出撃させているみたい』

 

「強敵ってこと?」

 

『そうなるわ。降下する、衝撃に備えて』

 

こんな脆そうなプラモデルみたいなのが強いって?

冗談じゃない――そう思いながら地面に降り立つ。

ビーコンの設置された場所へと向かうと。

 

「なに……? これ……?」

今のこの世界では珍しくない光景だが、まるで死体のように兵器の残骸が散らばっている。

問題なのはどれもこれもまるで今切り裂かれたかのように煙をあげて沈黙しているということだろう。

 

『全滅だと!? 敵も味方も!? おいっ、どうなってやがる!!』

普段は温厚なファットマンがヴェニデの司令官に怒鳴る声が聞こえる。

ファットマンのように経験がなくても分かる。この濃厚な殺気。

異常な何かがこの戦場にはいる。

 

「い……た……」

そいつは丁度持ち上げたAC(恐らくこちらの味方だったのだろう)を引き裂いているところだった。

左腕にブレードのみといういさぎよすぎるアセンブリに、すらりとした大きめの体躯をした、現存のACとはまた別の『ACのような兵器』。

剣に傅く巨大なシカを模したエンブレムの横に「R.I.P.4/V」と表示されていた。血の色をしたヘッドの角が生々しい恐ろしさを醸し出している。

 

『死神部隊!? なぜここに!? ノエル、退きなさい!!』

 

「いや、もう……遅いみたい……」

起動したブレードでガリガリと地面に跡を付けながらこちらに残像が残る様な速度で向かってくる。道中にある鉄骨や残骸などを弾き、斬り飛ばしながらあくまで真っ直ぐ。

今から旋回してグラインドブーストを起動して、なんてしていたら後ろから袈裟斬りにされて終わるだけだ。噂に高い最強の死神部隊にこんなところで出くわすとは。

右手に持った盾に隠れるように小さく身体を屈めて立つ。

 

(やるしかない……!)

左肩のハンガーにかけていた射突型ブレードに持ち替える。

奴からはこの行動は見えていないはず。これだけの轟音を立てている物体が向かってきているという事。近づけばすぐに分かるし、最後に見た時の速度と彼我の距離から何秒後にここまで辿りつくかも予測がつく。

 

ガリガリガリガリという音がすぐそばまで近づき――途絶えた。

 

「ここっ!!」

突きだした射突型ブレードは敵のブレードに突き刺さり打ち砕いていた。ほっとしている暇などない。

すかさず脚を振り上げる。重量二脚のこの脚から繰り出される蹴りは最早交通事故のようなものだ。

どんな兵器もまともには耐えられない。

 

ガギンッと歯を思い切り食いしばる様な音がノエルの耳に届く。

スコールの放った蹴りが敵機の蹴りに相殺され止められていたのだ。

だが、これも想定の範囲内。右手の盾は既にバトルライフルに持ち替えている。これで――

 

(えっ?)

見えたのは敵が振りあげた鉄骨だった。

 

一秒後、ノエルの乗るスコールはラグビーボールのように回転しながら百メートル先まで吹っ飛ばされていた。

 

「うぅ゙……うっげぇえええええええ」

耳元でギーンという音が鳴り止まず、止められない吐き気が襲い掛かってきた。

ヘルメットの中でゲロに溺れる、と思ったが吐瀉物はどんどんと外に漏れていく。今の衝撃――鉄骨でのぶん殴りによってヘルメットも破損していたらしい。

鉄骨を投げ捨てた敵機がこちらに向かってくる。逃げなければ。ペダルを踏んだつもりが全然違うところを蹴っていた。今になって気が付いたが、どうやら倒れてしまっていたらしい。

逃げることも出来ずに、敵機に踏みつけられる。

 

『データ照合…………。ノエル・ディクソン……搭乗機『スコール』。契約オペレーター及び運び屋は………『ファットマン』と……ふふっははは……マグノリア……バッティ・カーチスか』

それは若い男の声だった。

一体どんな人物が乗っているのかも気になるがそれよりも気になるのは今飛び出してきた名前だった。

 

「マグノリア・バッティ・カーチス……EGFの、あの伝説の軍人!?」

 

『っ!!』

名前くらいならこの業界で生きる者なら誰だって知っている。

死んだとされていたその者の名をノエルが叫ぶとマギーから驚きを飲みこんだような声の通信が届いた。

 

『Jにやられただと……ふっふっふ……あのクソ野郎に……?』

 

(くそっ!)

なんとか操縦桿を握り、バトルライフルを敵機に向けるが。

 

『なめてんのか』

バギン、と右手を踏みつぶされる。

そもそもこんな体勢になっている時点で逆転の芽などほぼない。

 

『マグノリア・カーチス……お前のような人間が本当の自分を獲得したかったら……どうするか分かってんだろ』

首を掴まれ持ち上げられる。先ほどのこいつにやられていたACもこの格好から引き裂かれていたのを思い出し、思わず目を瞑る。

だが、そんなことはせずに、その場で敵機はスコールの頭を掴んだまま周りを見せつけるように動かす。

 

『…………』

 

『ここはどこだ?』

男から通信が入ってくる。見渡す限りの砂と機械の残骸を見せつけて男は何を求めているのか。

 

「なっ、なにを、あぐっ!?」

それは求める答えでは無いと言わんばかりに背中に膝蹴りが飛んでくる。

思い切り身体を揺さぶられて首が痛む。

 

『戦場…………』

蚊の鳴き声程にもかぼそいマギーの声が聞こえる。

まるで誘われるようにしてそれを口にしていた。

 

『そうだ。この世界は戦場。本当にお前のような人間が……自分を欲しがるなら戦って……戦って……勝つしかないんだよ。勝つしか。…………勝つしか』

 

『お前……お前は一体……』

腹の底から捻り出したような、ぞっとするような声でマギーがその男の通信に答える。

ノエルはその殺気が滴り落ちるような濃度の会話に着いていけなかった。

 

『分かってんだろ……お前も……ジジジーザザザァッのザザザザなら……戦うんだよ。それだけだろ……来いよ、戦場へ』

 

『くそっ、なんだってんだお前らは!! マギーは』

ファットマンが嘴を挟んでくる。ヴェニデに文句を言いながらもどうしても突っ込まずにはいられなかったようだ。

 

『腕が取れたからなんだ? もう戦えない? どこまで行っても自分からは逃げられないって、分かるだろ。俺は……、お前と戦いたい』

 

『!!』

 

(何そのっ、反応は!!)

実に血なまぐさい勧誘をされているというのに、それを聞いたマギーはまるで憧れの男に愛の告白でもされたかのように短く歓喜の声を上げた。

 

『……』

もう興味は、あるいは用がなくなったのかその場に投げ捨てられる。

圧倒的と言っていい程の強敵だ。

だが、それでも完全に勝機が無かったとは思えない。自分でも経験を積めばいずれは、と歯ぎしりする。

 

「待って!! 何が目的なの、あなた達は」

飛び去ろうとする敵機に声をかける。まともに答えてくれるとも思えないが。

 

『知るか』

嘘を吐いているとは何故か思えなかった。

この男は恐らく本当に知らないのだ。自分が何をしているのか、自分達の目的が何なのか。これだけの強さがありながら。

 

「あなたは何故戦うの!?」

その質問をノエルはまともに考えてから口にしてはいなかった。

ただ聞きたかったのだ。これほどの強さに到達している者は何を求めて戦うのか。

 

『…………。俺は……俺は……。何か……とても大切な物を忘れている気がする……それを取り戻したい、それだけだ』

 

「……!?」

何を言っているのか、どう二の句を継げばいいのか分からずに困惑しているとその機体は背を向けて飛び去っていった。

その背にはまるで天使のような翼が生えていた。

 

『おい、ノエル! 大丈夫か!?』

 

「ファットマン……」

身体中を動かして確認する。

首のむち打ちは間違いないだろう。だが、まだ耳鳴りはしているがそれ以外はもう大丈夫そうだ。

後で吐瀉物まみれのコアを掃除しなければならない。

 

『マギー。マギー! 聞こえているのか』

 

『……。!! ええ、大丈夫。……ヴェニデにくそったれって送っておいて。結果として、目標は全滅しているからこっちの手柄にしてやるわ。修理費も全部むしり取る。ふざけてるわ、本当に』

 

「マギー……大丈夫?」

エンジンを回したように口からどんどん言葉が飛び出すが、どうも無理をしているように聞こえる。

あの男の、感覚だけで話すような言葉の影響がどう考えても残っていた。

 

『大丈夫、心配しないで。今、そっちに迎えに行くから……』

 

「……」

 

だがその大丈夫という言葉は完全に嘘だった。

その後に訪れる最後の一押しによってマギーとは別れることになり、傭兵の頂点にまで上り詰めた自分はどうしてかマギーと戦う事になる。

 

始まりは突然、終わりも突然だった。

 

今もこの日のことを思いだすと、ミッションを受ける前にリピートで聴いていたあの曲の歌詞が浮かぶ。

 

 

だからこそ さよならなんだ このまま何も残らずに――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!! WARNING !!

 

これ以降はさらに最終話まで見てもよく分からなかった or もう全部ネタバレされても構わないという方のみ読んでいってください。

109話までしか読んでいない、という方がこれ以降を読むと後の数話が非常につまらなくなる可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・なぜさらに人類の数を減らそうとしたのか?

 

具体的には400万人前後まで減らしてから保護し、次は紀元前程度のレベルからやりなおさせるつもりだった。

 

 

・なぜ主任は今回の人類の破棄を決定したのか?

 

コジマ粒子の汚染の除去方法を知らずにそれを兵器に運用したため。

作中で多くの舞台が砂漠となっているのは理由がある。

 

コジマ粒子には生物の繁殖機能を奪う性質があった。

植物は受粉出来ずに枯れ、動物はどれだけ交尾しても子を孕めない。

 

命を紡いでいく生命に対してこれ以上ないほど凶悪な性質だが、企業はそれを『知りながら』運用していたため主任は処分を決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガロア・アルメニア・ヴェデット

 

 

身長 207cm 体重 109kg →82kg(戦争後)

 

 

出身 アルメニア

 

 

本作の主人公。

生きているだけで周りの人間の運命を巻き込む凶悪な星の元に生まれてきた。

ガロアがどういう選択をしてもこの世に生きる全ての人間の運命が変わるというまさに歩く災害。

身体能力もAMS適性も化け物と言って相違ないが、何よりもその精神が他と隔絶している。

それがコジマ粒子の影響なのか生まれつきなのかは誰も分からない。

だがコジマ粒子の影響で脳に障害を負ったせいで脳のリミッターがガロアの感情に呼応して非常に外れやすくなってしまった。

彼の特異な眼もコジマの影響であるが、人間には過ぎた眼なのであのまま放っておけばそのうち失明していた。

 

また、コジマ汚染の影響で生まれた日に『精子を生成する機能』を失っている。

過去編のラストに書かれていた「生物にとって未来や希望とも言うべき『ある物』」とは生殖機能のこと。

確かに頂点はただ一つだとすれば必要無いのかもしれないが……。

 

父母の才をしっかり受け継いだおかげで作中でも五本指に入る程の頭脳の持ち主だが、激情家で、不合理だと知りながらも感情優先で動くところがあり、本来の知性とぶつかりあっている。

実の父に似て非常にスケベでしかも美人以外は女として見てすらいないという最低としか言いようがない一面があるが、元々性格が悪く人付き合いも少ないので知る者はいない。

アジェイやセレンが感じたように、豪運の持ち主だが本人がそれで得したと思うことはほとんど無い。

幼い頃は母に似て女の子のような可愛らしい顔立ちだったが、性格のせいか、育った環境のせいかみるみるうちに悪人面になってしまった。

育った環境はさておき、子供の頃は可愛がられて育ったので本人も子供には基本的に優しい。

その反面、一人で厳しい環境を生き抜き王となった者として非常に気位が高く誰に対してもまず敬意を示さない為反感を買う事が多い。

 

作中最強人物だが、作中最頑固人物でもある。

まず自分の意見を曲げない硬骨漢。

 

 

全盛期の実力はマグナスと同等程度だが、イレギュラー認定されたのはその豪運のせい。

主任たちはAMSの全てをいち早く解き明かしており、母の胎内にいるときからガロアがAMS適性を持っていることを知っていた。

だが、その一方で研究所が襲撃されガロアの両親が殺されることも知っており、まず生き残るはずがないとしていた。

 

しかし、現実は生まれたばかりの0歳児だったガロアは主任たちの予想を超えて何故か生き残っており、街に姿を表した(霞の家を尋ねた時のことである)。

強力なAMS適性を持ち、予想を超える存在、つまりイレギュラーとなる可能性が非常に高いとしてガロアを監視するためだけにウォーキートーキーは作られた。

霞が死ぬ前にウォーキートーキーをガロアの元に送るというのも予想済みだった。

 

果たして、その懸念は間違っておらず、ガロアはすぐにイレギュラーとしての頭角を現し主任の幾つもの計算を超えて主任を破壊した。

 

 

 

 

趣味

 

料理

運動

 

好きなもの

セレンの笑顔

ネクストとリンクしたときの感覚




主任のイレギュラーに対してのアクションが1だったのがVDの財団ですね。その場合、幼いガロアが生きていたとバレた瞬間に殺されていたでしょう。
その辺も含めて運なのでしょうね。

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