Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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旧チャイニーズ・上海海域掃討&クレイドル21奪還

「準備できているな?貴様。まあ、精々気張ることだな。尻拭いなど、あまり趣味じゃない」

運搬ヘリから投下され超低温に固められた機体が常温になる過程でオッツダルヴァは努めてオッツダルヴァらしい毒を吐く。

 

(さて、どうなる…)

と、思う間もなくオーバードブーストを吹かしてアレフ・ゼロは消えてしまう。

返事が返ってこないことは分かっていたが…見敵必殺だとでもいうのだろうか。真っ直ぐ敵に向かっていくその様は危うげな若々しさを感じる。

 

意識の半分を敵部隊にやりながらアレフ・ゼロの動きを観察する。

ノーマルの乗ったビルをロケットで破壊し、反作用で後ろに下がった機体をそのまま回転させ背後にいたノーマルを切り伏せる。

その下のビルを蹴り勢いをつけ盾を持ったノーマルの後ろから無慈悲に切り捨てる。

 

 

「……ほう」

自分ほどではないにせよ才気、それも圧倒的な容量を感じさせる動き。

 

「…出た」

地味ながらも一機一機撃破していく自分と違いブレード主体でド派手に戦うアレフ・ゼロはやはり目についたのか、

一斉にミサイルが放たれるがアレフ・ゼロはその一つ一つを撃ち落としながらも敵への最短距離を通過していく。

目に映った物の数を瞬時に把握する、ガロアだけの力。

現在ランク10に位置するハリの持つ一定時間のみ急激にAMS適性が上がるという戦闘を劇的に自分に有利にするというものではないが、

この能力は敵を一機一機叩く必要のあるゲリラ戦などでは重宝されるだろう。

 

「……ふん」

そう、それこそ大多数の敵を相手にしなければならない時などは。

また一機落としながらオッツダルヴァは考える。

 

(問題はどう誘うかだな…)

オッツダルヴァの所属する。ある組織にガロアを勧誘するとして、その手段を考える。

その経歴から察するに、ホワイトグリントを撃破するまではガロアは梃子でも動かないだろう。

ならばその舞台を用意してやればいい。

頭の中で急速にストーリーが固まっていく。

あとは本人にこちら側の理由を見せるだけ。

 

戦艦の一機を叩き割りながら海に飛び込み、別の戦艦の下から飛び出しさらなる戦艦を撃破していくアレフ・ゼロ。

そしてアームズフォートギガベースへと接近していく。

 

「!…ふん、リンクスだな」

苦い思い出のあるギガベースに臆さず突っ込んでいきそこに放たれる砲撃。

それをクイックブーストで真横に避けるのではなく、ブーストを片側だけ吹かし空中で回転して避け、前方への勢いを殺さずにさらに接敵していく。

ネクストを機械のように操るようでは素人。

 

自分の身体のように操っても二流。

ネクストによる意識拡張を用いて人間ではできない動きをしてこそ一流のリンクスだ。

あの空中での回転は人工推力のついていない人間では逆立ちしても出来ることではない。

ネクストにリンクしている間だけ出来ることを現実にしていく。

それをガロアは目の前でやってのけた。

 

「……」

 

『ミッション完了か。まあ、ありじゃないか、貴様』

沈みゆくギガベースを眺めながら天よりも高いところから見おろして発言をするオッツダルヴァだが、その内ではガロアの実力を認めている。

 

今回ランク1と最悪の新人が襲撃に来た艦隊は気の毒と言うほかなく、GAも何故あんな過剰戦力が投入されたのか歯ぎしりしながら疑問符を浮かべるしかなかった。

 

「……」

一方のガロアはさしたる感想もなく遠くを見つめていた。

青暗い海を割る水平線に自分の行ったことが無い場所が見える。

アレフ・ゼロならばきっと10分で行ける場所だ。

 

自分の世界の全てだと思っていた白く染まる森、木造の家、ぱちぱちと音をたてる暖炉が脳内に浮かぶ。

白い森をいつまでも歩いた日、きっと世界は歩きつくせないと思っていた。

そんな感傷を掻き消しアレフ・ゼロは帰還ルートを辿った。

 

 

 

「なんなんだあのランク1は!」

カラードで文句を投げまくっているセレンにはそれなりの理由がある。

60%も依頼料を持って行っておいて動きもたいして良くなく、帰ってきて挨拶もせずにどこかへ消えてしまった。

前もってあまり性格のいい男ではないとは知っていたが印象が悪すぎる。

その上終始上から目線を崩さなかった。ガロアの方が活躍していたというのに!

 

「……」

ぷりぷりと怒るセレンの言い分はわかるがガロア自身はそのオッツダルヴァに対し、

セレンのような怒りを抱かなかったのは、やはりガロアも王小龍の示す自らの強さのみを絶対の真実とする強者に類されるものだからだろうか。

それとも、別の何かがあるのだろうか。

 

 

一方、早歩きで部屋に戻ったオッツダルヴァは通信傍受対策を万全に施した機械を用いて自分の所属する組織のある人物に連絡を取る。

ガロア・A・ヴェデットを将来的に勧誘するための布石となる作戦についてだ。

送信後、最低限の物しか置いていない部屋のベッドに身体を投げ出しオッツダルヴァは考える。

確かに評判通り、いや、それ以上に奴は強かった。

優れているのは自分だという自信はあるが、それでもいつか自分と雌雄を決する日は来るのだろうか。

いや、おそらくだがその日は来ない。

奴がオーダーマッチで順当に順位を上げてきたとして、自分に挑戦出来る頃にはもう自分はカラードにはいないのだから。

お前が最強だ、それでいいじゃないかオッツダルヴァ。

お前は誰よりも強いリンクスとなるべくこの世界に存在するのだ。

そのランクはそれを何よりも証明しているだろう。

自分で自分を宥めながらもオッツダルヴァはランクが上の者ならば下位の者と自由にオーダーマッチが出来るということについては知りながらも考えなかった。

最強なのは自分。それでいいし自分からそのことを疑ってはいけないからだ。

また明日も明後日も自分は最強のオッツダルヴァそれでいい、いいんだ。

自分に言い聞かせること数分のうちオッツダルヴァは夢の世界へと溶けていった。

 

 

 

 

五月の風が吹き新緑の香りを運んでくる。

主張し始めた太陽に生命は喜び、人も獣も肌に纏うものを少なくしていく。

 

そんな季節でも変わらず超厚着で過ごすガロアはシミュレーターでの対戦を繰り返しながら考えていた。

 

シミュレーターで時々繰り出してくる者がいるアサルトアーマー。

ブレードがあるのでわざわざリスクを冒してまでそれ自体を戦術として取り入れようとは考えていなかったが、

この頃シミュレーターで限界とされている4vs1をこなしながら思うことがあった。

 

基本的に機械的に一体一体が動いているため、連携は取れていないが、時折全方位から攻撃を仕掛けてくることがある。

そんな時、個々への対処は多くても二体が限界であり、どれかしらの攻撃には掠ってしまう。

全方位からミサイル攻撃をされたとき、その数が分かっていても撃ち落としきれない。

そんな時にアサルトアーマーは重要な防衛手段、反撃手段になるのではないか。

仮想最強ネクストとの多対一をまた一つ終えマシンの中でむむむと考え込む。

そうなるとオーバードブーストを買い替えなくてはならない。

こういうのはやはりセレンに相談すべきなのだろうか。

あまり自分には向いていないと言われたような気がする。

 

自分で稼いでいる金なのにその管理を全くしていないガロアは金の為に傭兵をやっている者からすれば理解不能な存在なのだろうが、

彼は自分がリンクスとなり目標を果たせればそれでよかった。

 

やはりセレンに相談しよう。

首のジャックに手をかけようとしたその時。

 

『おい!ガロア!早く出てこい!緊急事態だ!』

そとからドンドンと叩く音と共に聞きなれた大声が聞こえてきた。

一応中の人との会話用のマイクも外にあったはずだが…そう思いつつもどちらにせよ今日はやめにするつもりだったのでジャックを外し外に出る。

実際の機体と違って耐衝撃用ジェルの排出や格納なんかもなくて降りれるのがいいところだなと外の床に足を踏み出して思う。

 

「ガロア!落ち着いて聞け、クレイドルがテロリストに占拠されてその奪還の依頼がお前に来た!緊急依頼だ!もう行かなければならない!」

 

「!」

 

「今日は有力リンクスのほとんどがいないかミッションに出ている…何という間の悪さだ…情報が漏れていたとしか思えん…」

息を荒げながらも顔を青くしているセレンの顔には脂汗が浮いており額に髪の毛が張り付いている。

 

「とにかく今すぐ機体に搭乗しろ。私も詳しいことは聞いていないんだ。説明は搭乗後行われるらしい」

 

「……」

頷きガロアは格納庫へ、セレンは情報室へと駆け出す。

クレイドルには多くて2000万人もの人が住んでいる。一基破壊されただけでも大惨事だ。

でもそれが破壊されたところで自分と何か関係あるんだろうか、と思う自分もいたが、セレンが焦っているのでとりあえず走ることにした。

 

 

 

『ミッションを連絡します』

ジェルが注入され始める機体の中でジャックにコードを繋いでいると通信が入る。

 

『試験運転中のクレイドル21がテロ集団リリアナに占拠されました』

テロ集団リリアナ。ガロアは顔色を変えずに聞くが、その集団の事はずっと以前から知っていた。

そしてそのリーダーの事も。名前を聞き肌が粟立つ。

 

『彼らはラインアークすら追われた過激な暴力集団です。生かしておく価値は何もありません。あなたには特例としてクレイドル空域に入ることを許可します』

特例など、どうでもいい。問題は敵勢力にどのような兵器があるかだ。

そう問う言葉を持たないガロアは代わりに耳を傾け一言も聞き漏らすまいと集中する。

ジェルの注入が終わり、もういつでも発進できる

 

『敵はノーマルのみとの情報です。優れたリンクスなら問題は無いでしょう。

人が住んでいないとはいえ21の損失をおさえれば報酬に上乗せをします。なお、今回の依頼は極秘依頼ですので、他言してなりません。では、行ってください』

敵の情報を聞き小さな溜息を一つ漏らす。

敵に、今回占拠したリリアナにリンクスがいないのであれば問題はない。

敵を切り伏せるのみだ。

 

『ふん…クレイドルを占拠されるなんて恥そのものだからな。他言無用も仕方ないだろう…ガロア、聞こえるか。今回は移動ヘリは使わない。通常モードのまま発進し、私の合図で機体を水平面から上に42度へ傾けてオーバードブーストで飛べ。

約25秒で到達するからすぐにシステムを戦闘モードに切り替えろ』

 

「……」

声を聞き、平素であればヘリに積まれるところを通常推力で格納庫から飛び出す。

ネクストとノーマルは戦闘モードにあるだけでレーダーやFCS、それに加えてネクストはプライマルアーマーなどに大量の電力を使っている。

それら機能が停止され移動だけに電力を使う状態が通常モードであり、特にネクストはコジマ汚染を避けるため、カラード近辺での戦闘モードへの移行は禁止されている。

ちなみにコジマが理由で通常ネクストはクレイドル空域に立ち入ることは禁止されており、コジマ技術を用いた一切が排されているが、それも当然の話だ。

折角手に入れた清浄な住処をまた汚すなど、喜劇にもほどがある。

 

「……」

通常推力で南東に進むこと30秒、セレンから合図が入る。

 

『飛べ!』

機体を傾けて空へと向かう。

急な加速から起こるGを体中で受け止め顔を顰めながら、しかしガロアは不思議な高揚を感じていた。

遠くで地上とくっついていて、けれども歩けど歩けど全く近づけなかった空。

いつしか子供は翼を持たぬ者では近づくことすらできないことを知る。

その空へ、この翼で。

 

 

「情報通り、ここに来るまで大した邪魔は入らなかったな」

クレイドル21の上で古いノーマルに乗った男が口を開く。

見渡す限りの大地に見えるこれは超巨大な航空機だ。

 

「ああ。これから企業連の交渉に入るとするか」

男が右側の遥か向こうで小指の先ほどの大きさとなっているノーマルのパイロットがその企業連が今刺客を放ってるとも知らずに声を出す。

 

「ってー、さっきから頭がいてぇ…まともに戦えねえぞこれじゃ…」

彼らの駆るノーマルは前時代の物の上、

特殊条件下での使用なども想定されていなかったので与圧装置も酸素供給機もついておらず、体調を崩している者も見受けられた。

 

「高山病だな。ま、戦えなくても俺たちにはいざとなればこれがある」

クレイドルのエンジンの横にいるノーマルが巨大なコンテナを小突く。

今日リンクスたちの殆どが偶然出払っていること、試運転中のクレイドル21の存在、

そしてまだ人が住んでいないが故の警備の薄さなどの情報をくれた人物はさらに保険としてある兵器を寄越してきた。

自分たちに扱いきれる自信はないがそれでも心強い。

 

「それよりも見てみろ。こんな景色、地上では見れんぞ」

 

「…ああ」

汚れきった大地と光に遮られ普段は見ることすら敵わない星々がテロリストたちの頭上には輝いていた。

こんな景色を日常の物としている者もいれば、汚れた大地でごみを漁る子供たちもいる。命の価値に差が無いなどこれを見れば真っ赤な嘘だとわかる。生まれたときから始まる不平等。

それもこれも人が増えすぎたせいだ。

地球に存在する生物の頂点たる人間が地上に増えすぎた結果共食いを始めた。

だが、それは自然の淘汰なのだ。

もっと殺せ。殺されろ。命は平等なのだ。地上にいる人間が一定数に戻ってようやく食糧問題も世界を巻き込む戦いも無くなり人々は手を取り合える。

 

その思想がリリアナの教えであり、そしてその思想ゆえ同じ反クレイドル体制でありながらラインアークを追い出された。

彼らは自分達の考えが正しいと信じて疑わないでいた。

だが、彼らとて殺しはしても自分や近親者の命までをも差し出すことはできない。

真の意味で命を平等ととらえ殺人を実行しているのは彼らの元リーダーのみであったが、そのカリスマ性のみに目が向いている彼らは、

命は平等、けれど自分の近しい者の命は大切だと思っている事の決定的な矛盾には気づいていない。

 

「人間が正しい進化をしていればきっとこの星空も人類のものだったのだろう…」

企業連への連絡を語っていた男は操縦桿から手を放しコックピットに映し出される満点の星々に手を伸ばす。

 

その瞬間、目の前に現れた黒い何かが星の光を遮り、紅い目でこちらを睨んだ。

その僅か後に音がたどり着き、そして男はそれを聞くことも無いままブレードに貫かれ血の一滴も残さず蒸発した。

 

「なんだ!?」

 

「ゲイルがやられた!リンクスだ!リンクスが来たぞ!企業の差し金か!」

 

「牙を抜かれた山猫がのこのこと…落ち着け!我々は死をも厭わない!死ぬか!殺すか!どちらかだ!教えてやれ、勝敗を決めるのは覚悟の差だ!」

落ち着けと叫んだものの汗が一斉に拭き出し息が荒くなった彼の動揺は明らかだ。

強力なリンクスは今はいないか、ここまで来れる出力を持ったネクストではなかったはずだ。

あの黒い機体は見たことも聞いたこともない。つまりそれは裏を返すならば名をあげているリンクスではないとも言えるのではないか。

 

「どうせ企業が急ごしらえで出した出来そこないリンクスだ!やれ!やっちまえ!」

 

「うおおおお!クソ傭兵が!ぶっ殺してやる!」

だが、その認識は甘く、ネクストというものの動きを最大限まで引き出した動きで次々と撃破していく。それもクレイドルを傷つけないようにブレードのみで。

加えてその黒い機体は肉眼では捉えづらく、仮にコンピューターがその姿を捉えても一瞬でそのロックが外される。

 

「クソッ、俺達をゴミのように…なんなんだよ、あいつは…不公平だろう… 」

次々と殺されていく仲間たちを見ながら一人が呟く。

だが、その感情は間違ったものではなく、国家解体戦争の折には国家側についた誰もが味わった屈辱であった。

 

「アレを起動しろ!」

 

「やってる!クソ、なんでこのコンテナ開かねえんだ!!ぐぁっ!!」

コンテナについているボタンを操作してもうんともすんとも言わず、苛立ちと焦りのあまり蹴り飛ばしている間に黒い悪魔が忍び寄り速やかにその命を持ち去った。

 

「くっ、う…リリアナ万歳!全ては、人類未来のために! 」

最後の一機は勇猛果敢に両手のライフルを撃ちながら突っ込んできたがノーマル、しかも旧式の攻撃など大した意味もなさずに切り捨てられた。

 

 

 

 

 

「……」

 

『全目標の排除を確認。ミッション完了だ。…あのコンテナはなんだ?放っておくわけにもいくまい。今企業連に連絡してみるから待っててくれ』

セレンも同様の事が気になっていた様子でそんな通信が入ってくる。

もし中身が爆弾だったら…と考えると下手に攻撃も出来ない。

何しろ占拠して大騒ぎするのではなく、これを落とすぞ、と脅すためにここにいたはずなのだからその可能性も十分にある。

近づいてみてもうんともすんとも言わないが、あの時このコンテナに蹴りを入れていたノーマルは自爆覚悟で爆破しようとしていたのだろうか。

そんな風にも見えなかった。

謎だけがその場に残りガロアはいったん思考をやめる。

 

ごうんごうんと小さな重低音が響く中、空を見れば見渡す限りの星がある。

こんな風景は見たことがない。

きっとこのままどこまで登って行ってもこの風景で寒々しい物なのだろう。それでも人はそんな世界を見上げ憧れ続けていた。

まるで宇宙で一人ぼっちでいるような、それでいて物心つく前からその永遠の孤独に憧れていたような…

 

長い時間に思えて、待つように指示されてからまだ30秒も経っていなかった。

感動とノスタルジーに浸りながら連絡を待っていると突然後ろから爆音がした。

 

「!!」

振り返ると五機のネクスト。

反射的にブレードを振り一機を戦闘不能にしたが残りの四機には対応が間に合わず両手足を掴まれる。

 

『ガロア!?っ、自律型ネクストか!?どうして今更起動した!?』

セレンの声が聞こえるがそれどころではない。

必死にもがき振りほどこうとするが、人間とは違い単純な思考回路で動いているとはいえどれもネクスト。力では振りほどくこと敵わずに掴まれたままどんどんと高度があがっていく。

 

「…!?」

 

『なんなんだ、こいつら!何が目的だ!?クソ、なんとか振りほどけ!』

攻撃してくる気配はないがそれでも危険には変わりなく、力の限り暴れるイメージを伝えるが、四肢が抑え込まれて思うように動けない感覚がフィードバックされてくるばかり。

クイックブーストを吹かしてもがっしりと四肢に掴まっている自律型ネクストは一緒についてきてしまう。

このままでは大気圏外に出てしまい、いくらネクストでも戦闘不能に陥ってしまう。

一か八か、オーバードブーストを起動しようとイメージをしたその時。

 

「…?」

いきなりその四機は身体から離れさらに上昇していってしまった。

取り残されたガロアは一連の行動の意味が分からず攻撃することも忘れその場にたたずむ。

が、黒い海に浮かぶ星々の隙間から突然明らかに攻撃を意識した形状のものが多数現れた。

 

「!?」

突然現れたそれらは自律型ネクストの真上へと移動していき撃ち落としていく。

 

『攻撃?大気圏外からか!なんだ、あれは…空が、空が自律兵器で埋まっているぞ…全速で退避だ!近付くな!やつらの攻撃は無差別だ!』

全ての自律型ネクストを撃ち落とし終えたそれらはさらにアレフ・ゼロの真上に来るために移動を開始する。

取り乱しながら退避を指示するセレン。

言われずとも全力で高度を下げていく。

 

「……」

高度計が12000mを切った時、それらはまた星々の間に溶けるように姿を消した。

なんだあれは。明確な殺意の塊が突如現れ攻撃を仕掛けようとしてきた。

もし退避がもう少し遅れたら自分もあの自律型ネクストのように一撃で粉々にされていたのだろうか。

冷や汗が止まらず、その震えはアレフ・ゼロにまで伝わった。

 

ブーストを吹かしゆっくりと地上に着陸する。

 

「……とりあえず、戻って来い」

本来ならクレイドルからオーバードブーストで戻る予定だったのを変更した新たなルート情報が画面に表示される。

システムを通常モードに移行しながらガロアはその網膜に焼き付いた光景を思い返していた。

 

 

 

「なんだと…!実際に私のリンクスは殺されかけたんだぞ!」

 

『君たちは何も見ていないし、何も知らない。そして他の者に奇妙な風評を広げることも無い』

 

「せめてアレはなんなのか教えろ!!」

 

『…以上だ。クレイドルの奪還ご苦労だった』

 

「クソ!!」

 

「……」

部屋にすぐに戻るように指示されたガロアはそこでコンピューターに向かい誰かに対して怒鳴っているセレンの声を聞いた。

 

「…ガロアか。お前、戦闘服のままじゃないか…そうか、お前もすぐに戻るように指示されたのか」

 

「……」

 

「聞こえていたか?私たちには何も教える気が無いらしい。一体私たちは何を見たんだ…?」

 

「……」

 

「すまん、お前にだってわかるはずないよな。とにかく、よく生きて帰ってきてくれた」

混乱し未だに息の整わないセレンを前にしてガロアは考える。

あの兵器の姿が突然現れたのは12000mあたりから。そして自律型ネクストは撃ちぬかれた。

 

「……」

次に自分を狙ってきたのは間違いない。

だが、それよりも重要なのは、何故狙ってきたか、だ。

あの攻撃はまるで宇宙に行く者を阻むかのように高い順になされていった。

そして高度12000mを切ってからまた見えなくなった。

…ずっとああして宇宙に行く者を撃ち落としていったのだろうか。

なんだろうか、もっと重大な悪意が潜んでいる気がしてならない。

 

「…ァ…おい!ガロア!」

 

「!」

 

「大丈夫か?…まあショックなのも無理はない。今しがたメールが来た。今後一週間私はオペレータールームに行くこと、お前はネクストに搭乗することは禁止だそうだ」

 

「……」

 

「その代りたっぷりと金が振り込まれている…企業はいつもこれだな。人の命をおもちゃにして、金で黙らせて」

自分が生まれた理由、そして用済みになった後に多額の金をつかまされて放り出されたことを思い出しセレンは憤る。

 

「恐らく、今回の記録は全て改ざんされるのだろう…クソッ、忌々しい…」

 

「……」

憤るセレンの言葉をどこか遠くで聞きながらガロアはその思考を進めていた。

考えてみれば、これだけ技術が進んでいるというのに全く宇宙開発が進んでいないのはおかしな話だ。

昔読んだ本では、数百年前には既に人類は月に到達していたというのに。

開発しないのではなく、出来なかったのでないか。

もしあの兵器が地球を覆っているのだとしたら、あれ以上の高さへと行くことは出来ない。

もちろん、クレイドルもそうだろう。

ネクストを一撃で破壊する威力を持つ兵器相手では、クレイドルもそう長くは持たないだろう。

問題は、誰が何のためにあんな兵器を用意したのかということだ。

 

「……!」

今回の企業の反応。

間違いなくそれは企業の仕業に違いない。

だが、目的が分からない。

宇宙開発の道を自分たちで断ち切って一体何がしたいというのか?

 

「ガロア、とりあえず、着替えに戻ろう。ネクストに乗るなというだけで、着替えに行くことぐらいは大丈夫だろう」

 

「……」

 

「しかし、他言無用と言ったところでこれを一体誰が信じるんだ…証拠も無いし、目的も不明なのに…」

 

「……」

セレンの言葉も正しい。

恐らくはセレンもあの兵器が企業の物だということまでは考えが至ったのだろう。

そして、その言葉通り、誰に話してもこんな荒唐無稽な話は信じてもらえないだろう。

そもそも今日、クレイドル空域に行ったことすら無かったことにされていて、ネクストがクレイドル空域に行くことすら禁止されているのに。

 

釈然としないまま街に出て中央塔へと歩く二人を見る街の人々の好奇の視線は、

まるで知ってはいけない秘密を知った二人がそのせいで世界から切り離されたかのような気分にさせたのであった。

 

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