Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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AFスピリット・オブ・マザーウィル撃破

「ミッション開始!BFFのAF、スピリット・マザー・ウィルを撃破する!…死ぬなよ、ガロア…」

造波抵抗と空気抵抗をコジマ粒子がゼリー化したものを機体に塗ることで無理やり消し、

機体の温度上昇を超大規模ラジエーターで熱を排して空気の壁を突き破り、アレフ・ゼロがVOBと共に飛んでいく。

モニターに表示される加速度は0となり、ガロアにかかるGが下がっていることは分かるがそれでもカメラから送られてくる映像はちらりと見ただけでも目を回すに十分だ。

何度使ってもこのVOBには慣れない。

どう考えたって人類が手にしていい速度を遥かに超えてしまっている気がするのだ。

 

「超高速戦闘だ、目を回すなよ…」

あと10秒ほどでマザーウィルの長距離砲が届く範囲に入る。

 

(何故いきなりマザーウィルの撃破なんか…)

時代遅れ時代遅れと言われつつもマザーウィルが制圧兵器として地上最強という肩書は伊達ではなく、

最初期のアームズフォートであるのに未だ撃破されていないというのはその証左であることに間違いない。

現在企業でもトップのオーメルグループがBFFが最強のAFを所持しているなど、本来なら許すはずなく、

もし大したことがないというのならばとっくにオッツダルヴァあたりが落としているはずだ。

当然そんなことをオーメルは許してはおらず、現在新アームズフォートがオーメルとインテリオル共同で開発されているがその事はまだ公表されていない。

大体、弱点として示された、砲台を破壊すればダメージが伝播するというのもそこに弾薬や火薬がたっぷり詰まっていることを考えれば弱点というより当たり前のことだ。

確かに砲台を狙って破壊し続ければ落とせるだろうが…

 

(なぜランク17のガロアが選ばれた?…一体どういうつもりだ…オーメルめ…)

ガロアが優秀だというのはセレン自身も理解しており、ゆくゆくは量産型アームズフォート以上の物も相手にしていくことにはなるだろう。

だが、今ガロアにこんなミッションが出されることは時期尚早どころか間接的に死ねと言っているようなものだ。

 

(……!)

あの自律兵器の山を見たせいか?

今のうちにミッション内の死という形で処理を?

 

「!来たか!敵主砲の威力は馬鹿げている、絶対に当たるなよ!」

画面に映る凶悪な光に思考を中断される。

飛んできた砲弾を横方向へのクイックブーストで避けるとき、そこにかかるGは普通なら挽肉なっているほどの圧のはずだ。

事実今回避をしたアレフ・ゼロから送られてくるリアルタイムの情報は尋常ではない加速度を示している。

こんなことを繰り返すのが身体にいいはずがない。

アームズフォートも、VOBも狂気の塊だ。

 

「機体制御と回避に集中しろ!闇雲に撃っても今は弾の無駄だからな…」

それはマザーウィルも同じようで想定外のスピードで接近するネクストに対し弾は避けずとも明後日の方へと飛んでいく。

VOBが出来る前に開発されたマザーウィルはオート照準ではVOBのスピードを捉えきれず、手動で放つしかない。

これも弱点として報告されたものであるが、結局は近づかなければならないという面は変わっていないため弱点とは言えない。

 

(どうか当たってくれるな…)

接敵まで1分。セレンには祈るばかりだ。

 

 

 

ガロア・A・ヴェデットの襲撃の10分前。

 

「どおおおおおおりゃあああああああ」

腕部にドーザーと呼ばれるグローブのような頑丈な鉄塊でどこの所属でもない変わったノーマルをキルドーザーが打ち砕く。

 

『おいチャンプス、特攻兵器も近づけるなよ』

 

「わあああかってらあああああああああ!」

叫びながらミサイルを放ち、一直線にマザーウィルへと向かっていた、どういう原理で浮かんでいるのか分からないタコのような兵器を撃ち落とす。

 

「よいしょおおおおおお30機目だっしゃあああああ」

 

 

 

 

「……うーん」

マザーウィル管制室でキルドーザーに指示を出す大佐は耳を塞いで唸る。

 

最近神出鬼没で現れるノーマルと特攻兵器。

ノーマル自体はそこまで強くはないし、特攻兵器が当たって爆発したところで大したダメージになりはしない。

 

だが、これはどのアームズフォートにも言えることだが、街や基地の制圧、蹂躙が得意でもちょろちょろと動き回る相手をつぶすのは苦手としている。

丁度人間が蚊を相手にする時と似たようなものである。

だが、ここでノーマル・MT部隊を出撃させて、無人兵器特有の死を厭わない突撃に人員を削られても笑えない。

リンクスほどでないにしてもノーマル・MTを操作できる人材というのはそれなりに貴重で一から教育するのも時間がかかる。

また、特攻兵器が当たっても大したダメージではないとは言え当然修理費はかかる。

そういうことを踏まえて、雇用の為の費用が一番安かったチャンピオンチャンプスを無人兵器対策に雇ったのだ。

 

「しかし、BFFの支配域内にもいるとはな」

今回マザーウィルが出撃した理由は、近頃目撃回数が増えてる目的不明のノーマル部隊の情報を受けてのBFFの支配領土である旧ピースシティ内の巡回である。

その嫌な予感は当たり旧ピースシティでも30機近くのノーマルと20機以上の特攻兵器が跋扈していた。

破壊したノーマルは跡形残らず爆発四散するので未だに目的は不明である。

どの企業、果ては地上に残ってるコロニーまがいの集落やラインアークすらも平等に襲撃されているのでますますわからない。

 

『おわったぞおおおおおおお』

腕を振り上げ喜びのジェスチャーを示すネクストが大型モニターに映し出されると同時に耳をつんざく大声が聞こえてくる。

大佐はため息を吐きながら耳を塞ぎ思う。

もっと静かな奴を雇えばよかったと。

 

「…ついでだ、そこら辺のマザーウィルの進行に邪魔になる建造物も破壊してくれ」

大きいビルをいちいちミサイルで破壊していくのもまた金がかかるのでついでに指示を出す。

本来のキルドーザーの仕事はこういった破壊作業のはずだ。

 

『まかせろおおおおおおおおおお』

 

「…はぁ…」

早く家に帰って風呂に入って寝たい。

初老に差し掛かる大佐は疲れも隠さずに本日何度目かわからない溜息をつく。その時。

 

『オズワルド大佐。聞こえるかね』

唐突に入った通信とそこに表示される名前を見て疲れも吹き飛ぶ。

 

「!?そ、総司令官殿!いかがなさいましたか!」

BFF所属私兵隊総司令官。

いくらマザーウィルとはいえ、こんな重要度も難易度も低い作戦に総司令官が直接連絡を取ってくるなどまずありえない。

 

『聞き給え。いまそちらに一機のネクストが向かっている。ランク17アレフ・ゼロだ』

 

「襲撃でありますか?」

マザーウィルが出撃している情報が漏れていたのか、そんな言葉が司令官から出る。

だが、それ自体はよくあることだし、ランク17程度簡単に退けられるはずだ。

例えそれが最近目覚ましい活躍をしているアレフ・ゼロとて関係ない。

マザーウィルの強さに絶対の自信を持つ大佐は少し気の抜けた返事をする。

 

『そうだ。そのアレフ・ゼロ…いや、ガロア・A・ヴェデットを必ず殺せ』

 

「総司令官殿、ランク17程度、マザーウィルならば簡単に退けられます」

 

『違う。必ず殺すのだ。退けたのでは意味がない。仕留めた者には100万コームの臨時ボーナスを出す。マザーウィルが仕留めたのならば乗員全員に臨時ボーナスだ』

 

「な、ひゃ、百万!?なぜですか!?」

 

『…以上だ。地上最強の名の元に必ず殺せ』

 

「一体どういう…」

呆気にとられて目と口を開き立ち尽くしていると…

 

「大佐!!ネクストの襲撃です!ランク17アレフ・ゼロです!後20秒で長距離砲射程内に入ります!」

 

「…そうか。乗員全員聞け!射手、そしてノーマル、MTのパイロットもだ!アレフ・ゼロを撃破した者には100万コームのボーナスが出る!」

 

ひゃ…

アイエエエエ!?

ランク17が!?どうして…

や、やるぞおおおおおお!

 

 

 

 

途端に騒めくマザーウィルの乗組員達。

それもその筈、ネクストにかけられる賞金としては圧倒的すぎるし、100万コームなど一生遊んでも使い尽くせない額だ。

 

『聞け、チャンプス。こちらにネクストが襲撃してくる。ランク17アレフ・ゼロだ』

 

「誰だそいつはあああああああ』

ビルをパンチの連発で壊しながらチャンプスが叫ぶ。

 

『…お前が一番最近負けたカラードの新入りだ…覚えてないのか』

 

「ああああああ!あいつかあああああああ」

チャンプスのほぼ筋肉となっていた脳に勝負の記憶がフラッシュバックする。

 

『そいつを仕留めろ。成功すれば報酬は…100万コームだ』

 

「ひゃ…」

常にうるさいチャンプスが絶句する。

そもそも何故ドーザーなんて兵器とも呼べないものを使っているのかと言えば、

オーダーマッチにも勝てず実戦でも活躍できずにいた、つまり金をほとんど稼げていなかった為、弾薬費を節約するためであった。

それだけ金があればそんな事を気にせずに全身を武装の塊にできる。

いや、というかもう仕事しなくていい。

才能のないリンクスなんてハイリスクローリターンなものを続ける必要なんかなく好きなだけやりたいことが出来る。

高級筋トレマシーンを買って、プロテインをあほ程買って、しかも自分のジムを作れる!

 

 

 

 

『う…うおおおおおおおおおやってやるぜええええええええええ』

 

「……いぃ」

ヘッドセットのイヤホンが壊れる程の雄たけびをあげチャンプスが臨戦態勢となる。

 

「大佐!来ました!」

 

「…よし…長距離砲!撃てええええええええ」

その瞬間、母なる意志の権化は全ての音を掻き消し殺意を吐き出した。

 

 

 

(7、6、5…)

数を数えタイミングを計るセレン。

 

「…よく全て回避した。VOBパージする!」

完璧なタイミングでパージされビルにもぶつかることなく砂地に着地したアレフ・ゼロ。

さあ、後は

 

 

『どおおおおおおおりゃあああああああ』

着地したアレフ・ゼロにビルの陰からネクストが飛びかかってきた。

 

「……!」

着地の衝撃で上手く動けない所を突いた攻撃をぎりぎりのところでしゃがみ込み回避する。

危なかった。先日のフラジール戦で超高速の戦いに目が慣れていなかったらドーザーに自ら2000km/hの勢いで突っ込んで終了していただろう。

進行方向と逆向きに起こる加速度のGを受けながら冷や汗を流す。

 

『お前をたおおおおおおおおおす!!!』

さらに下へ向けて打ち込まれるドーザーの正拳突きを転がり避けたところに主砲が飛んでくる。

 

「…!」

当たりはしなかったが目の前の地面が丸ごと削れた。

そして間髪入れずにミサイルとキルドーザーが飛んでくる。

 

『キルドーザー…!弁えない解体屋か!無視しろ!マザーウィルだけが目標だ!』

 

「……」

セレンの指示がなくともそのつもりではあるが、ミサイルと主砲の間隙をキルドーザーが容赦なく攻めてくる。

この気迫、この前やった時は全く違う。一体何が、と考える間もなくマザーウィルからノーマルも出てきてさらに旗色が悪くなる。

ホワイトグリントはこんなのと戦ったのか。

 

『どらぁあ!』

突っ込んでくるキルドーザーと別の方向からミサイル。

これは…どれかしらが必ず当たる。

やけにゆっくりと見えるその光景の中で、ガロアは一つの活路を見出した。

それは考える者がいても実行する者と出来ない者の間に決定的に差がある判断だった。

 

『なにいいいいいいいい!!!』

 

「……」

 

『ぎゃああああああああ!!!』

キルドーザーに自分から突っ込んでいきその機体を抱え、ミサイルを避けずにキルドーザーで受け止める。

このまま突っ込んでいく。

機体を抱えたまま大きく息を吸い込み前へと進む強烈なイメージ。

アレフ・ゼロの新しいオーバードブースターが着火した。

 

 

 

 

「大佐!アレフ・ゼロが…キルドーザーを抱えたまま突っ込んできます!!」

 

「く…、この…!構わん!!!撃て!!!全門解放しろ!!」

 

『撃つなあああああああ!!!』

指令室の大佐はそのままチャンプスも一緒に殺す判断を即下したが、

オープン回線となったキルドーザーから迫真の懇願が聞こえてくる。

そして、そんな冷酷な判断に即従える鋼の精神を持つ者は少なく、明らかに弾幕の密度は薄れノーマル部隊も動きを止める。

 

「接敵され…第5ブロックで火災です!!」

 

「…!砲台が狙われているのか!?」

一瞬の戸惑いが大きなミスとなり、地上最強は少しずつその身を削られ始めた。

 

 

 

 

『はああなああああああせえええええええ』

 

『それでいい!ガロア!絶対に離すな!』

 

「……」

キルドーザーを抱えたまま砲台に向けロケットとグレネードをしこたま撃ちこむ。

いくらか飛んでくるミサイルは全てキルドーザーで受け止める。

肘が背中に幾度も打ち下ろされるがそんな威力のこもっていない攻撃で止まる程ネクストは脆くない。

それはキルドーザーも同様で、20発以上のミサイルを受けてなお未だに壊れる気配はない。

が、それはむしろ好都合。このまま引き続き盾となってもらう。

先ほどの悪魔の囁きはこれ以上ない最善の一手であり、

相手にとっては自分の人間性を逆手に取られる最悪の一手であった。

 

『100万だぞ!俺はやってやる!!』

 

『馬鹿野郎!味方まで殺す気か!!』

 

100万という金額は人間の底を浮き彫りにするが、欲に負けた者も兵士にそぐわぬ優柔不断な者も皆、平等に焼かれていく。

 

「!!第4、第2ブロックでも火災です!!」

 

「…全員聞け!!今攻撃しないものは後々解雇だ!!」

その報告を受け大佐も顔が白くなり、がなり立てる。

 

『くそっ、撃て!撃ちまくれ!』

 

『マザーウィルに楯突いたことを後悔させてやれ!!』

自分達の命、立場も危うくなっていることに気が付き射手もノーマルのパイロットも戸惑いを捨て攻撃に移った。

 

 

『ぬうううううあああああああああああ』

 

「……」

叫ぶキルドーザーの肩越しに冷静に周囲を見渡す。

背中がピリピリするのだ。そろそろのはず。

…来た。

右左上下前後ろ。

全方向からのミサイル。

集中。耳をすませろ目を見開け。

意識の全てを臍の上へ集める。

 

「!!!」

その意識を全て解放した瞬間、周囲は緑の閃光に包まれた。

 

『ぎゃあああああああああああ』

 

「何が起きた!?」

今までと質が全く異なる叫び声をあげたチャンプスの声に驚き被害状況を確認していた大佐も叫ぶ。

 

「アサルトアーマーです!アサルトアーマーを使われました!!」

 

「く、だが今がチャンスだ!しばらくはPAが展開できないはずだ!」

先ほどの叫びは0距離でのアサルトアーマーを受けたせいか。

悪魔め、と心の中で吐き捨てる。

 

「下方に潜り込まれています!!攻撃不可能です!!」

 

「なに…ぃ!」

 

 

 

 

「……」

プライマルアーマーが回復しない。

下方で待機していたノーマル部隊が攻撃を仕掛けてくるが、フラッシュを飛ばし、受け流す。

 

『ちくしょう!!ちくしょう!!』

 

『なんなんだよあいつは!!おかしいだろ!!』

叫ぶ暇があるなら落ち着いて一発でも撃つべきであった。

その隙をつかれマシンガンでズタボロにされその不平不満が辞世の句となった。

 

「…!」

プライマルアーマーが回復した。

終わらせる。アレフ・ゼロの上空を丸々覆い影を作るマザーウィルの翼まで飛ぶ。

 

「……」

翼に取り付きガリガリとブレードで削り、切り落とす。

バランスを大きく崩したマザーウィルは砂地に大きな跡を残しながら派手に歩行を停止した。

 

 

 

「出てきました!!」

 

「もう後がない!全員撃て、撃てえええええ」

これまでの人生で味わったことの無い感覚に体中を包まれながら口角泡を飛ばし大佐は必死に指示を出した。

 

 

 

 

「……!」

ミサイルが殺意を込めて飛んでくる。

だが、お蔭で残りの砲台の位置が確認できた。

今度は全方位ではない。

リロード済みのマシンガンで全て撃ち落とす。

主砲にありったけのロケットを叩き込み破壊した後、最後のミサイル発射台にブレードを突き立てた。

 

 

 

「メインシャフト、熱量負荷限界突破!ダメです!機関部が持ちません! 」

管制室のオペレーターが限界だと叫ぶ。

 

「これが…マザーウィルの最後だというのか…馬鹿な…あのリンクスは一体…」

真っ赤に染まるモニターも叫ぶオペレーターの声もどこか遠くに感じながら呆けていた。

 

「大佐!!指示を!!」

さらに叫び指示を仰ぐオペレーター。

大佐は唇を噛みしめ。金属の机を叩く。

 

「…これまでだな…。総員、地上装備!総員退避!退避しろ!マザーウィルは…倒壊する! 」

マザーウィルの指揮をとってからあらゆる指示をしてきた大佐。

その中でもこの指示は今までの中で一番厳しいものであった。

 

 

『マザーウィルの撃破を確認…ミッション完了…。よくやった。早く帰って来い。疲れただろう』

 

「……」

蜘蛛の子を散らすようにわらわらと人が出てくるマザーウィルの残骸を見て、ガロアは自信の表れとなった微笑をたたえながら浮かぶ。

動く山のようなこのアームズフォートを破壊したのは自分だと思うと懐かしい高揚感に包まれた。

 

山のように巨大な敵を倒すことはガロアの人生で初めてのことでは無かった。

自分よりも遥かに巨大な敵を討ち倒すという経験をまだ街に来る前にしていたのだった。

 

白い世界での記憶だった。

 

(テメェと俺の…)

 

激しい雪の降る中、自分の物とも相手の物ともつかぬ鮮血に肌を染めて、太陽に向かって吼える怪物にナイフ一本で立ち向かう。

 

(本能の違いを教えてやる!)

 

巨大な角を振りかざし咆哮する怪物に小さなガロアは死への恐怖を微塵も持たずに、身体に不釣合いなほど大きい刃物を突きだした。

 

あの日、ガロアは王を喰らった。

 

 

 

 

 

 

 

「……!悪魔め!」

最後にマザーウィルからロープを伝って降下した大佐は顔を出し始めたナイフのような下弦の月を背にこちらをただ見て浮かぶアレフ・ゼロを見て吐き捨てる。

熱砂の風と斜陽の光を正面から受け堂々と佇んでおり、

月の弧の下部がヘッドで隠れているせいでヘッドの両端からはみ出ている青い月は鬼の双角のようだ。

赤黒く光る眼を瞬かせ夜の彼方へと飛んでいくそれは何を思っていたのか。

 

脆くも瓦解した母なる意志の指揮官がロープに掴まりながら顔に浮かべる表情は絶望しかなかった。

 

 

「…やっぱりかぁ…」

速やかに機能停止したキルドーザーのコックピットから奇跡的に無傷のまま出てきたチャンプスはうつ伏せに倒れた機体に腰かけ月の彼方へと消えるアレフ・ゼロを見て呟く。

 

「…どうっすかなぁ…」

後ろでは降下したマザーウィルの乗組員が本部に救援要請をしている。

この辺りでは夜の気温は氷点下となるため助けが来なければ凍死する者も出てくる。

そんな喧騒をどこか遠くで聞きながらチャンプスはため息をつく。

馬鹿うるさい楽天家と思われているチャンプスが溜息をつく姿などだれも想像できないだろう。

 

「……はぁ」

オーダーマッチで旧ピースシティで戦った時と同じく、いや、それよりもこっぴどく負けてしまった。

完全に機能停止したキルドーザーはもう動かないだろう。

 

「……」

かりかりと短髪を人差し指でかきながら考える。ネクストの料金すらもまだ支払い終えてない。

人は自分の事を馬鹿だの弁えないだの言うが、自分を保つためには底抜けの馬鹿を演じるしかなかった。

カラードからはリンクスの落ちこぼれと蔑まれ、ノーマル乗りからはネクストに乗ってるくせに解体作業ぐらいにしか役に立ってないと揶揄される。

それを正面から受け止めてなおリンクスとしてやっていくには馬鹿になるしかなかった。

だがそれももう終わりだ。

才能の違いというものをそれこそ0距離で見せつけられてしまった。

 

「…借金…どうしよう…」

ただ一つ残った借金を返す術を自分は知らない。

もうどうとでもなれやと仰向けに寝転がり色を変える空を仰ぎながらどこか清々しい気分で目を閉じた。

 

 

 

「…家帰ってお風呂入って寝たい…」

ネクストの上で寝っ転がって黙り込んでしまったチャンプスを見て、こんな時だからこそ馬鹿騒ぎしてくれればいいのにと思いながら大佐は救援信号を送る指示を出して呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

本日グリニッジ標準時20:30カラ臨時報告会ヲ執リ行ウ

必ズ参加セヨ

 

 

 

 

「ウィンディー、メールよ」

 

「ん?」

一応の礼儀として、自分に支払われていた先日の緊急ミッションの報酬をロイとガロアに振り込む操作をしているとレイラが声をかけてくる。

 

「というと、ネクスト格納庫の方へか?」

 

「そうなるわ。一応、緊急のメールじゃなかったから開いていないけど」

先日の戦いでひどく損傷していたレイテルパラッシュを修理したのだろう、顔や服のあちこちをススで黒くしたレイラは親指で肩の後ろを指さし早く見て来たら、とジェスチャーをする。

 

「……面倒な…」

カラードに関することは全てネクスト格納庫で行っており、カラードや他リンクスからのメールなども全てそこで管理している。

緊急を要するメールでないのならば、自分が必ず参加しなければならないミッションということでも無いのだろうが…。

 

「…臨時報告会…?」

上位リンクスによる定例報告会はそれなりによくあるものの臨時というのは久々だ。

 

「えー、と…今が九時半だから…今すぐか!」

時差を計算するとなんと今すぐである。

これでは緊急のそれと何も変わらない。

ポニーテールを揺らし通信機の前に座る。

 

『時間だ。始めよう』

王小龍の声が聞こえるが、やはり間に合わなかった者もいたようでジェラルド・ジェンドリンの通信が確認されていない。ときおり代理で来るダリオ・エンピオも同様だ。

 

『はい。王大人。先日、BFFのスピリット・オブ・マザーウィルがランク17アレフ・ゼロに一基落とされました』

自社のAFが落とされて声色を変えないのはリリウムが変わっているからではなく、どのリンクスもそうだ。

自社の全てが崩壊しても自分を守る力がリンクスにはあるのだからそこは大した問題ではない。問題なのは…

 

『新参の傭兵があのマザーウィルを…?』

ローディーが自分の気持ちを代弁してくれる。

ヘッドセットを手で押さえながら思い出すが、自分が初めてアームズフォートを落としたのはリンクスになって一年後だ。

それをあのガロア・A・ヴェデットはカラードに登録されて三か月で最強の一端ともいえるアームズフォートを落としたというのか。

ショックを隠せないが、長い長い時間をかけてようやくランク4まで登ったローディーのショックはそれを上回るだろう。

 

『…ふん。仮にもリンクスだ、本来そういうものだろう』

オッツダルヴァはどこか満足げに鼻を鳴らし言う。

そうだ。こいつも入って三か月でその時最新最強と言われていたアームズフォートを落としていたんだ。

 

『だといいがな…アルテリア襲撃犯はどうなっている?堂々とクレイドルの要諦を狙われ、全て不明、打つ手無しなど…管理者の存在意義が問われるだろう』

ここ最近起こっているアルテリアや企業の重要施設への襲撃。

正直それが今日の議題だと思っていた。

 

『その通りだ。ルールを守れないのであれば、静かに退場してもらう他はない。それがラインアークであれ…レイレナードあたりの亡霊であれ…』

王小龍が非常に含意のある言葉を出すが…それはこの場の誰かに向けられているかのようだった。

そこで通信は途絶え臨時報告会は終了する。

この報告会は、リンクスが地上に取り残されてから後、自衛の手段として王小龍が提案した物であり、

アイディアこそよかったものの今ではリンクス同士の鍔迫り合いの場のようになっている。

 

「…私が勝てるか、だと。ロイ…」

あの日、救援に来たアレフ・ゼロは自分たちに背を向け守り、テロリストにその刃を向けた。

だが、その刃がこちらに向いたら…

 

「ウィンディー?どうしたの…?怖い顔して」

目をつむり想像の世界に溶け込んだ意識がレイラの声に取り戻される。

 

「…私はいつも怖い顔だと言われるよ」

 

「そんなことないよ…ウィンディーが本当に優しい人だって、私は知っているから…」

 

「…ありがとう。…マザーウィルが落とされたらしい」

 

「え!?誰が!?BFFのAFだよね…オッツダルヴァとか?それともジェラルド?」

ランクを上から数えてBFFに敵対するリンクスをあげるレイラ。

 

「いや…先日ランク17になったばかりの奴だ」

 

「うそ…!?そんな人がいるの!?それって…ウィンディーの敵?」

 

「わからん…全員の味方かもしれんし、全員の敵かもしれん。数回しか戦闘を見ていないが…恐ろしく強い黒いネクストに乗っている」

先ほどの想像の続きをほんの少しだけして、肩の力を抜いて背もたれによりかかりつぶやく。

 

「…その人、黒い鳥みたいだね」

 

「黒い鳥…」

それは知っている。昔読んだ本に書いてあったこの世の破滅の象徴とされる神話の世界の存在。

だが神話といいつつもかなりの確率でその実在が確信されている存在でもある。

 

「知らない?私も、どこで誰から聞いたのかは覚えていないんだけど…」

 

「いや、知ってはいるが…なんで人なのに鳥になるんだ?」

 

「うん。この世界の混沌が極まった時にどこからともなく飛んできて全てを0に戻す、死を告げる鳥だって…そう聞いたけど鳥じゃなくても空飛ぶ乗り物だったら中身が人でもありじゃない?」

まるでお伽噺だな、と思いつつも、もしアームズフォートでもネクストでも止められない存在が現れたのならば…それはありえない話ではないと考え寒気がする。

 

「ま…どっちにせよ、そんな悪人なら…私が仕留めるまでさ」

左の手のひらを右拳で叩きながら、不安漂う想像を打ち消すかのように言う。

 

「悪人か…そういう感じでは聞かされなかったよ」

 

「何?」

 

「ノアの箱舟の話とかと同じで、悪い物を全て消してやり直すための存在だって…」

 

「……」

ノアの箱舟。

その半ば伝説的な物語は近年になって本当に存在していたということもわかり、またそれと同時代に人類存続に関わる程の大破壊が起こったことも証明されている。

そしてその全てを洗い流した大洪水は…確かに悪い話のようには語られていない。

むしろ過去の清算、再生の象徴のように語られている。

 

「…ウィンディー」

 

「なんだ?」

黙り込む自分を見てどう思ったのか、レイラが不安げに声をかけてくる。

 

「死んじゃやだよ…ウィンディーは私のたった一つの…繋がりなんだから」

その声に不安は消え勇気が湧いてくる。

そうさ、私に出来るのは悩むことじゃない。戦うことだ。

 

「死なないさ…お前は…私の、その家族みたいな存在なんだからな」

言ってしまうのは少々恥ずかしく、目をどこかへやりながら呟く。

 

「ウィンディー!」

それでもその言葉は何よりも嬉しかったようで椅子に座る自分の元へレイラは飛び込んでくる。

その身体を受け止めながら自分を奮い立たせる。

負けないさ、誰にも、と。

 

 

 

翌日。さらなる情報を集めにカラードへと赴いたところにリリウムを見つけ、

口実半分情報収集半分で声をかける。今日も可愛いったらない。

 

「リリウム」

 

「ウィンディー様、いかがなさいましたか?」

振り返る角度、髪の揺れ方も完璧。下腹のあたりがキュンキュンする。

近くに…よし、あの老人はいない。

 

「昨日の話…詳しく聞きたいのだが」

本来ならば敵対企業のリンクスに情報を与えるなどあり得ないことだろうが、リンクスが企業から少々切り離されている今、

この話は不自然ではない。それに既に漏れている話の詳細を聞くというのは情報収集としても間違っていない。

 

「はい…。VOBで近づかれた後、砲台に集中砲火して内部での火災を起こしたとのことです」

 

「なるほど…それなら火薬をたっぷり積んでいるAFがどうなるかは想像に難くないな」

 

「以前、交戦したホワイトグリントがその情報を持ち帰ったという話なのですが…」

 

「…弱点ではなく当然のこと、だな」

 

「はい」

眉を少々への字に曲げるリリウムは今日、

ガロアの初ミッション成功後の大騒ぎからうって変わって、流れの止まったどぶ川のような雰囲気のBFF本部の雰囲気にあてられてしまい、

いたたまれなくなりカラードへと逃げるように来たのだ。

そんな弱った気配はウィンの心をさらにくすぐり正直もう、たまりません。

 

「まあ、気にするな。企業間の争いなどやってやられて…日常茶飯事なのだからな」

なぜ弱っているのかはよくわからないが、それをチャンスとばかりに行動に出た。

すなわち、リリウムの頭に手を置くことだ。

 

「…はい」

柔らかい髪を触られ健気にほほ笑むリリウムに理性の糸がさらに一本千切れ飛び、もう一歩近寄り抱きしめてやろうとすると…

 

「ウィンディー!ガロアがマザーウィルを落としたってマジか?」

 

「……」

 

「事実ですロイ様」

むすっと黙り込む自分の代わりに応えるリリウム。

いつもいつも良くも悪くも完璧なタイミングで現れてくれやがって。

 

「よう、リリウムちゃん。…ウィンディー、金はいらないって言ったろ」

 

「…ビジネス上、当然の礼儀だ」

 

「…そうかい…」

そういう礼儀を取っ払って話せるようになるのはいつになるのか。ロイは今日も肩を落とす。

 

「ビジネス…ですか?」

突然転換した話題についていけずにあどけない顔で疑問を口にするリリウム。

か、かわいいなぁ。もちろん顔には出さず守秘義務を犯さないように答える。

 

「…近頃あらゆる地域で突然現れるイレギュラーの撃破に私が向かったんだ」

 

「で、その救援に俺が行ったのさ」

 

「そうなのですか…BFFでも度々イレギュラーノーマル部隊の確認が報告されています」

 

「こっちはネクストだったな」

 

「ノーマル部隊も所持してネクストも有するということか…?」

 

「…もしかすると、目的の違う集団がそれぞれ同時期に動いているのかもしれません」

 

「どちらにせよ、注意するに越したことは無いな」

 

「さらに、空中浮遊する自爆兵器の確認もされています。こちらも捕獲することは出来ず全て爆発してしまったので依然として何もわかっていません…」

リリウムが所持する端末から画像を浮かび上がらせる。そこには空中に浮かぶタコのような不気味な黒い機械がいた。

中心に位置する大きな目玉のようなカメラがさらに不気味さを演出している。

 

「…気味悪いな…なんだこりゃ…」

だんだん下心が薄れ情報取集が進んでいくのはロイが出てきてうかつにリリウムに近寄れなくなったからだ。

だが、ロイの感想は正しく、戦場でこんなものに出会ったら気味が悪い以外の感想は出ないだろう。

 

「企業の対応は変わらずか?」

 

「はい、正体も目的も分からないままでは対策も練れず、出現してから撃破という後手後手の形になっています」

 

「……」

すれ違うカラードの職員がこちらに視線を向けるのを隠そうともせずに見てくる。

上位リンクスが集まって話すこと自体が力の無い凡人にとっては不安そのものであり、気にするなという言うほうが無茶だということはリンクス本人にはわからない。

 

「こんなところで話すのもあれだ、どこか行かないか」

 

「はい、ロイ様」

 

「…そうだな」

その視線を受けて思うところあったのか、ロイがそんなことを言いリリウムが賛成する。

リリウムと男が二人きりなど到底許せるはずもなく、自分もそれについていくことにした。

 

そんな心の動きは露知らず、誘いに乗ったウィンにロイは心の中でガッツポーズをしたのであった。

 

 

 

 

「……」

夕焼けに染まり赤暗く染まった部屋でセレンは無言で花に水をやっていた。

土に混ぜ込んだ粒状肥料が水に溶け、じんわりと染み込んでいく。

静かに開いた花弁はいずれ閉じる運命を知ってか知らずか夕日を受けて赤く咲きなおも色艶めく。

色々と調べて多年草であることを知り育て方も調べたセレンは、

最近すっかり手元を離れてしまったガロアにかけていた世話の対象をアルメリアへと移し替えた。

アルメリア自体は強い植物で、実はそこまで気をかけなくても水やりと温度にさえ気をつければ枯れることは無いのだが、

もともと無趣味なのに何かをしていないと落ち着いていられなかったセレンはそれを知ってもなお世話を焼く。

 

熱のこもりそうな部分を選り分けながら、考えるのはやはりガロアの事だ。

四日前、スピリット・オブ・マザーウィルを落としてからガロア自身も、そして周りの評価も変わった。

ガロアが一流のリンクスになっていくこと、それは喜ばしいことなのだがその名前の売れ方は少々不吉な気配を孕んでいる。

危険な依頼をされることは信頼の証とも取れなくはないが、

それは確実に死へと近づくことを意味しておりそしてガロアはそれを知りながら望んでいる節がある。

そしてその強烈な意志はもう世界を巻き込みつつある。

リンクスというのは世界を左右する少数の力であり、国家解体戦争以来その認識を変えんと企業はなりふり構わずに行動をしてきた。

それすらを振り切りその力を手にしようとする。

わかっている。そうしなければ追いつけない所に目標があるということは。

 

だが。

 

(勝っても負けてもこのままでは空っぽになってしまうだろう…ガロア…)

冷静に見えるあの顔の下には灼熱の意志が渦巻いている。残るのは灰か死体か。

 

「ねぇ?」

傾いていく日の中で手入れを終えた花をただじっと見つめていると突然後ろから声をかけられ反射的に拳銃を抜き振り返る。

 

「誰だ!?」

 

「ちょ、ちょっと待って。私よ」

 

「なんだ…なぜ突然入ってきた」

ホールドアップをするメイの姿を確認したセレンは拳銃をしまう。

 

「さっきからノックもコールもしていたわ。鍵が開いていたから…」

 

「そうだったのか…すまんな」

 

「こちらこそ勝手に入ってごめんなさいね」

リッチランドの依頼以降、なんだかんだ銭湯やそれ以外の場所でもよく会う二人は次第に用事がなくても口をきくようになっており、

それはセレンにとって初めての友人と呼べる存在となっていた。

友人であると特別な意識はしていないが友人というものはそういうものである。

 

「何か用か?」

床に散らばる雑多な荷物を蹴飛ばしメイが座るスペースを作った。

 

 

 

「用がなきゃ来ちゃだめ?」

 

「いや、そういうわけじゃ…」

メイがわざとすねるように言った言葉にセレンはメイの想像以上の動揺を見せる。

手を口にあてクスリと笑いながらメイは手に持っていた袋を渡した。

 

「冗談よ。これ、おみやげ。まだ温かいから食べて」

 

「これは…」

先ほどから甘いにおいがしていたので何かしらを持ってきていることには気づいていたが、なんとホットケーキだ。

しかしそれは偶然ではなく、交わした会話の中で好物が甘い物そして何よりもホットケーキということを知って美味いと評判の店まで買いに行ったのだ。

 

「ありがとう、これは嬉しいな。いただきます」

ベッドに腰掛け中に入っていたプラスチックのフォークで食べ始める。

すでに日は沈んでいたが部屋は月とクレイドルの明かりでほんのり明るい。

 

「どう?」

 

「んー…うん、まぁまぁかな…」

自分も食べたがまあまあどころではなく、本来ならばかなり美味しい部類に入るはずの味だ。となれば…

 

「ガロア君の作った物の方が美味しいって?」

 

「そうだな」

もぐもぐと何の考えもなく質問に素直に答えるセレン。

わざわざ買ってきてもらったお土産に対しその態度や答えは失礼とも言えるが、

そんな飾らない態度を出すセレンの性格をメイは気に入っている。

人を観察し、その性格を見抜き、損得を決め人と関わってきたメイはセレンの性格をよく把握していた。

かなり喜怒哀楽も激しく、礼儀も知らない。だがその言葉は本心を嘘や飾りで煙に巻くことも無い。

常に緊張を持って人と付き合うメイにとってその性格はとてもとっつきやすいものであり、また彼女のそんな性格を気に入っていた。

 

「その、ガロア君なんだけど…」

 

「…なんだ?」

三口で食べ終わり、袋と箱をゴミ箱に入れて変化した雰囲気を察知し話を聞く姿勢を見せる。

 

「あなたたち何かしたの?GAの雰囲気がおかしいわ…特に上層部がぴりぴりしている」

 

「……」

思い当たる節は二つある。

一つはGA陣営のBFFのアームズフォート、マザーウィル撃破のことだろう。

そしてもう一つは…やはり空に浮かぶ自律兵器のことだろうか。

 

「マザーウィルを落としたからじゃないのか」

 

「そうじゃ無いとは言い切れないけど…だったら先にウィン・D・ファンションに恨みが向くはずだもの。それに企業にとって兵器を落とした落とされたなんていつものことよ。

たったそれだけでそうなるはずがない…と思う」

 

「……そうか」

空に雲がかかったのか、部屋に差し込む光が急に薄れ、セレンの顔が見えなくなる。

 

「どうも上層部の意志が下の者たちへ伝播しているような感じなの。あなたたちは…何をしたの?」

 

「……」

 

「とにかく、GAからの依頼は気を付けて。…いつ死ぬか分からない職業でも、理不尽に死ぬなんて…嫌でしょう?」

 

「…ああ…ありがとう」

口では礼を述べているが、窓から差し込む光はセレンの唇をぼんやりと浮かび上がらせているのみであり、その真意は読めない。

 

「…さてと、私はもう行く。あなたたちみたいなコンビって結構好きよ。だからいきなり死んだりしないで」

床から立ち上がり出口へと向かいながら、平素ならば滅多に口にしない本音を口にする。

きっと誰にも話せない何か重大な事をしてしまったのだろう。自分の勘はそう述べる。

だがそれを口にすることはついになかった。




ウィン・Dの身長174cmに対してリリウムは155cmです。たまらん身長差ですね。


この世界ではキリストの復活だとかと同じレベルで黒い鳥という伝説が根付いています。
詳しく知っている者、いない者の差はあれど、共通してそれが現れた時、世界に大破壊が起きると信じられています。

歴史的観点で言っても今この文明以前にも何度か文明が存在し、その都度大破壊が起きているのではないかとまことしやかに語られていますが、確たる証拠が出てこないといった感じです。

SFなので言う必要もないと思いますが、現実の私達と似たような歴史を歩みながらも全く違う世界とお考え下さい。

あえて言うなら、今から数千年先の世界でまた同じような歴史を繰り返しており、その間に文明が滅びる程の大破壊が何度か起きている(ただしその確たる証拠が見つかってない)世界と考えるといいかもしれませんが、それはオリジナルルートまであまり関係ないので忘れても大丈夫です。
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