Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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PA-N51襲撃

「よお、生きていてくれてうれしいぜ」

 

「……」

 

「また変な依頼か?」

GAから再び依頼が舞い込みその依頼説明はやはりジョージであった。

その言葉は本心なのかは重要ではないが少なくとも前のように顔色は悪くない。

 

「前ほどではないな。オペレーターさん、なんか吹っ切れたか?」

 

「……」

 

「ああ…こいつならどんな依頼も降りかかる火の粉にも負けはしないさ。私にできるのは信じることだけだ」

 

「ほー…そりゃいい…。じゃあ作戦を説明するぜ。雇主はいつものGA。目標は、PA-N51の新資源プラントだ」

何をいいと思ったのかまでは言わずにニヤリとするジョージ。だがそんなやり取りを聞きながらガロアは心底どうでもよさそうな顔をしていた。

 

「アルゼブラか」

 

「そうだ。防衛部隊を排除し、プラントを破壊する。ごく単純な作戦だが、1つだけ条件がある。「作戦時間を限定したい」とのことだ」

 

「何故だ?」

 

「……」

 

「この地域にはおっかない番犬がいる。ランク14、イルビス・オーンスタインの駆るネクスト・マロースだ」

 

「ランク14程度なら…」

ランク14ともなれば中堅より上のリンクスであり、程度なんて言える存在ではないのだが、そういった感覚が吹っ切れるとともに麻痺してしまったらしい。

 

「まあ、ランク17とそこまでの差はないし、実際オーダーマッチなら負けやしないだろう。だがそれでもなるべく当たるな」

 

「……」

 

「何故だ?」

あれ、さっきも何故だって言った気がするな、と少し思う。

 

「まずこいつはオーダーマッチを滅多にしないし勝率もあまりよくない…だがそれは演技の可能性が高い。PA-N51を襲撃したネクストを四機撃退し、そのうち一人は殺害している」

 

「…殺害?撃破後のネクストへの攻撃は禁止されているだろう?まして自分たちの領土内でコジマ爆発なんて起こされた日には…」

機能停止した後へのネクストへの攻撃禁止。

これは建前上ではリンクスの生命の尊重ではあるが、その地で万が一コジマ爆発でも起こした日には争いを起こしたどちらにとってもいい結果にはならない。

枷を失ったコジマ粒子は荒れ狂いその場所をそこから100年は生命の無い土地としてしまうのだから。

また、先のリンクス戦争では機能停止などという気の利いたものもなく本当に爆発するまで戦わされた。

その影響で人間の生活圏が収縮しクレイドル開発の一因となったのだ。

 

「いいや、違う。三機は戦闘不能寸前まで陥り撤退、残り一機は戦闘不能になった後に引きずり出されて拷問にかけられ情報を絞り出すだけ出されて殺されたんだよ」

 

「……」

 

「……」

静かに佇むガロアに目をやりセレンも黙り込む。

これまでの戦いで血の赤色はまだ目撃してはいないが、結局やっていることはそういうことなのだ。

その相手を責めることも出来なければ、じゃあやめますなんて綺麗ごとも言えない。

 

「そういうのは一応禁止されているが…そもそもがアルゼブラってのはちょっと独特な企業だ。オーメルグループと言いつつもオーメルが手綱を握っているとは言い難い。

それにアルゼブラにはキレたリンクスが多いが…このイルビスはその中でも特にイっちまってる。神の名の元だがなんだか知らんがどんな手段も省みない」

 

「……」

 

「それにこいつはこの地方、つまり吹雪で視界の限られる場所での戦闘というのものを知り尽くしている。あんたの実力はわかっているが相手にしないに越したことは無い」

 

「……」

 

「…まあ、そうだな」

前々から思っていたがGA、いやGAというよりはこの仲介人はかなりリンクスの側に立って物を話す。

何か思うところでもあるのだろうか。セレンは眉と目をほんの少し近づけ考える。

 

「まあ、作戦時間が短ければ、それなりの追加報酬も用意されるそうだから稼げるチャンスだと考えようや。どうだ?やるか?」

 

「どうするガロア?」

 

「……」

ガロアというリンクスに自信があるもののそれでもこの説明を聞かされて色々と考えるセレンとは対照的にただガロアは戸惑うことも無くサインをする。

 

「よし。気をつけろよ。仮に捕まらなくてもネクストから放り出されれば生きてはいけない程の極寒地域だからな」

 

「……」

 

「……」

その言葉にガロアは目を細め昔を思い出し、セレンは調べ上げたガロアの過去に思いを馳せる。

アルゼブラ。その前身、イクバール。

もしかしたらこの戦いでガロアは初めて自分と縁がある者と戦うのかもしれない、と。

 

 

 

 

「ミッション開始!敵防衛部隊を撃破し、新資源プラントを破壊する。制限時間付きだ。のんびりはできないぞ 」

画面に表示される高度計から着地したことは分かるが、送られてくるコックピットの映像は乱れる雪によりほんの10m先も見えない。

 

『……!』

 

「なんだ!?」

ヘッドセットに届く息遣いが荒れ画面が揺れる。

何かが確かに今画面を横切った。

 

「待て…これは…!」

建物の陰に入り周囲を伺うガロアを待機させ先ほどの動画を巻き戻しコマ送りでその正体を見極める。

 

「バーラッド部隊!…どうりで防衛隊も撃破対象になるわけだな…気をつけろ…現存するノーマル部隊の中でも最高の練度の部隊だ。

しかも手に物理ブレードを装備している。いくらネクストでもあれに当たったらただではすまない」

 

 

 

「……」

ガロアの息遣いが元に戻り周囲を見渡す。

雪と建物の陰の他には何も見えない。

なるほど、これは確かに単純な戦力だけでは測れない相手だ…さて、どうするか。

 

「……」

セレンが作戦を練り始めたころ、ガロアはある感覚を思い出していた。

肌を打ちつける雪に混じる敵の息遣い、殺意。

相手はわかっているはずだ。自分が建物の中に紛れていることは。

つまり、どう動く?

 

「……!」

吹雪く轟音に僅かな異音が紛れ一瞬の後に目の前に影が現れる。

ガロアは瞬間、マシンガンを前に突き出しつつ左手のブレードを後ろに振りぬいた。

 

『がぁ!!』

いつの間にか背後まで迫ってきていたノーマルの右腕と脚を切り裂く。

そうだ。この感覚だ。

 

 

 

『イルビス様!敵の襲撃です!』

 

「ちぃ…やはりか…待っていろ」

雪の荒れ具合に不吉な物を感じてネクストに搭乗し自ら見回りをしていたイルビスはPA-N51の警備を任せていた者からの通信を受け、

悪態を吐きつつも当たってしまった勘に感謝と恨みをぶつける。

 

「状況を説明しろ」

方向をPA-N51へと変えて急ぎながら通信を続ける。

 

『はい!敵は一機、ランク17アレフ・ゼロです』

 

「ふん…GAの犬か…ちょうどいい…カブラカンの落とし前をつけさせてやる」

 

『いえ、それが…』

 

「なんだ」

歯切れの悪い部下に苛立ちを隠さず言う。

そもそもこの天候でバーラッド部隊がランク17ごときに後れを取っていることがあり得ない。

 

『かなり雪上戦に慣れた敵です。それに…何か奇妙な情報がぎゃぁ!!』

 

「おい!…訓練が足りなかったか」

仮に敵を殺せても死ぬほど訓練をしてやる。

敵と味方双方への怒りの籠った熱い息を吐きながらPA-N51に到着した。

 

「もう2基もやられているのか…」

基本的にどのような施設でもネクストに攻め込まれたらもう守る手立てはない。

国家解体戦争で国が負けたのは戦力と直接ぶつかったのではなく、

防衛の要となる地にその圧倒的な機動力で直接攻め込まれ、大火力でなすすべもなく焼かれたのが直接の敗因である。

動かない施設など適当にトリガーを引いているだけでもネクストの火力ならば消し炭に出来てしまう。

焼かれたプラントを見て歯ぎしりをしながらどこにいるとも知れぬ敵へ向けてオープン回線で怨嗟のセリフを述べる。

 

「GAに尻尾を振る下種が…どこに隠れていようとも必ず追い詰めて、肥溜めにぶちこんでやるぞ…」

見えた。やはりもう一基のプラントへと向かっている。

ならば防衛も難しくは無い。

 

「バーラッド部隊。プラントの周りを固めろ。せめてその身で守るぐらいの気概を見せろ…」

 

『はっ!』

その身で弾を受け止めろという命令にも文句を言わずにバーラッド部隊はプラントの周りに展開されていく。

バーラッド部隊の恐ろしさは死の恐怖を神の元へ行く聖戦と受け止めることによって出来上がった恐れを知らぬ兵隊にある。

そこでなお生き残った者が出世をしていくのだ。

先代のバーラッド部隊はまた違う方向の練度の高さを持っていたが、イルビスが隊長に就任してからは徹底的にそういった教育を施してきた。

 

「…よし」

展開された部隊を見て呟く。

これに突っ込んでくる馬鹿か、それとも撤退する腰抜けか。

どちらにせよ逃がしはしない。

 

『ぐぁっ!!』

 

『ああ!!』

 

「なんだと…」

火薬が弾ける音は聞こえなかった。

それなのに味方の数は減って、ただ味方が崩れ落ちる音が聞こえてくる。

 

「ブレードか…それに姿を見せぬまま…なるほど、確かに雪上戦は初めてではないな…!?」

イルビスにしては非常に珍しく敵をほめる発言をした瞬間。

雪に紛れ右後ろから敵が斬りかかってきた。

死を常に傍に置いていた者だけが持つ反応でぎりぎりのところで避け、すれ違いざまにショットガンを叩き込もうとして手が止まる。

これはなんだ。

 

 

 

「……!?」

まさか避けられるとは思わなかった。

すぐさまビル群の陰に機体を溶かして再び隙を伺う。

だが敵の様子がおかしい。

背に触れるビルからパラパラと欠片が落ち、その音が響く前にまた移動する。

 

『貴様…』

カラードに登録されている機体と実戦では違う武装を持っている、ということはよくある話だ。

ガロアは珍しく武装をほぼ変えないタイプのリンクスであるが、

ランクも高くなってくると、とことんまでこだわりぬいた装備で戦う者か依頼にあわせて柔軟に装備を変える者がはっきりわかれてくる。

ガロアの機体、アレフ・ゼロはある一点を除けばシミュレーションと全く同じ武装である。

そのたった一つの違い、それはヘッドの中央につけた独特の弧を描く真っ赤なスタビライザーであった。

国家解体戦争で特に目覚ましい活躍をしたリンクス特注の物であり一般には製作されていない象徴的な造形物である。

だが、敵にとって大事なのはどう武器が変わったかであり、たった一つのスタビライザーの違いに気が付くものはそうそういない。

しかしとうとうそれにも気が付く者が現れた。

 

『貴様…そのスタビライザーは…サーダナ様の!?』

かつてイルビスが尊敬し、これより強い兵士はいないと陶酔していた人物。

その名前を叫び、そしてバーラッド部隊にも動揺が広がっていく。

 

『サ、サーダナ様…!?』

 

『やはり…!あのヘッドのパーツは!』

 

 

 

 

「……」

その名を聞きガロアの心臓のリズムが一つだけトクンとずれる。

自分が父と呼び敬愛した人物。とうとうそれを直接知る者まで辿りついた。

だが自分以上に父の事を知っている者などいない。

 

父には大事にしている部下などいなかった。

 

『ガロア!動揺が広がっている!今がチャンスだ!』

先ほどのイルビスの言葉に同じく動揺したセレンではあるが、

戦場にいない自分が戦場の雰囲気に飲まれてはならないと動揺を振り切り指示を出す。

 

「…!」

動揺し銃を下げる者までいるバーラッド部隊に突っ込んでいく

両肩からグレネードとロケットを発射し、反応の間に合わなかった哀れな弱者を焼き、爆炎に紛れさらに敵を斬り刻む。

 

『あの時サーダナ様が仰られていた子供か!?』

暴れまわるアレフ・ゼロに一瞬躊躇するもマロースは引き金を引く。

 

「…!」

敵の親玉がこちらに来る。頭上を取られたと思ったら見えなくなった。

汗が耳を伝い落ちていく。敵ネクストの機体の色がそのまま保護色となっており、逆に自分の機体はこの白銀の世界では目立ちすぎる。

 

『くそ!なんだか知らんが貴様は敵だ!ウラーッ!』

思索する間もなく後ろからノーマルが物理ブレードを突き出してくる。

とっさにその腕を脇で挟み、一緒にビルの陰に隠れることに成功した。

 

 

 

 

「く…人質は通用せんぞ」

兵士としての長いキャリアの中でこれほど動揺したのは初めてだが、

目の前にいるあのネクストの行動は間違いなく敵対的。

 

「!!」

ビルの陰から飛び出してきた物に両手のトリガーを引く。

それが自分の機体と同じ保護色の部下だと気が付いた瞬間にプラントが爆発を起こす。

 

「ぬうううううう!!」

しまった。敵の狙いはプラントなのだから当然のことだった。

相手を知ること。それが見えない敵と戦う時の鉄則だったはずなのに忘れてしまっていた。

 

浮かぶ自分の機体の真横でロケットが閃光を発し視界が失われる。

だが今度は経験と勘に従いその後のブレードの回避に成功する。

 

「貴様、貴様はサーダナ様の」

 

『……』

言葉を言い終わる前にさらにロケットが発射される。

 

「なぜ敵対する!?ここは」

 

『……』

恐らく敵は自分の言いたいことを理解しているはずだ。

だがそれに返ってくる言葉は無くさらに斬りかかってくる。

 

「ぬああああ!」

説得を捨てほぼ0距離でのショットガンの発射。この距離ならばPAも関係ない。

絶対に当たったと確信した瞬間に見たのは穴だらけになったアレフ・ゼロではなく、

後ろに宙返りし自分の機体の腕を両足で蹴り上げる黒いネクストの姿だった。その一瞬の時間はぐにゅりと曲がり引き伸ばされ、まだ自分がネクストに乗るずっと前の事が思い出された。

 

 

 

 

『死にたくないな』

 

『はっ…今なんと?』

常に自分たちの手本であり続け導き続け、この方と共にいるのならば死ぬのも怖くない。

そう思っていた人物の口から出た、恐らく自分が初めて聞いた本音はその人物の普段の冷徹な兵士像からはかけ離れたものだった。

 

『殺しているのだ。いずれ殺されもする。だがやはり…死ぬというのは嫌なものだ』

 

『それは…死ぬのが怖いということでありますか』

この人といるのならば死も怖くない。

そう自分に言い聞かせていたイルビスは、やはりどんな人物でもそうなのかと投げかける。

しかし、サーダナとバーラッド部隊の半分が出撃するミッション開始前に格納庫の扉の前に呼び出されて何を言われるのかと思えば…

一体何を言っているのだろう。

 

 

『いいや、そうではない。だが…子供がいるのだ。その子の未来が見れなくなるのかと思うと、やはりな』

 

『!?お子様がいたのですか!?』

初耳かつ、この人物が妻を愛で子を育てる姿があまりにも想像できないと思い、

同期からも鬼と恐れられている自分がなんともみっともない声をあげる。

 

『…ああ。私にはもったいないくらいの子だ』

 

『…そうでしたか』

直立不動の姿勢は変えずに自分の求め続けた憧れの兵士へと目を向ける。

 

『時間だ。いかなければならない。私がもし帰らなかったら…』

 

『サーダナ様が負けるなどと…』

 

『お前がバーラッド部隊を率いるのだ。最強の部隊の最強の隊長に』

 

『やめてください、ありえません』

不吉な未来への想像と自分がバーラッド部隊を率いるには未だ未熟であるという感覚、

そして認められていたのだという感動が綯交ぜになり出たのはなぜか否定の言葉だった。

 

『…任せたぞ』

 

『……』

直立不動からの敬礼を送りサーダナは背を向け扉の向こうの光へと消えていった。

そしてその背中が最後に見た隊長の姿だった。

 

自分はあれから最強のサーダナ様の名に恥じぬようにこの部隊を率いてきた。

今日までどんな敵だってこの地に這いつくばらせてきたのだ。

 

 

 

 

 

「…っ、は!?」

目の前に青いブレードと赤いスタビライザー。

そして戦闘の思考は先へと進む間もなく手足を切り落とされさらにコアに強烈な蹴りを叩き込まれた。

ガガンッ、と地面に想定されていない着地をしたが故の音が響き、

ネクストからフィードバックされる激痛が身体を襲う。

呻きながら見上げた空で黒いネクストが雪に紛れて空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

『貴……大アル…ブラを敵に回…か…』

敵の声はわずかに聞こえるばかり、雲から降る雪が機体に当たり全てが薄れていく。

 

『ミッション完了だ。よくやった。だが敵の支配領域だ。油断せずに帰って来い』

 

「……」

厳しくも優しかった父の思い出。

自分はネクストと呼ばれるもののパイロットをしている。

そう打ち明けてくれたのはいつだったか。

想像すらできなかった父の兵士という一面に今日ようやく触れることが出来た。

 

 

『黒い鳥…彼こそがそれなのではないかと、私は思っている』

あの時の父の言葉を忘れたことは無い。

確かめるべき時は、近い。

 

「……」

山を越え風より速く空を飛ぶ。

今日は新月、そして厚い雲が空を覆い、真っ暗な世界で僅かな光が反射して映るのは雪ばかり。

そう。父が亡くなってから、これが自分の生きる世界だったのだ。

冷たい機械に身体を包まれてガロアの動いた感情も少しずつ埋もれて無くなっていた。

 

 

 

 

 

ガロアの帰還を見届け、冷たい扉を開き廊下へ出る。

冷房の効きすぎたカラード中央塔内部では少し暖かい格好をしていないと女性には厳しい。

 

(相手はガロアの事を知っていた…それを躊躇もせず…)

セレンは額に浮かんだ汗が乾いていくのを感じながら目的もなく歩く。

 

(でも今回はプラントの破壊であの地を接収するわけでもない…殺してはいない…?いや、だが…)

 

『ガロア!動揺が広がっている!今がチャンスだ!』と、自分はあのとき確かに言った。

 

(焚き付けたのは私、か?でも言わなくても続けていたのだろうか…)

セレンはここにきてまた別の不安が出てきてしまった。

企業からの敵意も退けられるほどに強くなったのはよい。

そしてこれからいずれぶつかるのだろう。本命のホワイトグリントと。

その資格も力も得つつある。

 

(お前は、優しい子供だったのだろうな…)

今まで共に過ごしてきて何度も見えたさりげない優しさや気遣い。

父を失ったりなどしなければ、きっと彼は優しく利発的な青年へと成長していたのだろう。

だが。

 

(復讐の為に、強くなるために、心まで捨てているんじゃないか…?)

話せないから、敵だから、理由などどんな風にも言える。

そしてどうするのが正解だったのかは分からない。話し合いなど考えずに最初から倒すことだけを考えるのが正解でいいのかもしれない。

事実それが依頼だったのだから。しかし、相手の長は多少なりとも話し合う意志を見せていた。

ガロアはそれを知りながら…切り捨てた。

 

(復讐を終え、心が空っぽになっても私が傍にいればいいと思っていた。だが、このままでは…)

 

「ねぇ、そっちは調理室よ?何か用でもあるの?」

 

「え?」

サングラスを頭にかけ、底の高いサンダルを履き一足早く初夏のスタイルを身にしたメイがそこにはいた。

 

 

 

「ふらふら~ってゾンビみたいに」

 

「ああ、いや」

 

「またガロア君のこと?」

 

「いや、その…そうなんだ」

 

「ふーん…どうしたの?」

聞く前からその理由はわかっていたし、聞いた後も特に何か思うことは無い。

名目上はガロア・A・ヴェデットと専属契約したオペレーター。

だが、いつだってセレンの頭の中はガロアのことで一杯。

若い男女が同じ部屋に住んでいるのだ、気にならない方がおかしい。

むしろまだ何も進んでいないのが異様なくらいだ。

そして今、肯定を口にしたということは悩みを打ち明ける気があるのだろう。

あくまでこちらが聞き出す体で話を聞いてみる。

 

「ああ…今日もまた一つ依頼をこなしてな」

 

「大忙しね。結局GAからのめちゃくちゃな依頼もクリアしちゃったんでしょ?」

 

「カブラカンのことか?」

 

「そう。みんな正直ガロア君が負けると思っていた。まさか勝つとはね。今は向かうところ敵なし…って感じなのに、何がそんなに引っかかるの?」

先日訪れたGAの雰囲気はまた変わっており、最早このコンビの扱いが手に余っているかのようにも見えた。

そして今日もまたGAの依頼を受けているとは聞いていた。

だがその内容は調べたところ厳しいながらもこの前のようなむちゃくちゃな物ではなかったはずだ。

 

「…あいつが、…リンクスになったのはある目的の為なんだ」

 

「アナトリアの傭兵でしょう?」

 

「なぜ知っている?」

別段隠しているようなものでもないが、メイがそれを知っているのはセレンにとってはかなり意外だった。

だがそれはセレンがメイの本質、つまり臆病な賢者である部分を見抜けていないということである。

 

「私も生き残るためにいろいろ調べているの。それにすぐわかるじゃない。あのヘッドを見れば。育ての親を殺されたからでしょう?」

 

「…そうだ」

 

「どんどん力をつけていずれホワイトグリントとぶつかる。それの何がダメなの?」

 

「あいつは話せないからわからないだろうが…本当のあいつは優しい奴なんだ。今日の敵はほんの少しだがあいつのことを知っている様子だった。だがあいつは躊躇せずに倒した」

 

「……」

 

「心配なんだ。このままあいつは心を殺しきってただの殺戮兵器になってしまうんじゃないかって」

 

「…そういうこと…」

メイはセレンの性格を知った上でのこの発言をよく理解していた。

この少女、いや、20ならば少女と呼ぶにはいささか微妙だが、とにかく自分から見たら少女であるセレンはかなり精神的に未発達な部分があり、

人の多面性や考え方の相違などがすぐには理解できない点がある。

というのも恐らくは、基本的に一つの事しか考えられないという自分の性格をモデルとして人の事を考えるからなのだろう。

そして彼女の言うこのままでは心を殺しきってしまうというのは間違った話ではない。

 

事実彼女のよく共闘するローディーは普段の好々爺から一転、戦闘中は一切の隙を見せないまさに戦闘マシーンだ。

だが、ベテランの兵士や上位のリンクスが全員ただの殺戮兵器なのかと言えばそうではない。

戦闘をする自分と日常生活を送る自分というのを上手く切り替えているのだ。

むしろこの世界では仕事に余計な感情を持ち込まないのは良い成長と言えるのだが。

 

「あのね、人は何かと誰かと関わって心や感情を変えていくのよ?」

 

「だからこのままでは…」

 

「言い方が悪かったわ。その時関わる相手に応じて表情や感情を変えるっていうこと」

 

「…それは?」

 

「誰か嫌いな人がいてその人につんけんした態度をとるからって他の人にもそうはならないでしょう?」

 

「!」

ようやく何かがわかったかのように表情を変えるセレン。

見た目はもう大人なのに中身はまるで子供だ、とメイは少し笑う。

 

「いろんな人に対して見せるいろんな顔。どれもその人本人と言えるわ。あなたの知る優しいガロア君はまぎれもないガロア君自身よ」

 

「そう、か…」

 

「…でもね、人の心も思いも移ろう物よ。その思いやりが変わらぬ思いだというのならこれからも支えてあげなさいな」

どの表情もその人の本質。

そしてそのどれもがある暗い感情に飲まれて染まることもある、ということは直接は言わずに警告をする。

 

「…うん、そうだな」

表情を明るくするセレン。

全く、この二人は危なっかしい。

ガロアが心を殺してしまうと危惧をしていたが、セレン自身も相当なものだ。

この純粋さがもし危ない思想に中てられてしまえば簡単に染まってしまうだろう。

特にこういう純粋な人は、今まで自分が成してきた奸計と損得勘定に染まった自分から見れば羨ましくなるぐらいには好きだから、そういうのを見るのは御免こうむりたい。

 

「じゃあ、私は別の場所に用事があるから」

 

「ああ、ありがとう」

後ろから礼の声をかけられるのを聞きながらサングラスをおろし外へと出る。

話してる間中歩みを止めなかったから変な場所へ来てしまった。

目的地へと向かうルートを辿ると運動場へ出た。

そこではさっさとパイロットスーツから着替え、

一人運動をするガロアの姿があった。

鉄棒に掴まり片腕のみで懸垂をひたすら繰り返しており、その運動量は滴る汗の量から十分に察せる。

出撃してからすぐに訓練に向かうその執念は称賛に値するが…

 

(セレンが何をどう思っているかなんて、気が付いてないんだろうなぁ)

その心のほとんど全てを強くなることのみに向けているが故に周りに心を向ける余裕がない。

それでも優しい奴だ、と言われているのならきっと本来は戦いに向くような性格ですらなかったのだろう。

 

(あとはガロア君次第、なのかな)

人は人と関わり変わっていく。それが極端に制限されている彼は、ある時突然何かに染められ利用され変わってしまう危険性もやはり含んでいる。

出来るならばセレンの純粋な思いやりが、ガロアがその様な者に傾いてしまわないように支えてくれるのを願いたい。

暴走した力が自分に向かうのも、あの二人の関係が壊れるのも願い下げなのだから。

 

 

 

 

その14時間後。

 

青々とした植物が広がる農場で大きな爆発が起こりそれに巻き込まれたノーマルが吹き飛んだ。

『ふん…所詮ノーマルだな。頭数そろえたところで俺たちに敵うもんかよ』

 

「…まぁな」

GAに確保され部隊を再配備中だったリッチランド農業プラントが大量のノーマルに襲撃された。

そのノーマルを全て撃破してくれとの依頼が独立傭兵であるランク25のウィスと26のイェーイの元に舞い込んできた。

この二人は元々BFFのリンクス養成所の同期であり、性格は真逆ながらも何故か馬が合い、BFF所属時代から必ず二人で一つの依頼を受けるという変わったコンビであった。

依頼をいくつもこなし、BFFにネクストの料金の支払いを終えると同時に独立傭兵になり、その後はあらゆる企業の依頼を適度に受け、その全てでかなりの好成績を収めてきた。

コンビで戦うために、個々で戦うことになるオーダーマッチでのランクは決して高くないが、二人同時で戦った時の強さはランク上位のリンクスを退けたこともある程だ。

今現在企業間でもランクを無視して難しい依頼が回されるのはガロアとこの二人、そしてランク29の女性ぐらいなものである。

ウィスは赤い近距離特化型の機体に乗り、マシンガンで相手を削り隙を見てグレネードで攻撃し、

イェーイはそれをミサイルとスナイパーライフルで遠距離から支援する。

今回襲撃してきていたノーマルは50機を超える大編成、しかも大量の特攻兵器付きであったがこの二人の相手ではなかったようだ。

 

『よーし、帰るか』

 

「待て、ウィス」

 

『あん?』

いかにも面倒くさそうに返事を返すウィスだが、相方のイェーイの冷静な意見は正しいことが多く、

ウィスはたいていの場合はそれを受け入れる。

 

「このノーマル達、何か妙じゃなかったか?」

 

『何がだ?』

この、と言われてもどいつもこいつも撃破した時点で爆発四散しており、すでにそこには鉄くず以外の何も残っていない。

 

「パイロットが脱出するところを見ていない…つまりは無人機の可能性がある」

 

『そんな技術…いや、でも特攻兵器も無人だろうしな』

 

「そうだ。それにこの大口径のライフル…衝撃だけで普通のパイロットなら意識が無くなるぞ」

 

『…うーん』

言われてみてみれば、それは普通のノーマルが積むには明らかにおかしな大きさをしていた。

実際前に出て戦っていたウィスのネクスト、スカーレットフォックスはそこまで弾に当たっていないのにも関わらずAPが半分を切っている。

 

「カラードに連絡を取り、指示を仰ごう」

 

『そうだな。お前の言う通りにしよう』

そのノーマル達こそ、以前リリウム達が話していた所属も目的も不明のノーマルでなのでここでカラードに通信を入れるのは間違ってはいないだろう。

通信を入れれば恐らくは周辺の探索を指示されるはずだ。

だが。

 

「…!いや、待てウィス!敵だ!…これは…ネクストだ!」

 

『なんだと!?』

長距離戦を主とするイェーイのネクスト、エメラルドラクーンのレーダーに先に敵熱源が感知された。

それはカラードには登録された信号を発信していない明らかに敵性のネクストであった。

 

 

 

 

「…先に撃破されたか」

男の名はラスター18。

先日のインテリオルのAF開発施設襲撃犯の一人であり、未だ表舞台に出ていないテロリストの一員でもあった。

今回自分たちの所属している団体に出されていた指示は『各地で暴れまわる未確認ノーマル部隊の調査を進めておけ』というものであり、

それらが感知されたこの地方へと飛んできたが、一足遅く先に二機のカラードのネクストがそれらを全滅させていた。

 

「情報をまとめてもこの辺りが出現ポイントの一つというのは間違っていなかったらしいが…遅かったか」

畑の上に遠慮なく着地し目の前にいる二体のネクストと相対する。

 

『おい、あんた!所属を言え!』

 

『…こちらはカラードのイェーイ、ウィスだ。さて、そちらにも身分を明かす義務が生じたわけだが』

がなり立てつつも冷静に自分のもっとも得意とするであろう間合いに落ち着く二機。

冷静に話し合って和解するつもりはなさそうだ。

 

「この前の襲撃は秘密裏に処理されたか…腹黒いオーメルとインテリオルらしい」

本来ならばイレギュラーの襲撃などがあればカラード全体に通知されるが、襲撃した場所が場所だけに公表はされていなかった。

 

『所属と目的を明かしていただきたい』

 

『もういい、イェーイ!どうせ敵を全部排除しろって依頼なんだ!』

 

『…だな』

 

「!…来るか」

目の前にいる二機から殺気が膨れ上がる。

この肌を刺す感覚。これこそが戦場だ。

ラスターは口角を上げながらそのトリガーを引いた。




イルビス・オーンスタイン

身長170cm 体重68kg

出身 カザフスタン

国家解体戦争以前にイクバールに拾われて戦士として教育された孤児。
つまり結構年はいってる。
イクバール(現アルゼブラ)と自分を屈強な戦士へと育てたサーダナに心酔しきっており、サーダナ亡き後はバーラッド部隊隊長も務めた。

最初は嫌々やっていた捕虜への尋問・拷問も気づけば嬉々としてやっているようになっていた。
ミルグラム実験を元にしたイクバールの思想教育の被害者と言ってもいい。
テクノクラートのド・スの元にいるシャミア・ラヴィラヴィと嗜虐的な性癖の部分でウマが合い、ガロアに撃破される日まで毎日繰り返し捕虜を嬲っていた。
だが別段恋人同士という訳でも無いし、そもそもゲイだった、というのは作中に書かれない設定。

趣味
密造酒の製造
捕虜をしばくこと

好きなもの
チェッターヒン
行きつけの理容師の髭剃り





ガロアはサーダナに育てられた子供です。
しかし、AC4をプレイした方はご存知の通りリンクス戦争でアナトリアの傭兵にサーダナは殺されています。

ところで、作中に登場する人物のほとんどは↑のようにプロフィールを作っているのですが、もうイルビスは登場する機会はありません。
せっかくなので載せてしまいました。
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