Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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不明ネクスト+ノーカウント撃破

「なんだこりゃ?ゴミか?」

ガロアが買ってきてシンクの下の収納に置いていたナツメグを見てセレンは首をかしげる。

飯に行って来いとは言ったものの自分も何も口にしてはおらず、今から追いかけるのもなんだか恥ずかしい。

幸い家に食料があるので作ってみるか、と決心し作業に取り掛かった。

 

…が。

一人前ずつ小分けにされラップで包まれていた挽肉は解凍されることも調味料と混ぜ合わされることも無く油を引いたフライパンにそのまま乗っけて放置され、

パンを焼いておくか、とオーブンにぶち込まれたパンは既に5分以上最大火力で焼かれており、さらに追加で20分焼かれることをデジタル表記で示している。

 

「なんだっけ、ハンバーグには氷と牛乳で美味くなるんだっけ」

油に沈む冷凍挽肉に氷をガラガラと入れ、半リットル残っていたパックの牛乳をドボドボと入れていく。

 

「凍ってるし、氷も入ってるし、強火でいいか…」

火にかけられて溶けていく氷を見て腕を組みながらセレンは思う。

なんで溶けて水になるのに氷を入れると美味くなるんだろうと。

 

さらに腕を組み待つこと五分。

オーブンはもくもくと煙を上げ、火災報知機が反応しけたたましい音を上げ、途中で買い物をしてきたのか袋を下げたガロアがその惨状を見て袋をどさりと落とした。

 

 

「おかしいな。聞いた通りに作ったんだが」

正真正銘のゴミと炭を作り、あわや火事になりかけたのを偶然タイミングよく帰ってきたガロアが何とか止め、出前のピザを頼んで今に至る。

どうしてこうなるのか、と頭を抱えるガロアの前でLサイズのピザを二枚ペロリと平らげ指を舐めながらセレンはさらに言う。

 

「また今度やってみるか」

 

「!!」

不屈の精神と言えば聞こえはいいがなんでこんな時に限ってそんなに意欲に燃え上がるのか。

さらなる惨事を防ぐ為…でもなんでもなく後始末は間違いなく自分になることを想像して椅子から立ち上がり全力でノーとジェスチャーする。

 

「…ふーん。まぁいいや。風呂の準備しろ」

 

「……」

ああ、これはまたいつか果敢にトライするつもりだな、とは思ったが止める気にもなれなかった。

どちらにせよ、苦労するのはガロアだった。

 

 

前の家にいた時は手に怪我をしたときはよく身体を洗ったりしてやっていたが、こっちに来てからは初めてだった。

二人で入るには少々手狭だ。一応の気遣いとして水着を下に履かせたガロアを座らせてセレンはシャツとスポーツウェアのパンツのみとなりシャワーをガロアにかけている。

 

(狭い…というか、こいつが大きくなったんだ)

確か前に身長を測った時にはもう190cm近かった。今までの成長具合から考えてもう190後半になっているかもしれない。

よく絡まる癖毛にシャンプーをしながら考える。確かにあのメイ・グリンフィールドの言っていたように、貧相な子供の身体から大人の男の身体になっていた。

 

(たった三年でここまで大きくなるもんなのかな)

初めて出会った時の身長は150cmくらいだったか。頭のてっぺんに頬杖つけるような小ささだったのに今は自分の頭がガロアの肩の位置にある。

まだ年齢的に大人とは言えないが、もう子供の身体でも年齢でも無い。そんなことを考えながら身体を洗う。

あくまで、そっと、ばれないようにだが手を触れてみると、男らしくゴツゴツとした肌の下にはしなやかに鍛えられた筋肉があるが自己主張は激しくなく、静かに骨に纏われている。なるほど魅力的だ。

身体が大人になっているならもしかして、と少しだけ水着の方に目が行ってしまった。

 

「……?」

 

「わっ!?なんでもない、なんでもないぞ」

ガロアが怪訝な顔をして振り向いてきた。鏡があることをすっかり忘れていた。きっとこんな顔をされるぐらいには変な顔で見てしまっていたのだろう。

しかし大人になっているとして、男になっているとして、自分に興味は出てこないのだろうか。この見た目は自分の物じゃないとはいえ、美しいと分類されるような見た目だという事は嫌という程知っている。

それこそ街に出ればほぼ毎日のようにナンパされていたのだから。

 

(それとも…やっぱり…)

結局ガロアは霞のなんなのかという事は全く分からなかった。だが出会った時に14歳だったのならばそれ以前に知っていたという事。

それならば同じ見た目をしている自分にそういった劣情を抱かないのも当たり前なのかもしれない。…そう思うと少しだけ心が痛んだのが自分でもよく分からなかった。

 

(でも…)

だとしたら自分はガロアの事をどう思っているのだろう。

家族という物が根本から存在しようのない自分はあくまで言葉には出さずに頭の中で何度も思っていた。『きっと弟とかいたらこんな感じ』と。

その度に、そんなはずはない、血も繋がっていないのだからと自分で否定していた。

だがガロアは金を稼ぐようになって、自分で自分の家を勝手に探して借りれる様になったはずなのに自分と一緒にいて頼ってくれている。

というか一緒にいるのが当たり前になってしまった。

 

ここまではいつも考えること。

そして思うのは『アナトリアの傭兵を倒したらどうなるんだろう』ということだった。尋常では無い執念をかけているのは分かる。

だからこそ、その打倒も夢ではないとは思うがそれが終わったらどうなってしまうのか。空っぽになってしまうというのが一番リアルで一番嫌な未来だった。

まだ10代の子供だというのにそんな人生は最悪だ。

何度も堂々巡りする思考。そしていつも行きつくのは『その時も一緒にいてやればいい』という結論だった。

でもそうしたらもう普通の年頃の男の子なのだから、とまで考えたとき、ボディタオルが取り上げられた。

 

「……」

 

「あ、そうか。出ているよ」

頭と背中、そして怪我をしていない方の腕は洗ったのでもう自分はこれ以上洗う必要がない。

別に洗えと言われれば全身でも洗うのだがと思ったが、何故追い出されたかと考えると、

ガロアもちゃんと大人の男としてそういう恥ずかしいだとかの概念があって、どうやら自分をとりあえずは女として認識しているらしいという事に気が付いたセレンだった。

 

 

 

 

 

 

 

「グレートウォールも…?」

暫くぶりに立ち寄ったカラードでばったりと出会ったロイに食事に誘われ、

情報収集ついでその誘いに乗ったウィンはグレートウォール撃破の旨を聞き息を一つつく。

 

「ああ。これでガロアは主要AFを全部片づけちまったんじゃないのか?一周回ってバランスが戻ったって感じだな」

 

「私がいない間にまた一つか…」

 

「上手く戦力が低下した隙をついたみたいだけど、やっぱ無事ではすまなかったみたいだぜ」

 

「どういうことだ?」

 

「左腕と肋骨にヒビだとさ」

 

「今のあいつに一矢報いる奴がいるとは信じられんな…」

直接共同で戦ったわけではないが音に聞こえるその化け物染みた強さからして、

弱っているグレートウォールに怪我をさせられる、というのはどうもピンとこない。

 

「しかしウィンディー、そろそろしっかり仕事受けないとお前…」

 

「わかっているさ」

世界に不穏な動きあり。

その気配は調べれば調べる程色濃く、分かっているとはいうもののそれから目を離すことは出来ない。

報酬が出るわけでもなく、むしろ全て自費負担なので得することなど何一つもないのだがウィンは進んでたった一人で水面下で活動している。

 

「ランク抜かれちまうぞ?」

 

「そしたらロイも抜かれるだろうが」

 

「あ、そうね、あはははは」

またロイと呼んでくれたことが嬉しく手厳しいその返し言葉も嬉しくロイは笑う。

いや、自分はこんなにウブだっただろうかとまた笑う。

 

「カラードに帰ってきてばったりと俺に会うなんて縁があるんじゃないの」

 

「馬鹿を言うな」

 

「はっは。しっかし、心に信念がある奴はやっぱり強いな。迷いがない」

 

「…ガロア・A・ヴェデットの事か?」

 

「お前の事でもある。ウィンディー。一人でこそこそ動くのもいいが、いつだって俺はお前の力になるぜ」

ずいっと机に乗り出し近づくロイの肩に手をやり座らせ、大きく息を吐きウィンは言う。

 

「分かったから席につけ。…ありがとう」

だが、自分が好きで動いていることなのだ。

ロイをそんなことに巻き込むわけにはいかない。

危険な潜入も増えてきた今日この頃の自分の行動を思い返しているとロイは言葉を続ける。

 

「だがオッツダルヴァは別だな。あいつも確かに強ぇが…ありゃあ信念なんかじゃ動いちゃいねえ。まるで機械だよ」

 

「…!」

ギクリ、と動いた心を紅茶の入ったカップを口に持っていくことで何とか誤魔化す。

タイミングがいいのか、勘が鋭いのか。

 

「なぁ、ウィンディー、本当に俺はお前の力になるぜ。いつだって、言ってくれ」

 

「お前は…知っているのか?」

勘が鋭いの一言では済まないその立て続けの言葉にウィンディーは努めて本題をぼやかしながら問いかける。

 

「…なんの話だかな」

 

「……」

へっ、と明後日の方向を見るロイを見てウィンはこの男が異性に好かれるのは見てくれだけではないのだな、と思いながら話題を変える。

 

「お前にも、あるのか?戦う理由というものが」

 

「…あるさ。でもそういうのはぺらぺらと喋るようなもんじゃあないんだろ?ウィンディー」

この場にダンがいたらショックに顎を地面まで落とすような言葉にウィンは小さく笑い答える。

 

「…そうだな。しかし、この前の借りもある。何かあったら言え」

 

「男はそういうのを女に求めないもんさ」

 

「…男だ女だと相変わらずうるさい奴だ。…だが、お前のような奴は、嫌いじゃない」

その言葉にロイは目をひん剥いて驚いた。

 

 

 

 

 

食事は出かけるか、出前。

風呂は背中と右腕だけ洗ってもらう。

その生活は2週間で終わり今では運動以外の行動なら許可されている。

骨に入ったヒビも若さにはかなわず完治へと向かい後一週間もすれば運動も出来るだろう。

既に痛みは無い。

 

とは言え安静にしておくに越したことは無く暇を持て余したガロアは図書館で本を借り家で読む生活が続いていた。

 

「何を読んでいるんだ?」

リビングで頬杖ついて本を読んでいると買い物(スイーツ)から帰ってきたセレンが声をかけてくる。

ガロアが暇ならセレンも暇なのだ。話しながら如雨露に水を入れており、そのまま花に水をやりに行くのだろう。きっとこの会話も他愛もない挨拶のようなものなのだ。

 

「……」

 

「え?数学の本?へー」

本の説明をすると花に水をやり終えたセレンが隣に座り覗き込んでくる。

 

「数学の本なのか?これが?ページが数字で書いてある以外、見開き丸々数字がないじゃないか」

ガロアの読んでいる本はトポロジー、つまり位相幾何学に関する本であり開いているページは位相を取り扱った章である。

この分野は数学の中でも特に集合に構造を与えるという一見、数には関係のなさそうな事を行っておりセレンの言った言葉は感想として実に的を射ている。

 

「一応、ハイスクール卒業程度の勉強ならやらされたんだがな」

そんな面白いんだかどうかも分からない本を只管打読するガロアを自分も頬杖つきながら眺めてふと思う。

もしも、こんな時勢でなかったら。もしも普通に育っていたのなら。

器量もよく、天才肌のこいつは一体どうなっていたのだろう。

今現在17歳のガロアは、本来ならば将来の選択について頭を悩ますような年齢である。

そういえば、自分もこんな生まれじゃなかったらどうしていたのだろう。

 

「なぁ、もし」

こんな問いかけ、意味がないことが分かっている。

世界は汚染され、企業の支配は続き、隠しようのない汚泥が日々日常をじわりじわりと侵食している。

 

「戦いが終わったらお前はどうしたい?」

それはセレンが日々ガロアの事を思い悩み考えていたこと。このタイミングで聞いたのは意味があったことではない。

そして、この「戦い」という言葉はガロアにとっての戦い、つまりホワイトグリントの撃破であり、

今現在も世界を混沌に貶め続けている何かとの決着、二つのそれを含んでいた。

 

「……」

一方のガロアはその問いに答えあぐねていた。

ホワイトグリントを撃破した後の事なんて考えてもいなかった。

ただ生きているんだろうぐらいにしか考えてなかったし、それでよかった。

だが、もしも勝ったのならばそれでも自分は生き世界は続いていく。

続く世界の中でただ浮雲のように生きる自分。夢寐にも存在しないだろう、そんなもの。

 

ホワイトグリントに勝ち、さらにその後の何かにも決着をつけたさらにその後の世界。

そんな我儘が現実になることはないだろう、そう思いつつもガロアは遠慮がちに読んでいる本を指さした。

 

もしも自分がこんな生き方じゃなかったら、と時々考えていた生活は今の生活からあまりにもかけ離れたものだった。

 

紙に書いたり、ケータイに打ち込むことも出来た。

でも、そうやってはっきりと言葉にするのは憚られるかのようにただ、指で指し示すだけだった。

 

「数学を学びたいのか…。勉強がしたいんだな。なら…大学に行くのが一番手っ取り早いのかな」

果たしてセレンはその意図を正確に読み取った。

言葉は無くとも、二人の心に通じ合う何かは確かにある。

だが。

大学と呼ばれるものはクレイドルにあるものと、企業の管轄下に置かれた物のみ。

通えるのも極めて裕福な家の者のみであり、今現在リンクスであり、根なし草のガロアがそれを成せるのはそれこそ夢のような話だろう。

数学者であったというガロアの育て親の事をほんの少し想像する。

人物像など知らないし、ガロアも語らない。

しかし、まだ小さく頭脳も発展途上の子供であったガロアに難解な数学を伝え、ガロアは真っ直ぐにその父を慕っている。

それしか伝えられる物が無かったのだと想像するにきっと不器用な人物であったのだろう。

しかし、同時にそこには真心があったに違いない。

これほどまでにガロアは父がくれたものを大切にしているのだから。

そして言葉を続ける。

 

「私は…スイーツ専門店でも開いてみたりしたいな。甘いものが好きだからってのは短絡的すぎるか」

 

「……」

 

「そ、そんな顔するなよ。戦いが終わったら暇なんだ。パティシエとしての技術を学ぶ時間も十分にあるさ」

この前あんなことになったばかりなのに?

と顔に書いてあるガロアにセレンは唇を尖らせて言い(?)返す。

セレンは気が付いていない。

オペレーターになる前、自分が何者で何になりたいのかも分からない時期があったということを。

その時からその選択肢はあったはずだ。なのに思いつかなかった。

ガロアがいなかったのならば、セレンは未だに自分が何者であるかのよすがすら得られず自問自答の迷宮で膝を抱えていただろう。

今、彼女はそんなありふれた願いをさらりと口にし、そしてそんな未来には当たり前のようにガロアがいる。

 

少なからず、彼女は救われていた。

 

 

 

「…でな!金はあるから、売れなくてもいい。その代り好きな物に好きな値段をかけたいんだ!それでな…」

ついつい盛り上がった未来への希望を楽しそうに語るセレンの表情はもう20歳だというのになお子供のようなそれであり、

ガロアも優しい表情で本を閉じ、話を聞き、頷く。

 

この時がずっと続けばいいのに。

2人で始めた生活でそう思える平和で少年期に大切な時間は何度かあった。

 

でも、いつだってその瞬間は終わりを迎え現実に戻らなければならない時が来る。

 

メールの着信音が聞こえる。

セレンが言葉を切り、一度固く目と口を閉じた後パソコンに向かう。

 

「不明ネクストがキタサキジャンクションを占拠しているらしい…緊急依頼だ。出撃しなければならない…。病み上がりなのに、か」

断ることは出来ず、絶つこともない現実。

戦いは未だ続いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、折角バーで一杯やろうって時に…」

輸送ヘリの中、隣のマイブリスから通信が入る。

 

「お互い大変だよな。よくよく考えてみりゃ、何か起こすのはいつもあちらさんで、俺たちは後手に回るしかねえ…敵がこっちの都合を考えるはずないもんな…」

 

「……」

ガロアもガロアで、先ほどまでのセレンとの会話を心地よく感じており、

そんな平和な会話が永遠とは言わずとも、分針が一回りするくらいには続けばいいと思っていた。

楽しい時間を邪魔された怒り、つまりガロアは初めて私憤で任務に赴き敵を叩こうとしていた。

 

「へぇ」

ロイはその沈黙から何かを感じ取る。

元々顔の作りが整っているロイではあるがそれだけでモテてきたのではない。

細かな気遣い、表情から察する相手の気持ち、対人間力においてロイは非常に恵まれた才覚を持つ。

その経験と勘から出撃前に見たガロアの表情を見て察した。

 

あれは女といい感じになっているときに邪魔された時の男の顔だ。

戦闘以外ではとんとお子様だと思っていたが、あいつもあれで結構やるもんだ。

 

 

 

 

『…なんだ?ジャミングか?』

 

「?」

セレンからざらついた通信が入り、画面を確認すると作戦領域内に妨害電波が確認されていることが見て取れる。

 

『気…つけ…予想…敵…』

ザザーッと音が絶える。

今この戦場では自分とマイブリス以外に味方はいない。

運搬ヘリは運搬ヘリであり、しかも自動航行なので戦力としては数えられない。

 

「……」

 

「こっちも確認した。…ちくしょう、ネクスト持ってる時点でまさかとは思ったが、ただのテロリストじゃねえ」

通常のテロリストは広範囲にわたるジャミング装置などまず持っていない。

ジャミング装置を用いて市街地を襲撃、などよりも威力のある兵器を以て電撃戦で制圧するのがコストもかからず手っ取り早いからだ。

さらに言えばネクストを所持していること自体がまずあり得ない。

 

「気ぃつけろよ」

 

 

 

 

「き、来やがった…」

運搬ヘリのハッチが開き、二機のネクストが投下される。

 

「やっぱり関わるべきじゃなかったんだ…」

事の起こりは今から二時間前に遡る。

 

ここ二週間にわたり情報を流し続けたパッチにとうとう待ち焦がれたその言葉が来る。

『これにて任務終了です。お金を振り込むわけにも行きませんのでこちらにネクストで来てください。

キタサキジャンクションを制圧している小規模ノーマル部隊の撃破、という依頼が出されているはずですから』

 

『あ、ああ。確かに。わかった。向かうよ』

金がもらえるとなればその足取りも軽い。

意気揚々と準備をして現場へ向かうパッチだったが、その日が報告していた『ガロアが暇で他のリンクスもほとんどいない日』であることに気が付くべきだった。

 

『…確認してください』

 

『な、70万コーム。確かに受け取ったぜ。じゃあ俺はこれで…』

 

『待て』

 

『ブ、ブッパ・ズ・ガン!まだなんか用があるのか』

この謎のテロリスト、二人とも苦手であるが特にこの四脚のネクストを駆るこちらの男は抑揚のない喋り方と言い、

人生が暴力そのものであるような経歴と言い好きにはなれなかった。

まだPQの方はまともな戦士として戦っていた経歴がある分マシだが正直目くそ鼻くそである。

2人の経歴を調べて関わらなきゃよかった、と後悔した数は10回では済まない。

 

『暴れているテロリストがいませんでした、キタサキジャンクションも無事でした、じゃすまないでしょう』

 

『一緒に破壊工作をするんだ』

 

『ふ、ふざけんな!映像が記録されるんだ、カラードに戻ったら一発でばれるぞ!』

 

『私があなたが来る前にここで飛び回った映像と差し替えます』

 

『金を受け取ったんだ、やるか死ぬか選べ』

 

『わ、わかったよ…』

こうしてパッチは人生で最悪の選択をしてしまったのだ。

 

 

 

 

「分かっている。やることはやるさ。約束は守れよ、ブッパ・ズ・ガン。面倒はごめんだ 」

約束、それはこの辺り全体にジャミングをかけリコンとネクストからの映像と音声を受け取れないようにすること、

ミッション成功後の辻褄を合わせて無事に帰れるようにすることである。

つまりここであの二機のネクストをやれば何事もなく帰れるのだ。

 

『……』

ブッパは押し黙りパッチのノーカウントに銃口を向ける。

もちろんそんな約束を守るつもりは、無い。

ジャミングに関しては自分たちの為にしているが。

 

「あ、あいつは!」

片方はガロア・A・ヴェデット。

それは予想してた。そいつと当たるのは仕方がないとして、もう一機。

ロイ・ザーランド。

独立傭兵の中で最強に位置する伊達男。

普段なら全力で当たらないようにする相手。最悪だ。

100万コームでこいつらと当たるなんて割に合わない。

 

「ふ、ふっ、ふぅ~。あああああああああ!!」

だが後ろではブッパが自分に銃口を向けている。

最早、前に行くしかない。

パッチは覚悟を決めて飛んだ。

 

 

 

 

 

「マイブリス、行けるぜ。あんまり気は進まねえがな」

その通信と同時に敵の逆関節ネクストが飛びたつ。

 

『ああああああ!!』

 

「なんだあいつ…カラードのパッチ、だっけか?何やってんだあのタコ」

ロックオン可能距離に入り、その機体の上に名前とエンブレムが表示される。

 

「馬鹿だなあいつ…なんで突っ込んで…!!!?」

その時ロイは緑の閃光を放ちながら迫る機体に気が付き、そのエンブレムを見て目を見開く。

敵機ゆえ、パイロット名は表示されないがそのエンブレムこそ、ロイがカラードにいる理由そのものだった。

例え愛しのウィンディーのエンブレムを忘れることがあってもこのエンブレムだけは忘れることは無いだろう。

回線を開きあらん限りの憎しみを込めて叫ぶ。

 

「ブッパ・ズ・ガン!!会いたかったぜ!!」

 

 

 

「……!?」

少なくともガロアの目ではロイはマイペースな男ぐらいにしか映っていなかった。

ここまで怒りを露わにして叫ぶことなど想像もしていなかった。

 

『お前はあの雑魚をやれ!!あの四脚は、俺が殺ッッす!!』

怒気を隠そうともせず飛び出すマイブリスに敵の四脚も反応し飛び出す。

 

 

 

 

『…なぜ俺の名を知っている』

ブッパもブッパで気にはなったようでプライベート回線で声をかけてくる。

 

「心当たりはねえか」

 

『あり過ぎてわからん』

 

「…クズが!!知る必要はねえ」

 

『ああ、無いな』

 

「お前はここで死ぬからな!」

 

『お前はここで死ぬのだからな』

 

 

 

「ヒッ、ヒイイイイイ!」

迫りくる黒い機体から全力で遠ざかりピスピスとライフルで攻撃をする…が一発も当たらない。

苦し紛れにECMを散布するがそもそも視認されていては意味がない。

今のところ戦闘スタイルの違いで無傷だがそれもいつまでもつか。

本来ならガロアの戦闘スタイルと自分のそれなら自分は圧倒的に有利なはずだが、実力の差がそれを完全に埋めていた。

 

「ぎゃあ!」

ズバン、と一閃右腕が切り取られバランスがおかしくなる。

 

「支援、足りないぞ!約束が違うじゃないか! 」

喚き散らしながらもなんとか所定の位置につく。

ブッパはロイにくぎ付けなのが良いのかどうかは微妙なところだが、二人の世界にいるのならそれでよい。

数的有利はこちらにある。

 

 

 

 

「……!」

今まで全力で後退していた逆関節ネクストがその場でふらふらと浮かんでいることに違和感を感じ、

とっさにその場の空中で仰向けになり、本来後ろに下がるためのクイックブーストを着火しガロアは急激に高度を下げた。

 

 

 

「な、なんで避けられるんだ!死角だったろ!?PQ、もっと撃てよぉ!」

 

『黙ってください、殺しますよ』

 

「ひぃ!」

その言葉と共にPQのネクスト鎧モグラが地面から姿を現す。

鎧モグラだけの特殊な能力。

それは地面を航行出来ることにあった。

レーダーにもかからず奇襲も容易であり、何より遁走もしやすい。

この能力を活かして今までも戦場で活躍してきたのだ。

だが、酸素の都合上あまり長くは潜っていられないし、

ばれたら対応策はそれなりにある。

パッチが叫んだせいでその存在は完全にばれ、その姿を現さずを得なくなる。

アレフ・ゼロに積んであるロケットで爆撃をされれば甚大な被害は免れないからだ。

 

 

 

 

「ミサイル・カーニバルです。派手にいきましょう。巻き込まれないでくださいね、ブッパ・ズ・ガン 」

その言葉と同時に全砲門を開放して目に見えるネクスト全てにミサイルをばらまく。

ブッパなら躱せるだろう。パッチはどうでもいい。

その通信を受けブッパは難なく躱したが、マイブリスには何発か当たる。

 

『余計な横やり入れんじゃねえ!!』

通信と共にレーザーライフルが飛んでくるがそんな感情見え見えの攻撃が当たるわけない。

 

「っ!!」

はい、回避。

と思った瞬間後ろからグレネードが飛んでくる。

先ほどのミサイルを全てかわし同時にグレネードまで発射するとは流石だ。

 

「アッハハァ!一緒に死ぬまで殺し合いましょう!!」

 

『ヒィイイ!』

約一名、場に合わぬ悲鳴を垂れ流しているものがいるが、とにかく混沌とした戦場が幕を開けた。

 

 

 

 

 

(クソッ…厄介だ…相性が悪い!)

 

『俺を殺すんじゃなかったのか』

 

「うるせぇ!」

怒喝を発しながらも幾分か冷静になった頭で考える。

相手は四脚、ならば空中から攻めるのが定石だが、手にハンドミサイルを装備し浮かんでいる相手を叩き落とさんとしてくる上、自分の機体は空中戦向きではない。

しかし地上戦を挑めばその機動性でかく乱されれば最後、最悪の兵器コジマキャノンの餌食だ。

自分の重量機では実に相性が悪い。

ガロアならばマシンガンでコジマキャノンのチャージを阻止できる上ミサイルも撃ち落とせるため相性が良かった。

普段ならば仲間に通信を入れ相手を入れ替えるところだが。

 

(こいつだけは、俺の手で!!)

敵のコジマキャノンのチャージはもう終わっている。

隙を見せた瞬間に発射されるだろう。

苦し紛れにガトリングを撃つが集弾性の悪さが災いしかすりもしない。

だが、ロイは焦らずに作戦を考え一つ一つを評価し、そしてその中の一つを実行に移した。

 

「でああああああああ!!」

元来、自分は戦闘中に叫んだり熱くなったりする方ではない。

だが、心の中にふつふつと湧き上がる何かを抑え切れず、ロイは叫んだ。

 

愚行としか言いようのない真っ直ぐな突進。

ブッパは鼻で笑いコジマキャノンを発射した。

 

直撃だった。

だがそれは突き出された左腕とガトリングを溶かすだけに終わり、

PAも削れ、バランスも崩れ、ロイは激痛に気を失いそうになりながらもブッパのPAを突き破りマイブリスのハイレーザーライフルを寸分違わずコックピットに向けた。

 

『しまっ』

後悔の言葉すらも吐き出せずブッパの身体は塵も残さず消し飛び、パイロットの死亡を確認したブッパのネクストのコンピューターは速やかに自爆を実行した。

 

「うおおおお!!」

小規模ではあるものの正真正銘のコジマ爆発に巻き込まれマイブリスも吹き飛ぶ。

だが、生き残った。

全身が痛いし、もしかしたら今の爆発で冗談抜きに寿命が縮んだかもしれない。

それでもまだ生きている。

一瞬のミスが命取り。命は線香花火よりも脆く落ちていく。

これこそが戦場のあるべき姿だった。

 

「やった…」

ギギギ、と音を立てながら首を曲げもう一方の戦場も見る。

どうやらあちらの決着ももうすぐのようだ。

 

 

 

 

「くっ…死にましたか、ブッパ・ズ・ガン」

敵は自分が奇襲型であることを見抜いて真っ直ぐに攻撃を仕掛けてくる。

元来自分は仲間の攻撃に紛れて致命の一撃を食らわせるスタイルなのだが、

その仲間はスナイパーライフルで当たりもしない攻撃を安全な距離からパスパス撃っているだけでかく乱にもなっていない。

ブッパとのコンビならお互い、どちらが目を向けられてももう片方が一撃で相手を殺せる手段を持っていたというのに。

主兵力のコジマミサイルの砲身は叩き斬られ、他のミサイルの弾切れも近い。

いや、本当なら砲身が斬られたときにコアが切り裂かれているはずだった。

間違いない。

こいつは自分を生かしたまま連れ帰るつもりだ。

 

「まだまだです。おちませんよ、私の鎧土竜は」

味方の死に混乱していないという意志を発する。

していないはずがないと言うのに。

 

『……』

だが敵のリンクスであるガロアは何も反応せずひたすら苛烈な攻撃を繰り返してくる。

喋れないという情報は正しく、その姿はいっそ不気味だ。

 

(もう、ダメですねこれは)

非情なまでに正確なマシンガンの波状攻撃にPAは先ほどからずっとレッドライン、

辛うじて直撃は避けているが、グレネードとロケットの爆風が機体の少しずつ限界へと近づけていく。

 

「まだまだ、まだまだで…!」

 

 

 

「……?」

最後のミサイルを地面に発射した鎧モグラは砂煙に紛れて消えた。

逃げたのだ。パッチを置き去りにして。

 

『え…?』

 

「……」

 

『え?え?』

パッチが現状を完全に把握する前にアレフ・ゼロが近づき右腕も叩き斬る。

 

『待っ…』

 

「……」

ガロアの怒りは収まらない。

半ダルマと化した逆関節の腰を、武器を投げ捨てがっしりとホールドし、限界高度まで引っ張り上げそのまま自由落下する。

 

『あ、あ、マズイ、頼むああああ』

ブースターを滅茶苦茶に吹かすが倒立したまま高度を上げられるネクストはいくらなんでも存在しない。

ガロアは右側のサイドブースターのみを着火し落下に回転力をつける。

 

『やめああああああああああああ!!』

二つの機体は錐もみ回転をしながら熱砂へと落下していった。

 

 

 

「げええええええ、ゲホッ、ガハッ」

目が回る。ひどい頭痛に加えて、数時間座った後に立ったみたいに酷く視界がもうろうとする。

止めどない吐き気が身体中を巡り吐しゃ物となって鼻と口から出てくる。

 

足が上に浮かんでいた。

いや、違う。これは上下が逆になっているんだ。

収まらぬ吐き気を我慢しながら目を開くと、変わらずそこは真っ暗だった。

カメラが…いや、頭部が抗え切れない衝撃によって叩き潰されたのだった。

ついていない。

 

 

 

 

「死んだんじゃねーのか」

辛うじて立ち上がりながら面白い格好で地面に埋まるノーカウントを見てロイは呟く。

 

「ありゃ相当頭に来てるな」

しかしガロアはまだ許していないようでその脚を掴んで引っ張り上げて地面に投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 

頭部が中華料理の皿よりも平べったく潰れているのを見て確認し、ブレードを振り降ろし、薄皮…いや装甲一枚を絶妙な加減で斬ると、中からパッチの姿が現れた。

投降しろ等と口に出せずとも、目の前に突き付けられた蒼閃の刃はパッチの恐怖を極限まで煽り、

耐えきれなくなったパッチは吐瀉物と涙と鼻水と汗にまみれた顔を梅干しを食べた老人の唇よりも歪めながら小便を漏らした。

それでもまだ生きているのは豪運の賜物か。

 

『……』

あの振り上げられたブレードは脚を斬ろうとしている。俺を逃がさないつもりだ。

過呼吸気味の息を吸い込み生き残るための言葉を口にする。

 

「待ってくれ!降参だ!俺は指示された通りやっただけだ…あいつらがいなけりゃ、戦う意味もない」

アレフ・ゼロの腕が止まる。

さらに言葉を続ける。

 

「利用されてただけであっちの事なんかなにも知らねえ!本当だ!殺さないでくれ!それに、あんた達はまだ生きてる。

ノーカウントだ、ノーカウント!な、分かるだろ?同じリンクスじゃないか、数少ないリンクスが殺し合うなんて馬鹿げてるだろ?」

 

 

 

『な?なんだ?何が起きている?』

あのミサイル男が消えてジャミングが解消されたのか、セレンからの通信が入るがまるで状況が理解できていない様子。

 

「…??」

自分だってそうだ。

自分は死ぬつもりも無く、ただなんとなく敵対していただけと言いたいのか?

それだけで戦っていたのか?生き残っているからノーカン??

意味が分からない。

 

『…すげえな、こいつ…大物だ、感動した… 』

後ろでは立ち上がったロイがあきれ果てた声でそんな感想を口にする。

銃口は既に下げており、戦闘の意志は見られない。

 

「……」

なんだか、さっきまで自分を包んでいた怒りがどこかへ霧散してしまったようだ。

さっさとセレンの元に帰りたい。それでいいような気がする。

今ここでこいつを殺すよりは泳がせた方が価値があるのかも?

等と自問自答していると、影も残さんばかりのスピードでノーカウントは飛び去っていく。

そのスピードを何故戦闘に活かさないのだ。

 

『お、俺は帰る!すまねえな!』

勝手にお礼を言われたがどうも釈然としないでいると、セレンから通信が入る。

 

『カラードの裏切り者がいたのか。しかし、帰るってどこに帰るんだ?

企業管轄下には帰れない。本物の阿呆だな。とりあえず、ミッション終了だ。帰って来い』

 

「……」

一機は自爆、二機を取り逃がしたとなると成功とはいえないが、

兎に角危険極まりないテロリストを退けたのは事実。

やりきれない気持ちを整理して、ガタが来ているマイブリスに手を貸そうとすると通信が返る。

 

『あー、先に帰っていてくれ。俺は、寄るところがあるからよ』

 

「……」

こんなガタガタの機体でどこに行くというのか、修理して報告し、金を受け取ってからの方がいいのでは、

といろいろと思うところはあったがマイブリスもぷすんぷすんと大ダメージブーストを吹かし離脱してしまう。

ぽつんと戦場に残されたガロアはお前もさっさと帰って来い、というセレンの声が聞こえるまでぼんやりとしていた。

 




本当はもう、セレンにとってネクストだとかリンクスだとかどうでもいいことなのです。
ですがそれが無ければガロアと一緒にいる理由がないと分かっているセレンは何も言えません


セレンはガロアを本当は優しい人間だと思っています
しかし、作中では破壊的な性格をした人間だと表現されています

セレンが勘違いしているのか、それともセレンだけがガロアの本質を見抜いているのか。どちらなのでしょうか。
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