Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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ロイ・ザーランド

「オーライ!オーライ!」

夕焼けに染まる赤い砂漠で、巨大な火を囲むようにして幾つものトレーラー、テント、ノーマルがあり、

人々は空から来た巨人から吹く風にテントが引き飛ばされないように押えながら巨人が着陸する場所を確保する。

 

がしゃん、と大仰な音を立てて巨人の胸部が開き中から男が出てくる。

 

「よう、お前ら!帰ったぞ!」

中から現れた人物を確認するとテントやトレーラーから老若男女70人ほどがぞろぞろと出てきて、めいめいに声をかける。

 

「お、お、お帰り!ロイ!」

 

「兄貴!今から飯だ!食ってくんだろ!」

 

「なんだこりゃ!マイブリスがボロボロじゃねえか!」

 

「おいちゃんだーれ?」

 

 

「おう、食ってく食ってく。酒はあるんだろうな!」

慣れた様子で5m以上の高さから飛び降りて着地する。

 

「よう、兄貴。一年ぶりじゃないか」

飛び降りたロイに身長2mはあろうかという髭面のむくつけき男が声をかけてくる。

傍から見れば兄貴と呼ぶべき人物と呼ばれるべき人物が逆に見えるだろう。

 

「ウェイド、なんか変わり無かったか?」

自分の為に誂えられたのだろう、巨大なキャンプファイアーの前にたった今置かれた椅子に向かって歩きながら尋ねる。

 

「そうだな…兄貴がいない間に子供が六人生まれたよ。で、二人死んだ。エリーとハリムだ」

 

「!…ハリムの野郎も死んだのか。残念だ」

幼いころからの友人の一人である者の死を聞き無念に顔を歪める。

 

「後で墓参りしてやってくれ…といっても、骨壺があるだけだがな」

 

「そのことだ。明日、俺とお前、マイキーとショーンを連れて故郷に行くぞ。本当なら…ハリムも連れていきたかったがな。灰を撒いてやろう」

 

「なんで突然?」

髭面の無骨な男に似合わぬおろおろとした表情で尋ねる。

ロイを含むその五人にとって、故郷とは帰るべき場所でもあるが同時に絶望の街でもある。

そこに五人、いや四人で向かうのは何か意味があるはずだ。

 

「…後で話してやる。酒だ。あと飯」

どさりと椅子に座り背筋を伸ばし、そう言うとウェイドはすたこらさっさと走って取りに行く。

ロイとウェイドと呼ばれた男のこの力関係は何年たっても変わらないものだった。

 

「ロイ、見てやってくれ。これがうちの娘と息子だ。娘はあんたがこの前来た時は幼かったし、息子は見ていなかったろ?」

パイロットスーツのチャックを緩め持ってきてもらった酒を呷っていると、病的に細い男が女の子と赤ん坊を抱え、ぎょろつく目を細めながらロイを見ている。

これでも笑いかけているつもりらしい。

だが、こんなナリでもこの男は昔よりは大分太った方なのだ。

 

「おいちゃんだーれ?」

女の子の方は父親の細い脚に隠れながらロイに聞いてくる。

 

「おいちゃん?俺かぁ?はっはっ。うん、そう俺はただのおじちゃんさ。…お前に似なくてよかったじゃないの。この子は別嬪になるぜ」

膝をつき、女の子の頭をなでながら痩せ男にぶっきらぼうに言葉を投げる。

 

「そうだろうとも!息子もあんたみたいないい男になるといいと思ってな…ロイってんだ」

 

「ほー」

周りは火で明るく、そこらで男も女も騒いで歌っているが、そんなことも気にせずに赤ん坊はぐっすり寝ている。

ロイが指で額に触れると鬱陶しそうに手で払いのけた。

 

「図太いねこりゃ。俺みたいな女たらしになるなよ」

ロイがそれを見て痩せ男と共にへっへっへ、と顔に似合っていない笑いを漏らしていると

ブルカと呼ばれる、イスラム圏で女性が顔を隠すために使われる布を被った女性が近づいてくる。

 

「ロイ!」

 

「おお?どうしたんだミゼル、またそのけったいな布つけてよ。もういらねえだろ?」

訳知り顔でミゼルと呼ばれた女性を痩せ男はからかう。

 

「タイミングってものがあるだろう、この!」

 

「おお、怖い怖い!」

えんやこらと2人の子供を抱えながらどこかへ行く痩せ男。

からかいつつも何か気を利かせてくれたようだ。

 

「その、ロイ…見てくれ」

するり、と慣れた様子でブルカを外す。

褐色の肌に艶やかな黒髪、少し高めの鼻に薄い唇、色の香る目、

街を歩けばだれもが振り向くような美人がそこにはいた。

 

「…!すっかりよくなったな!いや、もう完治って言っていいんじゃねぇか、これは」

 

「治療のお蔭もあるんだけど、つい二か月ほど前に旅医者が立ち寄ったの」

 

「…旅医者?」

聞きなれない単語に反応しながらあくまで自然にその艶やかな黒髪を撫で付ける。

ワザとでもなんでもなくロイは本当に自然にそのような行為をしている。

 

「ええ。世界中を歩き回ってる、とか言ってたわ。びっこ引きながら歩いていたから多分脚が悪いんだと思うんだけど…変わった人もいるのね。日焼けしてたから絶対とは言えないけど…イエローじゃないかしら」

髪をなでるロイの手に自分の手を重ねながら美女は言う。

 

「そいつがどうかしたのかい」

 

「私の顔…本当は完全には治りきらなかったの。痕が少し残ってしまって…でもその医者が整形してくれたの。整形と言っても元々の顔の写真と同じにしてもらっただけよ。

本当に、感謝してもしきれない。ロイとあの医者…ミドには」

 

(…ミド?…?どっかで聞いた名前だ)

ミド、という名前に本当に少しだけ聞き覚えがあった気がするが後ろのたき火がパチリと弾けると同時に記憶の手綱が手放されてしまう。

 

「……」

 

「……」

何かを言ってもらいたそうな顔をしている。

ロイはその言葉を知っている。

自分にそのような目を向ける女性の思いも。

しかしロイは言わない。言えば喜ぶその言葉は、もっと良いタイミングがあるのだと知っているから。

 

「…私さ、…、美人だろ?いや、ごめん。ロイに綺麗だって言ってほしかったんだ」

少し俯くと火に照らされた顔のパーツが完璧な影を作る。

間違いなく、美人だ。

 

「おいおい、言ってほしかっただって?馬鹿言うな」

 

「…?」

おちょくるように両肩をすくめるロイ。

その言葉がロイ以外の人物から発された物でなければ彼女は深く、普通の女性がその言葉を受けるよりもずっと深く傷ついていただろう。

だがロイが人をいたずらに傷をつけるような人物でないことを知る彼女はただ疑問を顔に浮かべる。

 

「最初に会った時に言っただろう?」

 

「……!」

 

彼女、ミゼル・ラバーナムとロイの出会いは一年前のことである。

 

 

この砂漠でロイが率いる、約70人のメンバーからなる元盗賊団「ファミリー」は国家解体戦争の後まもなくしてできたならず者の集団だった。

企業が支配するコロニーはデストピアと言って差し支えの無い物であったが、それでもその中で暮らせるものはマシで、

もともと貧民街に暮らす者たちや社会的に弱い立場にあった者たちは「公共の福祉」「最大多数の幸福」といった国の持つ一応の建前である枷を失った新たな支配者たる企業により完全に排斥された。

ある者は行き倒れ、ある者は殺され、ある者は攫われ非道な人体実験の道具にされる。

利益の元に倫理を踏みつぶす支配者の元では弱い者達が生き残るためには少なからず犯罪に手を染めざるを得なかった。

 

50歳にもなるベテランのレイヴン、ロベルト・セブンスフォルドは実直な武人であり、国家が解体される直前まで国の為故郷の為に企業と戦い、

そして生き延びはしたものの戦争は国家の敗北という予想もしない形で終わった。

頭が潰されれば残った者はただの逆賊である。

皮肉にもロベルトは腕の立つレイヴンであり、企業側の戦力も命もそれなりに奪った過去があったためその腕があっても企業の元で働けなかった。

と、言ってもロベルトに企業の元で働くつもりなど無かったが。

 

その彼が追い出され、今日の口を糊するのにも苦労しているような者10名前後を集めて作り上げたのがこの組織、「ファミリー」であった。

盗賊と言っても弱い者から奪うのではなく、あくまでも企業のごく小さな工場や、企業からコロニーへの配給トラックを襲って物資を奪っていた。

ノーマルに乗って企業に仇成す彼は十分に目立つ存在であったのであろうが、

幸いにもそれと時期を同じくして自分達が活動している地域でネクストをも用いて派手に活動する「マグリブ解放戦線」という名の反政府組織があったので彼が槍玉にあげられることは無かった。

 

メンバーは徐々に増えていき、ロイを含む五人の少年がファミリーに入ってきたのは十五年前。

そしていつからか「ファミリー」は盗賊団というよりは街や村単位から依頼される仕事を請け負う傭兵集団としての色合いが強まっていったが、転機を迎えたのは三年前。

リンクス、そして「ファミリー」のリーダーとなっていたロイはリンクスとして稼いだ金でカラードで物資を買い、

それを「ファミリー」に持ち込み、村々を渡り物々交換でもなんでもいいから商売をしろ、と指示をしてからである。

 

厳格な意味での資本主義が支配するこの世界では多量の物資の流れはやはり力となり、その地域と「ファミリー」に小さくは無い富と活気をもたらした。

そして今、「ファミリー」は完全に盗賊行為をやめ、物資を運ぶ隊商かつ傭兵を抱える集団となっていた。

始まりは一人の老兵が身を守るために立ち上げた組織は大きくなり、いつしかそれは子供も大人も老人もいる一つの大きな家族となっていた。

これこそがロイが守りたいものであり、ロイの世界であった。

 

一年前、カラードから「ファミリー」の元へ戻ったロイは指示を出しつつたどり着いた街で何をするでもなくぶらぶらと歩いていた。

 

「暑いな…酒でも飲みてぇが、商品からくすねたらロベルトがうるせぇからな…」

元々自分が稼いだ金で仕入れた商品に手をつけて何が悪いんでぃ、と心の中で悪態をつきながらも、

街の景色を楽しむように歩いていく。二、三回ほど来たことがあるこの街、久方ぶりに来てみれば随分と活気がある街となっていた。

その大きな理由の一つが物の流れ、つまりロイが始めることとなった街から街へと渡り歩き必要なものを買い売りする商売にあるのだが、

そんな難しいことは特に考えずただ街の活気を楽しむ。

 

「お、ちゃんと冷えた酒売ってんだろうな」

随分とボロい看板だがどうやら商店らしい名前が書いてある店に入る。

店の中はむわりと暑く、日に照らされた外の方がマシなレベルだが幸いにも飲み物は冷えて陳列されている。

 

さて、どれにしようかと悩んでいると入り口から顔を隠した怪しげな人物が小走りで商品をとり会計に持っていく。

 

「……」

 

「お、お前、また来たのか!!もういい、金はそこに置け、俺には触るなよ!?さっさと出て行ってくれ!!」

こんなに暑い店の中でよくまあ絞りかすにならないもんだという感想を先ほど抱いた小太りの店主が怪しげな客に向かって吐き捨てる。

顔を隠した人物はさっと商品をとって店から出て行ってしまった。

入店から一分も経っていないだろう。

 

(…ん…?)

すれ違いざまに鼻に香ったあの芳香。

あの肌の匂い方は女だ。それも飛び切り美人の。

 

「オヤジ、あの女はなんだい?」

酒と気持ち多めの料金を置いてロイは尋ねる。

 

「ああ?ありゃこの街の厄介もんだよ。元は結構な美人だったんだが、何かの病気なのか、憑りつかれたのか知らねえが、

顔がぶくぶくと腫れて化け物みてえな顔になっちまったんだ。親もあいつのことを家から追っ払って今は街のはずれに住んでるよ。

うつされちゃたまんねから本当は店に来てほしくねえし、出来れば街から消えてほしいんだがな」

料金をそそくさとしまった店主は口早に答える。

 

「うつるのか?」

 

「知らねえよ、そんなこたぁ。さぁ、ただでさえ暑いんだからもう何も買わねえならさっさと出てってくんな!」

 

「ふーん…あっそ」

店の外に出て酒を呷りながらロイはまた街をぶらりと歩く。

ここ5日ほどこの街であてどなくぶらついているがあの店主が言うように顔が醜く腫れた人物などとはすれ違った記憶がない。

それに見た限りでは走るぐらいの元気はあるようだったし体型も痩せてたり、また不自然に太っているようには見えなかった。

 

「感染力が強いわけでも体に致命的な被害を与えるわけでもない、のか?遺伝かな。いや、でも親に追い出されたって言ってたしな」

ロイは学は無いが頭が悪いわけではない。

人よりも優れた目と頭を持つ者特有の好奇心が首をもたげる。

 

「……次、出会ったら決めるか」

愚昧な者は未知の物に恐れを抱き排除する。

明哲な者はその本質を知ろうとしその上で判断する。

酒を飲み切ったロイは連れ込み宿に一人で入りその夜を過ごすことに決めた。

 

砂漠に吹く風からは戦の匂いがする。

この匂いは嫌いじゃねえ。

でも、俺はやっぱり女の匂いのほうが好きだな。

ひょうひょうと一人酒を空け意味があるのだか無いのだか理解しがたいことを繰り返し考えながらむにゃむにゃと眠りについた。

 

 

 

 

 

「いた」

砂漠の風を肩で切り歩くロイはその女を見つけた。

日陰を人に慣れない小動物のように小走りで歩くその女の前でロイは跪き大げさなセリフを吐く。

 

「見目麗しいお嬢さん。どうか全てを捨ててこの俺についてきてくれないか」

普通の男が言えば失笑もののセリフだがロイがその言葉を言えばどんな女性もドキリとする。

例えその言葉が今日限りの気の迷いであることが察せても。

しかし。

 

「…消えて。私に関わらないで」

その女はその言葉を吐き捨てると同時に走り去ろうとする。

 

「……」

ロイは確信した。

この女は絶望している。この街に。この世界に。あるいは、自分に。

希望なんか降ってこないのだ、と。人と関わることをやめた人間に希望などあるものか。人間ならば。

 

そして決めたのだった。

 

「だが断る。こんなご時世に女が独り歩きなんざ攫ってくれと言っているようなもんだぜ!」

すぐに追いつくとロイはその女を木材でも抱えるように肩に乗せ街を走る。

その光景を見た街の者は何人もいたが誰一人として止めようとはしなかった。

 

 

 

 

「……スン」

水場のそばに建てたテントの中で酒をちびちびと飲みながらロベルトは鼻を鳴らす。

既に60を超えて「ファミリー」をロイに任せたからか…いやそれだけでは説明が付かない程度には最近身体が悪い。

だが、このまま沢山の自分の家族に囲まれて死ぬのは悪くない。

天涯孤独でしかも企業に追われるような存在だった自分にその結末は悪くない…どころか望外の幸せと言ってもいい。

近頃のロベルトはそんな同じ答えを…しかし自分にとっては宝のような現実を繰り返しなぞっては酒を飲み満足げに息を漏らす毎日だった。

 

「…ああん?」

気が付くとテントの入り口にロイが立っていた。

 

「よう、ロベルト」

 

「降ろして!離して!人さらい!!」

年老いたとはいえ元腕利きのレイヴンの自分が入り口に人が立っても(しかもこんな騒がしい荷物まで持っているのに)気が付かないとはつくづく衰えたものだ。

 

「…うちはとうとう人さらいに手を出すようになったのか?あんまりいただけねえよなぁそりゃあ」

 

「…どう思う」

どさりと女を降ろし、入り口を閉じながらロイはその女の顔に雑に巻いてあった布をとる。

 

「やめて!何するの!」

女は叫ぶがロイはお構いなしだ。

 

「……街の者はなんて言っていた」

 

「なんかに憑りつかれたとか。でもよ、馬鹿でかい飛行機が何千万人も乗せて飛び回る時代にそんな怪奇譚はちょっとな」

 

「……え」

女はロイは腕を組み言ったその言葉に呆然とする。

何となくだが、今まで自分にぶつけられた否定的な言葉とは毛色が違う。

 

「…全くだ。コジマだのネクストだの…けったいな…こんなに技術が進んだってのにまさか人の考えが時代を逆行するとはな」

 

「わかるのか、ロベルト」

ロイには学は無いが頭はある。

最近は半ば置物と化しているロベルトだが、沢山の経験を積み重ねと年を取った彼ならばもしかして知るところがあるのではないかと当たりをつけていたのだ。

 

「こいつはらい病だ。恐らくな。ずっと昔、こいつはハンセン病と呼ばれてこの病気に罹った奴はその恐ろしげな見た目から迫害を受けていたんだ」

 

「……」

 

「ほら、私は病気なのよ!もういいから放っておいて!!うつったら…」

 

「こいつの感染能力はかなり低い。というよりも体質によって感染が決まると言っていいし、ほとんどの人間は罹るようにはなってねえ」

 

「…治療法は?」

 

「……え?…え??」

 

「ある。化学療法がな。見たところまだ発症して間もないしなんとでもなるだろ。まぁ、バカ高い金がふんだくられるだろうがな」

 

「…そうだ、ロベルト。俺はあんたにずっと文句が言いたかったんだ」

 

「ああん?」

 

「俺が稼いだ金で買ったものを俺が使うことになんであんたはいちいち文句を言うんだぁ?おぉ?俺が金を自由に使うことをなんであんたに止められなきゃならねえ?」

 

「ねぇ…、何を話して」

 

「言うじゃねえかガキが」

 

「ガキじゃねえしファミリーのリーダーは俺だろ。オ・レ!あんたが俺をリーダーだと認めたんだ。だから金の使い道も俺が決めていい道理なんだよ」

 

「…そりゃ道理だな。ああ」

お前をリンクスに仕立て上げたのは俺だし、お前をガキから大人に育てたのも俺だ。

とは言わずに酒を飲みながら答える。ロベルトは上方に曲がろうとする唇を酒の瓶で隠した。

 

「金、使うぜ。商品も俺が自由にする」

 

「…好きにしろ」

さっさと出ていくロイを見送りロベルトはニヤリと笑う。

本当に、望外の幸せと言っていい。

転げに転げ落ちたはずの状況。ただ今を生きる為に必死だったはずが、どういう因果かこんな結果になっている。

長生きも悪くない。血混じりの痰を吐き捨てた後、またロベルトは酒をちびりちびりと飲み始めた。

 

そして彼女、ミゼル・ラバーナムは「ファミリー」の一員となった。

乱暴に顔に布を巻くのではなく、ちゃんと顔を隠す目的の元に文化的に作られた布をロイから渡され、治療を受けることになっていく。

自分の顔が何かに映るのが嫌で明かりもつけずに一人泣いた夜。

どこにぶつけていいかも分からない怒りと、何を悔やむのかもわからない後悔を抱きながら昔の写真を見て呆然とした昼。

美しく明るい容姿。

その事を誇りに思っていた彼女はその美貌を取り上げられ元々持っていたはずの自尊心に精神が耐えきれず、ただただ暗い場所で生きるしかなかった。

しかし元をたどればみんなどこか脛に傷のある「ファミリー」の元で昼は平等に仕事を与えられ、夜は一緒に食事をしていくうちに彼女は徐々に本来の性格を取り戻していった。

彼女の顔も完全とはいかないまでもあまり目立たないまでになり、その顔布を人前で取り外すことも出来るようになっていた。

 

 

 

 

 

「な?」

完璧なウインクをするロイは火に背を向けている為その顔は見えないが、簡単に想像がつく。

 

「あ、あ、…そうか…私、もっとちゃんと聞いておけばよかったな…」

 

「さーて、俺はそろそろ寝るかな」

このままいけば健康な男女2人が自然に作り出す雰囲気が出てくるということを経験から知っているロイは話を切り上げわざとらしく伸びをする。

 

「…ねぇ、ロイ。寝るなら私もテントに行っていい?」

想いひとひら、愛の告白の相似であるその言葉をロイはやんわりと受け流す。

 

「寝る前に愛しい人へのラブレターを書くつもりだからな。恥ずかしいから勘弁してくれよな」

 

「…その人と私はどっちが先に出会っていたの?」

 

「さぁ、な。おんなじくらいじゃないか」

 

「ずるいね、ロイは。どうしてあの時私を助けてくれたの?こんなことされたら誰だって…」

 

「俺は美人の味方だからさ。…おやすみ、ミゼル。ちゃんと寝ろよ」

想いを受け流し、背を向けた彼女が昔よりずっと明るくなっている。それだけでも価値はあった。

昔の自分なら抱いてくれと言われたら一も二も無くその言葉通りにしていたはずだが、今日のこの言葉に後悔はない。

その満足感と今日達成された長年の悲願を胸に抱いてロイはぐっすりと眠った。

 

 

 

 

ショーン、ウェイド、マイキー、ロイの四人は花束と、そしてロイはそれに加えハリムであったものの灰を入れた壺を抱いて五人の故郷である街であった場所へやってきた。

 

この場所が街であった、と言われれば、ああ、そうなのかもね、という答えが返ってきそうなくらいには五人の故郷は街の形を成していない。

鉄くずと薬莢、辛うじて立っているボロボロの壁。

それがこの場所の全てだ。

 

「ね、ねえ。ロイ。なんでみんなでここに来たのかな?」

マイキーがどもりながら尋ねてくる。

 

「…俺は…分かる。ロイ、やったんだろ」

昔から察しがいい方であったショーンは故郷に行くぞ、と告げたときから気が付いていたようだった。

 

「ああ。やった。ブッパ・ズ・ガンを殺した。一片の塵も残さず消し飛ばしてった。今頃地獄で裁きを受けてんだろ」

 

「ま、まじか!兄貴!」

 

「…ああ。だから、今日は故郷に報告にな」

 

 

 

今から15年前。

ロイ、ウェイド、マイキー、ショーン、そしてハリムは貧しいながらも健やかに育つ子供たちで、

ロイはその五人組の中でいい言い方をすればリーダー、ぶっちゃけた言い方をすればガキ大将だった。

 

夜遅くに子供が出歩くのを親が認めないのはいつの時代も共通したことだが、

親同士が知り合いであったこともあり、あいつの家に遊びに行くから遅くなる、

と言えば夜遅くまで遊んでいても平気だった。

 

その日も五人は集まって最近夢中になって作っていた街から外れた場所にある秘密基地にそれぞれいろんなものを持ち込んで遊んでいた。

 

「あ、あ、あれ?」

 

「お?」

ロイの見守る中でマイキーの作るトランプタワーが崩れた。

 

「兄貴、また息吹きかけたのか?」

 

「アホ野郎。地震かなんかだろ」

 

「…ロイ、なんか変だ」

ショーンが外を見ながら言う。

 

「あんだよ」

 

「もう日が沈んでるはずなのに…西が明るい」

 

「西って…」

誰かが持ち込んだコンパスを見ながらロイが言う。

 

「俺たちの家があるほうだ。みんな、よく聞いてみろ」

音割れした音楽を流していた機械のスイッチを切り、ハリムが口に人差し指を当てる。

 

…ン

…ーン

ガ…ガ…ガガガ

…ドーン

 

「は、は、花火かな」

 

「…!」

マイキーが的外れな事を言う。

少なくともロイにはそう思え、嫌な予感が言葉になる前にロイは駆け出していた。

 

「ロイ!!」

四人は駆け出すロイの背中を追いかけ、街の近くの小高い丘で止まったロイの横に並び呆然とする。

 

「え…?」

 

「な、なんだよ、これ…」

火、火、火。

街は、五人の街は火に包まれていた。

辺りにはいくつものノーマルや武装した男どもがいる。

 

何を、どう見たって街が襲われている。

 

 

 

怖い盗賊がいるから夜遅くに外に出るんじゃないよ

 

 

 

 

どの親も口を酸っぱくして子に言い聞かせていた言葉である。

 

「マ、ママーッ!!ママーッ!!」

マイキーが駆け出す。

ロイは、なぜかは分からないがとっさにその腕を引き頭を地面に押さえつけた。

 

「離せ!!離せよ!!ロイ!!」

いつも気弱なマイキーがこんな、しかも自分に向かってこんな言葉遣いをしたことなど初めてである。

だがロイはそれを上回る剣幕で叫ぶ。

 

「黙れ!行くな!!殺される!…あいつら、ただの盗賊じゃない!」

 

「殺してる…みんな…」

ハリムが顔を真っ青にして呟く。

火に目が慣れてきて、よく目を凝らすと動く人は皆撃たれ、斬られ、焼かれていく。

 

(母さん!!)

今、撃たれたのはロイの母親だった。家に隠れていて、それもバレていなかったのに何故か外に出たのだ。

その理由は簡潔だった。今も外で遊んでいる自分達の元へ行こうとしていたのだ。

 

「頭を下げろお前ら!しゃがめ!!」

ロイは叫び五人は一様に丘に伏せる。

 

「あ、ああ…」

ただ見ているしかできない。

いつも偉そうな口をきく自分は結局のところどうしようもないぐらい子供なのだと、現実が教えてくる。

秘密基地に引き返してしまいたい。

というか、そっちの方が安全なはずだ。

なのにどういうわけかロイは身体が動かずその目は煉獄から離すことが出来なかった。

 

可燃性の液体をまき散らしさらに火をつけ、ノーマルの中の一機が手で指示を出し撤退していく。

 

「あいつが…頭か…」

凍り付く頭と火に焼き付く目、に飛び込むエンブレム。原始的な暴力を表すようなそのエンブレム。

 

ロイの中ではその日の記憶は結構あいまいだ。

だが、そのエンブレムだけは不自然なまでに鮮明に記憶に残った。

 

 

 

「父さん…母さん…」

ウェイドが呆然自失といった感じで呟く。

基地に戻ったが今でも外を見ればまだ西の空は明るい。

 

「お、俺は…」

 

「ロイ…?」

顔面蒼白なショーンが尋ねるような縋るような声を出す。

 

「殺してやる…殺してやるぞ…」

 

「ろ、ロイ?な、何言ってるんだよ!あんなのどうするんだよう」

 

「あいつと、同じなら…あの機械に乗ってたら俺の方が絶対に強い!いつか絶対に…!殺してやるぞ…あの野郎…」

 

「でも…ロイ…」

その先の言葉をハリムが続けなくてもみんな分かっていた。

だからと言ってこれからどうするのかと。

突然放り出された五人の子供。

 

食料も飲み物もわずかしかない。

どうなるかなんてことは言わなくても誰にだって想像がついていた。

ただロイがうわごとのように呟く怨嗟の誓いが狭い秘密基地の中に反響していた。

 

 

 

 

「…ひでぇな」

焼き尽くされた街を見てロベルトは呟く。

 

「なんですか、これは」

 

「ブッパ・ズ・ガンの仕業だろう」

 

「誰ですそれ」

ノーマルの中に響く声に、目の前の悲惨な光景を目を細めながら見渡しながら答える。

 

「俺と同じで、元々国家側についていた腕利きのレイヴンだ。俺が俺なりにやってるように、奴も奴なりに生きようとしているんだろう」

 

「正直、ぶつかりたくないですね」

 

「ああ。奴は腕利きだが、それ以上に良心のタガが飛んでいる。人を殺すことをなんとも思っちゃいない野郎だ。会いたくは、ねえな」

 

「ロベルトさん!!あっちに、死にかけのガキどもが!」

 

「ああん?」

 

 

 

「…ぁ」

 

「目が覚めたか、ガキ。ほら、水だ、飲め。何があったか覚えてるか」

 

「殺してやる…」

 

「ああん?」

 

「殺してやる!離せ!!」

 

「………とりあえず、水を飲め」

 

乾燥地帯に四日間、ほとんど食料も飲み物も無い子供が五人、生き残ったのは奇跡としか言いようがなかった。

 

こうして五人は「ファミリー」に入ることになった。

 

 

 

 

 

「ようやく、一区切りか」

手を合わせ終わり神妙な顔でロイは呟く。

普段は飄々としているが昨日今日と真面目な顔をし過ぎて正直肩が疲れた。

 

「さーて、お前ら帰るとする…」

 

「兄貴!コルセールの連中から救援要請が来てる!ノーマルの襲撃にあってるらしい!」

 

「ああ?フランは何してやがる」

コルセール。

北アフリカ、つまり自分達「ファミリー」が活動している地域と被る場所を縄張りにして動いている傭兵集団である。

自分達と同じくカラードに登録されているリンクス、フランソワ=ネリスを長に持っており、

お互いに貴重な情報を共有し合う同盟なような関係を持つ団体でもあった。

 

「今カラードから帰っている途中らしい!急がねえと!」

 

「ちっ…マイキー!ファミリーに連絡を取れ!マイブリスを…ああっ!くそ!ぶっ壊れてるんだ!なんでもいいからノーマルを一機オートで全速力で東南に向かわせろってな!」

 

「わ、わかった」

 

「…だがロイ、どうする」

 

「どうするもこうするもねえ!乗れ!」

二年前、大は小を兼ねるだろ…多分。という理由で購入した大型トラックに五人は乗り込む。

今日もここまでこれに乗ってきたのだ。

 

「アクセルべた踏みだ!」

 

「無理だよ兄貴!あんま状態がよくねえからイカれちまうよ!」

 

「うるせえな!どうせこんなポンコツ近いうちにぶっ壊れるんだ!!だったら今日ついでにスクラップにしちまうぞ!!」

 

「ああああああああああああ!!」

ギャリギャリギャリ!!とタイヤとエンジンからあまりよろしくない音を立ててトラックは急発進した。

 

「み、見えたよ!ロイ!」

荷台から双眼鏡で除くマイキーが大声を張り上げる。

エンジンが金切り声をあげて叫びでもしないと聞こえないのだ。

 

「ミサイルランチャーあるだろ!かませ!」

 

「う、うん!」

 

「あひぃ!?」

ショーンが水にぬれた繊維をいきなりロイの耳に突っ込み思わずロイは変な声を出す。

直後に衝撃と爆音が来たが耳栓のお蔭で大分ましになった。

 

「あ、当たったよ!」

 

「よっしゃ!このまま突っ込むから武器持って飛び降りる準備しろ!!」

どうやらコールセル側のノーマルと交戦をしていたらしい正体不明のノーマルがギギギッとこちらを向く。

 

「ンアーッ!!」

ウェイドが奇怪な叫びをあげて着地に失敗する。

 

「ロイ!こいつ、ハリムを殺したノーマルにそっくりだ!」

以前から世界中に現れ暴れまわり被害を及ぼしていた正体不明のノーマル達。

その毒牙にとうとう自分達までもが…

 

「なにぃ!?…お、来た!」

普通のノーマルよりも一回り以上小さいその正体不明の敵は上に乗った元トラックの鉄くずをどかすのに躍起になっている。

そこに丁度良く先ほど要請していたノーマルが来た。

 

「お前ら、援護しろ!俺に当てたらケツを蹴っ飛ばしてやるからな!」

するするとノーマルのコックピットまで辿りつき、操縦桿を握りしめ起き上がろうとするノーマルを踏みつける。

とりあえずはコックピットを吹き飛ばして終わりだ、と思った瞬間。

 

「な…!?」

踏みつけたノーマルが自分の機体の足を掴みその上から引きずりおろした。

自分の機体よりも一回り小さいこの機体が、だ。

 

「うおおお!?馬鹿かてめぇ!?」

体勢を大幅に崩しながらもその手を撃つ。

なんとか逃れたもののロイは冷静ではいられない。

 

(この機体…何度か戦ったが接近戦は初めてだったなそういや…)

だが、確かこの機体のもつ武装はどれも異様な威力を誇ったはずだ。

それに加えしぶとく、固い。しかもあの機体、俺の機体の脚を掴んで振り回そうとした。

そんな動き、ノーマルで出来る物なのか?

 

普通のノーマルにしては小さいが、ずんぐりむっくりとしたボディ。

頑丈そうな脚にはこれまた頑強そうな盾がついており、手にした武器も肩のハンガーに付けられた銃も並の口径には見えない。

 

自分の腕にはかなり自信があるが冷や汗が一つたらりと垂れる。

 

「クソッ!」

かなりの量の弾を至近距離で撃ち続け、ようやく機能停止に追い込んだ…と思いきや大規模な自爆をし、ロイは派手に巻き込まれる。

一瞬誰か巻き込まれなかったかとひやひやしたが、敵ノーマル自体が小型なこともあり一応被害はない。

ロイの機体は中破以上の損害だが。

 

「…!やっべえな…」

目標を変えたのか、他にいた五体のノーマルがこちらに無機質なカメラアイを向ける。

コルセール側のノーマルは大破は免れているもののどれも被害甚大だ。

 

目標達成した次の日に死ぬなんて笑い話にもならねえ、と鼻をヒクリと動かしたその瞬間、敵ノーマルの二体が鉄くずになった。

 

『助かったわ、ロイ』

 

「おせーよ」

カラード所属のタンク型ネクスト、バッカニアが遠方におり、ロイは息を吐いた。

増援がこんなにありがたかったのはあの日、ガロアがアレフ・ゼロに乗って飛んできたとき以来だった。

 

 

 

「本当、助かったわ。あんたたちが来てなかったらコルセールは終わってたかも」

バッカニアから降りたその女性は茶色い髪を首に届かないぐらいの長さでざんばらに切っており、

元々は白色の人種であったのだろう肌は日に焼け健康的な色合いを示しており、そして何故か目の下、鼻を真横にとおってそこだけ日焼けを嫌うかのように赤くなっていた。

ダボつく長ズボンにタンクトップ、胸のふくらみは…残念ながらなだらかとしか言えない。

そばかす少々、そんな身体のパーツも相まって幼く見えるが彼女はごろつきと言っても差し支えない傭兵集団コールセルをその腕で纏める女傑だった。

 

「…いや、辛かったぜ、マジで」

 

「兄貴ー、俺、腕折れてるよ…」

2mを超える大男、ウェイドだけは着地に失敗しており思い切り負傷していた。

 

「あんた達、手当てしてやんな。あとあのトラックも直してやんな!」

 

「へいっ」

 

「いや、トラックはいい。どうせスクラップ寸前だったしな」

 

「…そうかい?ところでロイ、あんたなんでマイブリスで来なかった?」

 

「いや、今故障中」

 

「やややや、やっぱ強かったんだね。相当ボロボロだもんね」

マイキーは何故か普段の倍はどもりながらも会話に混ざろうとしてくる。

その顔が真っ赤なのは戦闘の余韻…ではないだろう。

 

「ボロボロ?あんたが?」

 

「ブ、ブ、ブッパ・ズ・ガンとやりあったんだって」

もじもじとマイキーは言葉をつづけ、ショーンは興味無さそうにコールセルの連中から貰った水を飲みながらタバコを吸っている。

 

「…!やったのか」

 

「ああ」

 

「一人で?」

 

「いや、三対二だったんだが…味方が馬鹿強い奴だったからな。他の二体は引き受けてくれたから、ほとんど一対一の状況に持ち込めた」

 

「馬鹿強い?オッツダルヴァ辺りか?」

彼女自身そんなにランクの高い方ではないが、ロイの順位も強さも知っている。

そのロイをして馬鹿強い、と言わせるとなればそれくらいしか思い浮かばない。

 

「そんなランク高い奴じゃねーよ。ガロア・A・ヴェデットだ。知ってるか?あんたよりも順位は上かな」

 

「はっ…!ガロア!ガロアだって?知ってるとも」

その言葉と同時に周りの男どもも口々に苦々しい笑みをこぼす。

 

「あん?知り合いか?」

 

「いいや…もう時効だろうから言うけど、何年か前にその坊やの誘拐の依頼を受けて…失敗してんのさ、あたしたちは」

 

「…ふーん」

 

「あの頃からケモノみてえな小僧だったからな。強くなっても不思議じゃねえ」

と言う男は当時、ガロア誘拐作戦の指揮を執った男その人である。

 

「それに鬼みてえな女がお守りについていた。あ~、思い出したくねえ」

あの日胸部に殺意の籠った一撃を叩き込まれ心臓が止まった状態からなんとか蘇生した男が頭を大げさに抱え叫ぶ。

 

「鬼…?は?セレン・ヘイズのことか?髪が黒くて青い目した美人のことか?」

確かに冷たい印象は受けたが鬼とはどういう事だろうか。

 

「そんな名前なのか。そういやえらい美人だったな。二度と会いたくねえ、その女にもガキにも」

 

「はぁ~…」

 

「ロ、ロイは勝てる?そいつに?」

 

「俺が…?あいつに?」

そう多くは無いが何度か同じ戦場に立っている。

だが未だに敵対したことは無い。

しかし、敵対したとして勝てるのだろうか。あの………………怪物に。

 

「…あのよ、依頼主を聞いていいか」

質問には答えず、そんな言葉を口にする。

本来はそんなことを聞くのはマナー違反だし、普通は教えないものなのだが、なぜだかどうしてもロイは気になり尋ねた。

 

「アスピナ機関だよ。いや、アスピナ機関の一部による独断なのかもしれん。躁うつ病みたいなテンションした男から依頼があったんだけど…どうもあたしはあの組織は好きじゃないね。リンクス戦争のころから」

 

「…しかしあのノーマルはなんだ?バカみたいに硬いし信じられない口径の武器も積んでやがる」

話が突然切り替わったように見える。

しかし、これはロイの全くの勘でしかないが、何故かこの話は一つながりであるような気がした。

 

「さあね。はっきりしてんのは迷惑だってことだけだ」

 

「ハ、ハ、ハリスも…でも情報が少なすぎてどこを叩けばいいか分からないんだ」

 

「こっちも似たり寄ったりさ。防戦一方。出て来たら追い返すぐらいしか出来ない」

 

「…なんだってんだ?一体」

ロイの嫌な勘はかなりよく当たる方だが、今のところ情報が少なすぎる。

断定するには情報がかなり乏しいがそれでもロイには一つの確信があった。

 

近いうちに何かが起きると。

 




ブッパ・ズ・ガン

身長166cm 体重62kg

出身 ソマリア

ミシェル・フーコーは『狂人は社会が定義する』、と言ったが誰がどこからどう見ても正気じゃない人格破綻者。
国軍に入り牙を砥いでいたが、本当はその力を思うままに使える日を待っていた。
国家解体戦争で国がなくなり自分がテロリストになった時でさえ、「自分の時代が来た」と喜んでいた。
もうテロリスト、指名手配犯という烙印が押されてしまったので我慢することも無く、道行く人に因縁をつけていきなり殺害したり、金があるのに強盗したり、気に入らない店を街ごと焼き払ったりと無茶苦茶だった。妙なカリスマ性があり、ブッパに賛同し付き従う男たちも数多くいたのがまた話を厄介にした。
そんな男にAMS適性があったのは神の悪意としか言いようがない。
メルツェルがこの男をスカウトしたのは戦闘力を買ったということもあるが、手綱をつけておかなければ危険だと察知したから。
だが、ブッパが入ったのはORCAの目的に賛同したのではなく、リリアナの元リーダーがメンバーにいると知っていつか殺す為だった。
自分と同じ存在、同類を食う事によって至上の喜びが得られると考えた。

しかしその目的を果たす前にロイに殺されてしまった。
天罰だろう。


この作品には最初から最後まで救いようのない悪人という物が登場しませんでした(モブは除く)。
なので作中で一言もしゃべらなかったブッパには救いようのない悪人になってもらいました。すいません。


趣味
少なくとも半年以上飼ったペットの餌を抜いて餓死するのを見ること
わざとコジマ粒子を巻き散らすこと

好きなもの
ミルクチョコレート(幼い頃に一度だけ親に貰って好物になった)
作者が吸血鬼と噂されている日本の漫画(連載中)


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