Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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ORCA旅団本隊撃破

元GA本社、ビッグボックス。

取り囲むように迫ってくる汚染から尻を捲るように人が消えたその巨大な墓標は、元々死ぬつもりのテロリストにとっては実に都合のよい隠れ家であった。

しぶとく生きながら各地に潜伏していると考えテロリストの住処を探す企業は、まさか汚染に囲まれるその地域に人が住んでいるとは考えもしなかった。

 

「取引は完了した」

随分と人が少なくなったその部屋でメルツェルは告げた。

 

「!早すぎないか」

テルミドールの予想ではさらに戦力を削らなければその暗い腹の内側を見せないはずだった。

 

「……」

 

「オールドキングの独断行動が効いたらしい。…忌々しいことだがな」

企業にしてもある程度の破壊が起こらなければ降伏するつもりなど無かった。

だが、唐突にクレイドル空域に現れ狂気と共に数百万人の命を奪ったそのネクストの姿は世間にとっても企業にとってもあまりにも危険過ぎた。

これ以上の死人が出る前に、さっさと事を済ましてほしい。それが企業の総意となった。

破壊からの再生が経済の循環の糧となるとは言え、人がいなければ金も経済も全く意味がないのだから。

 

「……」

 

「そうか…なら」

 

「ここが私とヴァオー。お前と真改がクラニアムだ」

 

「…分かった」

 

「お前が!?馬鹿を言うな、相手は恐らくウィン・D・ファンションだぞ」

 

「それが大事なんだ」

 

「ハッハー!!!ダイエットマニアのがりひょろの機体と削り合いかよ!!楽しいなあオイ!!」

騒ぐヴァオーにそれ以外の三人は全て耳を塞ぐ。

 

「…理由を教えてくれないか」

 

「今企業にあるリンクスの中で彼女だけが唯一独自の正義感で行動している…言わば最右派なんだ」

 

「……」

 

「それを企業に正しく認識させなければならない。本隊を叩かせ、大した戦力でもない私とヴァオーを殺させることによってな」

 

「ぬわぁんだそりゃぁ!!どういうふかし方だそりゃあ!?」

 

「独断行動でクラニアムの前に立ち塞がれ万が一にもお前がやられれば全てが水の泡になる。どちらにも何の得もなく、ただ人が死ぬだけになる」

ウィンの行動が企業にとって害だとはっきり認識させる為に死ぬ。メルツェルはそう言いきっている。

 

「私が負けるとでも?」

 

「万が一、だ。死ぬ気でかかられて相打ちに持ち込まれては意味がない、お前は生き残らなければならないんだ。不安の芽をつぶす為にもウィン・Dは企業に抑え込ませる。

…今、この基地の位置情報と共に、戦闘終了の報をカラード全体に広めている。ここで俺たちが殺され彼女の暴走を抑え込めればそれで良し、だ」

 

「………」

 

「細かい事はわかんねぇけど勝てばいいんだろう勝てば!?ハッハー!!この僧帽筋を見ろや!ぬぅん!!」

いきなり服を破きだすヴァオーはとりあえず置いといて話を進める。

 

「そうだ…勝て、メルツェル。抑え込め!この基地の全ての機能を起動させれば不可能でもないはずだ」

 

「…なるべくならな。さぁ、時間だ。行け。そろそろ来る。…真改、テルミドールを…頼む」

 

「……分かった」

 

「メルツェル…あの時…私についてきてくれたおかげで私は…」

 

「ああ、分かっている。何も言うな。上手く生き残ったら、酒でも飲もう」

 

「…私は下戸だ」

 

「知ってるよ」

袖を引きすぎては全てが台無しになる。

二人は早足で部屋を出ていった。

 

「ヴァオー、行けるか」

 

「いつでも、ヌゥン!ダブルバイセプス!行けるぜぇぇえ!!」

 

「…そうか」

メルツェルは予測していた。

地上に降りた人類がまず取るであろう行動。

それはコジマ技術の完全なる放棄。これ以上自分達の首を絞めるような真似をするほど人類は愚かではない、と流石に信じたい。

世界をこんな状況に追い込んだ技術は憎悪の対象になるはずだろう。

まず間違いなくネクストは完全に処分される。

そして今回のオールドキングの行動でリンクスの未来自体も怪しくなった。

良心のタガが外れたリンクスはその気になれば簡単に億単位の人間を殺す。

それを心底理解した企業、いや世界はもうリンクスという恐怖の権化の存在を許さないだろう。

そして自分達も必ず世界的に指名手配を受ける。

 

「……」

汚染の進行を阻止するためのテロを起こして人の命を奪っておきながら自分達だけ生き残るためにネクストに乗りコジマ粒子を振りまくような矛盾は許されるはずがない。

かといってネクストに乗らない指名手配されたリンクスが世間と企業から生き伸びる方法は皆無に等しいだろう。

何しろ空に浮かぶ七十億の人が地上に降りてほんのわずかな生存可能地域で犇めくことになるのだから、その目から逃れる術は無い。

結局、どちらにどう転んでもORCA旅団の未来は死だった。

だが、それでもせめて救いのある死を求めるのならば。

 

「……私はポーン…犠牲駒だ。テルミドール、お前はキングだ。何としても生き残れ。そしてなるべくなら…幸せになれ。お前にだってそれくらいの権利はあるだろう」

 

「なああぁにぶつぶつ言ってんだぁ!!?来たぜぇ!!行かねぇのかよ!!」

 

「…いや、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ORCA旅団、メルツェルだ!ビッグボックスへようこそ!歓迎しよう、盛大にな! 』

 

『ハッハー!!!ウィン・D・ファンションにガロア・A・ヴェデットかぁ!!残って正解だったぜぇ!!』

 

『……』

 

「吹きあがるなよ…テロリストども!!」

ビルの屋上から二機のネクストが出現する。

片方は知らないが、もう片方はかつてレイレナードの養成所を首席で卒業した副団長のメルツェルだろう。

相当な策士と音に聞こえているし、今回のテロも全てこいつの策略に違いない。気をつけねば。

 

『ウィンディー!ビルが…動いている!気を付けて!』

 

「なんだと…どういう発想だ…」

 

驚いている暇も無く、飛んできた砲撃を何とか回避する。

 

「くっ!」

 

『気を付けて!当たった瞬間に木っ端みじんになるわ』

 

「わかってる!…!」

 

『……』

 

「勝手な奴だ…!」

自分が空中で無理な体勢で巨大な弾を躱したせいで少々たじろぐ隙にアレフ・ゼロは一直線に飛んで行ってしまった。

 

『ハーッ!てめえの相手は俺だぁ!デタラメに強ぇんだろ!?』

 

「怖くないのか…?」

一撃死の砲門が無数に向けられる中を躊躇もせずに飛んでいく。

まるで蔓延する死は空気と大差ないと言わんばかりに。

 

(なんだ…?何かが…)

前に一度だけ奴の機体の背中を見たことがある。そういえばあの時に奴が来ていなかったら死んでいたかもしれない。

なんというか、その時よりもずっと…どす黒い空気を醸し出している気がする。

 

(気のせいだ、そんなもの)

自分で思っておきながらあり得ないと自己否定をし、こちらに向かってくる敵に目を向ける。

 

『お相手しよう、ウィン・D・ファンション』

 

「ふん…どう見ても機体の相性が悪いぞ、きさ」

 

『ぐぁ…うおぅ』

 

「え?」

 

『な』

 

「……ぅ」

あり得ない。

確かに鈍重なタンクにフラッシュロケット搭載のブレード機は相性が悪かっただろう。

それでも、まだ戦闘開始して十秒も経っていないと言うのに。

 

『……』

 

『め、滅茶苦茶ね…あの人…』

 

「……」

白いタンクは刺身のようにおろされバラバラに吹き飛んでいた。

 

(大砲を利用したのか!)

そうか、奴は自分に向かって撃たれた大砲を直撃させてから斬ったのか。不気味な焦げ跡がビルの屋上についている。

だが、冷静にわかってはいても、味方なのは知っていても。

 

(寒気が止まらない…)

あんな奴を引き込んで本当に…

 

『ヴァオー?死んだのか?嘘だろう?』

 

(……?なんだ?)

戦場でぼけっとしていた自分も相当間抜けだが、相手のリンクス…メルツェルは頓狂な声をあげてながらただ浮いている。

 

『待ってくれ…私は、まだ何も言って…嘘だろう?』

 

「……?仲間の死は初めてじゃないだろう」

この隙に撃ってしまえばよかったのに、その声がまるで海に投げ出された子犬のようでつい声をかけてしまった。

 

『ウィン・D・ファンション…貴様…クソ!』

 

「!くっ!躁鬱病か!?不気味な奴だ…」

かと思えば唐突に大型ミサイルを発射してきた。

勿論そんなのに当たるわけもないが、ここが一撃死の攻撃飛び交う戦場であることを今一度頭に叩き込む。

 

『クソ、クソ!あいつは、暑苦しい奴で!』

仲間の死は初めてではない。

 

「なんだお前は…!」

 

『あんな、あんなあっさり死ぬ奴じゃなかった!もっと…』

ただ、メルツェルは戦力というよりは司令塔の立場で指示を出しており、今回の一連の作戦でクラニアム制圧以外は前線に立ったことが無い。

もっと言えばメルツェルが養成所を卒業した年にリンクス戦争が起こり、しばらく地下に潜っていた為人を殺したことすら無かった。

 

「阿呆か?そういうものだろう」

そう言いながらレーザーを撃つ。威力の高い攻撃を放つと、何となく感覚で当たった、当たらなかったというのが分かる。

これは当たらないだろうな、と思ったのにあっさりと当たってしまった。

 

『ぐぁ!違う、そんなあいつはあっさりじゃなくてもっとこってりと…ああ、違う、私は、俺は、クソ!』

自分達の戦いに正義があると信じてこそ、死ぬとしてもその死に際はもっと華々しいものなのだとメルツェルは勝手に思っていた。

 

「…戦場で仲間が死ぬのは初めてか?…そんなものだよ」

だが、戦場に、戦争に華も英雄も無く、ただ死ぬときはあっさりと死んでいく。誰であれ。

そんな単純ながら戦場で実際に経験しないと決して味わえないおぞましい感覚にメルツェルは取り乱していた。

静かに退場したのがORCAで一番騒がしいヴァオーだったというのがさらに混乱に拍車をかける。

 

『私は、じゃあ今まで、ぐっ!』

今まで指示した戦いに華々しさなど無く、敵も当然味方もただの事実として死んでいっている。

 

「そうだ。お前らが起こしたことだろう」

 

『そんな、クソ、ハァ、罪は人類全員が、私たちは……!、……………』

 

メルツェルのネクスト・オープニングは青いブレードに真後ろから突かれていた。

アレフ・ゼロの紅い眼が剣呑な光を湛えた。

 

そう、戦場では実にあっさり人が死ぬ。

それが戦力差があると言うのならばなおさらだ。

 

「戦争に美しさなど無い。それを勘違いして殺してきた者の数だけ地獄で謝罪してこい」

戦闘開始から42秒、レイテルパラッシュ、アレフ・ゼロ共にほぼ無傷のままあまりにもあっけなくORCA旅団本隊襲撃作戦は終了した。

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