Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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クラニアムへ

「それは決定なのですか、大人」

 

「そうだ」

 

「ですが、そんなことを認めたら市井の方々は…」

 

「リリウム」

 

「…はい」

 

「どんなに力を得ても我々は道具だ。それに戦っても戦わずとも結果が同じならば危険は犯さない方がいいだろう」

 

「……」

 

「……せめて、地上に降りてきた後に出来る限り人が死なぬように尽力するとしよう」

 

「…わかりました」

 

 

 

 

カラードの一室。

強制帰還命令を受けてウィンは呼び出されていた。

その会議室には普段いるような記録係も他のリンクスもおらずただ王小龍だけがいた。

 

「もう一度言う。ORCAからは、一切の手を引く。これはカラードの、ひいては企業の、正式決定だ」

 

「理由は?」

とうとう来たか。ウィンはそう思いながら一応、理由を尋ねた。

 

「説明の必要は認められない…これまでと同様に」

 

(……?苦しそうだな)

普段と変わらず傲岸不遜で厭味ったらしい態度ではあるが、

会話の節々で顔を歪めたり声が上ずったりしている。

 

「ただ黙って見ていろとの命令なのだ…死ねと言われているわけではない」

 

(老人を殴るのは気が進まないが…仕方ない。まぁこいつの場合は大丈夫だろう)

机を挟んで向こう側にいるが机を蹴り上げ、避けた方向から肘をこめかみにあてる。

よし、やろう。

 

「妙な気は起こすでない」

 

「!」

 

「カラードの人員や格納庫の整備班にも連絡は行っている」

 

「……」

 

「さらには企業連から腕利きの部隊があちこちに配置されている。ここから動くことは出来ん。お前も。…私もだ」

 

「……?…もっと俗物だと思っていたよ、王大人」

 

「…何の話だ」

 

「いいや、もういい。私は行く。止めたければ今ここで私を殺すしかないぞ」

 

「…勝手にしろ。どちらにせよ、格納庫まで辿りつけん」

 

「……ふん」

 

と、会議室で牙を見せ合う威嚇のようなやり取りが繰り広げられている中、

ガロアは入り口近くの壁にもたれながら掌で両目を覆うようにしてじっとしていた。

 

(……ガロア様!)

今朝からずっと具合の悪そうだった王の様子が気になってしまい、待っていろと指示された場所を離れてリリウムはここまで来てしまった。

 

(助けてもらったお礼を申し上げないと…)

偶然見つけただけではあるが、増援として来てもらわなければ死んでいたとずっと思っており、是非お礼を言わなくてはならないと思っていた。

だが。

 

(声が…かけられない…)

自分が近づいていることには気が付かれている。

手の指の隙間から波紋の浮かぶ灰色の眼がじっとこちらを見ている。

 

(……)

その眼に見られただけで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。

今までも何度となく見たその眼だが精々色が薄いな、じっと見ていると目が回りそうだくらいにしか思っていなかった。

だが、今のあの眼はまるで白く濁っていて底の見えない井戸のようだ。

 

「……っ」

どうしていいかわからなくなりかけていた時、力強く会議室の扉が開かれた。

 

「ウィンディー様?」

 

「リリウム?…王小龍の体調が悪そうだ。私が目の前にいては休むことも出来ないだろうから出てきた。早く看病してやれ」

 

「は、はい…あの…」

これからどうするおつもりですか。

これからどうするか。

二人がそう言いかけた瞬間ガロアがウィンに何かを投げた。

 

「これは…インカムか?」

小型ながら耳に差し込む部分とマイクらしき部分、さらにはカメラであろうレンズがついており、相当高価な物である事が伺える。

 

「……?」

つけろ、とジェスチャーするガロアに従いカメラが前を向くように装着する。

 

『ウィン・D・ファンション。聴こえているな?』

ジジジ、と多少ノイズ交じりではあるがこの声とこの状況から察するにこの声の主は一人しかいないだろう。

 

「お前は…確かオペレーターの…」

 

『セレン・ヘイズだ。私のリンクスを誘惑したんだ。今更イモを引くような真似は許さん』

 

「だが…どうやって」

 

『指示に従え。ナビゲーションをする』

 

「…わかった」

目をやるとガロアの方にも同じインカムが着けられており、完全に運命共同体となっているようだ。

 

「ウィンディー様…?ガロア様?」

 

「……」

 

「リリウム…止めるなよ」

 

「……はい」

頭に軽く手を乗せた後二人は走り去ってしまう。

 

「……リリウムは臆病ものです…」

人を殺せても、リンクスとしての腕を上げても自分の道を信じて戦うことはリリウムにはできない。

彼女が王から教わったのは身を守る手段だけだからだ。危険を承知で進むことなどもっての外だ。

 

「…行ったか…」

 

「大人!お身体に障ります、動かないで」

部屋から咳き込みながら出てくる王は血飛沫をわずかに吐き出しており、この状態で歩き回るなどとても許せない。

 

「…止めても聞かんとは思ったが…馬鹿どもめ」

 

「大人…」

 

「リリウム、よく見ておけ。お前と年も境遇も同じ少年が今、世界の変革の瀬戸際に立っている姿を…」

手にべっとりとついた血を見て王は言う。

恐らくはもうネクストにも乗れないだろうし、先も長くない。

ならその後リリウムを導くのは誰だ?誰も信用できないこの世界で。

誰にも任せられない、そんな事。

だから、せめて。自分がいなくなった後も自力で生きていける強さを、あのひたすら我が道を行く少年から学び取ってほしい。

 

「お薬を…」

 

「よい。…我々の出番はこれで終わりだ。指示通り、全て終わるまではじっとしていよう」

 

「……わかりました」

 

 

 

ひたすら走る。走る走る。

指示に従い右へ左へ。

 

「こっちは格納庫じゃないぞ!」

 

『わかっている。このまま突っ込んでも捕まるだけだ。先にやることがある』

 

「……」

 

「…わかった」

 

『止まれ。そこだ』

ひた走るガロアは物凄い速さであり、このまま置いてかれるのは癪だと思い速度を上げた瞬間に止められややつんのめる。

 

「ここは」

 

『中央電源管理室だ。中央塔の電源やネットワークの制御は全てここでされている。予想通り、出口に向かう道以外は手薄だな』

 

「それは分かる。だが管理人のカードキーが無ければ入れないぞ」

 

『ハッキングしようと言う訳じゃないんだ。…ガロア、入り口の右側3m、下の方に小さな金属の扉があるな?破れ』

 

「破れだと?」

今所持している武器は刃渡り17cmほどのナイフと9mm弾を発射する拳銃だけだ。

これでは少々手こずりそうだが、何か手段があるのだろうか。

そう思い目を向けると、ガロアは右足をやや後ろにし、重心を下げていた。

 

「何を」

 

ウィンが言葉を言いきる前にガロアは強烈な前蹴りを叩き込んだ

 

「……」

 

「あ」

たった一撃で、頑丈に見える金属の扉がかなりへこみ一部が捲れてしまっている。

 

『剥がせ』

 

 

「……」

 

ギ、ギ、ギギィ

と音を立てながらお菓子の箱のふたを剥がすようにメリメリと金属の扉を引っぺがそうとしている。

 

『何をしている?お前も手伝え』

 

「あ、ああ」

 

「……」

大分捲れていた金属扉の端を二人で掴み、一気に引きはがすと中には明らかに重要そうなコードやら線やらが走っていた。

 

『全部千切ってしまえ』

 

「……」

 

ブチブチブチィ!

 

あまり聞きたくない類の音と共にそのコード全てを力技でガロアが千切ると途端に辺りが暗くなる。

傾いている日の光と非常灯の明かりのみが通路を照らしている。

 

『これで中央塔の非常灯と一部の監視カメラ以外は全て強制シャットダウンだ。混乱に乗じて格納庫に忍び込むぞ』

 

「滅茶苦茶だ!とんでもない損害が出るぞ!」

 

『まぁそうだろうな』

 

「それに監視カメラが生きていては…」

 

『大丈夫だ。全システムの掌握は不可能でも、一部だけ乗っ取るのは容易い。残った監視カメラは全てこちらの物だ』

 

「……」

 

「そちらは大丈夫なのか」

 

『有事に際してオペレータールームと格納庫の電源が独立しているのは知っての通りだ。入り口も…』

 

 

 

 

 

「まぁ、多少無茶な方法ではあるが塞いであるしな」

中央塔からの主電源の供給が絶たれ、予備電源のみで暗くなったオペレータールーム。

入り口の前には椅子や机が組まれて置かれ、おまけに扉がガスバーナーで溶かされしっかりと接合されていた。

 

 

 

 

 

 

「溶接した!?出るのはどうするんだ!?」

 

『それは後で考えよう。さぁ走れ!そこを右に曲がった後すぐに左だ』

 

「……」

 

「…ああ、もう、分かったよ!」

滅茶苦茶に無茶苦茶を重ねる二人にたじろぐが、指示された瞬間に走って行ってしまうガロアを見て舌打ちをする。

ネクストに乗っていてもいなくても勝手な奴だ!

 

足音を気にせず同じような通路をとにかく走り抜ける。

ここ一年以上、カラードの中央塔をうろつくことなど無かったためナビゲートなしでは迷っていただろう。

 

「な、あ!止まれ!ウィン・D・ファンションだな!部屋で大人しくしていろとの指示があっただろう!」

偶然目の前の交差点を横切った兵士がアサルトライフルをこちらに向けてくる。

…まさか発砲許可もされているのだろうか。

 

(…射線を避けて顎に掌底…いや、首筋に蹴りか!?…出来るか…?)

今まで銃を持った相手に徒手空拳で挑んだことない。

わずか一秒ほど狼狽していると脇を風のようにすり抜けた影が兵士に迫った。

 

「フシッ…!」

 

(今の音知っている)

身体の中の力を一撃に込めて爆発させるときに出てしまう呼気だ。

その考えが纏まる前に今度は金属が派手にへしゃげる音が聞こえた。

兵士が手に持っていたアサルトライフルごとガロアに蹴り上げられてアサルトライフルがただの鉄くずと化した音だった。

 

反射的に目を瞑ると同時にガッシャアァンッ!と言う音と共にガラスの破片が降り注いできた。

 

「な…」

たった一回の攻撃で兵士は2m以上浮き上がり天井の蛍光灯にぶつかりながらバウンドして昏倒していた。

腕は変な方向に折れ、銃身はへし曲がっており、ぴくりと動かない兵士からはとろとろと血が流れている。

 

(馬力が…違い過ぎる…)

自分が賢しく技を考えている間に銃の上からの一撃でこの有様だ。

技や精神で優越できるレベルを遥かに超えている。

…確かにカラードでひたすら延々と身体を鍛えていると聞いてはいたが、化け物だこいつは。

 

「死んだんじゃないのか…。おい、あまり無茶はするな…」

 

『心配はいらん。とにかく走れ!奴らもうクラニアムに到達したぞ』

 

「何!?クソ!」

 

「……」

血だまりの中で沈黙している兵士を置いてまた走り出すとガロアの右腕の包帯がずれていた。

 

「……」

鬱陶しそうに引きちぎり、ポイ捨てした包帯の下からは同体積の鉄よりも重いのではないのかと思えるほど見事に引き締まった筋肉をつけた腕が現れた。

元から持っていたウィンの筋肉とは違い、0からここまで鍛え上げられた芸術品のような筋肉。

ガロアが普段は厚着をしている上、ウィンは運動場には行かないのでその身体を見るのは初めてだった。

 

(どういう身体をしているんだ…つくづく、敵では無くてよかった)

味方でよかった、ではなく敵でなくてよかったという思考は、ほぼ完璧な天才である故独り善がりになってしまいがちだと言うウィンの欠点の表れでもあるのだがそれに気が付くことは無い。

 

『突き当りのT字路、右に曲がって左に兵士2人。左に曲がって右で兵士三人。左の方がいい』

 

「何故!」

 

『三人の内二人はライフル置いて談笑しているアホだ。残りの一人を無力化すれば容易いだろう。一瞬で決めろ』

 

「分かった!」

拳銃を抜き壁に腰掛けながら談笑している兵士の脚を撃ちぬく。

 

「あがっ!」

 

「なんだおま…!…ぐ…え…」

てっきりガロアも銃を抜くものだと思っていたが、素手のまま突っ込んでいった。

狼狽える兵士の左胸に、一見力を押えたかのような掌打を食らわせるとそれだけで血を吐きながら倒れていった。

 

(今の動きは!?)

発勁に更に殺意を込めた浸透勁に違いない。あの攻撃で兵士の体内の重要な器官がメチャクチャになって叫ぶことも許されなかった。

 

「つぁあ!!」

 

「……」

ライフルで殴り掛かってきた兵士の攻撃をわざわざ回転して避け背中からの体当たり。

相当な体重が乗っていたのだろう。兵士はおもちゃのように吹き飛んでいった。

 

「筋肉馬鹿じゃなかったのか…」

確か鉄山靠と呼ばれるれっきとした技だったはずだ。

 

「ぐ…お前ら…」

 

『脚を撃った奴の意識を奪え』

 

「あ、ああ」

一概に意識を奪うと言っても簡単ではないと思いながら拳銃を逆さに持ち頭を打とうとした瞬間ガロアが顎を蹴りぬき速やかに気絶させた。

 

「お前、なにか格闘技でも修めているのか?」

 

「……」

 

『いいから走れ。ガロアの心配はいらない。3年間、たっぷり格闘術を仕込んである。次の十字路を右、そのあとすぐ左、右、三本目を右だ』

ナビゲートに従いながら走ると、人の気配はするのに全く兵士と出会わない。

 

「……なぜそんなことを?リンクスに格闘技なんてそこまで必要か?」

 

「……」

 

『…今のお前達にとってはただの不気味なリンクスにしか見えていないだろうが、私が出会った頃はAMS適性が高くてもまだ小さな子供だったんだ』

 

「……?」

身の丈は少なく見積もっても195cm、体重も90kg以上は確実にある。

それに加えて隙の無い格闘術、化け物染みたリンクスとしての才能。

小さな子供と言われても想像すらつかない。

 

『肉親も頼れる大人もいない、そんな子供にこのクソみたいな世界でせめて自分の身を守る手段を教えて何が悪い?お前達がどう思おうとガロアだって普通の人間なんだ』

 

「……」

 

「……すまない」

無駄口を叩かず冷静に指示をしてきたセレンの言葉に力が籠ったのを感じ余計な詮索だったと恥じ入る。

 

「……」

 

『そこだ。下の蓋を開けろ』

 

「蓋?」

 

「……」

指示されたとおりに四角く縁のある蓋を開けるとそこは何とか人一人が身体を這いずれば進めるような空間があった。

 

「なんだこれは」

 

『水害対策だ。走り回って分からないかもしれないがお前たちは今地下にいる。そこを通れ』

大雨にやる水害等を防ぐ為に作られた外郭放水路へと続く意図して作られた水の通り道である。

 

「……」

 

「…本気か」

言われたままにさっさと入ってしまうガロア。

当然通路と違い綺麗に掃除されているはずもないその場所に速やかに入るのはちょっとした勇気が必要だった。

 

「ええい、クソ!」

 

「……」

 

(…こんな鼠みたいな真似をしていると知ったら父さんと母さんはなんて思うだろう)

前を行くガロアは明かりもつけずにがさがさと進むが、流石にそこまで度胸は据わっていなかった。

銃に取り付けられていたフラッシュライトを点け、明かりを頼りに匍匐前進するが、あちこちがぬるぬるして錆びており苔が生えているこの空間、見えていない方がよかった。

 

「…!」

 

「なんだ?何か見つけたのか」

チラつくライトに反射し行く手に何かが見えたのだろうか。ガロアの動きが僅かに止まるが、先ほど包帯を投げ捨てたのと同じように目の前にあったそれをつまんで投げ捨ててしまった。

 

「ん…ひ、ご、ご、ご、ごきごき…!」

脇に投げ捨てたもののすぐにカサカサと動き出した黒光りするそれは手のひらほどの大きさもあるゴキブリだった。

大抵の女性が、いや、人類がそうであるように例にもれずウィンもそれは大嫌いだった。

 

『騒ぐな。まあ誰にも聞こえんとは思うが…温室育ちか?』

 

「少なくともこんなクソ穴よりはいいところに住んでた!…貴様、モタクサするな!急げこの!!」

 

「……」

前を行くガロアの足を拳銃でビシビシ叩きながら急かす。

もしかして気づいていないだけで身体に虫が纏わりついているのかもしれないと思うとぞわぞわする。

 

『…上だ。思い切り押せ』

 

「……」

 

「よし!上だな!?出られるんだな!?」

少々派手な音を立てながら蓋を開くとそこは丁度エレベーターの前だった。

 

「うっ…クソ…汚い…。…エレベーター動いていないぞ」

体中が数か月洗っていない排水溝に突っ込んだスポンジのようになってしまっている。

この服はもう廃棄決定だ。とりあえず手だけでも拭いボタンを押すが反応は無い。

 

『電気が通っていないからな。動かないエレベーターは見張らないだろうと思ってな。…待ってろ動かす。予想より早かったおかげでまだ時間がかかる』

 

「……」

 

「…クソ…もうこれはいらん…お前も身体を拭け」

汚れたジャケットを脱ぎ裏側で身体を拭ったあと、ぼーっとしているガロアにジャケットを投げ渡す。

本当に何を考えているかわからない奴だ。

 

「どれくらいかかる?」

 

『三分だな。急ぎすぎだ。一応アルテリアにも防衛機構はあるし、ただ破壊するだけではクレイドルが墜落してしまうから目的通りならば時間をかけてシステムを掌握しているはずだ』

 

カチャカチャとノイズ交じりに聞こえる音はキーボードの音だろう。

霞スミカのクローンだから当然リンクスなのだろうと思っていたがオペレーターとしてかなり優秀らしい。

それでも三分ここで待ちぼうけは気持ち的に辛い。

 

「…何故私に協力する?言っておくが何のメリットも無いぞ。…まあ金が欲しいならやるが、企業の通貨のコームをこの後私たちが使えるかどうか怪しいものだ」

 

『…ガロアがそうしたいと思っているんだ。ならそれで十分だ』

 

「……」

 

「そう…か」

リンクスのクローンと天涯孤独の子供。

三年間、と言っていたからにはリンクスになる前から戦闘技術だけではなく色々な事を教え、支えてきたのだろう。

そしてそれはきっと企業の保護や安全なんかよりもよっぽど価値のある繋がりになったに違いない。

自分の密かなガロアへの誘いをただ一人、打ち明けるくらいには。

地球に一人で降りてきて数年、偶然得た繋がり、記憶喪失の傷ついた自分のオペレーター…いや、家族を思いだす。

そうか、この少年と自分は似ているのか。

 

「いいものだ、パートナーとは」

 

『なんだ?突然』

 

「きっとガロア・A・ヴェデットはお前の存在に数えきれないくらい救われているのだろうな」

 

「……」

 

『まさか。救われているのは私の方だ』

 

「だから、いいものなんだ」

昔聞いた話。日本という国では人を表す言葉が中国の文字で「人」と書かれるらしいが、

それは人という物は人と人が支え合って成り立っているからそう書くのだと聞いたことがある。

 

ピンッ、という音とともに一帯の電気が付きエレベーターの扉が開いた。

 

「……」

 

「巻き込んで済まなかったな。お前たち二人が戦いの後もいい関係でいられる事を願うよ」

 

「……」

 

『お前は噂程冷たい女ではないな。…さて、開けばもう格納庫だが当然一番厳重に守られているだろう。素早く、静かに突破しろ』

 

「最後の最後でそれか」

 

「……」

 

「まぁいい。お前、守ってくれよ。ちょっとは」

 

「……」

やはり無表情でボケーッとしている。

何も考えていないのか、それとも色々考えているのか。

 

がくんと上昇が止まり扉が開く。

と、その瞬間に人が数人表れた。

 

「!」

ガロアが有無を言わさずに躍りかかる。

 

「わーっ!!待って待って!」

 

「…ん?」

それは厳めしい武装をした兵士ではなく技術者やブルーカラーの整備班達だった。

 

「お二人のネクストは整備してありもういつでも発進できます!」

 

「…?」

 

「??」

 

『は』

セレンが鼻で笑った。

 

 

エレベーターの中から連れられ案内される道中、何人もの兵士がふんじばられて転がっていた。

 

 

「あなたを尊敬しているのです!ウィン・D・ファンション!」

 

「卑劣な暴力にこんな形で屈してはなりません!」

 

「戦って勝ち取ってください!」

 

「パイロットスーツです!あちらで着替えてすぐ発進を!」

 

「な…一体…」

レイテルパラッシュもアレフ・ゼロも新品と見紛う程完璧に整備してある。

 

『お前一人で戦っているわけではなかった、ということだ。コツコツと四年間リンクスとして積み上げてきた物がお前にはあったようだな』

この一年、ひたすら一人で闇から闇へ、危ない橋をいくつも渡りそれでも上手くいかずに辿り着いてしまった今日。

それでも、最悪なんかでは決してなかった。

 

「…ありがとう。必ず勝ってくる」

 

 

 

 

 

「…レイラ、聞こえるな」

数時間ぶりのレイテルパラッシュの中だと言うのに随分と新鮮な気持ちだ。

 

『ええ。行くのね、ウィンディー』

 

「ああ。…これが終わったら、二人で旅行でも行くか」

 

『終わってからもう一度誘ってちょうだい?ハッチ開いたわ!』

 

「よし!レイテルパラッシュ、ウィン・D・ファンション、出る!」

 

 

 

 

 

 

 




技一覧

・鉄山靠
鍛えた背筋を勢いを付けてぶつける技。ガロアのような大男にやられたら鉄板がぶつかってくるようなもので、失神不可避。
大地をしっかり踏みしめるのがコツ。

・浸透勁
身体の内部を破壊する技。見た目の派手さも音も無いので暗殺向き。
内臓の上からあてられると転げ回る程痛いが、特に心臓の上からあてられると下手しなくても死ぬ可能性がある。
今までの人生の憂さ晴らしをこの一撃でしてやる!というくらいの気を込めないと成功しない。

・ガロアキック
ひたすら鍛えた身体から繰り出される『若さ』を存分に乗せた脳筋キック。相手は死ぬ。
その辺のおじさんにやれば十メートルは吹き飛ぶ。
セレンから教わった技術を一切無視、まさにレベルをあげて物理で殴る一撃必殺なのだ。

・ウィン・Dの拳銃
ホローポイント弾なので体内に弾が変形して残り非常に痛いし手術も必要。武器選択からウィン・Dの冷徹さが見え隠れする。

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