Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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アルテリア・カーパルス襲撃

五日後。

本当に何の沙汰も無くガロアとセレンは宿直室で寝て起きて、ビルの中をうろつくという何をしているのだかわからない日々を送っていた。

 

しーん

 

「つまらんもんだな」

 

「……」

 

「人のいない食堂ってのは」

社内食堂。

百五十はあろうかという椅子の中の二つに座り、大鍋で茹でた麺にレトルトのミートソースをかけて二人で黙々と食べている。

がらんどうな食堂にある大型のモニタにも当然何も映ってはおらず確かにつまらない。

最初の三日ぐらいはどんな難題が飛ぶのやらと身構えていたが何の報せも無くただただ二人で過ごしていた。

ちょっとアレフ・ゼロを見に行こうとしたら格納庫の前でORCAお抱えの整備班に止められた。

どうもまだ完全に信頼はされていないらしい。

 

「……」

自分の機体の傍にすら寄らせてもらえなかったガロアは明らかに不機嫌であった。

 

『ミッションを連絡する』

 

「ぶっ!!」

ビル全体に突然声が響き渡りモニタに文字が映し出される。

さきほどまで自分以外に声を発する者がいなかった食堂内に想定外の大声が響いてセレンは思わず半分口にしていた麺を思い切り噴出した。

 

『ローゼンタールグループの所有するアルテリア、カーパルスを襲撃してほしい』

 

「メルツェル…だったか?の声か…?」

鼻からも出てしまった麺を手で隠して啜りながら声の主を推測する。

 

「……」

 

『既に二機、ORCA旅団のリンクスが向かっているが万が一にそなえて出撃してほしい。相手はランク5、ノブリス・オブリージュとなるはずだ。場所は既にネクストに送信してある。すぐに向かってくれ』

 

「……、…」

 

「…これならビルの中のどこにいても聞こえるということか…あっ!あーっ!!すまない!!」

放送があってから微動だにしていなかったガロアの顔には噴き出した麺とソースがたっぷりとかかっていた。

 

 

 

 

カーパルス。

抱き合うようにして停止している二機のネクストはどちらもコアから煙が上がっている。

 

つい今の今まで動いていた二機のネクストも、変わった造りのネクストの方が前もって重大なダメージを負っていたこともあり先に動きを停止した。

 

『所詮…二流だったと』

 

「さっさと死ね。…あ?…なんだこいつら。ほっといても死ぬのか」

最後の言葉をいう事も許さずに赤いネクストから放たれたレーザーが直撃すると同時にコアが小さく弾けた。

 

「ちっ…お前みたいな絞りカスを殺しても何にもならねえんだよ…」

動きを止めたネクスト、グレイグルームを蹴倒す。

 

「さっさと殺せよ!二機でかかってんだから出来ただろ?クソが!」

コアが吹き飛び最早動く筈もないネクストの骸をひたすら蹴り続けるトラセンド。

ダリオ・エンピオのイラつきには訳がある。

 

ローゼンタールの最高ネクスト、ノブリス・オブリージュが二機のネクストにかかられいたぶられているのを影から見ていたダリオはそのままノブリスがやられ、

残った手負いの二機を倒すことを考えていた。どんな勝利でも二機のネクスト撃破。それもかなりの強敵。報奨金はいくらになるか想像もつかない。

 

だが現実はノブリスのリンクス、ジェラルドが必死に白いイレギュラーネクストのリンクスに何事かを叫び続け、

白いネクストの動きが動揺と共に鈍るとともに変わった形のネクストの動きも揺らいでいった。

 

動きの鈍った二機の動きに対応しかなりのところまでノブリスは二機とも追いつめた。

そして先に動きを止めた白いネクストにライフルとブレードを放り投げ詰め寄り何事かを声かけていた。

もう止めてくれ、だとかもういいだろうとか。そんな感じだった気がする。

 

白いネクストが限界だというのは間違いなかった。だがイタチの最後っ屁とでも言うべきか、やはり限界が見えていたノブリスのコアにハイレーザーを撃ちこむと同時に白いネクストのコアも爆散した。

変わった形の軽量機はただその二機を黙って見ていた。その姿は泣いているようにも見えたが、アサルトアーマーの連発でPAが切れていたそいつに遠慮なく襲い掛かり倒した。

 

 

生き残ったのは俺だ。

一機仕留めることも出来た。

だというのになんだ、この後味の悪さは。

 

「クソがぁあああ!」

 

コアがいかれているのだから当然の結果かもしれないが蹴られ続けたグレイグルームはついにバラバラになった。

 

「……チッ」

 

『……』

 

その時ダリオの背筋を悪寒が駆け抜けた。

 

「……あ?…………!!」

黒い悪魔が見下ろしていた。

 

 

 

ガン、ガンとネクストがネクストを蹴る異様な音がする。

 

「……」

 

『なんだ…あいつは…』

金属がぶつかる音以外は何もないカーパルスの外壁にそっと降り立ち中を見渡す。

抱き合うように動かず煙を噴き上げる二機の白いネクストの傍で何かを蹴り続ける赤いネクストがいた。

 

『クソがぁあああ!』

 

「……」

 

『敵…か?』

 

「!」

 

『気づかれたか』

 

「……」

 

『アレフ・ゼロかよ…』

音も無く地に降りたったアレフ・ゼロにぶつけられたのは不細工な殺気であった。

凡そ美意識など何も無い、獣のような殺気であった。

 

「……」

 

『てめぇ…ずっと見てたのか?なんで不意打ちでもなんでもして殺しに来ねえ』

 

「……」

 

『時代遅れの一騎打ちみてぇな真似をしたクソガキども…貴族の務めだとか大層な御託…』

 

「……」

 

『なんだ?馬鹿ばっかか?ダンとかいうガキもカニスもジェラルドも…テメェも』

 

「…!」

その必要があったのか?言葉があったらガロアはそう言っていただろう。

抱き合うネクストを赤いネクストが斬りつけて二機の上半身は崩れ落ち傍の水へと沈んでいった。

 

『バカにしやがって…』

 

「……」

動かぬ三機のネクストの中身がどのような人物だったかは知らない。

 

『カニス…?…ダン?貴様、何を…?』

 

『はぁ?あのガキどもの知り合いか?女。俺が殺してやったんだよ!弱ぇくせにほえやがって!後ろからザックリとよぉ!傑作だろ!?貴族の誇りも必死の努力とやらもそれで死ぬんだからよ!

カニスもハッキョーして襲い掛かってきやがって!!あの世に送ってやったよ!!仲良くな!!』

 

『……』

 

「……」

ましてやその三人がどういう関係だったかなんて知るはずもない。

ダンもカニスも…騒がしいあの二人が死んでいたとは。

 

「……」

 

 

 

 

 

(俺さ、カニスと友達なんだ)

 

ガロアに友はいない。

いたこともない。

 

だが今の言葉が侮辱だというのはなんとなく理解できていた。

 

 

 

 

 

 

戦うのが避けられない運命だったとしても、何故二人の戦いの中で死なせてやらなかったのだろう。

何故動かないネクストを斬ったのだろう。

 

「……」

ガロアは激怒していた。自分とセレンのこと以外でここまで怒るのは初めての経験であった。

それはカニスやダンと親しい仲であったから、とかそういう理由では無い。

 

自分はアナトリアの傭兵を恨んだ。

だが、少なくとも自分は真正面から誰が見てもフェアに奴を撃破した。

 

例えばラインアークに侵入し中身だけを撃ち殺したり、フィオナ・イェルネフェルトを人質に取って殺すという方法もあっただろう。

そうしなかったのは自分の正しさを示す為に奴の力の全てを受け止めて叩き潰す必要があったからだ。

つまり、自分の誇りの為に戦っていた。

 

『テメェを殺せばまぁ、いくらかは昇進すんだろ』

 

「……」

昇進。

その為に死人を愚弄する必要があったのだろうか。

 

『おら、来いよ。どうせ紛いモンだろテメェも』

 

「……」

こいつの戦いには誇りが無い。それに対して激怒していたのだ。

こういう男を罰する…無論、自分に罰する権利があるかどうかは誰にも分からない。

だが、罰するとしたら。心の底から悔い、反省させ、慙愧の涙を流させるためには。

奴の信じている力という物を一つずつ屈辱的なまでに真っ直ぐな方法ですり潰していかなければならない。

 

『あ?』

 

ガチャン、という音にダリオは汚い言葉を吐くのもやめて固まった。

 

「……」

 

 

(十全の精神と肉体そろってようやく一人前のリンクスだと私は考える)

 

 

いつだかセレンにその言葉を貰い思ったこと。

子供でもネクストに乗れば簡単に人を殺せる。

それもあっけなく。

あっけない死は自然の摂理なのだろうからそれ自体を否定しない。

だが、もし皆最初は獣として生まれたはずの人を人たらしめている物があるとするならば。

 

「……」

成熟した精神だけだろう。

この男にはそれが無い。ただ武器を手にしただけの子供。悪鬼だ。逃がさない。

ガロアはダリオ・エンピオのプライドを徹底的に潰してからここで討つ事を決めた。

 

 

 

 

 

「…なんだ?気狂いか、こいつ」

完全に武装解除したアレフ・ゼロが目の前で構えている。

意味が分からない。

 

『ガロア。お前の考えていることはよく分かる。どちらにしろもうカラードに弓を引いているんだ。負ければ同じこと。必ず勝て』

 

「…は?おい、なんだ?こいつの首をタダでくれるってのか?」

 

『この期に及んでまだそれか。澱んでいるよ貴様は。例えどれだけの武器に身を包んでも…矮小なお前自身は隠せん。素手のガロアにすら勝てないだろう』

 

「なにを…」

ゾクッ、と背筋が凍るような感覚がした。人格こそ最悪かもしれないがそれでも何人ものリンクスを殺し、アームズフォートをも落としてきたダリオにとって恐怖で凍り付くのは初めての経験だった。

真っ黒なアレフ・ゼロが爆発するような火を噴き一瞬白く染まった。

 

「おうっ…!」

蛇のようにうねる腕がトラセンドの頭とコアに拳をぶつけていた。

 

「くっ…」

ダメージは2000弱。威力で言えばそこまでの脅威では無い。だが。

 

(プライマルアーマーが効かない!?)

ブレードがその間合いにも関わらず圧倒的な強さを誇る理由。

それはネクストの回りを薄く覆うコジマ粒子の守りが全く意味を成さないからである。

どれだけの密度で守られていてもブレードはやすやすとコジマ粒子を切り身を裂く。

ネクスト自身の堅牢さもあるとはいえ、どんなブレードも届けば筆舌に尽くしがたいダメージを与えられるのだ。

そしてそれは誰も考えなかったことだし、やらなかったことだがネクスト同士の徒手空拳にも同じことがいえた。

プライマルアーマーはプライマルアーマーとぶつかり打ち消されてしまい、その衝撃はもろに機体に届いてしまう。

しかもそれだけではない。

 

「ぐぅ…う」

人の形をした物に人の形をした物が殴られる。

そのイメージは実際の衝撃以上の物を繋がれたコードを通って生々しく伝えてくる。

無論、現実にネクストにも中にもダメージはあるのだが、今ダリオは腹を実際に殴られ息が止まる痛みに悶えていた。

 

(距離…くそ、距離だ!)

気づけば目の前にいた事に動揺し二発も貰ってしまったが、何も武器を持っていないんだ。

距離を離せば問題じゃない。

 

『……』

 

「ふっ…ふっ…」

浮かび上がる自分を何も持たないアレフ・ゼロが見上げてくる。

 

『……』

また目の前にいた。

反射的にブレードを振った腕を掴まれて壁際まで投げ飛ばされたのを、なんとか叩きつけられる寸前に持ちなおす。

 

「かっ、撃たなければ!」

動揺じゃない。もはや…見惚れていた。その流れるような動き、潔さに。

 

『……』

 

「ぐぬ…クソが!」

放った右腕と左肩のレーザーはただ地に穴を穿つだけに終わる。

速い。目にも止まらぬ速さだった。黒い残像は真昼間の光の中に夜のように広がっていき、その中心で線となって動く紅い眼光が根源的な恐怖を煽る。

かろうじて避けた胴回し回転蹴りはカーパルスの巨大な砲台を一撃で吹き飛ばした。

 

「どうしてだ!!?」

さらに距離を離し、ロックオン限界ぎりぎりまで下がる。

苦し紛れで何発か撃つが近くでさえ避けられた弾がこの距離から当たるはずもない。

 

「くっそ!!」

当然だが、両手両肩に武器を積んだ自分が無様に下がるよりも何も持たないで真っ直ぐ前に飛ぶ奴の方が余程速い。

 

(見切れるわけがねぇ!!)

今まで相手にしてきたどんな奴だって武器を手にしていたのだ。

何も手にしないで駆けるネクストの速さなど想像もつかない。

 

ドッ、という音の出所がトラセンドのコアだとダリオは気が付かなかった。

 

「ご…おおおおおおお!!」

跳び蹴りを食らった。また当たるまでわからなかった。

吹き飛ぶ勢いそのまま苦し紛れにオーバードブーストを着火し転がるように逃げる。

 

「あああああああ!!」

チェインガンを乱射するが一発も当たらない。ロックオンすらしてないのだから仕方がないが。

 

(大丈夫…銃があれば近寄らずに殺せるんだ…俺の方が有利だ…)

その考えが徹底的にずれていることに気が付いたのはすぐだった。

 

(待てよ)

 

(弾が切れたら…どうなるんだ?)

有利に立っている人間がすべきことはその地位であぐらをかくことではない。

それが失われたときにはどうなるのかと恐怖し、失わないようにはどうするべきかと考えることである。

恐怖こそが人の本気を100%に引きずり出す。太陽を背に黒い悪魔が目の前にいた。

 

「くあっ…カァ!!」

人中、鳩尾、股間。

人体ならその箇所に打撃が決まれば勝負は決するであろう三発を受け咄嗟に左腕のブレードにエネルギーを送り込んだ。

 

『……!』

 

「ハァッ!ブレードまで捨てて馬鹿だなテメェは!」

恐怖で研ぎすまされたダリオの、元々は戦士として優れていた神経は、アレフ・ゼロの肩についているフラッシュロケットを僅かに焦がしていた。

 

『……』

 

「シャァ!」

一瞬の驚きがあの中身…ガロア・A・ヴェデットに見えたのを機に果敢に攻め立てる。

 

「……ケッ」

全力で振ったブレードをいともたやすく潜り抜けやがった。

だが、それでいい。

 

(この距離なら関係なく死ぬんだろ?!)

先ほどの白いネクストがしたように右腕に握ったレーザーライフルをコアに突きつける。

 

(勝ったッッ!!)

 

『…よくやった』

 

「あ…れ?」

ぱしっと腕を掴まれたとき、ダリオは呆けたように立つことしか出来なかった。

相手のオペレーターの声は未だにこちらに聞こえているのも作戦の一部なのだろうか。

そんなことしか考えられなかった。

 

メキィ

 

「うぐ、ああああああああああ!!」

瞬き。

それぐらいの時間しかなかったのにもう両腕の外側にいた。

左手に掴まれた右腕は回転するアレフ・ゼロの勢いに逆らえずにへし折られてしまっていた。

 

いつか狼藉者たちがガロアを誘拐しに来た時に激昂したセレンが繰り出した技をそのままガロアはアレフ・ゼロに乗って再現していた。

 

『……』

ずしんずしんと音を立てて迫ってくるアレフ・ゼロは戦場の王であるかのように悠然と、しかし堂々と歩いている。

カニスの言っていた通り、この男は強い。強い!例え自分がどれだけの策を弄してどれだけ卑怯な手を使っても叩き潰されるだろう。

 

「はぁ…あぁ…おい、オペレーターの女」

 

『…なんだ』

 

「馬鹿なんて言って悪かった。こいつは強い。…尊敬するぜ」

 

『ほう…』

 

「だがな…それでも勝つのは俺なんだよ!があぁああああああ!!」

 

「うっ、ふっ…うっ…いてぇ…」

肩につけたキャノンとチェインガンをパージしながら使い物にならなくなった右腕を斬り落とした。

幻であるはずなのにそれでもバーナーで炙られるような痛みが右腕を襲っている上バランスが取れない。

もうこの首についているコードを取ってしまいたい…が、それでは殺される。

 

『ほう』

 

「右腕もねえ…これで…俺の方が速いだろ!?」

 

『ただのクズではなかったか』

 

「らぁあああああ!!」

生まれて初めて死に物狂いという境地で繰り出したブレードの斬撃はしかし、なんともないと言わんばかりにあっさりと躱される。

少々不自然な格好から繰り出されたカウンターはこれでもかというほど中身に響いてくる。

 

「ぐっ…」

さっきより速くなっているというのに何故今度は掠りもしない?

何故また当てられている?

 

『……』

 

「ふっ!」

融通無碍とでもいうのだろうか。一撃一撃にたっぷりと殺意を乗せて繰り出しているというのに、明らかに人体には存在しない部位のスタビライザーにすら当たらない。

 

(野郎…一発で死ぬ剣を…さらりと避けやがって!)

 

「おおっ!!」

更に一歩、深く踏み出して剣を振ろうとしたとき、踏み出した膝を踏み台にして正中線に四発もの攻撃を入れられた。

昔何かの本で読んだ…確かカラテだかジュードーだかの必殺技だった。こんな動きをあっさりと出来るのはイメージの力だけでは無い。

よほど普段も身体を鍛えているのだろう。その時ダリオは尊敬の念と共に、その動きを美しいと思っている自分に気が付いた。

 

(不思議だ。体中が痛いが…右腕の痛みが消えている)

 

『……』

 

(それに…)

 

「おぉ!!」

死ぬかもしれない。その際に来てダリオは一歩だけ戦士として進歩したのか、振ったブレードがアレフ・ゼロのヘッドに傷をつける。

 

(掠った!!)

 

「はぁっ…はぁ…」

 

(…楽しいだと…!…だが……)

 

ピーピーピーピー

 

「…へっ」

画面に表示されているAPは既に9割を切っており、あちこちに異常が生じている。

もう、持たない。

 

(俺が今まで馬鹿にしてきた物…俺が今までかなぐり捨ててきた物…ようやく今…遅すぎたな)

 

「おおおおおおああああああああああ!!」

 

今までで最速の一撃を繰り出す。

音を置き去りに空気を薙いでその首へ。

 

『……』

 

見えたのはブレードを持つその手が自分のコアの方へぐいっとアレフ・ゼロの手によって曲げられる瞬間だった。

 

(あれ?さっきまで見えていなかったのになんで見えてんだ?)

 

(これなら勝てるだろ!)

 

(でもこの位置はどうしても避けられねえか)

 

(なんだよ…打ちのめして倒すんじゃなかったのか)

 

(俺は…俺の手によって死ぬのか?…似合いだな)

 

「…ハッ」

 

最期にダリオは心からの称賛をガロアに送っていた。

自分にそんな感情があったとは知らなかった。

静かに笑ったダリオは、今まで何人もの人間にそうしてきたように、ブレードの斬撃によって塵も残さずにこの世から消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

「……これは…」

 

互いが武器を放りだし戦う異様な戦闘を大勢のカラード関係者、そして少数のORCA旅団のメンバーが見ていた。

真改もその一人である。

 

「……」

近接最強なのは奴だと、いつしか音に聞こえていた。

だから本当はORCAに入らずに敵対していてくれと願っていた、とは誰にも言えていない。

 

アンジェを殺したアナトリアの傭兵を殺した男。

是非とも自分の手で斬りたかった。

 

感情が、やはり揺れていたのか?

復讐ともなんとも言えぬ思いをアナトリアの傭兵に抱く日々はこの男の手により唐突に終わらされた。

 

天下無双。

 

アンジェが求めていた言葉、境地。

未だに彼女の影も踏めていない。

本当に少しだけだが、分かってはいた。

暗い感情を乗せて届くものではないと。

純粋に目の前に立つ相手を薙ぎ倒し、到達する頂…天の下に双つと無き者。

自分は燻っている。

 

「…く…」

腐れきった相手すらもまるで抱擁するかのようにその心に引き込んでしまった。然し、その代償は死。

 

見惚れてしまうほどの美しさ。

自分にその妙境の美は存在しない。

 

「…俺は…」

真改は死していよいよ触れることすら敵わなくなったアンジェの影を未だに追い続けている。


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