Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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アルテリア・クラニアム襲撃

アルテリア・クラニアム中枢。

主要機関部の扉を開いて出てきたレイテルパラッシュの前にはマイブリスが騎士のように立っている。

全く、似合わない。

剣を掲げる自分が守られていることも、あの男が騎士を気取っていることも。

 

「すまないな、ロイ。最後まで私なんかに付き合わせてしまって」

男を好きになれないように生まれた、と気が付いたのはいつだったか。

自分よりもずっと年下の少女に一目惚れしてしまった時だったか。

そんな彼女も殺されて、今の自分は義務感と意地で動く抜け殻だ。

 

『おいおい、どうしたんだ?いつもみたいに辛辣に当たればいいじゃないかよ。似合わないぜ』

 

「勝っても得られるものは無い。負けて失うものは大きい。…それに、あんなに大勢の仲間がいるのならラインアークに行くか…それこそ、お前の仲間だと言えばカラードでも働き口があっただろう。何故そうしなかった?」

 

『なぁに。好きなように生きて好きなように死ぬ。誰のためでもなく。それが俺らのやり方さ。俺は望んでお前についてるんだ。美人の涙が最優先ってな』

何気なく核心を逸らしてはいるが、ロイはロナルドからの『巨大になった組織はそのうち腐敗する。自分達の力で生きていけ』という言葉に従ってきただけだ。

結局その言葉は正しく、ラインアークは言うまでもなく、今回の戦争も企業の膿から起きたようなものだ。

 

「だが、私はこれまでお前の好意を…私は…男は好きになれないらしい。だがもし、それでもお前が望むのなら…」

このように生まれたからには処女のまま死ぬのだろうと思っていたが…もしそうでないとしたら、もし相手を選ぶことが出来るのなら、それがロイならば文句は無い。

感謝に義理をなんとか上乗せすれば好意に出来ないこともないだろう。自分が普通だったら間違いなく惚れていたのだろうな、とは思う。

 

『相手に見返りを求めない親切を好意って言うのさ。フラれんのも男の仕事だ』

 

「……そうか」

 

『それに、女なんてのは買いに行けばいくらでもいる。もっと言えばよ、こんな時代なんだから、好みの女の身体だけ欲しいのなら組み敷いちまえばいい。けどな、それじゃあ心は貰えない。

金や力では身体は手に入っても心は手に入らない。何がこの世で一番美味いかって…そりゃぁ…人の心が一番美味いだろう?それが好きな女の物ならなおさらさ。もう、お前から貰ったよ。十分死ねるさ』

 

「…ふん。馬鹿を言うな。勝って、生き残るんだよ。死にはしない」

だがこれから来る相手はどちらをとっても最悪の相手。生き残りを意識して動きを鈍らせればまず死ぬだろう。

 

『そうだな。…っと…。お客さんだぜ、ウィンディー。想像通りのな』

 

「…!待て、ロイ。構えなくていい」

段差を越えて現れたダークレッドの機体にレーザーライフルを向けようとしたマイブリスを言葉で制する。

 

『なんだって?』

 

『お前たち…やはり腐っては生きられぬか』

 

「よく来た。マクシミリアン・テルミドール」

まずはこちらの土俵に引きずり込まなくてはならない。

残念だが、例え二機でかかっても勝率は低いだろうし、何よりもまだあの憎いガロア・A・ヴェデットが残っている。

 

『……?今更話し合うつもりか、ウィン・D・ファンション』

 

「どうするつもりだ?私たちと戦って勝ち、その上で侵入するつもりか?無事で済むとでも?」

 

『私に勝てるのかどうかは自分が一番分かっているのではないか?…それに万に一つ、私が死ぬような事があっても…』

 

よし。引き込めた。後は心を抉るだけだ。

 

「…そうだな。まだガロア・A・ヴェデットも残っているからな」

 

『その通りだ。お前たちでは奴は殺せん』

 

「全くもってその通りだな。…くっ…あっはっはっはっはっ!!」

 

『ウィンディー?』

 

『…何を笑う?』

 

「何を?何をだって?!これは滑稽…いや傑作だ!!あっはっはっはっはっ!!」

 

『何が言いたい』

 

「貴様は旅団長なのだろう?元カラードランク1・オッツダルヴァ」

 

『!?』

 

『…やはり気づいていたか』

 

「いや…傑作。旅団長と名乗りながらも、どうせ作戦計画はほとんどあのメルツェルがやっていたのだろう?強さこそが貴様を旅団長足らしめるものだったというのに…」

 

『……』

 

「その強さもガロア・A・ヴェデットに劣るとなっては…くっく…貴様は何のためのリーダーだったのだ?ランク1はおかざりか?」

 

『貴様…』

 

「ベルリオーズのクローン人間としてただ一つ持って生まれた使命すらも奪われるとは!!貴様は…何のために生まれたのだ?道化か?はっはっはっはっ!!最初からいなくてよかったんじゃないか!?何も残ってないじゃないか!!」

 

『な?!』

 

『くっ…貴様…どこまで…』

 

「いやいや…くっく…そんな男が…戦いもせずに負けを認めるとは…くっ…これが笑わずにいられるか」

 

『勘違いするなよ貴様。あくまで奴とお前たちが戦った場合の話だ。私と奴が戦えば私が勝つに決まっている』

 

「ほう…。ならば証明してみせるか?出来るのか?貴様に」

来た。テルミドールの頭に血が上っているのを感じる。

このまま誘い込めればこちらの勝ちだ。

 

『何だと?』

 

「貴様は、貴様と戦い終わった後の私たちにガロア・A・ヴェデットは勝つと言ったな。逆に貴様は奴を倒した後のダメージを負った私たちを倒せるのか?」

 

『当然の事だ』

それは当然のことだろう。万全の今ですら勝てるかどうか怪しいのに。だが大事なのは、奴のプライドを徹底的に煽ることだ。

そして既に食いついてきている。

 

「作り物の偽物だらけの貴様の人生の中で…その強さだけは本物だった。オッツダルヴァ。それを証明してみせろ」

ウィンの言葉と同時に主要機関部の扉が開く。

ロイが道中、「こんなもの何に使うんだ?」と言っていたそれは、ラインアークが回収した後ウィンが買い取り修理しておいた青いネクスト・ステイシスだった。

 

『これは…!ウィンディー…』

 

『…ステイシスか!…貴様…』

 

「行け。ガロア・A・ヴェデットは私たちが相手をする。その戦闘の勝者を貴様は倒してみせろ。貴様の最強だけは作り物ではない本物であることを証明してみせろ」

 

『………ふん。いいだろうウィン・D・ファンション…!貴様の安い挑発に乗ってやる…!』

 

 

 

 

 

(なんだこりゃ…どういうことだ…)

信じられない光景。

ORCA旅団長、マクシミリアン・テルミドールのダークレッドの機体が自分達がまさに守らなければならなかった扉を開けて入っていく。

 

(いいのかよ…つーか、さっきの…)

狂気じみた笑い声に嘲笑交じりの言葉。

 

(えげつねぇ)

言葉だけで敵のリーダーを戦いの場から降ろしたのは流石だが、その抉るような言葉も、初耳の過去も同様にえげつない。

ただのランク1ではないと思っていたが…企業連は一体どこまで腐っているのか。

 

『軽蔑するか?』

見透かされたのかと思う程完璧なタイミングで通信が入る。

その声にはほんの少しだけ悔いとも悲しみとも取れるような色が混じっている。

元々が正義感溢れるウィンからすればあのような言葉を用いること自体、気が進まなかったのだろう。

 

「まぁ、間違っているかどうかなんてのは…勝ってから考えりゃいい事だからな。けど、いいのかよ。あんな簡単に中に入れちまって」

 

『無論、あの中の機械類を全て叩き壊せばクレイドルは墜落するがそれは奴らの目的ではない。エネルギーの供給を緩やかに断ち、地上に降ろさなければならない。

例え中に入っても1時間やそこらで終わるような作業では無い』

 

「…いや、そういうことじゃ…」

 

『ガロア・A・ヴェデットはテルミドールを焚き付けて三人で叩く。当然だ。その後すぐにテルミドールも殺す。それでこの馬鹿げた戦いも終わりだ。卑怯だなんだと言われても、最早勝つ為の手段は選ばん』

 

「…きれいごと言って戦争に勝てるってんならそもそも戦争なんか起こらねえ。お前は正しいよ、ウィンディー。…うっ!?」

 

『…なんだ…これは…』

ロイが感じると同時にウィンも感じたようだ。

身体中に至近距離から刃物を突き立てられいるかのような悪寒。

 

「来やがったか…強い…あの時一緒に戦った時より遥かに…!化け物がよ…」

語気を強めて悪寒を振り払おうとするがそれすらも馬鹿馬鹿しく映る程桁外れの圧力。

 

『気を抜くな、ロイ…』

凍りつく空気の中で二人の頭の中での言葉はほぼ一致していた。

小賢しい策を弄したところで、数の優位があったところで、勝てる相手なのか…?これが。

 

『……』

 

「!」

 

『!』

100m程離れた段差の上にはいつの間にやらアレフ・ゼロがいた。あちこちからスパークを迸らせ武器も左腕にブレードしか持っていない。

アンサラー撃破からまだ半日も経っておらず、修理は全く間に合っていなかったのだ。

だがそれでも、相対しただけで背骨全部が氷に置き換わったかのような感覚は、勝てるとか有利だといった言葉すら口にさせてはくれなかった。

 

幾つもの死線を潜り抜け、一人戦場で生き残ってきたガロアはもはやカラードのランク一桁のリンクスですら恐怖を覚えるようになっていた。

 

純粋な力のみで全ての上に君臨する王。そんなものが本当にいるとは。

 

『キ…サマ…』

 

(まずい!!)

完全に及び腰になっていた意識がウィンの恨みの籠った声で現実に叩き戻される。

まずい。共闘で大事なのは意識と息を合わせることだ。怒り心頭のウィンと心まで冷えた自分では行動がちぐはぐになり互いの足を引っ張りかねない。

 

『リリウムの仇をとらせてもらうぞ!!』

ここまで冷静…いや、冷血を保ってきたが、リリウムを殺した張本人を目の前にしてウィンの心の底からマグマのような怒りが湧き上がり、抑え切れない衝動が身体を突き動かした。

 

『……』

飛びかかろうとするレイテルパラッシュをアレフ・ゼロの紅い複眼が冷酷に淡々と捉えていたのを見て、ダメだと思いながらも更にロイはぞっとする。

きっと今の体温を計れば20度くらいだろう。

 

「よせ!!ウィンディー!!」

せめて盾になろうと、らしくないことを考えてしまったのが運の尽きだった。

いや、もしかしたらそうなるように誘い込まれていたのかもしれない。

低く構えたアレフ・ゼロのブレードが大蛇のように伸びた。

錯覚では無く実際に伸びたように見えた。

 

あの表情のほとんどないガロアがコアの中で凶悪に笑っているのが見えたような気がした。

そこまでがロイ・ザーランドが認識できた現実だった。

 

戦場と化したはずのクラニアムにたった一回の斬撃音が響き渡り、その後には静けさだけが残った。

 

マイブリスのコアは切り裂かれてロイは即死し、レイテルパラッシュも半身を消し飛ばされその場に沈黙した。

この分ではウィン・D・ファンションも生きてはいないだろう。

 

『……』

 

「なんともあっけない…。お前が強くなりすぎた…、というよりもこの二人の頭に血が上り過ぎていたな」

イクリプスやアンサラーを両断した一撃。

当然、ジェネレーターが悲鳴を上げてはいるものの初手の一撃で二機を撃破してしまった。

冷静ではなかったとはいえ、たった数秒でランク一桁二人を殺してしまった。

ガロアは強くなり過ぎた。ガロアの才能に気付き徹底的に武を叩き込みその力を伸ばしてきたが、最早前人未到の域にいる。

あの凶悪な眼は二人の動きをコマ送りのアニメのように捉えていたのだろう。

 

『……!』

戦いの終わり。

少なくともセレンにはそう思えたが、ガロアは目的の扉から尋常ならざる雰囲気を感じて飛び退いた。

その直後に重厚な扉がわずかに開いた途端に線となったレーザーが放たれた。

開ききった扉の中からかつて二度ほど共闘した記憶のある紺碧の軽量二脚機が姿を現した。

 

「ステイシス…?」

水没したはずだ、とかオッツダルヴァのネクスト、だとか情報が頭を駆け巡る中突如ステイシスがアレフ・ゼロへ攻撃を仕掛けていく。

何故か何もかもガロアも分かっていたかのように攻撃を潜り抜けてステイシスの元へと駆けていた。

 

「テルミドール…裏切ったか…元より、貴様等のはじめたことだろうが! 」

意味不明な裏切りに困惑交じりの怒りを吐き出す。

あの時ガロアがオッツダルヴァがテルミドールだと分かった理由は未だに分からない。

だが、その言葉が当たっていたのだと断じるには十分な現実だった。

 

『テルミドールは既に死んだ。ここにいるのは、ランク1、オッツダルヴァだ 』

 

『……』

その言葉を聞いてガロアはまるで笑っているかのようだった。

声は聞こえないのにセレンはガロアが今笑っていることを確信できた。

強い者は強い者を求める。自分の強さを受け止めて理解してくれる者を求めるのだ。

 

『私が…私こそが最強なのだ!貴様に…貴様如きにORCAは渡さん!!』

 

「なにを…!?」

PMミサイルを発射しながら影を置き去りにせんばかりの爆発的速度で消えていく。

 

「……なんだ?」

PMミサイルは壁にぶち当たり弾けた。

回避が難しい角度を飛ぶのがPMミサイルの特徴なので、障害物にぶつかることも多々あるのだが今のミサイルはアレフ・ゼロに向かうそぶりすら見せなかった。

恐らくはロックオンが完了していないうちに発射されたのだろう。

 

(冷静さが無い…?)

滅茶苦茶にライフルを撃ちはじめるが、どれも精細さに欠けており、スピードで遥かに劣っているアレフ・ゼロにほとんど当たりもしない。

そもそもこんな閉所でブレードを積んだ機体にスピード勝負を挑むことが間違いなのだがそれが分からない程間抜けな人物だっただろうか。

そう考えた瞬間に緑の閃光がセレンとガロアの目を焼いた。

 

『……!』

 

「ぐ…無茶苦茶だ…!」

身を隠す場所も無いと言うのに中途半端な場所でのアサルトアーマー。PAが削られいくらかAPも減る。

それでも元々修理が追いついていなかったのもあり、APはいきなり40%を切った。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

しかしガロアは緑の閃光でステイシスの視界も奪われた瞬間に壁を蹴って背をとっていた。

空中で舞踏家のように回転し、エネルギータンクの破片が雪のように降り注ぐ中でガロアはブレード一本しかない上APも半分以下という絶体絶命の状況を楽しんでいた。

 

『ぐはっ…!』

勘づいて何とかブレードは避けたが思い切り殴り飛ばされ地面へと無様に叩き込まれたが落下の間に放ったライフルがアレフ・ゼロの装甲を削っていく。

 

『なにがどうなってる…オッツダルヴァも、テルミドールも…こんな人物だったか?』

 

「……」

転がるステイシスにムーンライトの一撃。

だがカウンター気味に撃たれたレーザーバズーカを避けきれずに右手が消し飛んだ。

まるでこちらがそう動くと分かっているかのような素晴らしい反応だった。痛む右腕を感じる脳は歓喜の渦に飲みこまれた。

これから抱擁するかのようにこの男も力で飲みこむのだ。

 

『真改のムーンライト?!何が…何がお前にあるというんだ!あああああああああ!!!』

緑の粒子が中心に集まっていくのが見える。絶対に避けなくてはダメだ。

そう頭では完全に理解しながらガロアはステイシスの元へと回転しながら飛んだ。

 

「……カッ!!」

回転した身体から脚を竹トンボのように開き、中身にいやというほど響く、コアへの三連撃を当てるとコジマ粒子の収縮が中断した。

 

『がっ…!』

さらにブレードで斬ろうと欲をかいた瞬間に右肩にライフルを当てられた。

ミシミシと、外から出はなく中から軋む音が聞こえた。もうアレフ・ゼロの中身も限界だ。

だというのにこの音は喜悦の声のようだった。それが自分のものか、アレフ・ゼロのものか…はたまた妖気を帯びたブレードのものか分からないがどうでもいいしこれでいい。

 

『負けるか!私が!!』

 

「……」

強い。精細さは無いが、そこには不気味な気迫がある。

まるで一撃一撃を命そのものをぶつけられているかのような攻撃だ。

ホワイトグリント戦以来の生死の崖を覗き込むほどの削り合い。このやりとりが欲しかった。

当然、ムーンライトの機能を知っていたのか、ブレードを振り被った瞬間にステイシスは回避しており、その後ろの壁に巨大な爪痕が刻まれた。

 

 

 

飛ぶ二機の間に火花が散る。

スピードで翻弄しようとしてもすぐに距離を詰められ、格闘戦をしかけようとしてもカウンターをとられる。

プライマルアーマーも無い二機のネクストは途轍もない勢いで傷だらけになっていく。

だがアレフ・ゼロのAPも20%を切った。終わりは近い。

ブレードで斬りかかると左腕が払われそのままライフルを突きつけられるのを殴り飛ばそうとすると足で受け止められる。

引けばいい。中距離で戦えばいい。そういう戦略の機体なのだから、と思いながらもそうはしないと分かっていた。

 

足払いからの掌底。

ブーストの勢いを余さずに利用したその攻撃は細身のステイシスを吹き飛ばしエネルギータンクを砕きながら壁に激突させた。

 

『く……』

 

「……」

痛みに呻いたその隙を逃さずに距離を詰めて斬りかかる。

 

『私が…!私は!!貴様よりも!!』

通常では考えられない速度で回復したPAで即座にアサルトアーマー。

先ほど抱いた感想と違わず、命そのものを削ってぶつけてくるかのような攻撃がアレフ・ゼロを包んだ。

 

だが。

 

「…!」

考えることは同じだったようだ。

アレフ・ゼロの周囲のコジマ粒子が荒れ狂い周囲を無差別に襲い、ステイシスのコジマ粒子とぶつかり合う。

さらにアレフ・ゼロは機体を回転させながらムーンライトを起動する。

コジマ粒子に激しく塗装と装甲を削られ、黒い霧を発して白い骨組みだけになりながら斬りかかるその姿はまさしく死神だった。

全ての時間が溶けてなくなってこの瞬間だけを保存してしまいたい。ガロアは全身の痛みと喜びに笑いながらステイシスを斬った。

 

「………」

手にはじぃんと熱い感触が残っていた。

APは残り二桁しかないし、ジェネレータもアサルトアーマーとムーンライトへの過剰出力により致命的なオーバーヒートを起こした上、

今の攻撃でムーンライトもどこかがいかれてしまったらしい。それでも生き残った。今この瞬間が一番命のありがたさ、強さを感じれる。

 

「く………」

 

「……」

斬り開かれたコアからテルミドールが見えている。

破片が食い込んだ身体のあちこちからは血が流れており、ボロボロになったパイロットスーツは度重なるアサルトアーマーによるコジマ汚染からは守ってはくれない。

あれではもう、長くは生きられないだろう。

 

「……」

セレンはテルミドールが裏切ったと言っていた。確かにそうだろう。

だが、自分はこうなることを望んでいた。戦って戦った自分の全てを、運命ごとぶつけてなお生きていられる相手を欲していた。

 

 

 

 

バシュウ、と戦いの終わった戦場に音が響いた。

 

『な…!馬鹿野郎!!何やってるんだ!!』

 

「……」

破壊度合いで言えば動かなくなったステイシスとほぼ同じアレフ・ゼロの背中から蒸気を吹き上げながらガロアが出てくる。

クレイドルの薄暗い明かりがステイシスの蒼いボディに反射してガロアの顔が、眼がよく見える。

 

(私を…私を強かったと…そう言ってくれているのか…)

使命を忘れ、自分にのみ執着し襲い掛かった。

言葉に乗せて、ガロアを巻き込み、言葉に乗せられて、ガロアを襲った。

道化と嘲笑われたが、この状況こそ正しく道化だ。だがそれでも。

 

「お…おま、…お前と…戦えてよかった…」

そんな短い言葉を口にしただけで血を吐いた。もう間もなく死ぬのだろう。

 

「……」

言葉を話せないガロアからは何も返ってこない。

だがその眼は雄弁に語っている。いや、先の戦いの中で語り合った。

 

「お…前も、強かった…」

 

「……」

痙攣しながらも笑った自分を見てガロアも静かに笑っていた。

 

(……!)

魂が身体から抜けていく。その死の際に来て高速で回転し始めた頭で情報が一つに繋がっていく。

何故ウィン・D・ファンションが自分の過去を知っていたのか。何故自分だけがガロア・A・ヴェデットの誕生日を知っていたのか。何故初めて会ったような気がしなかったのか。何が『同類』だったのか。

今、ようやく一つに繋がった。証拠は何一つないが、確信だけはあった。

 

「そうか…!ガロア。私とお前は…」

 

ボォン!!

 

何かを言い出そうとした瞬間にテルミドールはコックピットごと弾けてただの肉片となった。

 

「!!」

ウィン・D・ファンションの最後の知計。

結果的に大量の死者を出したこのテロリストたちを元々生かしておく気などなかった。

それは例え一時的に味方に引き込んだとはいえ、テルミドールも同様。

ORCA旅団のネクストに倣い、ステイシスのAPが0になったらコックピットを爆発させるように仕組んでいたのだ。

 

「……!」

 

『………ガロア』

 

「……」

 

『終わりにしよう』

 

こうして世界最大のテロは、最重要リンクス5人、主要リンクス7人の全員死亡、さらにカラードのランク一桁のリンクスの全員死亡を以て終結した。

生き残ったORCAのリンクスはガロアただ一人であった。




ひたすらに強さだけを求めた二人は理解者になり得るはずでした。
そして最後にテルミドールは何かに気が付いたようですが…それを口に擦る前に爆死しました。

目の前の全てを薙ぎ倒しとうとうガロアは戦場の王となりました。
そしてこれからクレイドルが降り、この世界全てが戦場になります。

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