Armored Core farbeyond Aleph 作:K-Knot
生あるものとして逸脱した行為。
強きは当然ながら、弱きも保護され同じように生き延びる世界だ。
人は当たり前の淘汰に逆らいながらも自然の摂理には逆らえずにずるずると地球を蝕み続けてきた。
金、武力、カリスマ。
どれでもいい。
力がある者が生き残り、力なき者から奪われ死んでいくという自然からの視点では正しい形に今、人類は戻された。
一人の人として超越した力を持った存在、リンクスによって。
アルドラの廃ビルのすぐそばの砂地の上で塗装と装甲が剥がれて骨組みの大部分が見えてしまったネクストが跪いている。
傍には動かなくなった大型のブレードが墓標のように突き立てられていた。
「……」
「……」
曇天の空を眺める男女が二人。
体格がよく、赤い癖毛が目立つ男の方は砂の上に足を広げて座り、真っ直ぐ艶のある黒い髪を肩まで伸ばした女はその男より一歩下がって後ろ手を組んで立っている。
鉛色の空には雲以外の何も浮かんでいない。
クレイドルは全て地上に降ろされた。後の全てをORCAの残党に任せたセレンとガロアは自分達の成したことの最後を今、見届けようとしている。
ドッ
「…あ」
地平線の彼方から光の柱が雲に突き刺さり大穴を空けた。衛星軌道掃射砲はここからは見えないがその光は十分に見える。
最初は小さな穴だったが津波が押し寄せる様に青一色に染まり、空から一切の雲は消えうせ、すがすがしい碧空がセレンとガロアの上に広がった。
「……」
「ふーん…」
綺麗だな。10秒くらいその感動に浸ったが、それだけだ。
企業はセレン・ヘイズとガロア・A・ヴェデットの二人を最重要指名手配犯、史上最悪の犯罪者として世界中のコロニーに通達した。
だが、どのコロニーも押し寄せる空からの大量の人と、各地で起こる犯罪への対応で手いっぱいであり、
残った二桁台のリンクス達も誰もが認める最強のリンクスにどうして挑戦しようなんて気が起きようか。
現在世界各地で人が生きれる僅かな土地で僅かな資源を奪い合い大小関わらず無数の紛争が勃発しており、
それもこれもこの二人のせいだ、と企業は騒ぎ立てるが小市民にとってはそんなお伽噺のように大きな事実よりも今、食べる物にすら困っているという小さな現実の方が大事だった。
「……」
ガリガリ、と奇妙な音がした。
「……ん?」
ガロアが砂地に何やら棒で文字を書き出す。
見慣れない文字に一瞬戸惑う。
「……」
『天下無双?』
「ん?ああ。そうだろう。もうお前に勝てる人間はいないだろう」
天の下に双つと無き者。
だが、結局天の下にいてはどれだけ大きくなってもどれだけ地に落ちても天の高さは変わらず、いずれは朽ち果てる人の身。
天下無双となりてそれを誇る強敵も無しと言うのならば。
(つま)
「どうした?」
(らねーーー……)
父を亡くした日から強くならなければ、強くなりたい、ただそれだけだった。
ガロアには二つの目的があった。それは夢と呼ぶには血なまぐさい物だった。
一つは自分の力でアナトリアの傭兵を倒すこと。もう一つは個の力のみでただ一人、この世界に純粋な力の王として君臨することだった。
つまらないはずだ。
ガロアは知っていた。
このつまらなさ、満たされなさを。
かつてガロアは一つの鎖された世界に力で君臨した王だった。
『つまらない』
ガリガリと砂に率直な感想を書いていく。
「やっぱりか。お前は別に最強とかそういうのになりたかった訳ではなかったからな。勝手に周りが称号やラベルをつけて騒いでいただけだ。最初からお前はお前だったのにな」
「……」
「それで、なってしまうとつまらない、か。まぁそんなものかもしれないな、最強というものは」
(背中…大きくなったのになぁ。…そういえば、いつからだろう。お前の背中を見る方が多くなったのは。お前の後ろから声をかけることが多くなったのは)
「……」
(自分をひたすら信じてどんどん強くなっていくお前は…自分すら分からなくなっていた私にとって眩しすぎた。…隣に立っていられない程に)
「ガロア。これからどうする?」
(俺が欲しかったのはこんな世界だったのかな…寂しいだけだ)
最初は一人だった。
戦って戦って、そうしてまた一番最初に戻っただけ。
なのにどうしてこんなに寂しいのか。最強となったガロアの心に訪れたのは静かな寂しさだけだった。
進んできた道、信じてきた物をその場に置いていくようにして軽く立ち上がる。
「どうした?」
くあっ
「……、……」
後ろから声をかけてくるセレンの方に向きながら、今までのガロアからすればあり得ない程気の抜けた顔で天を仰ぎながら大あくび。
「はっ。なんだその気の抜けた顔」
久しぶりにこちらを振り向いて自分の顔を見たガロアは今まで見たことも無いような抜けた顔をしていた。
いつもいつもある程度気の張った顔と言えばよいのか、涼しげでいて、それとなく眉根に力が入っていたからわからなかったが、こんなにも優しい顔をしていたのか。
ガリガリ
『帰ろう』
「帰ろうって…どこへ?」
ガリガリ
『故郷』
「故郷って…お前の?」
「……」
「…いいさ。私も行こう。着いていくよ」
「……」
「行く当てがないから…じゃなくて、お前と一緒の道に、な。寂しい思いはもう十分しただろう?………お互いにな」
そう言うとガロアはにっ、と笑った。年相応の大人になりかけの子供の笑顔だった。
「ふん!まぁ…ん…ゴホン、なんだ。お前、そっちの顔の方が似合ってるよ」
「……」
砂になった街の上で笑い合う男女が二人。男に手を引かれて女はネクストに乗りこんだ。
その後、僅かな街やコロニーに押し寄せる人々とは正反対に、誰も住めないような厳しい自然が支配する土地へと飛んでいくボロボロのネクストの姿があった。
憎しみの黒い塗装も、最強の力を示す武装も、全て失ったネクストは地上最強の兵器にもかかわらず不思議と何の暴力性も感じさせなかった。
かつて二人の人間が住み、一人が帰らぬ人となり、一人が去った家があった。
その家ではいつからか再び二人の人間が住むようになった。
そしてこの日、全世界で人類史上最も長く最も熾烈な戦争が始まった。
ORCAルート 完
NORMAL END
『ただいま、ウォーキートーキー』
「!!ガロア様!大きくなられて…お帰りなさいマセ。ずっとお待ちしておりマシタ」
『ああ、もうどこにも行かないよ』
「お母さんは嬉しいデス…」
「なんだ…?こいつは」
「ナッ!?スミカ様!?ナ、ナゼ!?」
「なんだと…なんだこいつは、ガロア!?」
『……』
END
今回はノーマルエンドです。
ガロアの心も折れず、セレンの心労もようやく終わりました。
ですがその代り、企業連ルートでウィン・Dが予言したように世界中でかつてない規模の戦争が始まりました。
ガロアとセレン、二人の主人公のことだけを考えれば悪くないエンディングなのかもしれませんが…ハッピーエンドとは口が裂けても言えません。
最後に唐突に新キャラが登場しましたが、詳しいことは過去編「Lapse of Time」まで秘密です。
お待ちかね、人類種の天敵ルートに行きましょう。