Armored Core farbeyond Aleph 作:K-Knot
ラインアーク防衛
「なぜ……?」
ガロアのいない部屋でセレンは頭を抱えて呟く。
とうとうラインアークを表立って攻撃することを決定した企業連はまずホワイトグリントを落とすことにした。
そこまではいいし、当然の事だと思える。オッツダルヴァが自分の所へ来てガロアはどこかと訪ねてきた。
運動場、図書館、いそうなところを全て探し回ったがいなかった。走れど叫べど影すら見えぬ事実が言い知れぬ不安となりセレンを包んだ。
まだ6月だというのにまとわりつくような暑さと嘲笑う様なセミの声が余計に不安を煽った。
ガロアのアレフ・ゼロが格納してあった場所の職員が全員気を失った状態で発見されたのはそれから10分後の事だった。
誰一人として死亡していなかったのは幸いだったが、セレンには分かった。この急所への容赦ない攻撃を経て気絶させる術は自分がガロアに教えたものだ。
向かった先はラインアーク。先に気が付けばよかったのだが、家にあるコンピューターにラインアークから企業の攻撃に対しての防衛の依頼が来ていたのだ。
ガロアはそれを見て何を考えていたのか、受けてしまったのだ。
企業に縛られていない独立傭兵だから勿論依頼しようと思えば金さえあれば誰だって雇うことは出来る。リンクスを一定以上の拘束はせずに、全体の管理下に置く。
それがリンクス戦争以降のルールだったからだ。だが、それでも企業連の攻撃を防ぐ為にカラードの管理下に置かれたリンクスを、それもガロアを雇うのは常識的な発想とは思えない。
まさか全く調べていなかったのだろうか。ガロアの過去の事を。
出撃してしまった物はもうどうしようもない。これ以上戦場を乱してほしくないカラードはセレンに自宅謹慎を命じた。とはいえ、もうこうなってはオペレーターとして何を言うべきなのか思いつかなかった。
「どうして…?何を考えている…?」
ほんの少しだが、何かが狂い始めていた。
「……」
狭いコックピットの中でガロアは光から逃れる下水道のクソ虫のように息を潜めている。
今一度、自分の標的の真価を見定める為、他の誰にもアナトリアの傭兵は殺させない為、理由と言えばその二点だけで今回のミッションを受諾した。
だが、受けるべきでは無かった。殺すと決めたのならば、必要以上の事を知るべきでは無かった。
どんなに極悪非道と決めつけても、どんなに聖人君子に思えても、人間は人間なのだから。
初めて見た、アナトリアの傭兵とパートナーのフィオナ・イェルネフェルト。
相対したときから心の底で疼いた感覚、それは後ろめたさだった。
この二人が二人でいるときの柔らかな空気、笑顔。
そこには一つの汚れも悪も無く、またアナトリアの傭兵を取り巻く人々も笑顔。完全に信頼し、アナトリアの傭兵は自分の帰る場所を守っている。
あまり得意ではないのであろう奴のその笑みをからかう人々は同様に汚れがない。
そしてパートナーのフィオナには………
(……)
これのどこが間違っているんだ?
奴が正しいと思われているのはもちろん、自分でも奴は正しい行いをしていると、どこかで思ってしまっていたのが許せなかった。
父を奪っておいて、突然自分を不幸に叩き込んでおいて、そう思われているのも、自分で思ってしまっているのも。
目の前で見て、決意を改めようと思ったのが間違いだった。
この男は正しい。間違ったことなどしていない。
ただ生きていただけの弱い自分から奪い、ただ生きていただけの弱い誰かを守る矛盾した悪。
そう思っていた。勝手に決めるなと憤っていた。
違った。
どうやら奴は正しかった。
奴は正義で、俺は悪だった。
俺は悪だったんだ。
守られる価値など一片も無かったのだ。
奴に勝てば奴の築き上げた全てがそっくりそのまま自分のものになるとでも思っていたのか?
無理だ。自分にはああやって笑顔を見せて、笑顔を守ることなど出来ない。
守られればあの中で笑えたとでも?
無理だ。自分には…。自分は元から…。
見ろ。
俺もお前と同じように戦って戦ってここまで来たのに。
お前は真っ白で、俺は真っ黒のままだ。
俺はお前にはなれない。
俺みたいな奴はあのまま一生雪の森に閉じこもっておけばよかったのだ。
粘つくような空気が息苦しい。
何か起こるかもしれない。何か、とても嫌なことが起こるかもしれない。
二人は全く口を開いていなかったというのにそんな同じことを考えていた。
「倒そうなどとは絶対に考えるな。引きつける、それだけでいい。あくまで目的はホワイトグリントだ」
「…はい、大丈夫です」
パートナーにガロア・A・ヴェデットを選ぶはずだったのがまさかの敵対に仕方なく別のパートナーを選ぶことになった。
戦力的な面で言えばリリウム・ウォルコットやウィン・D・ファンションあたりを選ぶべきだったのだが、あくまでもオッツダルヴァの目的は別にあり、
ガロアを倒すよりも引きつけておいて欲しいということで、戦闘時間で言えば一番ガロアに食い下がった記録があり、
まともに戦おうとしなければ相手がどんなネクストでも一番生き残れるはずのCUBEを選択した。
オーメルとも資金援助の面で関係の深いアスピナ機関ということもあり、それ自体は滞り無く進んだ。
「どうかしたのか」
やや歯切れの悪いCUBEにそんな言葉を投げかけてしまうのは『オッツダルヴァ』のキャラでは無かったな、と思う。
「いえ…嫌な天気ですね」
「……」
のしかかる様な灰色の曇天が空を支配しており、しつこく纏わりつくような熱気と湿気が肌を濡らす。
嫌な天気だった。
ザーッ…
ラインアークの領域に入る頃には生身なら目も開けていられない程の大雨が降っていた。
カラードの管理街からここまでまるで雨雲が追いかけてきたかのようだ。混戦は必至と思える。
『こちらホワイト・グリント、オペレーターです。貴方達は、ラインアークの主権領域を侵犯しています。速やかに退去してください。さもなければ、実力で排除します 』
重たい雨に映る二つの影。
ホワイト・グリントとアレフ・ゼロだ。
白い影に蒼い複眼、黒い影に紅い複眼が並び立つ様子は一つの絵画のようだ。
『フン、フィオナ・イェルネフェルトか。アナトリア失陥の元凶が、何を偉そうに』
(何か…変ですね…)
違和感を置き去りに淡々と進んでいく会話。
それがますますCUBEの違和感を強くする。
CUBEの目には雨の帳の向こうでなお鈍く光るアレフ・ゼロが何よりも危険だと映っていた。
危険な敵だというのは分かっている。そうではなく、何かが引っ掛かった。
絶望と怒りの先には希望など無かった。どこまで行っても真っ暗。
じゃあ俺はどうすればよかったんだ?どこに希望があったんだ?
お前は正義。だがそれでも。
俺が悪でお前が正義だとしても。
自分の感情には嘘を吐けない。
俺はお前を許せないんだよ…
『……』
『なっ…?』
「えっ?」
雨に遮られて影となっていた二機の姿がようやくまともに見える距離まで来た。
気の進まなさを無視して、臨戦態勢をとり構えていた銃が揺れる。
ホワイト・グリントのコアの中心から蒼刃のブレードが突き出ていた。
ザーッ…
ホワイト・グリントの頭部から光が消えると同時にブレードが引き抜かれた。
その時暗い穴から赤い蒸気が上がった。ブレードの熱で人の身体がいとも簡単に蒸発したのだ。すなわち、ホワイトグリントの中身が。
力なく崩れ落ちたホワイト・グリントの背後から、雨に濡れて鈍く光る黒い機体が紅い眼を血走らせるようにして現れた。
「……」
ターゲットは完全に沈黙している。作戦終了。
『……』
だが、もう帰ろうなんて思う事すら許されない禍々しい雰囲気。
実際に見たことがあるわけでは無いが、アレフ・ゼロから放たれてくるその雰囲気は手負いの獣が飛びかかってくる前の空気を連想させた。
『貴様…』
『……』
「あ……」
飛びかかってくるか、と構えた瞬間に遥か彼方へ飛び去って行ってしまった。
沈黙する二機。ラインアークからもカラードからも通信は入ってこない。
現実感のないつかみどころのない空気の中でただ大粒の雨に打たれるホワイト・グリントの残骸だけが嫌に写実的だった。
時間は戻って、ホワイトグリント撃破ではなく何故かラインアーク防衛を受けてしまった未来です。
十全な精神と肉体が揃って一人前のリンクスだ、とセレンが序盤で主張していたと思います。
セレンはガロアの目的であるアナトリアの傭兵への復讐を知ってもそれを否定しなかった。
結局どれだけ誰かが適当な口出しをしても自分の心の決着は本人にしかつけられないからです。
だからセレンはガロアの中にある才能や力を徹底的に真っ直ぐに育てようとしました。
凶悪な兵器を用いて殺したり、卑怯な手で勝っても救われないのは本人の心だからです。
勝利の前にはそんなものは下らないのかもしれませんが、見栄や誇りを捨てたらあっという間に獣に身を落としてしまいます。
今回ガロアはそんな教えを全て捨てて憎しみだけが先行して後ろから刺し殺してしまいました。
何よりも、自分を修羅の道に叩き込んだマグナスのしていることを正しいと思ってしまった瞬間、自分の今まで犯してきた罪や殺した者の数を自覚して壊れてしまいました。
バッドエンド確定です。
ガロアが正しい、間違っているというのはとりあえずは置いておいて、
正面から撃破していればまだ救いはあったかもしれないのに。
ちなみにジョシュアはフラジールをマグナスはステイシスに目を向けておくという作戦だったので二人ともアレフ・ゼロのバックスタブに気付きませんでした。
以降、このルートに一切の救いはないのでここは読まないのも手かもしれません。