Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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クレイドル03破壊

三機のクレイドルが既に煙を上げて大陸と海洋に落ちていった。

大爆発を起こすか、海の底に沈むか。どちらにせよ中の人間は生き延びることは出来ないだろう。

残りの二機のクレイドルも空の自律兵器から次々に攻撃を受けて何もせずともそのうち大破するだろう。

 

 

図体ばかり大きく、何の装甲も無いエンジンにショットガンを突きつける。

 

「あいむしんかー…とぅーとぅー…とぅー」

リザの上半身が埋まるほどの大穴があき、途端にエンジンが煙を上げた。

足元の馬鹿でかい棺桶から魂の震えを感じる。

 

『……』

アレフ・ゼロがもう一つエンジンにブレードを刺しこむと、クレイドル全体に大きな揺れが広がった。

 

「八千万」

 

『……』

自分もそうだが、特にガロアも何か感想があるというわけでもないらしい。

何の意味があってか、命が、意志が宿っていた物質がただの原子の結合へと変わっていく。

ただそれだけだ。

 

(そうだよな…もう、動かないよな…何を見ても…)

 

『……』

 

『ガロア!?ガロア!?何を…何をしているんだ!?ガロア!!聞こえていないのか!!』

 

「あ…?」

 

『やめろ!!やめてくれ!!』

 

(なんだ…?ガロアが話せないことを分かっていない…いや、この声のかけ方は……ああ、なるほど)

 

『お前…!!…お前が…ガロアを!!』

 

(現実を受け入れられないのか)

 

『唆した…いや、脅したのか!?許せん…』

 

「くく…」

まるで分かっていない。違う。一つの面しか見えていない。

 

『何がおかしい!!』

 

「お前が誰だか知らんが…お前の思っている通り、ガロアは純粋な子だ。…この世界で一番透明な子だったろう」

 

『だからこんなことを…』

 

「お前が…ガロアをこれまで育てていたのか?くくっ…何を見ていたんだ…人を見るのは苦手か…?」

 

『何を言っているんだ貴様!!今すぐ止めろ!!』

 

「純粋…そう、純粋だ。友も知り合いもおらず、父が死んでから以降、俺もガロアとはなるべく関わらないようにしていた」

 

『!?お前…お前はなんだ…?』

正体を問うてくるあたり、今までに自分の事を伝えていなかったのか。

だが、どっちにしても自分が誰かと聞いてくることはこの場では場違いだ。

 

「そんな中で一人で考えて考えて…考えてガロアはアナトリアの傭兵を殺そうと決めたんだ。誰にも唆されず、一人で、な」

それはある種の賭けのようなものでもあった。親を殺されたガロアは一人でどういう結論を出すか、と。

ときどき立ち寄ってはそっと食料を置いていき、父が死んでから実に4年もの間会わず、会話もせずにあとはあの白い森に放置していた。

アナトリアの傭兵が悪い…どころか誰が父を殺したかもすら言っていない。本当にただ生かしていただけだ。あそこには人も住んでいない。

死ぬならばそれもよし、生きているなら生かす、それだけだった。

 

そして出てきたのは恨みの化け物だった。ガロアは自分で考え抜いた結果誰にも相談せずに一人でアナトリアの傭兵を殺そうと決めたのだ。

何一つ持たない子供がよりによって世界最強の男を。それを支えるのは一体何だったのだろうか。

 

『なに…?』

 

「ガロアが初めて戦場に出て人を殺した日、後悔していたか?してないだろう?ガロアは善悪の基準を全て自分で決めて、自分の裁量だけで人を殺す。こいつは生まれながらの…悪だったんだよ」

強すぎる鋼の心だったのだろう。そしてその心は強すぎるが故に人の言うことなど全く聞かない。

自分にAMS適性があることすら知らない子供がアナトリアの傭兵を殺すと決意し行動するのはそれほど異様なことなのだ。

そしてガロアは復讐、その為だけにミッションを受けて人を殺し続けた。そこにはポリシーも何も無い。

ただただ自分が憎んでいるから、その目の前に立つ奴は邪魔だからとそれだけだった。

 

正義はない。だが悪はある。自分の都合だけで人を殺す者、裁く者はどうしたって悪なのだ。

 

『そんなことはない!!そんなことはない!!』

悲鳴のような声で否定する声。

サーダナはどう思うのだろうか。

もうどうだっていいが。

 

「そうか…?そうかもしれんな。実際はどうだかわからん…ガロアは口が利けないからな…。だが…悪でないならば…どっちにも傾く可能性のある危い純粋な子だったんだ。…それは…分かるだろう?

誰にもその心を曲げられない存在なら行きつく先は絶対的な正義か悪かだ。…そしてガロアは自分を悪だと認めてしまった」

人は自分が正しい側だと思えるのならいくらでも残酷になれる。それ自体が人の性の悪たるところなのかもしれない。

だが、真に自分を悪だと思い何もかもがどうでもよくなった人間は最早何をしても何も感じなくなってしまう。

 

『なんなんだ…何が言いたいんだ』

 

「分かりやすく言ってやろうか…。お前が今のガロアを作った。この世界から、この地獄からガロアを救い出せなかった。お前は…失敗したんだ」

 

『う…あ…』

オペレーターの女の心が折れるのと同時に最後のクレイドルがアレフ・ゼロのブレードで滅茶苦茶に切り裂かれてとうとう落ちていった。

 

「一億」

誰もやったことない事をど派手にやる…ということは普通は心が動き感動や咆哮をもたらすはずだ。

それが最高に極まった行動だ、一億人の大虐殺など。

 

『……』

 

「何か感じるか…?」

 

『……』

反応は無い。

先ほどの通信も全て聞こえていたはずだ。

ブレードでクレイドルを斬った生々しい感触はまだ残っているはずだ。

それでも反応は無い。

 

「まだまだ腐るほどいるがな…面倒だが、先は長いぜ、ガロア」

やはりもう、何も感じやしない。あるいはもう死んでいるのかもしれない。ロランはそう思いながら地上へと飛んだ。

 

 

 

どこか空想じみた話だった。

ガロアがカラードから抜けて18日で全ての主要都市は襲撃を受け、同時に激しい汚染により人が住める土地ではなくなった。

当然ながら、リンクスも人であり主要都市では汚染からは逃れられない。

特に基地を狙ったアレフ・ゼロの攻撃と、居住区を狙ったリザの攻撃により、倉庫番をしていたネクストはほぼ壊滅。

迎撃に出たリンクスも、超一級の腕前を持つガロアとオールドキングの前になすすべもなく沈んでいった。

さらにORCA旅団に所属していたオールドキングは各地に潜伏していたORCAの基地も容赦なく叩き、

一月も経たないうちにリンクスの数だけでもこの世界から五分の四が消えていた。

 

 

とある基地。

 

イクバールを抜けたロランだがORCA旅団に入るまでの間、どの企業も抱えてはいるものの、数も少なく戦力の象徴となるオリジナルリンクスには任せられないような黒い仕事を率先して受けていた。

企業に所属していないもののオリジナルリンクスの上位をも上回る実力者の上、金さえもらえば何でもやるロランをどの企業も大いに重用した。

とはいえ、あまり表だって協力してその繋がりが白日の元に曝されては元も子もないので、どの企業も整備できる工場を作るだけ作って全て彼に任せていた。

これらの場所を知っている者は元々少なく、知っていた者は既に皆殺しにされている。

結局企業の腹黒い所業の数々のツケが返ってきていると考えられる。

 

 

『必ず来てくれると、信じている』

 

「……」

GPS機能付きのこのケータイを持ってきたのはミスでもないし、何か意図があったわけでもない。セレンがそれを企業にばらしたのならそれもよし、何も言わなくてもそれでもよい、と思っての事だった。

今となっては震えることも無くなったケータイに突然メールが来たのは少し驚いたが、場所も時間も書いていない。

これではどうすればいいのか分からない。

 

「見ろ、ガロア」

 

「!」

ケータイを閉じて思案に暮れているとロランが手に持った情報端末を渡してくる。

 

 

『ミッションの概要を説明します

 

ミッション・オブジェクティブは

大規模アルテリア施設、カーパルスの占拠です

 

今回は、細かなミッション・プランはありません

あなたにすべて任せます

あらゆる障害を排除して、目的を達成してください

 

ミッションの概要は以上です

 

ユニオンは、人々の安全と、世界の安定を望んでおり

その要となるのが、このミッションです

 

あなたであれば、よいお返事を頂けることと信じています』

 

 

「……」

見え見えの罠なのは置いておいて差出人がインテリオルとなっているところに目が行く。

 

「俺宛にミッションの連絡が来るのはいつ以来だ…」

 

「……」

 

「罠だ。これ以上ないくらいわかりやすい、な」

 

「……」

 

「ただ…」

 

「……」

アンサラー含む主要アームズフォートも全て基地ごと叩き潰した今、ここで自分達を殺しに来るのは。

 

「残ったリンクスを一掃できる。トップのリンクスはみんな雲隠れしていたからな…だが、これで終わりだ。はっきり分かるぜ…」

雲隠れしていた、と言う時にボロボロのオールドキングの顔が僅かに歪んでいたのをガロアは気が付いていたが何も反応しなかった。

 

「……」

 

「世界が何を望んでいるのか、がな…」

 

「……」

この戦いに勝てば自分達を止める戦力はもう地上に存在しない。

後は心変わりでもしない限り滅びの一途を辿ることになるのだろう。

 

萌芽した悪意の種。

人は人によって滅びようとしている。

自然の流れなのか、これで終わりだという人間種の意志か。

 

「……」

だが、そんな世界の運命を決める最後の戦いを前にしてガロアはまるで似合わない感情に支配されていた。

 

 

(…セレンに…会いたい)

思えば出会ってから三年間、ほとんど毎日一緒にいた。こんなに長い間離れたのは初めてだ。

寝食を共にして、鍛えられてしごかれて、怪我を治している間に座学を教えられてまたぶっ飛ばされて。

思えばまだセレンも十代の女性だったというのにその時間の全てを自分に捧げてくれていた。

いつの間にか、自分の後ろにいるようになってて気が付かなかった。

たまたま拾っただけの自分に対して、どうしてそこまで?

信じられない程の献身だった。

 

「……」

こんな簡単なことになんで今まで気が付かなかったんだろう。

ずっと一緒にいたのに、ただただアナトリアの傭兵に対する怒りと憎悪だけ。

彼女は毎日ずっとそばにいてくれたというのにその尊さがどうして分からなかったのか。

 

「……」

いや、気が付くことも出来たはずだ。どこからか、その感情はあったはずなのに。

立ち止まって、振り返るということを意識的にしていなかったせいだ。

 

 

「……」

もう、遅い。

 

「ガロア…行くぞ…………。…、…ありがとうよ…こんな俺に……付き合ってくれて…」

 

「……」

いつだって、遅すぎた。

自分も、この男も。

 

ガロアはセレンとの最後の繋がりであるケータイをへし折り捨てて最後の戦場へと向かった。




実際ガロアが最初から悪いともセレンが失敗したとも言いきれないのですが…
ガロアに力を与えたのはセレンですから責任の所在を辿ればやっぱりセレンも悪いことになっちゃいますよね。

オールドキングはセレンの心をバッキバキに折った訳ですが、バッドエンド確定のこのルートがそれで済むはずもないです。


死んだ人間はもう戻ってこない、それはしょうがないことだとしても今自分には何があるのか。それを一度でも振り返ることが出来たのならばガロアも何か変わっていたのかもしれません。

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