Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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ラインアーク襲撃

「ミッション開始、ラインアーク守備部隊を全て撃破する」

カラードのオペレータールームの一つでアレフ・ゼロから送られてくる映像とネクスト運搬ヘリが去り際に上げた小型の空中浮遊型遠隔操作カメラからの映像を見ながら、

ガロアが搭乗ネクストを戦闘モードに切り替えたのと同時にセレンは静かに告げる。

数年前に乗ったネクストの感覚を思い出しつつ指示を出していく。

 

「ノーマルなら海に叩き落としてやれ。それで戦闘不能にできる」

 

指示すると同時にコンクリート製の建設中の橋にロケットを叩き込み、崩れた橋からノーマルが落ちていく様が送られてくる。

シミュレーション通りに行かないのが実戦というものだが、ノーマル程度では大方の予想通り全くガロアの相手にはなっていない。

企業連の用意した作戦も上手くいってるようでホワイトグリントの影はない。

 

(楽に終われそうだな…)

口に出すことはなかったが、内心セレンは安堵していた。

 

 

『企業のネクストだと!?ちくしょう!こんな時に限って!』

 

「……」

中々の数のノーマルが幾らかの塊となり転々と散らばっているが所詮はノーマル。

物の数ではない。一気に目の前へと駆け出すイメージ。

そのイメージと同時にオーバードブーストが起動し、物陰に潜んでいたノーマル部隊が眼前に露わとなる。

 

 

「ひっ!」

音より速く眼前に現れた赤い目をした悪魔に身体がすくむノーマルのパイロット。

その一秒後にはすべての感情から解放される。

 

(……)

後ろから狙われている感覚がする。

太腿に力を入れ右へ駆け出す想像をアレフ・ゼロは受け取り、クイックブーストとして出力し右側へはじけ飛ぶ。

爆風がアレフ・ゼロの左腕を掠めたがプライマルアーマーがダメージをすべて打ち消す。

 

『ちくしょう!また一機やられた!』

 

『効いているのか!?プライマルアーマーに邪魔されている!』

 

『減衰させろ!』

 

『当たらないんだよ!攻撃が、が、く、くるなぁ!ぎゃあああああああああ』

 

目視出来る戦力も後わずか。

圧倒的力を用いての蹂躙にガロアの心が僅かに震える。

シミュレータでは感じ取れない命そのものがリアルにぶつけられる懐かしい感覚。

今まで経験したどの感情とも違う何かにさらに身を委ね前へと駆ける。

もう20秒と持たずに全ての戦力は撃破されるだろう。

 

 

 

「あのネクストは何なの!?確認してください!」

時を同じくして、ラインアークの管制室で、フィオナ・イェルネフェルトが叫ぶ。

 

「企業連に登録されているものではありません!テロリストか新入りのどちらかです!」

 

「そんなはずは…!」

ネクストを所持するというのはそれだけで莫大な費用が掛かる。

小規模なテロリストがネクストを動かせるはずがないし、

ネクストの所持を確認している大規模テロ組織「リリアナ」の動きもここ数年おとなしく、今朝も特に目立った動向は見られなかった。

 

「……」

とはいえモニターに映し出されている黒いネクストの動きは到底新入りのリンクスの動きには見えない。

フィオナの顔が歪む。

琥珀色の瞳に綺麗な金髪ボブ、やや丸顔だがその顔のパーツの配置は完璧そのものであり、それに加えて長い睫に守られた丸くて大きな目。

幼いころから美少女と評判であり、将来はきっとどこに出しても恥ずかしくない美女になるに違いないと思われていた彼女だったが、

しかし、ある時を境に笑うことよりも泣くこと、悲しみに顔を歪めることの方が多くなりそれが長年続いた結果、

美女ではあるものの目の下の隈、下方にゆるやかに曲がった唇などどこか薄幸な雰囲気を持つ女性へと成長してしまった。

そしてその薄幸な見た目に違わず今日もまた不幸が一つふりかかる。

 

(今日、有力リンクスのどれもが別のミッションに当たっているか出撃していないことは確認済みだったはず…だからこそマザーウィルの撃破に向かわせたというのに…!)

今日、もし急なネクストの襲撃があったとしても、確認されていたそれはラインアークの持つ通常戦力で追い払えるか、

そもそも襲撃には向いていない機体であった。

だが、現実に今ラインアークの最前線、建築中のブリッジを攻撃している機体は強襲用高機動型の見たこともないネクストだった。

 

 

「緊急事態です!ノーマル部隊を出撃させ、時間を稼ぎます!その間にホワイトグリントをこちらに戻してください!」

 

「まだミッション中です!契約違反になります!」

 

「このままではあの場所が破壊しつくされてしまうわ!それにあのネクストを逃がすわけにはいかない!」

 

「…了解です!ホワイトグリントを直ちに帰還させます!」

 

「一体…何者なの…?」

そうしたやり取りをしているうちにモニターは配置していた守備部隊は全て撃破されたことを非情にも映し出した。

 

 

「ミッション完了…いや、待て」

空中カメラから映し出される映像には今回提示されていた撤退ルートを塞ぐようにして進むノーマルの部隊が映し出される。

 

「援軍だ。ノーマルだが、油断はするなよ」

指示を送りながらアレフ・ゼロに表示されているマップに敵増援の位置情報を送った。

 

「……?」

指示された場所へ向かうと情報通りの増援が来ていた。

だが、先ほどとは違い、小隊ごとに固まることはせず、物陰や遮蔽物に一体一体隠れて攻撃してきている。

どちらにせよ結果は同じ事なのだがガロアはそこに作為的な何かを感じていた。

 

『いいか!なるべく時間を稼ぐんだ!』

 

『もうすぐホワ、ギャアアアアアアアア』

柱の陰に隠れていたノーマルを柱ごと切り裂く。

 

『クソ!アレンがやられた!ちくしょう!あいつには酒を奢りっぱなしだってのに!』

 

『ぐあっ!』

 

『今度は誰がやられた!?…ぎゃあっ!』

 

二分後、やや時間がかかったものの最初に思った通り増援も全滅へと追いやる。

一方的な虐殺、蹂躙劇であった。

 

 

『ミッション完了だ。完璧な戦績だな。ついでにその辺の設備と建造中の橋も破壊しておけ。弾は余っているだろう?追加の報酬も貰っておこう』

 

「……、…!?」

指示に従い背中のグレネードを構えたガロアだったがその時強烈なプレッシャーを感じ、

アレフ・ゼロを戦闘モードから巡航モードに切り替えオーバードブーストを起動、即座に撤退を決めた。

 

「何をしている…?まぁ、ミッションは完了しているのだから構わないがな…」

返事は当然返ってこないが、指示用ヘッドセットと、表示されてるバイタルインフォメーションからガロアの平常ではない様子が伝わってくる。

心拍数、体温ともに一気に跳ね上がっていた。

 

「一体どうした…何!」

 

ガロアが離脱した三十秒後、ラインアークの建造中だった橋にセットしていた空中カメラに白い閃光が入ってくるのを見た。

 

「これを感じ取って…?」

ヘッドセットのマイクを切りつぶやく。

 

「だが、どうして?」

ホワイトグリントはガロアの目的だったことは間違いないはず。

その接近を気取ったのならなぜ逃げた?

いくら考えても現場にいなかった自分にはわからないし、今質問をしても返答が返ってくるものでもない。

リンクス、ガロア・A・ヴェデットのデビューは完璧な勝利で終わったが、当のリンクスも、そのオペレータも歓びには浸っていなかった。

 

 

 

「不明ネクスト、撤退しました…」

モニターに映し出される不明ネクストは突然尻尾を巻くかのように撤退を決め込み、今はもう遥か彼方で小さな光となっている。

 

「そんな…」

守護神の帰還はそのたった三十秒ほどであったが全ては後の祭りだった。

 

「見事な引き際です。あのネクストは一体…ん?緊急速報です!これは‥!BFF社が!イェルネフェルトさん!これを!」

 

「!!…全部策略だったのね…」

全世界に発表されたニュースの見出しにはデカデカと『BFFのAF、スピリット・オブ・マザーウィル、ホワイトグリントを撃退』と書かれていた。

 

「くっ…」

フィオナは右手の親指の付け根を唇に宛がいながら目を伏せ、そしてモニターに映し出されている激しい戦闘の傷跡を負ったホワイトグリントを見る。

 

先日からゆっくりとこちらに迫ってきていたマザーウィル。

そこに都合よく出されたマザーウィルの撃破依頼。

ホワイトグリントとの戦闘中でもなおこちらに歩み寄っていたその動きは、

こちらの防衛部隊が苦戦するのを見越して、ホワイトグリントがすぐに向かえる距離まで近づいたに違いない。

はたして目論見は全て成功し、ホワイトグリントは契約違反をし戦線離脱をした。

こちらが得た情報によれば、マザーウィルも相当の被害を負い、しかも弱点まで露呈していたが、それでもこの一大ニュースはBFFの株価を大きく上げたに違いない。

様々な事情はあれど、マザーウィルとホワイトグリントは戦闘をし、ホワイトグリントは撤退した。

最初から最後まで全て仕組まれていた奸計に翻弄されたフィオナは己の甘さを恥じ、歯を食いしばるしかなかった。

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