Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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ギガベース撃破

「ミッション開始!第8艦隊が護衛する、GAのアームズフォート・ギガベースを撃破する。まずはVOBで一気にギガベースに接敵するぞ!敵の長距離攻撃に注意しろ、拠点型とはいえアームズフォートだ。火力は侮れんぞ 」

ネクストから送られてくる映像を見ながら告げるセレン。

目の前にあった海に浮かぶ戦艦が一秒後には遥か後ろにある。画面に表示される速度は2000km/hに達しておりVOBを使用したことの無いセレンはそれがどのような負荷をガロアにかけているか想像できない。

 

その場にとどまろうとするコジマ粒子を動かそうとすると留まるために斥力を受けるという理論を利用し一気にコジマ粒子を噴出し超高速での移動を可能としたブースター…それがVOBである。

今回インテリオルから撃破依頼されたギガベースにも言えることだが、

一般的にアームズフォートというのはにネクストではどうすることもできない超遠距離から高火力を叩き込むことを得意としている。

その特性によりアームズフォートの登場から暫くはネクストではどうにもならず、かといってアームズフォートをぶつけようにもその巨体故射程内に入る前に察知されてしまう。

早い話が開発したもの勝ちの無敵の兵器だった。

それに対抗する手段として開発されたのがこのVOB、ヴァンガードオーバードブーストであった。

超高速で接敵が出来たならばネクストでもアームズフォートを撃破できるだろう、という考えであるが…

接敵できたところで撃破が出来るリンクスは限られており、事実アームズフォートを落としてからが一人前という風潮もある。

 

(まさか二回目のミッションからいきなりアームズフォートをぶつけられるとは…注目されるというのも考え物か…)

画面が閃光に包まれた瞬間瞬間にガロアはクイックブーストを横方向へ吹かしており、未だに主砲には一発も当たっておらず、着々とギガベースに接近していってる。

それだけを見ればインテリオルのリンクス選出は間違っていなかったのかもしれないが画面に表示されているネクスト一機をまるまる包み込まんばかりの大きさの砲弾を見てセレンは表情は変えてはいないものの気が気でない。

 

(最初からこのペースでは使いつぶされてしまうのではないか…傭兵とはこういうものなのか…)

実際は本当の意味で傭兵として戦ったことの無いセレンにはわからないのも無理はないが、基本的に傭兵は金のためだけに戦い、企業も金で傭兵をつないでいる。

その関係に感情は存在せず、企業にとって傭兵なんてのはただの駒であり、傭兵にとって企業なんてのもただ金を持っているだけの存在に過ぎない。

使いつぶしたら、それはそれ。

金がなくなったら敵方につく。

それが傭兵と企業の関係なのだ。

結局のところ強い傭兵が金のある企業につくというのはマネーゲームに過ぎない。

そして今ガロアはまだそうした事を選べない新人であり、企業はその新人が凡百の駒かあるいはダイヤの原石かを見分けなければならない。

もしも強力な力の持ち主だったのならば何としても味方につけるかあるいは死んでもらうしかないのだから。

 

 

「……」

彼方で光が瞬く。

息を吐き左に跳ぶように意識すると同時にアレフ・ゼロも左にクイックブーストで動く。

今まですれ違った敵の数は106。

ブリーフィングで知らされていた敵艦の数から考えるに、ギガベースが中心にいると考えれば今は丁度ギガベースまで中間といったところか。

 

 

 

集中するガロアから遥か遠くで今、ガロアの価値を見極めんとある指示が出されていた。

 

「頃合いか。五秒後に爆破する」

 

「了解です」

インテリオルの中心にて何かしらの爆破を指示した男はこの会社の重鎮であり、霞スミカクローン計画の発案者でもある。

ある意味セレンとリンクスとなったガロアの産みの親とも言えるこの男は今日、その価値を見極めんとスクリーンの前に来ていた。

 

 

 

「!!」

衝撃。

高度が思うように上がらなくなる。

目の前のモニターには過ぎ去ってゆく景色と共に赤い文字で『異常発生』と書かれていた。

 

 

 

「なんだ!?」

その異常はセレンの元にもすぐに届き別画面に表示されている機体情報を見て、一気に背中に汗が浮かぶ。

 

「VOBに異常発生!このままでは爆発するぞ!強制パージする!衝撃に備えろ! 」

指示を出すと同時にVOBをパージするコマンドを出す。

機体制御がガロアから外れるその数瞬を狙ったかのようにアレフ・ゼロに主砲が直撃した。

 

「ガロア!!」

モニターに表示されている、現在の機体の耐久値を総合的に表した数値、つまりAPは40%ほど減っていた。

が、それが表示されているということはとりあえずはまだ撃破されていないということである。

ほんの少し安心したセレンの心は、画面にさらに表示される情報に一気に叩きのめされた。

 

 

 

「…!」

目の前の景色が激痛で霞む。高度を失いつつ失速する機体をなんとか水没寸前で持ち直す。

アレフ・ゼロの左腕は主砲の直撃により吹き飛んでいた。

痛みで動くどころではないが、その場に留まっていては吹き飛ぶのは左腕だけではなくなる。

クイックブーストをランダムに吹かし主砲と周りから飛んでくるミサイルを避ける。

 

AMS適性が高ければネクスト側からの拒否もなくすんなりと接続、同化でき、自分の身体を動かすかのように操縦できる反面、

機体の受けたダメージがリンクスにフィードバックされるという面もあった。

ただ、それはどこから攻撃されたかカメラで確認しなくても分かるなどというメリットにもなるのだが今回はデメリットだけがもろに出た。

 

主砲から飛んでくる弾は見えるが未だにギガベースの姿は見えない。

 

 

 

「さて、どうなる…」

爆破を指示した男は機体情報を目にして呟く。

敵地の真ん中、しかも左腕を捥がれた状態で通常推力で接近しアームズフォートを撃破するなど、ただのリンクスではまず無理であろう。

もしこれで死ぬのならそれでよい。

それだけのリンクスだったという話だ。

今はセレンと名乗っているオペレータからは既にインテリオルからは独立しているとの声明が全企業に出されており、扱いは独立傭兵となっているので本社の損失にもならない。

だが、これでもしこのミッションを成功させたのならば。

その扱いを考えなければならないだろう。

最高戦力に値する味方として。あるいは最優先で撃破すべき敵として。

 

八年前のリンクス戦争ではその見極めが遅すぎた結果、その時一番の力を持っていた企業は大したことはないと侮っていたリンクスに潰される結果となった。

それと同じ轍は踏まない。

特に今回のガロア・A・ヴェデットに関しては情報からも前回のミッションの結果からも、警戒という選択肢以外はありえなかった。

 

 

 

「インテリオルめ…傭兵は体のいい実験台か?通常推力でギガベースに近付くしかないか…クソッ…忌々しい…」

恨めしげに呟きながら机を叩く。置いてあったペットボトルが音を立てて落ちたがそれどころではない。

 

撤退を命令しようと思ったものの、ここで背中を向ければまず間違いなく、射程外に達する前に撃ち落とされる。

つまり逃げるにはギガベースをなんとしても撃破しなければならない。

もっと直接的に言えば任務を成功させなければ死ぬ。

使い潰されるのではないかと思ったとたんにこれである。

セレンの額と背中にさらに汗が浮かんだ。

 

 

 

「……」

痛みは大分ましになった。

海面を滑るように近づく自分に主砲からの砲撃が来るが、相対速度が遅くなった分、避けるのは容易かった。

だが周りから飛んでくるミサイルに邪魔されうまく近づけず、そして何より片腕が無くなったことによりバランスが崩れ上手く進めなかった。

実際人間は片腕が無くなるとその時点で重心の位置が変わるため、上手く動けなくなり、戦いの場でもそれが原因で敗北となる。

人間の腕が左右対称についているのはバランスを取るという点でも大きな意味がある。

長いリハビリを経ればまた別であるが、今までその重心で生きてきたのが突然変わってしまうとなればバランスが崩れるのも無理はない。

まるで自分の身体の如く動かせるAMS適性の高さはここでもデメリットが前に出た。

これがノーマルや、AMS適性の低いものの操るネクストならばここまではならないのだが、才気溢れるもの程脆いというのはどの分野でも言えることである。

 

それでもなんとか体勢を保ちつつ前方へと進む。

放たれたミサイルの数は41、息を荒げながらも順番にマシンガンで撃ち落としていく。

このスピードならギガベースまで3分といったところだろうか。

セレンが何か言いながら机を叩く音をどこか遠くに聞きながらガロアは前へと進む。

 

 

 

「…?」

食い入るように画面を見つめるセレンは、直撃の後もただただ冷静に目標へと進む姿を見ながら少し落ち着き、そして何か違和感を感じていた。

先ほどからガロアに放たれるミサイルは全てマシンガンに撃ち落とされている。

ミサイルを撃ち落とすこと自体はそれほど難易度の高いことなのではないが、

もともと弾をばらまくためのマシンガンで正確に一つ一つ撃ち落としているのは目立たないが神業と言える。

だが、なぜそんなことが出来る?

考えても答えは出ないまま水平線よりギガベースの姿が見えてきた。

 

 

『よし、そのまま懐に』

入り込め、とセレンが言うよりも早く肩に装備しているグレネードとロケットを叩き込む。

反動で後ろに下がるガロアとオペレーションルームで冷や汗をかいていたセレンはギガベースが煙を吹きながら沈んでいくのを見た。

そのまま上空へ飛び上がり、他の戦艦の射程外に出てシステムを通常モードに移行し帰還の準備へ移る。

ネクストとのリンクが外れ、左腕の痛みが急速にひいていく。

こうなってガロアはようやく安堵の溜息をついた。

 

 

 

「ミッション完了だ。よく生き残ってくれた」

ガロアのついた溜息の倍は大きなため息を吐き出し椅子に背をもたげる。

ひんやりとした感触はかきにかいた冷や汗によるものだろう。

ブラが浮いているかも、などと少々この場に合わない考えが浮かぶ。

 

「強さにはそれに伴う弱点もある、か」

アームズフォート・ギガベースは強大な火力とその反動に耐えうる巨躯を持っているが、その反面ほとんど動くことが出来ず、またその巨体のため放たれる攻撃は全て受けるしかない。

そもそもが接敵を想定していないのだがらそれも当然とも言える。

今回ガロアはそれに目をつけ、目視と同時に持てる最大火力をロックオンする前から叩き込んだのだ。

懐に入らずとも、高火力のグレネードとロケットなら確かにそれで撃破が出来る。

それにブレードを持つ片腕が吹き飛んでいたので接敵は主砲が当たらないということ以外に利点はない。

あのイレギュラーの連発で、しかも二回目の出撃でよくその答えにたどり着いたものだ。

本日幾度目かわからぬ溜息をセレンは盛大に漏らした。

 

 


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