Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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I wanna take you away from here

「お帰り。服とか買ってきたか?」

ご自由にお取りくださいと箱の中に新聞をぶち込んでガロアが部屋に戻るとセレンが少々疲れた顔で椅子に座りながら紅茶を飲んでいた。

食堂で食事をするついでに格納庫を見てきたからガロアは知っているが、セレンはずっとアレフの調整をしていてくれたのだ。

もちろん、そんな事を恩着せがましくセレンは言わない。

 

「服?」

 

「なんだ、折角街に行ったのに。買っていないのか」

 

「ずっとアレフの調整していてくれたんだろう?」

 

「ん? ああ」

 

「酒を買ってきたから飲んでくれ」

 

「……お前は私が酒を飲むのは好きじゃないと思っていた」

 

「飲み過ぎてぶっ倒れたりしなけりゃいいよ」

ガロアがリンクスになってからも2回ほどそんな記憶があるが、大体被害を被るのはガロアだしだらしないからあまりよくないとは思っているがやめろとまでは言っていない。

 

「そうか。ならありがたく頂こう」

渡された瓶にアルコール96%と書いてあるのを発見してセレンは表情を変えずにぎょっとする。

よりにもよって何故こういうのを買ってくるのか。

 

「ああ、魚もあるから何か作ろうか?」

 

「いや、それはいい。一緒に飲まないか?」

 

「やめておく。多分俺は酒はダメなんだ。父さんもそうだったし」

 

「料理にも酒は使うだろう? ダメってことは無いだろう」

お前の言う父さんとは血が繋がっていないだろう、とは思ったが口に出さない。

それに酔っぱらったガロアというのも見てみたい気もする。

 

「あんま気が進まないなぁ」

 

「一緒に月見て管を巻こう。付き合え」

 

「……分かったよ」

 

「よし来た」

ガロアを椅子に座らせて素早く氷とグラス、ジンジャーエールなどを持ってくる。

昔はまだ年が年だけに誘う事も出来ずに一人酒だったが、二人で酒が飲めるようになったと思うと一気に大人になったなぁと実感する。

 

「ほら、飲んでみろ」

ジンジャーエールで割った酒に氷を入れて渡す。

小さいグラスだから一気にいっても大丈夫だろう。

 

「……」

と、思っていた矢先に本当に一気に飲んでしまった。

こういうクソ度胸はどこから来ているのか。

 

「どうだ?」

 

「……思ったよりは飲みにくくないな」

超高度のアルコールを氷とジンジャーエールで誤魔化しているから独特の酒の味も目立たなかったのだろう。

吐き出すような真似もせず、割と気に入ったのか自分で入れ始める。

 

「そうか。ならもっと飲むといい。街で何をしていた?」

 

「化粧品買って……飯食って……あとはリリウムが服を見たいとか言っていたから見に行った」

 

「化粧品はどうした?」

 

「渡しておくようにリリウムに頼んだ。あの女は苦手だ」

 

「お前の恫喝まがいの言葉も効いていなかったしな」

 

「……」

何も答えずにグラスを一気に空にしていく。

 

「お前は服は買わなかったのか」

 

「リリウムが……帽子なんかいいんじゃないかとか……言ってたけど……やめた」

 

「ふーん? 別に悪くはないと思うがな」

 

「魚料理が美味かった。俺はそんなに魚料理は得意じゃないから……今度一緒に食べに行こう」

 

「……デートの誘いか?」

 

「………………………」

ちょっとからかったところ、黙ってまたグラスを空にしてしまった。口が悪く、人の裏をかくようなことばかり言う割にはこういう率直な言葉には弱い。

顔が赤くなっているのは酒が回ったからなのか照れているからなのか。

そういえばこれで何杯目なのだろうか。

 

「街はどうだった?」

 

「賑わっていた。でも俺は……人が多いところは好きじゃないんだ」

 

「森で育ったからか」

 

「分からない。ああ……でもなんか……人が多いと怖くなる」

 

「?」

 

「あんなに人がいても全員繋がっているわけじゃない。むしろほとんどが誰かにとっていなくてもいい存在……綺麗な街程残酷だ」

 

「……酔っているのか?」

なんだかよく分からないことを言い始めたのは酒が回ってしまったからだろうか。

 

「……酒は初めてだから分からない」

と、言いつつまたグラスを空ける。自分はまだ一杯しか飲んでいないのだが。

 

「まぁそうだよな」

 

「………」

 

「少しは垢ぬけてくるかな……なんて思っていたが……変わらないか。カラードでもそうだったもんな。俗っぽさが全然染みつかないというか」

 

ゴン

 

「ゴン?」

奇妙な音がしてガロアの方を見るとグラスを持ったまま机に頭を打ちつけて寝ていた。

瓶を見ると3分の2が無くなっていた。いくらなんでも飲み過ぎである。

 

「……初めてだと加減を知らなさ過ぎるな」

寝てしまったものは仕方が無いし、もういい時間だから寝るのもいいだろう。

 

「く…ぬ…重くなった……この……」

全身の筋肉に力を入れて何とか1mも離れていないベッドまで運ぶ。

100kgもあるのだ、多少引きずってしまったのは仕方が無いだろう。

昔は片手で持ち上げられたのによくまぁこんなに大きくなったものだ。

 

(……風呂に行こうかな)

そんな事を考えながら毛布を掛けようとしたとき、ぱっと目を開いたガロアと目があった。

 

「あれ? 起きたのか」

 

「……」

 

「……大丈夫か?」

真っ赤に充血した目でセレンを見つめるガロアは例えるならば、ホラー映画でありがちな今にもヒロインに飛びかからんとするゾンビ化した元仲間といった感じだった。

そしてその言葉通りにガロアがセレンに飛びかかってきた。

 

「え?」

いきなり抱き着かれ、引き寄せられる。

馬鹿力だということもあるが、その抱擁に逆らう理由もなく引かれるがままセレンはそのままベッドに倒れ込んでしまった。

とりあえず今のところ困惑の方が強かった。

 

「んん……」

 

(うわ! なんだこれは?!)

ガロアは胸に抱き寄せたセレンの頭に愛おし気に顔を擦りつけているが、セレンはその胸からとんでもない速さの動悸を聞いた。

普段マラソンで鍛えて心拍数はかなり低いはずなのに。

 

「お前、酔っ、!!」

言い終える前に口を口で塞がれる。

自分だって飲んでいたはずなのに、それでも異様だと思えるほど濃厚なアルコール臭がする。

欲求が前面に出てしまっているかのように舌が突き入れられ、困惑するばかりで合わせることも出来ない。

こんな雰囲気もクソもない状況では驚くばかりだ。

 

「ぷあっ、なんだ!? どうした!?」

後五秒口が塞がれていたらタップしていた、というところでようやく解放された。

相手のことを全く考えていない独り善がりな口付けを受けて、こんなことをする奴だったのかと思ってしまう。

 

「やっぱり……」

 

「な、なに?」

 

「セレンが一番綺麗だ」

 

「え? うわっ!?」

唐突な褒め言葉に力が抜けた途端、横に押し倒され、抵抗する間もなく服が引っ張られてボタンが全て飛んでいった。

 

「んあぅっ、本気か!?」

ブラの下から手を突っ込まれて乱暴に胸を触られて何とも言い難い変な声が出てしまう。

 

「本気だ」

と言うガロアの目は真っ赤に充血しすわっている。

 

(あ、正気じゃない)

本気なのかもしれないが正気が遥か彼方にすっ飛んでいってしまったようだ。

なんということだ。酒とガロアは絶対に混ぜてはいけないものだった。

 

「ん、ふっ……んんんんっっ!!」

またもや乱暴にキスをされる。

こんな突然、しかも酒にやられて正気を失った状態でなんて嫌に決まっているがそれでも強引なキスを完全に拒めない。

びしびしと身体を叩いてはみるがまるで収まる気配がない。押し返そうにも力では完全に敵わない。

無論ここから返す方法はいくらでもあるが、股間を蹴り上げるだとか指を折るだとか、当然だが相手のことを考慮していない技ばかり。

ガロアを傷つけずに収める方法は無い。もう為すがままにされるしかないのか。

 

「くぅ、ふ……」

その舌を噛むなんて出来るはずも無く、なんとか押し返そうとして結局舌を絡める形になってしまい、否が応にも身体が反応し発熱してくる。

 

「やめてくれ……」

 

「やめない」

やり取りは出来ているのに意思が通じない恐怖は言葉にできない。

 

「せめて風呂に」

ならそれはそれでいい。今日も一日暑いラインアークで働き詰めだったのだ。

こんな汚れた身体を一方的に見られるのは嫌だ。

 

「行かせない」

絶対に逃がさないとばかりに体重をかけ、さらに腕を押えつけてくる。

今まで見た事もない、本能にだけ支配されてしまった目だった。

 

「うう……。避妊具とか……」

 

「いらない」

いらないと言うならそれはそれで構わない。だが正真正銘初めてなのだ。いくらなんでも酒に酔った勢いでなんてのはごめんだ。

しかもこれで次の日に何も覚えていなかったりしたら目も当てられない。思いも分からずこんなことになっては自分の為にもガロアの為にも絶対に良く無いはずだ。

 

「うう、く……ぬああ……やめろ!!」

抜けていく力を何とか腕に込め直して押し返す。

空を切りながら振った手がガロアの頬に当たり、パァンと大きな音を立てた。

音は派手だがそこまで痛くは無いはずだ。これで正気に戻ってくれればいいのだが。

 

「……」

叩かれて少し赤くなった頬をさすりながらさっきまでの動きから一転してほとんど停止してしまった。

 

(……どうなったんだ?)

と、思ったのも束の間、ビンタしたはずなのに何故かにやりと笑い始めた。

 

「悪かったよ」

 

「う? うん? 分かればいいんだ」

だが今の笑顔は何だったのか、と問う前に腕を引っ張って起こされた。

 

「出過ぎた真似だった」

 

「んん? まぁ、その、こんなんじゃなくて……普通にしてくれれば……」

何かよく分からないことを言い始めたな、と思いながらずらされたブラを直す。

ぶつぶつ呟いているこの言葉を普段本人にはっきりと言えればいいのに。

そう思っていると。

 

ビリィ、とまた不可解な音が響いた。

 

「な……何をしているんだ? ただでさえ少ないのに」

パーカーを放り投げたと思ったら下のシャツを破り捨ててしまった。

普通片手で紙を千切る様に布を引き裂けるものなのだろうか。相変わらずとんでもない馬鹿力をしている。

 

「何度も何度も……重ね掛けしてくれたお陰で分かった」

薄くなった跡の上に上塗りされたキスマークを長い指で指すガロア。

 

「……」

確かに自分がからかい半分に付けたものだが、こうもはっきりと目の前で言われると恥ずかしいやら照れるやら。

 

「俺はセレンの物だったんだ」

 

(どうしちゃったんだ……)

その言葉が嬉しくないかそうでないかと問われれば嬉しいがそれ以前に目に正気の光が全く戻っていない。

どうしていいか分からず、たじろいでいると座っていてもやはり高い場所にある頭を赤毛が残像で線になるような速さで下げてきた。

 

「な……何をしているんだ?」

意識を失ったんじゃないか、と思う程自分の太腿の上に頭を乗せて動かないガロアに問いかけるが返事は返ってこない。

 

「……」

黙りこくったガロアは理性の全くない目をしたまま両手の指を沈み込ませた太腿にストッキング越しに口付けた。

 

「う、はっ、はぁ!! ははは、やめろって! お前はそんな事をする奴じゃないだろう!」

することも無くぶらぶらとしていた頃にしょうがなく暇つぶしに女性雑誌を読み漁っていたこともあり相当に耳年増なセレンは脚に口付けされることに意味を知っており、

それ故か訳の分からない感覚とともに電流が背筋を駆け抜ける。くすぐったさもあるがこれは非常にヤバい。

 

「セレンの脚……綺麗だ」

 

「うっ、は……やめ……」

自分勝手で誰にも敬語を使わず傲岸不遜、とその我の強さを挙げていけばキリがないガロアが頭を垂れて自分の脚にキスをしているという光景。

絶対に自分以外には何があってもしないのだろう、そう思うと頭がどうにかなりそうなほど倒錯的だ。

やめさせようと頭に手をやるが力が入らず、じんわりと太腿がぬるく濡らされていくのを感じる。

 

「嫌か」

 

「……うぅ」

自分が普段ガロアをからかう時に言っているセリフだ。こんな気分で聞いていたのか。

嫌ではないが、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

 

「よいしょ」

 

「え? うわぁ!」

太腿にあった手が脛まで移動して掴んだと思ったらそのまま上に引っぱりあげられて頭がベッドに投げだされる。

捲れるスカートを押えるだけで精いっぱいだった。

 

「セレンの脚って長くて綺麗で……いいにおいだ」

 

「んなっ、何をしているんだ、お前は!」

普段は理性で抑えているだけで年頃の男子なら誰だって持っている少々変態的な欲求、性的嗜好をもはや隠そうともしていなかった。

掴んだ足の裏に鼻を押し付けて森の中でリラックスするかのように大きく息を吸い込み、吐きだされた熱い息が足裏をくすぐり背筋がぞくぞくする。

 

「汗かな。ちょっとだけすっぱいにおいがする」

 

「うああ!! 言うな言うな!! やめろ!!」

くそ暑いラインアークで一日中働きながら履いていたストッキングが靴の中でどれだけ蒸れていたかなんて考えるまでもないし、綺麗なはずも無い。

ましてやどんな臭いがするか、それを今めちゃくちゃに嗅がれていると考えると頭がおかしくなりそうだ。

涙目になりながらげしげし蹴りを入れるが、こんな体勢で放った蹴りがガロアを動かせるはずも無い。

 

「やめない。いいにおいだ」

 

「う、ふっ、うぅ……やめて……」

恥ずかしすぎて過呼吸気味になってきたが、燃え上がる様な羞恥の中に僅かだが確かに分類不可能な快感がある。

 

「照れているのか?」

 

「違う、違う……恥ずかしいからもう……ああっ!」

鼻がようやく離れたかと思ったら右足の親指と人差し指がぱっくりと咥えられるという行動に官能を刺激されて声をあげてしまう。

正直脳みそがとろけるほど気持ちいいがまさかもっとしてくれなんて言えるはずがない。

 

「……」

指の間を唾液で濡らしながら爪と指を甘噛みし、ストッキング越しに足の裏を舐めてくる。

直接的な快感もあるが、視覚的な非現実感と感覚のリアルが脳内でぶつかりあって鳥肌が浮かび上がる。

声をあげないようにと歯形が残る程に人差し指の背を噛むが、まともな神経が弛緩してしまっているのか口の端から唾液が零れてしまった。

 

「や、うぅ……やめてくれ……頭がおかしくなりそうだ……」

 

「セレンもこの前俺の指を口に入れていただろ」

足と手じゃ何もかも違い過ぎる、と今のガロアに言っても無駄だろう。

もうこのまま欲望の赴くままにされるしかないのか。

 

「もう……限界だ……もうダメだ……」

 

「ガロア? 大丈夫か……?」

自分の脚を持ちながら虚ろな目でぶつぶつとうわごとを言い始めたガロアが心配になり、今何をしているのか、ということはとりあえず置いておいて声をかける。

 

「セレン!!!!」

 

「どわぁっ!!? な、なに?」

100m先にいる耳の遠い老人を呼ぶような大声を唐突に出され、セレンは脚を掴まれたまま腰の筋肉だけでその場から30cm以上浮き上がりながら返事をした。

 

「こんな戦い、もうやめて……俺と一緒にどこか遠くへ行こう」

 

「……?……え?」

唐突に出されたその言葉の意味が分かると同時に、込みあげる喜びと圧倒的な違和感を一緒に感じて困惑する。

その言葉は自分が求めていた物そのものだ。そうだ。戦いをやめて一緒にどこか戦いの無い遠い場所へ行けるのなら、それ以上の幸せはない。

それを願うあまり暴力まで振るってしまったことだってあるのに、ここに来てなぜ違和感を感じるのだろう。

 

だが、それでも。

 

「うん、連れて行って」

嬉しかった。誰にも邪魔されない二人だけの世界に行ってしまいたい。

例えその言葉が正気を失った状態から出ていて、口先だけの物だったとしても。

 

「……」

 

「好きだガロア。一緒に、戦いのない場所で暮らそう」

そんな場所がどこにあるというんだ。ガロアも自分も分かっている。きっと、だからガロアは逃げないのだろう。

だがガロアも自分のその言葉を聞いて顔を真っ赤にしたまま穏やかに笑った。

そんな風に笑えるんじゃないか。ずっとそうやって笑えばいいと思う。

 

絶対に良くない、酒の勢いなんて。そんな浮ついたものは自分はそもそも嫌いだったはずだ。

でも今自分の上にガロアがいて、自分の事しか見ていない。ずっとこうされたかった。

ダメだいいんだ、と背反する考えが回る頭を捨てて本能のままに酒臭いガロアに腕を回してキスをしてしまう。

もう戻れない。どんな言い訳も出来なくなった。

 

 

「俺はセレン以外の何もいらない」

もう一度言ってと、言う前に抱きしめられ、自分がいつもするように首筋に噛みつかれた。

 

「うあ、ああっ、くっうぅうぅうう!!」

水音が響き渡る程に激しく吸われて反射的に力を込めて抱きしめ返してしまう。

めくるめく快感を抑えることはかなわず、脚をよじらせながら声をあげ目を細める。

その先を受け入れようと思っただけで身体が燃えるようだった。もうこれでいい。幸せと言う他ない、そう思った時。

 

「……」

 

「……? あれ? おい……」

首から唇が離れたのを感じたが、それが「離した」ではなく「離れた」ことに違和感を感じ、上に乗ったまま動かないガロアの身体をつつく。

 

「なんだと…こいつ……。寝やがった……」

アルコールの分解が少しは進んだのか、心拍数は普通になっており、ガロアは自分の上で実に安らかな顔で寝息を立てていた。

 

 

 

 

 

「う……」

窓からほんのり光が差し込む時間、ガロアはカラカラに乾いた喉が張りつくような感覚に苦しみながら目覚めた。

 

「いっ、いてぇ……」

息を吸うたびに頭の中で蚯蚓がのたうち回る様な痛みがする。

 

「……………起きたか」

隣には明らかに寝不足という顔をしたセレンがいた。寝不足というよりは寝ていないという顔だ。

 

「頭……いたい」

 

「……96度だからな」

 

「なんの発射角だ? それ? ……顔洗ってくる。いてぇ……」

 

 

 

(……やっぱり何も覚えていなかったか)

ふらふらと洗面台に向かうガロアの背を見ながら、昨日勢いで最後までいかなくて良かったと心から思う。

別に嫌なわけでは無いが、流石に最後までしたのに覚えていませんでしたなんていうのはやっぱり悲しすぎる。もっと自制心をしっかり持とう。

結局一睡も出来なかったが、興奮して寝れなかったという訳では無い。もちろんそれも少しはあるが。

ずっと引っかかっていたのだ。

 

(昨日の言葉は……全部本音なのではないか…?)

そう、ガロアは今まで「戦うのをやめない、戦う」とは言っていても「戦いたい、戦いが好きだ」とは言っていない。むしろ「もう戻れない」などの後ろ向きな言葉の方が多かった。

よくよく考えてみれば昨日の言葉が全てでたらめだと考える方が難しい。ガロアの今の願いはもしかしてものすごく単純で、それを素直に表せていないだけなのではないか?

 

(だとしたら……)

本当はもう戦いをやめたいかどうかは置いておいて。

 

(昨日のあれは……普段は我慢しているという事か?)

真っ赤に跡が残っているのであろう首を指で触りながら疑問符を浮かべる。

少々変態的ではあったし強引だったが間違いなく真っ直ぐな好意と欲求に基づいた行為だった。

 

(……? 結局……私を女性として好いてくれているのか?)

だとしたらシラフの時に自分を襲わない理由が分からない。

女性に興味が無いわけでは無いのは知っているし、今までだってちゃんと10代の男子らしく敏感に反応していた。

言ってしまえばなんだが、かなり誘惑染みた真似をしているとも思う。

 

(我慢をしているのか? なんで? それともやっぱり私の事はなんとも思っていなくて……生物的に反応しているだけなのか?)

実際はガロアが物事を0か100でしか考えられない不器用な人物で、息の抜き方すら知らないというだけなのだが、

ガロア本人から自分を女性として好きだという一言が貰えていないばかりに悶々と悩むばかり。

せめてそれを聞く勇気があればいいのだが、どうやらそれが一番難しいらしい。

ただ一つだけわかるのは……

 

(ガロアは……戦いをやめるなんて絶対に言わない)

本音がどうであれ、頑固の塊のガロアがそんな事を、しかも自分に言う様な真似は絶対にしないという事だけは分かる。

 

(それでも……連れていってくれよ……どこか遠くへ……こんな血なまぐさい世界はもう……)

考えていると顔を洗ったというのに全くさっぱりしていないガロアが戻ってきた。

 

「頭痛い……今日、日曜だし……もう少し寝るよ俺」

普段ならありえない、起きた後にまた布団に入る愚行をするガロア。

 

「私ももう少し寝……」

 

「ん? これは……」

セレンもぼやくようにそう言いながら横になろうとした時、ガロアはセレンの首元に赤い跡があるのを見つける。

 

「!!」

丁度跡があるのであろう位置を触られ声にならない声を出すセレン。

 

「どっかにぶつけたのか?」

場所的にも色的にもキスマークと呼ばれる物に見えるが、セレンが自分以外の男に触れられただけでどういう反応をするか、ガロアは知っているし、ほとんど毎日一緒にいるのだ。

それはあり得ない。となるとどこかにぶつけたのだろうと思いガロアは素直に口に出した。

 

「こ…ぉ…んのぉ……」

 

「は?」

 

「馬鹿野郎がぁっ!!」

 

「あがっ!?」

風を切る音とともに振られた肘がガロアのアゴを鋭く打ち抜き、酒のせいでフラフラのガロアはそのまま速やかに意識を失った。

 

「ふざけるな! まったく……」

だが、言葉と感情とはあべこべになんだかすっきりしたセレンはぶっ倒れたガロアの身体に抱き着きそのまま眠りに落ちた。

二人が目を覚ましたのはすっかり日が暮れてからだった。

 




教訓:人が嫌がることややりたがらないことをさせない、やらない♡


次回。
ガロア、南極に行く
ガロア、フレンチクルーラーと戦う

の二本立てでお送りします。


ジンジャーエールで割ると全然普通に飲めるからタチが悪い

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