第1話 しゃべる本
キルヘン・ベル
その小さな街に僕は住んでいる。僕は街を歩きながらため息をついていた。
「ふぅ」
一人歩いていると前を歩く金髪のロングヘアの女性を見つけた。
「モニカ」
「あら、アラヤじゃない」
それは幼馴染の一人モニカだった。僕はモニカの側に駆け寄った。
「こんな所で会うなんて珍しいな。ソフィーのところに行くのか?」
「うん、ソフィーにお薬を頼もうと思って、アラヤは?」
「僕は……」
俯いているとモニカはため息を付いた。
「まだ悩んでるのね。でもただブラブラしてるより色んな事に挑戦してみたら?」
「そうしてるよ。それでも何だこうやり甲斐がないみたいで……」
「そこがアラヤの悪いところよね。夢がないっていうのはそんなに悩むものかしら?」
僕が今悩んでいるのは自分に夢がないことだった。幼馴染の三人は自分の夢を持ち、夢を叶えようとしている。
だけど僕だけが夢を見つけられないでいた。ほんとうに自分がやりたいことは一体何なのかずっと探しているんだけど、中々見つけられないでいる
「アラヤはソフィーのところに行く?」
「……いいや。もう少し散歩でもしてるよ」
「そう、それじゃあね」
僕はモニカと別れて散歩の続きをしようと思いながら、あることを思い出した。
(そういえばエリーゼ姉さんの所に新しい本ないかな?)
僕は本屋へと向かうことにしたのだった。
本屋は新しい本や古い本などが置かれている場所だった。店の奥に椅子に座りながら本を呼んでいるメガネを掛けた女性、エリーゼ姉さんがいた
「あら、アラヤが来るなんて珍しいわね」
「新しい本あるかなって寄ってみたんだよ」
「そうなの。アラヤが好きそうな本だったらそっちの棚においてあるわよ」
「ありがとう姉さん」
僕は棚に置かれている本を眺めている中、ある一冊の本を見つけた。
(タイトルも書かれてない。それに何だかボロボロ……)
「姉さん。この本は?」
「どれどれ、あらこの本は……見たことないわね。知らない間に置いていたのかしら」
たまに姉さんってそういう所があるからな。
僕はちょっとこの本に興味があるから買ってみようかなと思い、数冊の本と一緒に買うのであった。
自宅に着き僕は買ったばかりの本を読もう思い、あの本を開いた。
「あれ?何も書かれてない。この本は何なんだろう?」
『……い……』
本が何なのか悩んでいるとどこからともなく声が聞こえた。
辺りを見渡すが誰もいない。当たり前だよな。両親は遠い地方まで旅行に行ってるから、家には僕しかいないのに声が聞こえるなんてことは……
『おい、小僧』
とりあえずは他の本でも読んでみようかな?
『聞こえてるだろう。無視をするな』
さてどれから読もうかな?
『いいから答えろ』
頭に強い衝撃が走った。僕は頭を抑えてながらあるものを見つめた。
「一体何なんだよ!?って本が飛んでる!?」
『飛ぶだけじゃない!!喋ったりも出来るぞ』
確かに本が喋ってる。飛ぶ本ならたまに見つけたりするけど……結構凶暴な奴を……
「倒したほうがいいよな」
僕は虫あみを探した。とりあえずは捕獲して燃やせばなんとかなるかな?
『待て!勝手に倒そうとするんでない』
「いや、魔物だろ。たまにエリーゼ姉さんのお店にあったりするからな。多少は慣れてる」
『だから俺は魔物ではない!というか話を聞け!』
「魔物だったら攻撃はしないだろ」
『それはお前が無視をするからだ』
だって普通は聞こえないふりをしたいだろう。別に痛かったから怒ってるわけじゃないけど……
「まぁお前が魔物じゃない事は一応信じるけど」
『一応ではなく、信じろ』
「何か俺に用でも?だから声をかけたんだろ」
『ふむ、俺の名前はディン。見ての通り本なのだが』
「見ての通りというか見たままだけどな」
『うるさい。お前に声をかけたのは頼み事をしたいと思ってな』
「頼み事?」
面倒くさそうだな。でも断ったらまた叩かれそうだし……
『そうだ。俺の中身を見ただろう』
「真っ白だったな」
『俺は大昔に生きていた物語師なのだが』
「物語師って?」
聞いたことない言葉だな。その分ちょっと興味が湧いた。
『物語師というのは世界中を渡り歩き、そこで起こった事を書き続ける者のことだ。物語を書き続けて生きていたんだが、ある日気がついたらこの本になっていた』
気がついたらって、覚えてないのかよ
『お前のことだ。覚えてないだろうと思っているだろう』
やばい心を読まれた
『その通りだ。何故か覚えてないのだが……唯一覚えているのはある少女の物語を書こうと思っていたことだ』
「ある少女?」
『少女は錬金術士だったんだが、それがもう凄く可愛らしく……』
「あぁ惚れて、その女の子の物語を書こうと思ってるのか。ちょっとした変態だな」
そういった瞬間、また叩かれた。図星を言われたからってそんなことをするなよ
『俺のことはどうでもいい。お前に頼みたいことは俺が叶えられなかった夢を叶えて欲しいのだ』
「夢を?」
『そうだ。最高の物語を書いて欲しいのだ。俺が叶えられなかった夢を叶えてほしい』
夢を叶えろか。夢がない僕にそんなこと出来るのかな?
『頼めないか?』
「僕には夢がない。そんな僕に……」
『夢がないからってそれがどうしたのだ。夢がなくっても手伝うくらいは出来るだろう』
夢がなくっても手伝うくらいはか……それもそうだな
「手伝うくらいなら……いいかな。よろしく、俺はアラヤ」
『アラヤ。宜しく頼み』
僕はこうして喋る本と出会うのであった。
エスカとロジー編と平行して書くつもりです。因みにエスロジ編に登場させる予定でもあります。どんな話になるかはお楽しみに