不思議な錬金術師と物語師   作:水甲

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第15話 ディン

朝起きたのに、ディンの姿がなかった。

 

「一体何処に……散歩か?」

 

散歩だと思うけど、だけど朝から出かけることなんてあったっけ?

 

僕はそう思いながら、机に置かれた一枚の手紙に気がついた。

 

「これは?」

 

僕はその手紙を読むと……

 

「あの馬鹿……」

 

急いで町の外へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ディンは

 

 

 

悟りの岩山・叡智の門に一人、俺は来ていた。

 

「………」

 

「へぇ、よくここにあるって気がついたね」

 

「もしかしてずっと前から気がついてたの?」

 

そこにはメクレットとアトミナの二人が待っていた。

 

「久しぶりだな」

 

「本当に君まで生きているなんて思ってみなかったよ」

 

「まさかあの時邪魔をした男まで本になっているなんてね」

 

「それはプラフタのおかげだ。彼女は俺を巻き込んだという罪悪感で本に変えた」

 

俺はゆっくりと装填剣を抜き、構えた。

 

「今はもうあのような悲劇を起こさせたくない」

 

「だから?」

 

「僕達をどうするつもりだい?」

 

「お前たちを殺す必要はない。俺はこの奥にあるものを破壊しに来た」

 

「破壊するね……」

 

「門の鍵が開かないのにどうやって破壊をするんだい?」

 

「いずれソフィーが作り出すだろうな。彼女はプラフタと同じ天才錬金術師だ」

 

「それだったらソフィーを殺せばいい話だろ?」

 

二人の言葉を聞き、俺は笑みを浮かべた。

 

「そんなことをしてみろ。アラヤに殺される。ならばもう二度と誰の手にも触れられないように門を埋めるか………開いた瞬間に知識の大釜を破壊すればいい話だ」

 

「そっか、それはいい方法だね」

 

「だけど来るのは遅かったみたいだよ」

 

二人が不気味な笑みを浮かべた瞬間、叡智の門が開いた。

 

「まさか完成してしまったか!?」

 

「それじゃお先に失礼をするよ」

 

「ようやく解放される」

 

二人は門の中に入っていってしまった。

 

俺はその二人を追っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門の中に入るとすでに二人は知識の大釜を手にしていた。

 

「これでようやく」

 

「私達は解放される」

 

「長き年月」

 

「死ぬことすら許されなかった」

 

「「私達の願いが叶う」」

 

二人が知識の大釜に願いを告げた瞬間、大釜が大きく揺れ動きまばゆい光が辺りを包み込んだ

 

「くっ!?」

 

光が止むとそこにはアトミナとメクレットの姿はなく、異形の姿の男がいた。

 

「蘇ったか。ルアード」

 

「ディン。たかが物語士が錬金術に関わったせいで、そのような姿になってしまうなんてな」

 

「黙れ。俺がやったことに後悔したことはない」

 

装填剣に炎の弾を込め、ルアードに斬りかかる。

 

だがルアードは剣を片手で受け止めた。

 

「それはあの小僧が作ったまがい物だな」

 

「まがい物などと呼ぶな。これはアラヤ作り上げた物。三種の武具と対をなす武具のひとつだ!!」

 

距離を取り、水の弾を込めようとした瞬間、辺りに何かが包み込んだ。

 

「なんだこれは?」

 

「なるほど、それが対を成すものならば……試してみよう。大釜よ。設計図を読み取り作り上げよ」

 

ルアードの手には一冊の本があった。

 

あれはまさか設計図

 

「お前だったのか。それを奪ったのは!」

 

「奪う?拾ったものだ。そして私が作り上げた。いでよ!錬魔剣レイヴン!」

 

大釜から一本の黒い剣が現れた。

 

ルアードはそれを手にした。

 

「これで終わりにしよう」

 

「させるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディンの事を探しに行く途中、ソフィーとプラフタの二人と合流した僕。

 

どうやらプラフタは知識の大釜について思い出したけど、なにやらそれはかなり危ないものだったらしい

 

「門が開いてる?」

 

「遅かったみたいですね。急ぎましょう」

 

「ディン………」

 

門の中に入っていく僕達。

 

奥へと進んでいき、大きな空間に出た僕達の目に入ったのは……

 

黒い剣に貫かれたディンの姿と異形の姿をした男だった。

 

「やはりまがい物だったな」

 

「ディン?」

 

「ルアード……」

 

「どうやら役者は揃ったみたいだが……私はここで帰らせてもらうよ。また会おうプラフタ」

 

ルアードと呼ばれた男はそのまま姿を消した。

 

僕らは急いでディンに駆け寄った。

 

「ディン!しっかりしろ!ソフィー、急いで街に戻ってフリッツさんに……」

 

「もういいんだ。俺はもう長くはない」

 

「なんでそんなことを言うんだよ。まだ……」

 

「見ろ。これを」

 

ディンは破かれた本を見せた。

 

これはディンの本。

 

「この本とこの体は一緒だ。どちらかが破壊されれば俺の命はなくなる」

 

「うるさい!まだ………」

 

「いいんだ。俺は十分生きた。だから聞いてくれ」

 

「そんなもの後でいくらでも……」

 

「………アラヤ。聞きましょう。彼の最後の物語を……」

 

プラフタは僕の身体を引き剥がした。

 

ディンは語った。

 

「俺は物語師。色んな物語を書き続けた。そんなある日、俺は一人の錬金術師と出会った」

 

「知ってるよ。お前が好きだった子だろ」

 

「あぁ、そしてようやく思い出したんだ。その少女が誰だったのかを………」

 

「………やはり貴方だったのですね」

 

「そうだ。プラフタ。俺はお前に恋をし、お前を助けようとしたが、そのまま命をなくした」

 

「勇敢でしたよ。あなたは……」

 

「そして俺は長い年月を得て、アラヤ。お前と出会った。お前は夢というものがないとか言っていたが、俺の夢を手伝ってくれた」

 

「当たり前だろ。僕にはそれぐらいしか……」

 

「お前の物語を見て、お前には物語を書く才能があるとわかった。そして出来れば継いで欲しかった。俺の後を……」

 

「そんなもの……いくらでも継いでやるから……」

 

「良かったな。アラヤ、お前は夢を見つけたのだから………これで俺もようやくいける」

 

「勝手に死のうとするなよ。ディン」

 

「…………プラフタ。大好きだった。ソフィー、お前の仲間と一緒にルアードを止めろ。アラヤ、最後に俺はお前の先生で……良かったんだよな」

 

「そうだよ。先生でいいんだよ」

 

「そうか、これで心残りは………」

 

ディンはそのまま動かなくなり、泣きじゃくるソフィーを抱きしめるプラフタと……

 

声にならない叫びを上げる僕がいた。

 


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