というかレベル上げ中です。
突然エルトナにやってきたソフィーさん、プラフタさん、そして俺が持つ筆と似たような筆を持つアラヤ。
俺達はソフィーさんの頼みでどこかテントを張れる場所がないかと聞かれ、フィリスの家の空き地まで来ていた。
「えっとこの空き地なんですけど……」
「うん、これぐらいの広さなら十分だよ。それじゃ早速……」
ソフィーさんはバッグから小さなテントを取り出し、地面においた瞬間、すぐさまテントが出来た。
「嘘……すごい」
「外の世界にこんな物まで……」
「いや、普通はこんなものないから……このテントはソフィーが錬金術で作ったテントだから」
「街を出て旅を続けた成果ですね」
「えへへ~凄く頑張ったからね。とりあえずテントに入ろう」
ソフィーさんに言われるまま、俺達はテントの中に入った。
テントの中は思っていたよりというか、明らかに外に設置されたテントよりも広かった。
「中がこんなに広いなんて……これもれん……なんでしたっけ?」
「錬金術だよ」
そういえばさっきから思っていたけど、錬金術ってなんだろう?
「あの錬金術って何ですか?」
どうやらフィリスも同じことを思っていたみたいだな。
「えっと、簡単に言えばある物を元に全く別のものを作り出せる術が錬金術」
「まぁ本当に詳しく話せば長くなりますけどね」
「え、えっと、それはおいおいでお願いします。でも……錬金術か……」
フィリスは何かを思いついた顔をしていた。
もしかして錬金術を学んで外の世界に行こうとしてるのかな?
あとで聞いてみるか。
でも俺はあることが気になっていた。
「あのアラヤさん」
「ん、何だって言いたいけど、お前が気になってるのはこれだろ」
そう言ってアラヤさんはあの筆を見せた。
そして俺も筆を見せた。
「使い方は違うけど、同じ力を持った筆……どうしてアラヤさんが?」
「まぁこれは貰ったものだけど、この筆を使えるのは選ばれた人間だけだな」
選ばれた人間だけ……
お爺ちゃんは使えたって聞いたけど、父さんや母さんは使えず、俺には使えた。
血筋ではなく、筆が使用者を選ぶっていうことかな?
「さっきも見たけど、僕の夢想の筆は何もない空間に何かを描いて作り出す。ハルカのは?」
「俺の筆……時空の筆って言うんですけど、これは何もない空間に文字を書くんです。例えば『石』と書けば石が出てきます」
試しに石を出してみた。
「なるほどな。聞いていたとおりに他の筆が存在してるなんて……」
アラヤさんはそう呟いた。
もしかしてこの筆は他にもあるのかな?
「というか筆を使えるということは、ハルカも物語師か?」
「はい、ただこの街での物語はもう書きつくしちゃいましたけど……」
この街に来てから、ずっと物語を書いていた。
そのせいかいつの間にか外の世界での物語を書いてみたいと思っていた。
「何年もか……」
「アラヤよりいっぱい書いてたんだね」
ソフィーさんがそう言うとアラヤさんは「うるさい」と呟いた。
するとフィリスは何かを思いついたみたいだった。
「そうだ、ソフィーさん達はこれからご飯にしますよね。良かったら私の家でどうですか?」
「本当にいいの?」
「はい、きっとお母さんも作りがいがあるって喜ぶと思います」
「それじゃお言葉に甘えて」
「ソフィー、私は少し調べ事してますから、アラヤと行ってきて下さい」
「そう?それじゃプラフタ。留守番お願いね」
「ハルカもたまには……」
フィリスの誘いは嬉しいけど、俺は……
「悪い。俺はいいよ」
「えっ、う、うん」
断られ、落ち込むフィリス。
正直フィリスにそんな顔をさせたくないけど、俺にはあの光景はあまり見たくない
「じゃあな、フィリス」
俺はそのままテントを後にした。
「………」
家に帰るが、誰もいなかった。
「………」
「………家族はいないのか?」
突然声が聞こえ、振り向くとアラヤさんがいた。
「何か用ですか?」
「いや、少し様子がおかしいから気になってな。それで家族は?」
「…………両親とお爺ちゃんがいました」
「………病気か何かか?」
「お爺ちゃんは病気で二年前に……両親は魔物に襲われて……瀕死の身体でエルトナまで俺を連れてきました」
俺は元々エルトナの住人じゃない。
言うなれば外の世界から来た人間だ。
だけど俺には外の記憶はない。
多分幼かったから……
でも何故か覚えているのは、家族団らんの風景だけだった。
だけどその記憶は俺にとって、苦痛だった。
前にもフィリスの家でご飯を食べたことはあるけど、フィリスの家族団欒を見て、嫌な気持ちになった。
それ以降、フィリスやリア姉が誘ってきても、断るようになった。
「家族団らんを見るのが嫌だったからか……」
「アラヤさんには分かりませんよね」
「わからないな」
「それだったら放って置いて下さい」
「………悪いけど放って置けるほど冷たい人間じゃないんだ」
「はい?」
「あの子が……フィリスがお前のことを誘ってくるのは、お前に少しでも家族の一員として一緒にいてほしいからじゃないのか?」
「………そうなのかな?」
「あぁ、きっとそうだ。フィリスはお前を一人にしたくないからだと思う」
「………」
フィリスの気持ちに俺はずっと前から気がついていた。
だけど、俺は気が付かないふりをしていた。
気を使ってほしくないって思っていた。
「………」
「まぁ、いきなり大所帯の所に飛び込むのは難しいだろうから、まずは僕とご飯を食べよう」
「………少しずつ慣れていこうってことですか?」
「そういうことだ」
このアラヤさんは本当に優しい人だな。
今日あったばかりの人にこんなに親身になってくれるなんて……
「あの、ご飯もいいですけど、アラヤさんの書いた物語読ませて下さい」
「あぁ、お前の物語も」
「はい」
この日、俺達は一緒にごはんを食べて、互いの物語を読んだ。
アラヤさんは俺の書いた物語をすごく褒めてくれた。
俺もアラヤさんの物語を読んで、今まで以上に外の世界に興味を持った。
でも今の俺に外に行くほどの力はない。
もしもフィリスと一緒に外へ旅に出ても、魔物に襲われて、二人共食べられてしまうかもしれない。
俺はどうすればいいか、考えながら眠りについた。
そして次の日
俺はアラヤさんにある事を頼んだ。
「俺に筆の使い方を教えてください」
「いきなりどうしたんだ?」
「昨日、あれから考えたんです。もしも外の世界に行っても、今のままでいいのかって……それで思ったんです。アラヤさんの筆の力を……同じ力なのに、どうして違うのかなって……」
「それで僕に使い方を聞こうとしてるのか。それなら練習あるのみだな。いいよ、付き合ってやる」
「ありがとうございます。アラヤさん、いや師匠!」
「師匠!?」
「はい、アラヤ師匠は同じ筆の使い手としてではなく、物語師としても師匠ですから」
「……師匠か。あいつも同じ気持ちだったのかな?まぁいいか、それじゃ行くか。ハルカ」
「はい」
ハルカがアラヤに弟子入りする話でした。