転生少年ジーノ君の冒険譚   作:ぷにMAX

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 冒険者になって、アランヤ村に戻った日の朝。

 ジーノは親に言伝して、家を出た。

 行き先は、いつもの通りゲラルドのバーであった。

 

「うーっす。ゲラルドさん、牛乳ください」

「おう」

 

 いつもの通り、注文してから空いているテーブルに着く。

 いつもよりは長く眠っていたようである。

 相変わらず、人のいない酒場であった。

 まあ、朝から酒を飲んでいるような不摂生な人物は、この村にはいないが。

 しばらくすると、テーブルに白い液体の入ったジョッキが置かれる。

 

「おまちどうさま」

 

 いつもの低い、男の声とは違っていた。

 思わず、顔を上げる。

 

「……トトリの姉ちゃん?」

「おはよう」

 

 牛乳を持ってきてくれたのは、ツェツィだった。

 見事な営業スマイルだった。

 どういうことかと、ゲラルドの方に視線を送ると、その視線を受けたゲラルドが、笑いをこぼしながら、説明してくれた。

 トトリが冒険者になったことで、日中の時間が余ってしまった。

 そこで、従業員として、バーで働くことにしたのだという。

 納得したところで、バーの扉が開いて、メルヴィアとトトリが入ってきた。

 

「二人とも、おめでとう」

 

 二人が、ジーノと同じテーブルに座る。

 ジーノとトトリが、新しく発行してもらった冒険者免許を見せると、メルヴィアは二人を祝福してくれた。

 普段のメルヴィアから決して言われないことであったので、なんだかジーノにとっては照れ臭かった。

 まあ、トトリが喜んでいるから、別にいいかと一人思っている。

 

 さて、トトリたちと話し合ったところ、何日かの間は、アランヤ村近辺で活動を行うことになった。

 アーランドから帰ってきて、ペーターの馬車には、修理が必要になっていることがわかった。

 何年も使い続けていたこともあって、近々部品を買い換える予定だったそうなのだが、その前にモンスターに襲われたことで、あちこちの部品が歪んでしまったようである。

 オーバーホールが必要となったのである。

 今、ペーターの元には馬車はない。

 そのため、アーランドには時間がかかるが、歩いていくしかない。

 馬車が修理されるのが、いつになるのかわからないため、アーランドまでは、歩いていくことが予想される。

 そのため、しっかりとした準備や、アランヤ村周辺での問題の解決が、まず第一に必要なのである。

 特に、移動時間や、モンスターと戦う労力を考えると、先にアランヤ村周辺での冒険者活動を行っていた方が、都合がいいのだ。

 ゆっくり、余裕をもって活動していくべきだとの意見もあったが、三年というリミットの中で、どれだけの活動ができるのか、初心者の二人には、見当がつかなかったのである。

 それに、アーランド周辺のモンスターの方が、アランヤ村周辺で、出てくるモンスターよりも、手ごわいと聞き、まずはアランヤ村周辺で、徐々にアーランドに向けて、活動範囲を広げていこうということになった。

 それと、依頼に関してであるが、アーランドも共和国化したはいいが、アーランドの本拠地にある冒険者ギルドが、全ての依頼を扱うことができるわけではない。

 そのため、地方の酒場など、ギルドから地方への依頼の受付や、完遂したときの報告などを任されているところもある。

 ゲラルドのところは、その任を受け持っている酒場の一つで、アランヤ村周辺での冒険者活動は、彼のところに報告したことで、活動を行っているという証となるのである。

 なので、依頼を受けたかったら、これまで通り酒場に来たらいいのであった。

 

「さて、どこに行くか……」

「あんたたちはまだ冒険者ランクが低いから、入れるところが限られてるしね」

「ええ、そんなのあったんだ……」

「何?説明されなかったの?」

「うう、されてたような、されなかったような」

「聞いてなかった」

「あんたたち……」

 

 メルヴィアがアランヤ村周辺の地図を広げて、今の冒険者ランクで、移動できる範囲を書き記していく。

 大体は、モンスターの強さで、範囲が決められているようである。

 まあ、駆け出しにドラゴンを倒せと言っても、消し炭にされるのがオチだからだ。

 ドラゴンなど、名の通った魔獣に挑むためには、強さを証明しなければならない。

 また、過酷な環境の中へ入っていくためにも、その証明が必要である。

 一種の目安として、冒険者免許の存在があるのだ。

 どれだけ冒険したかということは、どれだけ強くなったかということにもなる。

 強くなるためには、冒険するのだというのが、冒険者の口癖らしい。

 過酷な自然や、モンスターたちを淘汰して、生き残るのが、一流冒険者なのだ。

 今に思うと、トトリの母親も、確かに化け物であった。

 やはり一流冒険者というのは、一味も二味も、どこかおかしい。

 

「じゃあ、とりあえず、北西の『狩人の森』に行こう」

「異議なし」

「賛成」

 

 一行は、森を目指すことにした。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ニューズの林を抜けた先に、木々の生い茂った森がある。

 『狩人の森』と名付けられたその森には、豊富な植物資源を求めて、獰猛な動物がやってきたりもする。

 トトリたちがその森にたどり着いたときは、静かなものだった。

 

「それにしても、ジーノ。あんた、得物変えたの?」

 

 メルヴィアがジーノに尋ねる。

 アーランドに向かう前、彼が持っていたのは、彼の腰に挿せるほどの細剣であった。

 まだ成長途中で、小柄な彼の体では、あまり大きな剣は扱いきれないと考えたのだろう。

 彼の親が、武器を買い与える際に、選んだのが、あの細剣だった。

 しかし、免許をもらって帰ってきた彼の肩には、新たな相棒が乗せられていた。

 ジーノの身長よりもはるかに大きな長剣である。

 どちらかというと、彼女のような、パワーファイター向きの武器だと思う。

 一撃で相手を沈めるようなパワーと、多少の衝撃にはびくともしない頑丈さが、必要だ。

 少なくとも、メルヴィアは、そのようなスタイルなのである。

 細剣を使っていた時のジーノは、スピードを重視した戦い方をしていた。

 豊富な手数で、相手を削りきる。

 もっとも、アランヤ村周辺の敵では、彼が()()相手など、もう存在しないが……。

 剣が折れたいきさつは、聞いている。

 ジーノ自身の話では、アーランドで代わりの得物を手に入れたということだが。

 さすがに、変わりすぎだろう。

 どういう心づもりなのか。

 疑惑をはらんだ問いかけに、ジーノが答える。

 

「かっこいいだろう?」

 

 ジーノが2、3度振り回す。

 大きな鋼が、風を切る。

 太刀風が、メルヴィアたちの所まで飛んでくるようであった。

 

「……やっぱ、あんたには似合わないよ」

「まぁ、メル姉も見てなって」

 

 肩に担ぐ。

 やはり、ジーノの小柄な体には、大きすぎる長剣だ。 

 振り回すだけで、一苦労なのではないか。

 ふと、草むらをかき分けて、モンスターが飛び出してきた。

 たるリスに加え、緑色のぷにである、『緑ぷに』だ。

 豊富な植物資源を食べ続けると、青から緑に変わるとか。

 少しだけ、硬く、弾力感が増している。

 トトリたちが構えるのを、ジーノが手で制する。

 そして、いつもの通り、正眼で構えた。

 巨大な銀の塊を、両の手で持っている。

 たるリスが、自慢のたるを取り出した。

 右手に持って、ジーノに投げつける。

 ジーノはそれを、剣の腹の部分で、打った。

 たるははじかれ、あらぬ方向へ。

 緑ぷにが、突進してくる。

 ジーノは、構えなおすことなく、打った勢いのまま、回った。

 一回転し、勢いを殺さず、そのまま剣を放り投げた。

 風を切って、得物が飛ぶ。

 回転しながら、大きな鉄の塊が、緑ぷにを押しつぶした。

 ぐちゃりと、いやな音がした。

 ぷには、ぷにぷに玉をまき散らしながら、その命をなくしてしまった。

 ぷにを押しつぶした長剣は、勢いのまま地面に突き刺さる。

 盛大に音を立てて、土がとぶ。

 その光景を見たたるリスは、恐怖感でも感じたのだろうか、後ろを向いて、逃げていこうとする。

 しかし、逃げられなかった。

 突き刺さった剣を抜くと、左足で踏み込み、大きく薙ぎ払った。

 音を切った剣が、そのままたるリスを切った。

 一振りで血をきり、肩で担ぐ。

 

「どう?」

 

 二人とも、苦い顔をしていた。

 

「……いやぁ、悪くはないけどねえ」

「……めちゃくちゃだよ、ジーノ君」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 狩人の森で、『鹿の角』や、『鎖グモの巣』、上質な『ハチの巣』などを採取し終えると、一行は、今度は南に向かった。

 昔海だった場所が、干上がって、湖のようになっている。

 地底からは、海水が沸き上がってきており、小さな海のような場所だった。

 

「わあ、ジーノ君。あれって、ペンギンさんだよね?」

「ペンギンだな」

 

 砂浜には、本で見たことがある、ペンギンらしき生き物がいた。

 頭部は黒い毛におおわれていて、腹部は白い。

 立派な赤い眉毛と、鋭い眼光が特徴的だった。

 トトリは、人懐こい、本に出てくるようなペンギンを想像したのだろう。

 目を輝かせて、ペンギンに走り寄って行く。

 

「あ、ちょっと――――」

 

 メルヴィアが引き留めようとするが、トトリは聞いている様子がない。

 トトリに気づいたペンギンが、よちよちと歩いて寄って行く。

 そのまま、黄色のくちばしで、トトリをつついた。

 

「いたーい!?」

 

 つつかれたトトリはたまらず、逃げだすが、ペンギンはそれを追う。

 よちよち歩きながら、意外と素早いペンギンに追いかけられ、涙目になっている。

 

「このっ!!」

 

 メルヴィアが、振りかぶって、斧を投げた。

 巨大な鉄の塊が、ペンギンをさらっていった。

 当たり所がよかったのか、ペンギンはまだ生きていた。

 しかし、斧と地面に挟まって、身動きが取れなくなっている。

 そこにメルヴィアが、指を鳴らしながら近づいていき、とどめとばかりに頭をぶん殴った。

 トトリは、その光景を見なくてよかっただろう。

 帰ってきたメルヴィアの頬に、なにやら赤い液体が。

 いや、よそう。

 斧が地面に突き刺さった音か、それともトトリの悲鳴か。

 とにかく、目立ったことは、確かである。

 浜辺にいた、ペンギンたちが、鋭い目つきでこちらのことをにらんでいる。

 すると、一斉に、こちらに向かって走ってきた。

 

「どうする、メル姉?」

「うーん、戦ってもいいけど……、トトリはどう?」

 

 返事はなかった。

 顔を落とし、震えているようである。

 泣いているのか、そう思った。

 しかし、

 

「――――ばかー!!!!」

 

 突然顔を上げ、空に叫ぶと、カバンからありったけのクラフトを取り出し、投げ始めた。

 

「げ」

「やばっ」

 

 メルヴィアは、直観に任せて、ジーノから離れた。

 ジーノは自分に吸い寄せられるように来るクラフトを、まとめて()()()

 大部分は、関係のない場所に飛んで行ったが、一部のいい場所に当たったものは、勢いよくペンギンの元に飛んでいく。

 そして運の悪いものには、黄色い弾丸となったクラフトの餌食となり、爆発に巻き込まれた。

 ひどいものには、口の中に入って、爆発したやつもいた。

 そんな光景を見たペンギンたちは、震えあがって、小さな海の中に逃げ込んでいった。

 誰もいなくなった浜辺に、トトリの荒い息遣いが聞こえる。

 メルヴィアがトトリに近づき、ポンと優しく手を置いた。

 

「元気出しなって」

「うう、ペンギンさん……」

 

 余談だが、アーランド近海に棲むペンギンは、目つきが鋭く凶暴で、本来のペンギンが持つようなかわいさは、全くない。

 別の大陸のペンギンファンたちからは、こいつをペンギンと呼ぶなと言われているらしい。

 彼らも、人間に害を与える、モンスター。

 この日、トトリは少し夢を失って、少し大人になった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「わぁ」

「すごいな」

 

 海岸からそのまま南下したところに、鉱山があった。

 アランヤ村からも近く、多種多様な鉱石が取れるので、採掘した跡が残されている。

 ここには、モンスターの脅威が見当たらなかった。

 おそらく、採掘の際邪魔になるので、冒険者が追い払ったのだろう。

 たぶん、トトリのお母さんである、ギゼラが。

 鉱石資源は、錬金術で重宝するということで、トトリは目を輝かして、採取に励んでいる。

 目立った危険もなさそうだし、足元だけ気をつけなよ、とメルヴィア。

 ジーノも、そこらの石を拾い上げる。

 彼には、今持っている石が、貴重な鉱石なのか、ただの石なのかわからなかった。

 ただ、アーランドの武器職人であるハゲルから、言われた言葉を思い出していた。

 ――――俺の全力に対応できる、金属が必要だ。

 試しに、石に力を込めてみた。

 青白く、石が光る。

 ジーノが顔をしかめる。

 そのまま力を入れ続けると、赤色化し、最後には炭となった。

 駄目だな、と結論づける。

 ちょっと力を込めただけで、炭になってしまう。

 おまけに、不純物が混ざっているからか、力がうまく流れていかない。

 彼の力には、まだ彼自身もよくわかっていないことが多い。

 ただ、単純な握力などの力ではなく、こう、血流のように、光が流れていくのである。

 剣に流すと、まるで剣が体と一体化したかのように扱うことができる。

 切れ味も上がり、強度も並みのものではなくなる。

 ただ、流しすぎると、今度は流す対象から、光があふれだすのである。

 そうなると、赤色化し、灰になる。

 灰は熱を持っているため、この光が余剰エネルギーとして、熱エネルギーを発していることはわかっているのだが……。

 とにかく、彼の目的の一つに、金属を探すことが追加された。

 ドラゴン、ベヒモスなど、噂になる凶悪なモンスターを相手にする際には、必要になるだろう。

 後で、トトリに教えてもらおう、そう思って、採取に混ざっていった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 アランヤ村で依頼をこなすこと数週間が経った。

 トトリが錬金術で、アトリエにこもっているときには、メルヴィアと二人で組み手をしたり、依頼をこなしたりしていた。

 やはり、素手での戦いでは、メルヴィアの方に軍配が上がる。

 というか、素の腕力が違いすぎた。

 しかし、メルヴィアからすれば、ジーノは戦いにくい相手であった。

 小柄な体格を活かして、素早くヒット&アウェイを繰り返す。

 何より、彼の拳は()()()のである。

 撃ち込まれることは、多々ある。

 腕力差を、手数で補うのが、ジーノのスタイルだからだ。

 だから、メルヴィアは、ガードを下げない。

 急所は守って、隙を狙う。

 何度も同じ場所に打撃を受けてくると、そこにダメージが蓄積してくる。

 ふと、腕が下がるときがあった。

 その時、メルヴィアに拳が撃ち込まれた。

 顎だ。

 虚を突かれ、踏ん張っていなかった顎を撃ち抜かれ、メルヴィアはダウンした。

 手痛い、一敗だった。

 当初、ジーノのパンチや蹴りくらい、筋肉ではねえせると思っていた。

 しかし、実際に受けてみると、肉の上からでも()()()のである。

 2撃、3撃と同じ場所に突き刺されると、その場所がしびれて、動かなくなってしまう。

 だから、メルヴィアは打点をずらさなければならなかった。

 ジーノの連撃をしのいで、体の一部をつかみ、地面に叩きつける。

 豪快だが、メルヴィアらしいやり方だ。

 悔しいが、ジーノには、技では勝てない。

 一体、どこでこのような多彩な手を覚えたのだろうか。

 手癖の悪さも、昔よりも上がっている。

 負けてられないと、ひそかに、対抗心を燃やしていた。

 めんどくさがりやなメルヴィアだったが、子どもに負けるのは悔しいのだろう。

 トトリについては、アトリエでの錬金術の他に、ジーノに言われた通り、素振りを行っている。

 最初は、やり終えたころには、腕が上がらないと嘆いていたが、最近では少し慣れてきたのか、素振りを終えた後でも錬金釜をかき混ぜたりもしている。

 そして、新たに追加された修業が、手袋を投げるというものだった。

 グイードが持っていた、作業用の手袋を丸めることで、ボールの代わりとする。

 これなら、たとえ当たったとしても、それほど痛くはない。

 これを、相手と投げ合うのである。

 早い話が、キャッチボールだ。

 彼女がノーコンなのは、投げるときに目をつぶるからだと、結論づけた。

 投げるときに相手の方を見て、ゆっくりと投げる。

 これだけでも、全然違ってくるはずである。

 夕飯の前など、ツェツィと投げ合っている光景が、近ごろ見かけられるらしい。

 姉の方も、妹と交流できてうれしいようだ。

 なぜかジーノの方にいってしまうことについては、よくわからなかった。

 ただ、トトリの深層心理に、何かジーノに対する恨みでも残っているのだろう。

 本人も、ジーノにも、身に覚えがなかった。

 とにかく、ジーノ以外に向けて、まっすぐと投げられるようになることが、トトリについては、早急な課題と言えるだろう。

 この先、爆弾が強化されていくにつれて、相手の場所に投げられなければ、死活問題にもかかわってくる。

 逆に言えば、狙った場所に投げられるコントロールを持てば、彼女にとって大きな武器となる。

 今はまだ、彼女の投手人生は、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ある日、ジーノがいつものように、酒場に行くと、見慣れぬ顔が一つあった。

 テーブルには、トトリとメルヴィア、それともう一つ、黒髪の女の子の姿が。

 

「ジーノ」

 

 メルヴィアが手招きして呼ぶ。

 ジーノはゲラルドから、ジョッキの牛乳をもらうと、テーブルに置く。

 

「どちらさま?」

「……名を名乗らすなら、まずは自分からではなくて?」

 

 勝気な視線が、ジーノに注がれている。

 どこかの金持ちの令嬢っぽい、どこか高貴さを漂わせた風格があった。

 彼女の座っている椅子のそばには、彼女の身長よりも長い長槍がかけられていた。

 ジーノが長剣を壁に立てかける。

 そのまま席につくと、そのまま牛乳をあおった。

 

「――――って、名乗りなさいよ!!」

「み、ミミちゃん。落ち着いて――――」

「だからミミちゃんはやめなさい!」

 

 トトリがなだめにかかる。

 メルヴィアは、にやにやと腕を組んで座っている。

 傍観する姿勢だ。

 ジーノは改めて、黒髪の女の子の方を見た。

 

「ジーノ・クナープだ」

「―――っ、ミミ・ウリエ・フォン・シュバルツラングよ。言っとくけど、私は――――」

「よろしくな、ミミちゃん」

「ミミちゃん言うな!!」

 

 新たに投下された火種で、ミミの怒りのボルテージが高まっていく。

 トトリは、どうにかしてなだめようと、右往左往している。

 メルヴィアが傍観している今、自分の力だけで、この場面をどうにかしなければならない。

 グルルと、怒りの唸り声をあげるミミの横目で、ジーノがメルヴィアに目配せする。

 意図を悟ったのか、手を叩いて、

 

「はいはいはい。みんなそろったことだし、本題に入ろうか」

 

 その言葉で、ミミも怒りを抑えて席をつく。

 ほっと、トトリが一息ついた。

 

「で、どんな話?」

「簡単に言うと、パーティが四人以上の時は、どうするかってこと」

「――――?、四人以上だとダメなんですか?」

「基本的に、四人以上のパーティは奨励されてないの」

「なんで?」

「んー、まあ、いろいろ説はあるんだけど、四人以上で必要な依頼は、基本的に王宮直属の依頼とかが多いからかな。あとは、昔、冒険者のひな型となったアーランドの人たちが、組んでいたのがもっぱら3人組だったからとか……」

「ふーん。変な説が多いもんだな」

「だから、今日はトトリが誰と組んで探索に行くのか決めようと思って」

 

 ジーノはトトリと顔を見合わせた。

 というか、そんな決まりあったっけと思うところもあるが、仕様だからしょうがないのだ。

 今までは、トトリ・ジーノ・メルヴィアでパーティを組んでいたが、冒険者免許を習得したミミが来たことで、パーティメンバーの変更を行えるようになった。

 まぁ、悪い言い方だと、一人あぶれる。

 

「――――てなわけで、私、抜けるわ」

 

 メルヴィアが手を上げる。

 

「ど、どうして?」

「ほら、あんたたちと違って、私は元々一人でやってきたしさ」

「で、でも、メルお姉ちゃん――――」

「あんたたち、全員免許取り立てのルーキーなんだから、パーティ組んどきなって。あたしはしばらくゆっくりするよ。……まぁ、どうしても私の力が必要な時は、呼んでくれたらすぐに行くからさ」

 

 あとは若人でごゆっくりと手を振ると、ツェツィがいるカウンターの方へ歩いて行った。

 沈黙が、この場を支配していた。

 

「……まあ、こうなったらこの三人で行くか」

「え、でもいいの?」

「しょうがねえだろ。まあ、頼んだら手伝ってくれるみたいだし、また組んでくれるさ」

「ジーノ君……」

「――――ちょっとあなた」

 

 先ほどまで沈黙を保っていたミミが、口を開いた。

 

「私は、あなたが一緒のパーティに入っていることを許可していないのだけれど」

「ん?」

「み、ミミちゃんっ」

「どうして私が、あなたみたいな山猿と組まなければならないの?」

 

 傲慢な言い草だった。

 それに、ジーノは、

 

「はは、何言ってるかわかんね」

 

 一笑し、席を立った。

 

「――――っ、このっ!この私を愚弄したわね!!」

「ゲラルドさん、牛乳追加で」

「無視するな!!」

「ミミちゃん、静かにしないと」

「だって、こいつが――――」

「お、来た来た」

 

 ツェツィが、牛乳の入ったグラスを運んできた。

 

「お客様、店でのもめごとは、ご遠慮願います」

「あ、はい。すいません」

 

 威圧感をまとった笑顔で一礼すると、カウンターに下がっていく。

 ミミは腰を落ち着けると、小声で、

 

「あなたのせいで、私が怒られてしまったじゃない!!」

「まあまあ、牛乳でも飲めよ。俺のおごりだからさ」

「いらないわよ!!ああ、もう!どうして私がこんなやつと――――」

「牛乳を飲めば、成長するぞ。――――いろんな場所が」

 

 その言葉に、ミミの顔が急激に赤く染まっていった。

 ジーノの視線も、しっかりと物語っていたのである。

 それまで口をはさめずにいたトトリも、杖を握りしめて、震える手を抑えている。

 ミミは、槍を掴むと、

 

「決闘よ!!」

 

 高らかに宣言した。

 

「ああ、いいぜ」

 

 ジーノは、それを笑って受けた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ちょっとメルヴィ、止めなくても平気なの?」

「大丈夫でしょ。ただの喧嘩みたいだし」

 

 三人が立ち去った後の酒場で、ツェツィとメルヴィアが二人で話している。

 三人の話し声は、ほとんど人のいない酒場にはよくとおるのであった。

 大体の事情は、察している。

 

「もう、ゲラルドさんも、何か言ってくださいよ!!」

「んー、ああ。あいつら、ルール決めていかなかったな」

「そんなことじゃありません」

「ツェツィも慌てすぎだ。あれも、仲間との絆を深める機会なんだぞ」

 

 落ち着いた様子で、ゲラルドはグラスを磨いている。

 

「ぶつかることで、分かり合えることもある」

 

 それに、

 

「意外と相性がいいかもしれんぞ、あいつら」

「あたしもそう思う」

 

 ツェツィだけが心配している中、大人たちの饗宴は続く。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 アランヤ村から西に行ったところにある平原。

 そこで、二人が対峙している。

 ジーノは、体よりも大きな長剣を肩で背負って、不敵に相手を見つめている。

 ミミは、長槍を片手で構えて、優雅に立っている。

 

「ルールは?」

「負けを認めるまでよ」

「上等」

 

 トトリが少し遠くから、ハラハラしながら様子を眺めている。

 ここに来るまでに、何度も二人に説得したのだが、取り合ってもらえなかった。

 それどころか、二人ともが、むきになっているのである。

 前哨戦とも言える、舌戦によって、引き起こされたものである。

 もはや、トトリには止めるすべはない。

 こうなったらと、カバンの中を見やる。 

 昨日作った、とっておきの爆弾だ。

 村の雑貨屋である、パメラさんのところで買った、『フロジストン』を使った新爆弾である。

 危なくなったら、これで二人の間に投げ入れて、中断させよう。

 そんな危ない考えを、持っていた。

 ジーノが、いつも通り、正眼で構える。

 ミミが、穂先を相手の方にむけ、両の手で持ち、腕を引く。

 ごくりと、のどが鳴った。

 遠くから見ているトトリのものであった。

 先に動いたのは、ミミだった。

 一歩踏み込むとともに、突いた。

 ジーノが、剣の側面にあてて、軌道をずらす。

 ずらしたほうと逆方向にステップを踏んだ。

 トトリには、一連の動きが、見えなかった。

 ジーノの口元には、笑みが浮かんでいる。

 ミミの口元には、笑みが浮かんでいる。

 

「速いな」

「そっちこそ、よくかわしたじゃない」

 

 再び、ミミが腕を引いた。

 今度は、ジーノが踏み込んだ。

 正眼の構えのまま、槍の間合いのさらに奥に突き進む。

 ミミが、再び突きを放った。

 長剣の、側面で弾く。

 はじかれた勢いを利用して、ミミが廻った。

 そのまま、薙ぎ払う。

 ジーノが受けた。

 カネの鳴る音がした。

 少し元の位置から飛ばされもしたが、立ち直り、剣をふるった。

 縦の振り下ろしを、ミミが右にステップを入れることで避ける。

 突き、払い、突き、突き、払い、払い――――。

 やはり、手数では、槍の方が上であった。

 ジーノは、わきを固め、槍をはじくことに専念する。

 それにしても、速い。

 剣戟が、先ほどから止まらないのである。

 ジーノは、今まで戦った誰よりも素早い打ち込みに、舌を巻いた。

 ミミは、先ほど感じた、振り下ろしによる風圧に、肝が冷えていた。

 戦況は、ジーノが防戦一方のように見える。

 しかし、ミミも攻め切ることができない。

 亀のように堅い、堅実な受けである。

 このままいけば、自分のほうが、スタミナで参ってしまう。

 その前に、何としても、攻め切らなくては。

 まともには、あの剛刀を受け止めることはできない。

 まったく、なんという得物を使っているのか。

 はじめ、見たときは、格好つけるだけの見せかけかと思っていた。

 そんな巨大な得物を扱えるものかと。

 しかし、実際に、自らが撃ち込んでいる連撃を、さばいているではないか。

 並みの筋力ではない。

 それに、なんだか、

 

「――――速くなってる」

 

 踏み込みの速度も、剣の振りも、何もかもが速くなっているのである。

 ミミは、荒い息を吐いた。

 無呼吸での連撃は、さすがに堪えた。

 最後の突きを、剣の振りで合わされる。

 腕がしびれ、弾かれた槍がとんでいく。

 ハァハァと、荒い息を吐いている。

 ジーノも、長剣を地面に突き刺して、同じように荒い息を吐いている。

 

「――――私の負けね」

 

 そう言って、大の字に寝転がった。

 ミミの胸の内は、どうしてか、晴れ晴れとしていた。

 負けたのに、どうしてだろう。

 荒い呼吸のまま、思案する。

 汗で髪がひっついてきて、うっとうしい。

 空は、青かった。

 視界の中に、ジーノが入ってくる。

 こちらに、手を差し出してきた。

 黙って、その腕をとった。

 寝転がったときに、服が汚れてしまったが、今はどうでもよかった。

 どちらともが無言のまま、こちらに慌てて駆け寄ってくるトトリを見て、笑った。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 トトリが怒っている。

 いつものように、頬を膨らますようなかわいいものではない。

 ガチ説教であった。

 目に涙を浮かべながらも、力強い言葉を投げかける。

 それを、ジーノとミミが、無言で聞いている。

 目を伏せがちなのは、負い目があることをわかっているからだろう。

 

「わかった、二人とも!?」

「「ごめんなさい」」

 

 それを、遠くから大人たちが見ている。

 

「もう、二人とも、無茶をして……」

 

 ツェツィは、空になったヒーリングサルブの容器を片づけている。

 

「いやあ」

「なんて言うか」

 

 喧嘩するほど、仲がいい。

 そう、大人たちは結論付けた。

 

 

 

 

 

 

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