転生少年ジーノ君の冒険譚 作:ぷにMAX
冒険者になって、アランヤ村に戻った日の朝。
ジーノは親に言伝して、家を出た。
行き先は、いつもの通りゲラルドのバーであった。
「うーっす。ゲラルドさん、牛乳ください」
「おう」
いつもの通り、注文してから空いているテーブルに着く。
いつもよりは長く眠っていたようである。
相変わらず、人のいない酒場であった。
まあ、朝から酒を飲んでいるような不摂生な人物は、この村にはいないが。
しばらくすると、テーブルに白い液体の入ったジョッキが置かれる。
「おまちどうさま」
いつもの低い、男の声とは違っていた。
思わず、顔を上げる。
「……トトリの姉ちゃん?」
「おはよう」
牛乳を持ってきてくれたのは、ツェツィだった。
見事な営業スマイルだった。
どういうことかと、ゲラルドの方に視線を送ると、その視線を受けたゲラルドが、笑いをこぼしながら、説明してくれた。
トトリが冒険者になったことで、日中の時間が余ってしまった。
そこで、従業員として、バーで働くことにしたのだという。
納得したところで、バーの扉が開いて、メルヴィアとトトリが入ってきた。
「二人とも、おめでとう」
二人が、ジーノと同じテーブルに座る。
ジーノとトトリが、新しく発行してもらった冒険者免許を見せると、メルヴィアは二人を祝福してくれた。
普段のメルヴィアから決して言われないことであったので、なんだかジーノにとっては照れ臭かった。
まあ、トトリが喜んでいるから、別にいいかと一人思っている。
さて、トトリたちと話し合ったところ、何日かの間は、アランヤ村近辺で活動を行うことになった。
アーランドから帰ってきて、ペーターの馬車には、修理が必要になっていることがわかった。
何年も使い続けていたこともあって、近々部品を買い換える予定だったそうなのだが、その前にモンスターに襲われたことで、あちこちの部品が歪んでしまったようである。
オーバーホールが必要となったのである。
今、ペーターの元には馬車はない。
そのため、アーランドには時間がかかるが、歩いていくしかない。
馬車が修理されるのが、いつになるのかわからないため、アーランドまでは、歩いていくことが予想される。
そのため、しっかりとした準備や、アランヤ村周辺での問題の解決が、まず第一に必要なのである。
特に、移動時間や、モンスターと戦う労力を考えると、先にアランヤ村周辺での冒険者活動を行っていた方が、都合がいいのだ。
ゆっくり、余裕をもって活動していくべきだとの意見もあったが、三年というリミットの中で、どれだけの活動ができるのか、初心者の二人には、見当がつかなかったのである。
それに、アーランド周辺のモンスターの方が、アランヤ村周辺で、出てくるモンスターよりも、手ごわいと聞き、まずはアランヤ村周辺で、徐々にアーランドに向けて、活動範囲を広げていこうということになった。
それと、依頼に関してであるが、アーランドも共和国化したはいいが、アーランドの本拠地にある冒険者ギルドが、全ての依頼を扱うことができるわけではない。
そのため、地方の酒場など、ギルドから地方への依頼の受付や、完遂したときの報告などを任されているところもある。
ゲラルドのところは、その任を受け持っている酒場の一つで、アランヤ村周辺での冒険者活動は、彼のところに報告したことで、活動を行っているという証となるのである。
なので、依頼を受けたかったら、これまで通り酒場に来たらいいのであった。
「さて、どこに行くか……」
「あんたたちはまだ冒険者ランクが低いから、入れるところが限られてるしね」
「ええ、そんなのあったんだ……」
「何?説明されなかったの?」
「うう、されてたような、されなかったような」
「聞いてなかった」
「あんたたち……」
メルヴィアがアランヤ村周辺の地図を広げて、今の冒険者ランクで、移動できる範囲を書き記していく。
大体は、モンスターの強さで、範囲が決められているようである。
まあ、駆け出しにドラゴンを倒せと言っても、消し炭にされるのがオチだからだ。
ドラゴンなど、名の通った魔獣に挑むためには、強さを証明しなければならない。
また、過酷な環境の中へ入っていくためにも、その証明が必要である。
一種の目安として、冒険者免許の存在があるのだ。
どれだけ冒険したかということは、どれだけ強くなったかということにもなる。
強くなるためには、冒険するのだというのが、冒険者の口癖らしい。
過酷な自然や、モンスターたちを淘汰して、生き残るのが、一流冒険者なのだ。
今に思うと、トトリの母親も、確かに化け物であった。
やはり一流冒険者というのは、一味も二味も、どこかおかしい。
「じゃあ、とりあえず、北西の『狩人の森』に行こう」
「異議なし」
「賛成」
一行は、森を目指すことにした。
◆
ニューズの林を抜けた先に、木々の生い茂った森がある。
『狩人の森』と名付けられたその森には、豊富な植物資源を求めて、獰猛な動物がやってきたりもする。
トトリたちがその森にたどり着いたときは、静かなものだった。
「それにしても、ジーノ。あんた、得物変えたの?」
メルヴィアがジーノに尋ねる。
アーランドに向かう前、彼が持っていたのは、彼の腰に挿せるほどの細剣であった。
まだ成長途中で、小柄な彼の体では、あまり大きな剣は扱いきれないと考えたのだろう。
彼の親が、武器を買い与える際に、選んだのが、あの細剣だった。
しかし、免許をもらって帰ってきた彼の肩には、新たな相棒が乗せられていた。
ジーノの身長よりもはるかに大きな長剣である。
どちらかというと、彼女のような、パワーファイター向きの武器だと思う。
一撃で相手を沈めるようなパワーと、多少の衝撃にはびくともしない頑丈さが、必要だ。
少なくとも、メルヴィアは、そのようなスタイルなのである。
細剣を使っていた時のジーノは、スピードを重視した戦い方をしていた。
豊富な手数で、相手を削りきる。
もっとも、アランヤ村周辺の敵では、彼が
剣が折れたいきさつは、聞いている。
ジーノ自身の話では、アーランドで代わりの得物を手に入れたということだが。
さすがに、変わりすぎだろう。
どういう心づもりなのか。
疑惑をはらんだ問いかけに、ジーノが答える。
「かっこいいだろう?」
ジーノが2、3度振り回す。
大きな鋼が、風を切る。
太刀風が、メルヴィアたちの所まで飛んでくるようであった。
「……やっぱ、あんたには似合わないよ」
「まぁ、メル姉も見てなって」
肩に担ぐ。
やはり、ジーノの小柄な体には、大きすぎる長剣だ。
振り回すだけで、一苦労なのではないか。
ふと、草むらをかき分けて、モンスターが飛び出してきた。
たるリスに加え、緑色のぷにである、『緑ぷに』だ。
豊富な植物資源を食べ続けると、青から緑に変わるとか。
少しだけ、硬く、弾力感が増している。
トトリたちが構えるのを、ジーノが手で制する。
そして、いつもの通り、正眼で構えた。
巨大な銀の塊を、両の手で持っている。
たるリスが、自慢のたるを取り出した。
右手に持って、ジーノに投げつける。
ジーノはそれを、剣の腹の部分で、打った。
たるははじかれ、あらぬ方向へ。
緑ぷにが、突進してくる。
ジーノは、構えなおすことなく、打った勢いのまま、回った。
一回転し、勢いを殺さず、そのまま剣を放り投げた。
風を切って、得物が飛ぶ。
回転しながら、大きな鉄の塊が、緑ぷにを押しつぶした。
ぐちゃりと、いやな音がした。
ぷには、ぷにぷに玉をまき散らしながら、その命をなくしてしまった。
ぷにを押しつぶした長剣は、勢いのまま地面に突き刺さる。
盛大に音を立てて、土がとぶ。
その光景を見たたるリスは、恐怖感でも感じたのだろうか、後ろを向いて、逃げていこうとする。
しかし、逃げられなかった。
突き刺さった剣を抜くと、左足で踏み込み、大きく薙ぎ払った。
音を切った剣が、そのままたるリスを切った。
一振りで血をきり、肩で担ぐ。
「どう?」
二人とも、苦い顔をしていた。
「……いやぁ、悪くはないけどねえ」
「……めちゃくちゃだよ、ジーノ君」
◆
狩人の森で、『鹿の角』や、『鎖グモの巣』、上質な『ハチの巣』などを採取し終えると、一行は、今度は南に向かった。
昔海だった場所が、干上がって、湖のようになっている。
地底からは、海水が沸き上がってきており、小さな海のような場所だった。
「わあ、ジーノ君。あれって、ペンギンさんだよね?」
「ペンギンだな」
砂浜には、本で見たことがある、ペンギンらしき生き物がいた。
頭部は黒い毛におおわれていて、腹部は白い。
立派な赤い眉毛と、鋭い眼光が特徴的だった。
トトリは、人懐こい、本に出てくるようなペンギンを想像したのだろう。
目を輝かせて、ペンギンに走り寄って行く。
「あ、ちょっと――――」
メルヴィアが引き留めようとするが、トトリは聞いている様子がない。
トトリに気づいたペンギンが、よちよちと歩いて寄って行く。
そのまま、黄色のくちばしで、トトリをつついた。
「いたーい!?」
つつかれたトトリはたまらず、逃げだすが、ペンギンはそれを追う。
よちよち歩きながら、意外と素早いペンギンに追いかけられ、涙目になっている。
「このっ!!」
メルヴィアが、振りかぶって、斧を投げた。
巨大な鉄の塊が、ペンギンをさらっていった。
当たり所がよかったのか、ペンギンはまだ生きていた。
しかし、斧と地面に挟まって、身動きが取れなくなっている。
そこにメルヴィアが、指を鳴らしながら近づいていき、とどめとばかりに頭をぶん殴った。
トトリは、その光景を見なくてよかっただろう。
帰ってきたメルヴィアの頬に、なにやら赤い液体が。
いや、よそう。
斧が地面に突き刺さった音か、それともトトリの悲鳴か。
とにかく、目立ったことは、確かである。
浜辺にいた、ペンギンたちが、鋭い目つきでこちらのことをにらんでいる。
すると、一斉に、こちらに向かって走ってきた。
「どうする、メル姉?」
「うーん、戦ってもいいけど……、トトリはどう?」
返事はなかった。
顔を落とし、震えているようである。
泣いているのか、そう思った。
しかし、
「――――ばかー!!!!」
突然顔を上げ、空に叫ぶと、カバンからありったけのクラフトを取り出し、投げ始めた。
「げ」
「やばっ」
メルヴィアは、直観に任せて、ジーノから離れた。
ジーノは自分に吸い寄せられるように来るクラフトを、まとめて
大部分は、関係のない場所に飛んで行ったが、一部のいい場所に当たったものは、勢いよくペンギンの元に飛んでいく。
そして運の悪いものには、黄色い弾丸となったクラフトの餌食となり、爆発に巻き込まれた。
ひどいものには、口の中に入って、爆発したやつもいた。
そんな光景を見たペンギンたちは、震えあがって、小さな海の中に逃げ込んでいった。
誰もいなくなった浜辺に、トトリの荒い息遣いが聞こえる。
メルヴィアがトトリに近づき、ポンと優しく手を置いた。
「元気出しなって」
「うう、ペンギンさん……」
余談だが、アーランド近海に棲むペンギンは、目つきが鋭く凶暴で、本来のペンギンが持つようなかわいさは、全くない。
別の大陸のペンギンファンたちからは、こいつをペンギンと呼ぶなと言われているらしい。
彼らも、人間に害を与える、モンスター。
この日、トトリは少し夢を失って、少し大人になった。
◆
「わぁ」
「すごいな」
海岸からそのまま南下したところに、鉱山があった。
アランヤ村からも近く、多種多様な鉱石が取れるので、採掘した跡が残されている。
ここには、モンスターの脅威が見当たらなかった。
おそらく、採掘の際邪魔になるので、冒険者が追い払ったのだろう。
たぶん、トトリのお母さんである、ギゼラが。
鉱石資源は、錬金術で重宝するということで、トトリは目を輝かして、採取に励んでいる。
目立った危険もなさそうだし、足元だけ気をつけなよ、とメルヴィア。
ジーノも、そこらの石を拾い上げる。
彼には、今持っている石が、貴重な鉱石なのか、ただの石なのかわからなかった。
ただ、アーランドの武器職人であるハゲルから、言われた言葉を思い出していた。
――――俺の全力に対応できる、金属が必要だ。
試しに、石に力を込めてみた。
青白く、石が光る。
ジーノが顔をしかめる。
そのまま力を入れ続けると、赤色化し、最後には炭となった。
駄目だな、と結論づける。
ちょっと力を込めただけで、炭になってしまう。
おまけに、不純物が混ざっているからか、力がうまく流れていかない。
彼の力には、まだ彼自身もよくわかっていないことが多い。
ただ、単純な握力などの力ではなく、こう、血流のように、光が流れていくのである。
剣に流すと、まるで剣が体と一体化したかのように扱うことができる。
切れ味も上がり、強度も並みのものではなくなる。
ただ、流しすぎると、今度は流す対象から、光があふれだすのである。
そうなると、赤色化し、灰になる。
灰は熱を持っているため、この光が余剰エネルギーとして、熱エネルギーを発していることはわかっているのだが……。
とにかく、彼の目的の一つに、金属を探すことが追加された。
ドラゴン、ベヒモスなど、噂になる凶悪なモンスターを相手にする際には、必要になるだろう。
後で、トトリに教えてもらおう、そう思って、採取に混ざっていった。
◆
アランヤ村で依頼をこなすこと数週間が経った。
トトリが錬金術で、アトリエにこもっているときには、メルヴィアと二人で組み手をしたり、依頼をこなしたりしていた。
やはり、素手での戦いでは、メルヴィアの方に軍配が上がる。
というか、素の腕力が違いすぎた。
しかし、メルヴィアからすれば、ジーノは戦いにくい相手であった。
小柄な体格を活かして、素早くヒット&アウェイを繰り返す。
何より、彼の拳は
撃ち込まれることは、多々ある。
腕力差を、手数で補うのが、ジーノのスタイルだからだ。
だから、メルヴィアは、ガードを下げない。
急所は守って、隙を狙う。
何度も同じ場所に打撃を受けてくると、そこにダメージが蓄積してくる。
ふと、腕が下がるときがあった。
その時、メルヴィアに拳が撃ち込まれた。
顎だ。
虚を突かれ、踏ん張っていなかった顎を撃ち抜かれ、メルヴィアはダウンした。
手痛い、一敗だった。
当初、ジーノのパンチや蹴りくらい、筋肉ではねえせると思っていた。
しかし、実際に受けてみると、肉の上からでも
2撃、3撃と同じ場所に突き刺されると、その場所がしびれて、動かなくなってしまう。
だから、メルヴィアは打点をずらさなければならなかった。
ジーノの連撃をしのいで、体の一部をつかみ、地面に叩きつける。
豪快だが、メルヴィアらしいやり方だ。
悔しいが、ジーノには、技では勝てない。
一体、どこでこのような多彩な手を覚えたのだろうか。
手癖の悪さも、昔よりも上がっている。
負けてられないと、ひそかに、対抗心を燃やしていた。
めんどくさがりやなメルヴィアだったが、子どもに負けるのは悔しいのだろう。
トトリについては、アトリエでの錬金術の他に、ジーノに言われた通り、素振りを行っている。
最初は、やり終えたころには、腕が上がらないと嘆いていたが、最近では少し慣れてきたのか、素振りを終えた後でも錬金釜をかき混ぜたりもしている。
そして、新たに追加された修業が、手袋を投げるというものだった。
グイードが持っていた、作業用の手袋を丸めることで、ボールの代わりとする。
これなら、たとえ当たったとしても、それほど痛くはない。
これを、相手と投げ合うのである。
早い話が、キャッチボールだ。
彼女がノーコンなのは、投げるときに目をつぶるからだと、結論づけた。
投げるときに相手の方を見て、ゆっくりと投げる。
これだけでも、全然違ってくるはずである。
夕飯の前など、ツェツィと投げ合っている光景が、近ごろ見かけられるらしい。
姉の方も、妹と交流できてうれしいようだ。
なぜかジーノの方にいってしまうことについては、よくわからなかった。
ただ、トトリの深層心理に、何かジーノに対する恨みでも残っているのだろう。
本人も、ジーノにも、身に覚えがなかった。
とにかく、ジーノ以外に向けて、まっすぐと投げられるようになることが、トトリについては、早急な課題と言えるだろう。
この先、爆弾が強化されていくにつれて、相手の場所に投げられなければ、死活問題にもかかわってくる。
逆に言えば、狙った場所に投げられるコントロールを持てば、彼女にとって大きな武器となる。
今はまだ、彼女の投手人生は、始まったばかりだ。
◆
ある日、ジーノがいつものように、酒場に行くと、見慣れぬ顔が一つあった。
テーブルには、トトリとメルヴィア、それともう一つ、黒髪の女の子の姿が。
「ジーノ」
メルヴィアが手招きして呼ぶ。
ジーノはゲラルドから、ジョッキの牛乳をもらうと、テーブルに置く。
「どちらさま?」
「……名を名乗らすなら、まずは自分からではなくて?」
勝気な視線が、ジーノに注がれている。
どこかの金持ちの令嬢っぽい、どこか高貴さを漂わせた風格があった。
彼女の座っている椅子のそばには、彼女の身長よりも長い長槍がかけられていた。
ジーノが長剣を壁に立てかける。
そのまま席につくと、そのまま牛乳をあおった。
「――――って、名乗りなさいよ!!」
「み、ミミちゃん。落ち着いて――――」
「だからミミちゃんはやめなさい!」
トトリがなだめにかかる。
メルヴィアは、にやにやと腕を組んで座っている。
傍観する姿勢だ。
ジーノは改めて、黒髪の女の子の方を見た。
「ジーノ・クナープだ」
「―――っ、ミミ・ウリエ・フォン・シュバルツラングよ。言っとくけど、私は――――」
「よろしくな、ミミちゃん」
「ミミちゃん言うな!!」
新たに投下された火種で、ミミの怒りのボルテージが高まっていく。
トトリは、どうにかしてなだめようと、右往左往している。
メルヴィアが傍観している今、自分の力だけで、この場面をどうにかしなければならない。
グルルと、怒りの唸り声をあげるミミの横目で、ジーノがメルヴィアに目配せする。
意図を悟ったのか、手を叩いて、
「はいはいはい。みんなそろったことだし、本題に入ろうか」
その言葉で、ミミも怒りを抑えて席をつく。
ほっと、トトリが一息ついた。
「で、どんな話?」
「簡単に言うと、パーティが四人以上の時は、どうするかってこと」
「――――?、四人以上だとダメなんですか?」
「基本的に、四人以上のパーティは奨励されてないの」
「なんで?」
「んー、まあ、いろいろ説はあるんだけど、四人以上で必要な依頼は、基本的に王宮直属の依頼とかが多いからかな。あとは、昔、冒険者のひな型となったアーランドの人たちが、組んでいたのがもっぱら3人組だったからとか……」
「ふーん。変な説が多いもんだな」
「だから、今日はトトリが誰と組んで探索に行くのか決めようと思って」
ジーノはトトリと顔を見合わせた。
というか、そんな決まりあったっけと思うところもあるが、仕様だからしょうがないのだ。
今までは、トトリ・ジーノ・メルヴィアでパーティを組んでいたが、冒険者免許を習得したミミが来たことで、パーティメンバーの変更を行えるようになった。
まぁ、悪い言い方だと、一人あぶれる。
「――――てなわけで、私、抜けるわ」
メルヴィアが手を上げる。
「ど、どうして?」
「ほら、あんたたちと違って、私は元々一人でやってきたしさ」
「で、でも、メルお姉ちゃん――――」
「あんたたち、全員免許取り立てのルーキーなんだから、パーティ組んどきなって。あたしはしばらくゆっくりするよ。……まぁ、どうしても私の力が必要な時は、呼んでくれたらすぐに行くからさ」
あとは若人でごゆっくりと手を振ると、ツェツィがいるカウンターの方へ歩いて行った。
沈黙が、この場を支配していた。
「……まあ、こうなったらこの三人で行くか」
「え、でもいいの?」
「しょうがねえだろ。まあ、頼んだら手伝ってくれるみたいだし、また組んでくれるさ」
「ジーノ君……」
「――――ちょっとあなた」
先ほどまで沈黙を保っていたミミが、口を開いた。
「私は、あなたが一緒のパーティに入っていることを許可していないのだけれど」
「ん?」
「み、ミミちゃんっ」
「どうして私が、あなたみたいな山猿と組まなければならないの?」
傲慢な言い草だった。
それに、ジーノは、
「はは、何言ってるかわかんね」
一笑し、席を立った。
「――――っ、このっ!この私を愚弄したわね!!」
「ゲラルドさん、牛乳追加で」
「無視するな!!」
「ミミちゃん、静かにしないと」
「だって、こいつが――――」
「お、来た来た」
ツェツィが、牛乳の入ったグラスを運んできた。
「お客様、店でのもめごとは、ご遠慮願います」
「あ、はい。すいません」
威圧感をまとった笑顔で一礼すると、カウンターに下がっていく。
ミミは腰を落ち着けると、小声で、
「あなたのせいで、私が怒られてしまったじゃない!!」
「まあまあ、牛乳でも飲めよ。俺のおごりだからさ」
「いらないわよ!!ああ、もう!どうして私がこんなやつと――――」
「牛乳を飲めば、成長するぞ。――――いろんな場所が」
その言葉に、ミミの顔が急激に赤く染まっていった。
ジーノの視線も、しっかりと物語っていたのである。
それまで口をはさめずにいたトトリも、杖を握りしめて、震える手を抑えている。
ミミは、槍を掴むと、
「決闘よ!!」
高らかに宣言した。
「ああ、いいぜ」
ジーノは、それを笑って受けた。
◇
「ちょっとメルヴィ、止めなくても平気なの?」
「大丈夫でしょ。ただの喧嘩みたいだし」
三人が立ち去った後の酒場で、ツェツィとメルヴィアが二人で話している。
三人の話し声は、ほとんど人のいない酒場にはよくとおるのであった。
大体の事情は、察している。
「もう、ゲラルドさんも、何か言ってくださいよ!!」
「んー、ああ。あいつら、ルール決めていかなかったな」
「そんなことじゃありません」
「ツェツィも慌てすぎだ。あれも、仲間との絆を深める機会なんだぞ」
落ち着いた様子で、ゲラルドはグラスを磨いている。
「ぶつかることで、分かり合えることもある」
それに、
「意外と相性がいいかもしれんぞ、あいつら」
「あたしもそう思う」
ツェツィだけが心配している中、大人たちの饗宴は続く。
◆
アランヤ村から西に行ったところにある平原。
そこで、二人が対峙している。
ジーノは、体よりも大きな長剣を肩で背負って、不敵に相手を見つめている。
ミミは、長槍を片手で構えて、優雅に立っている。
「ルールは?」
「負けを認めるまでよ」
「上等」
トトリが少し遠くから、ハラハラしながら様子を眺めている。
ここに来るまでに、何度も二人に説得したのだが、取り合ってもらえなかった。
それどころか、二人ともが、むきになっているのである。
前哨戦とも言える、舌戦によって、引き起こされたものである。
もはや、トトリには止めるすべはない。
こうなったらと、カバンの中を見やる。
昨日作った、とっておきの爆弾だ。
村の雑貨屋である、パメラさんのところで買った、『フロジストン』を使った新爆弾である。
危なくなったら、これで二人の間に投げ入れて、中断させよう。
そんな危ない考えを、持っていた。
ジーノが、いつも通り、正眼で構える。
ミミが、穂先を相手の方にむけ、両の手で持ち、腕を引く。
ごくりと、のどが鳴った。
遠くから見ているトトリのものであった。
先に動いたのは、ミミだった。
一歩踏み込むとともに、突いた。
ジーノが、剣の側面にあてて、軌道をずらす。
ずらしたほうと逆方向にステップを踏んだ。
トトリには、一連の動きが、見えなかった。
ジーノの口元には、笑みが浮かんでいる。
ミミの口元には、笑みが浮かんでいる。
「速いな」
「そっちこそ、よくかわしたじゃない」
再び、ミミが腕を引いた。
今度は、ジーノが踏み込んだ。
正眼の構えのまま、槍の間合いのさらに奥に突き進む。
ミミが、再び突きを放った。
長剣の、側面で弾く。
はじかれた勢いを利用して、ミミが廻った。
そのまま、薙ぎ払う。
ジーノが受けた。
カネの鳴る音がした。
少し元の位置から飛ばされもしたが、立ち直り、剣をふるった。
縦の振り下ろしを、ミミが右にステップを入れることで避ける。
突き、払い、突き、突き、払い、払い――――。
やはり、手数では、槍の方が上であった。
ジーノは、わきを固め、槍をはじくことに専念する。
それにしても、速い。
剣戟が、先ほどから止まらないのである。
ジーノは、今まで戦った誰よりも素早い打ち込みに、舌を巻いた。
ミミは、先ほど感じた、振り下ろしによる風圧に、肝が冷えていた。
戦況は、ジーノが防戦一方のように見える。
しかし、ミミも攻め切ることができない。
亀のように堅い、堅実な受けである。
このままいけば、自分のほうが、スタミナで参ってしまう。
その前に、何としても、攻め切らなくては。
まともには、あの剛刀を受け止めることはできない。
まったく、なんという得物を使っているのか。
はじめ、見たときは、格好つけるだけの見せかけかと思っていた。
そんな巨大な得物を扱えるものかと。
しかし、実際に、自らが撃ち込んでいる連撃を、さばいているではないか。
並みの筋力ではない。
それに、なんだか、
「――――速くなってる」
踏み込みの速度も、剣の振りも、何もかもが速くなっているのである。
ミミは、荒い息を吐いた。
無呼吸での連撃は、さすがに堪えた。
最後の突きを、剣の振りで合わされる。
腕がしびれ、弾かれた槍がとんでいく。
ハァハァと、荒い息を吐いている。
ジーノも、長剣を地面に突き刺して、同じように荒い息を吐いている。
「――――私の負けね」
そう言って、大の字に寝転がった。
ミミの胸の内は、どうしてか、晴れ晴れとしていた。
負けたのに、どうしてだろう。
荒い呼吸のまま、思案する。
汗で髪がひっついてきて、うっとうしい。
空は、青かった。
視界の中に、ジーノが入ってくる。
こちらに、手を差し出してきた。
黙って、その腕をとった。
寝転がったときに、服が汚れてしまったが、今はどうでもよかった。
どちらともが無言のまま、こちらに慌てて駆け寄ってくるトトリを見て、笑った。
◇
トトリが怒っている。
いつものように、頬を膨らますようなかわいいものではない。
ガチ説教であった。
目に涙を浮かべながらも、力強い言葉を投げかける。
それを、ジーノとミミが、無言で聞いている。
目を伏せがちなのは、負い目があることをわかっているからだろう。
「わかった、二人とも!?」
「「ごめんなさい」」
それを、遠くから大人たちが見ている。
「もう、二人とも、無茶をして……」
ツェツィは、空になったヒーリングサルブの容器を片づけている。
「いやあ」
「なんて言うか」
喧嘩するほど、仲がいい。
そう、大人たちは結論付けた。