灰と幻想のグリムガル 紅き眼のニ刀使い   作:kia

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第十三話 狩場

 

 

 

 

 いつも通りの喧噪に包まれたシェリーの酒場。

 

 変わらず端っこの席に座るユキト達は注文した飲み物片手にハルヒロの話に耳を傾けていた。

 

 「って感じだったんだ!」

 

 ハルヒロが語っているのは先にあったオークとの戦いの事だ。

 

 興奮収まらずと言った様子のハルヒロ。

 

 気持ちは良く分かる。

 

 それだけ凄い戦いだったのだ。

 

 そして話を聞いているのはパーティメンバーだけではない。

 

 後ろや横の席に座っている客もハルヒロの話に聞き入っていた。

 

 「おかげで生きてる訳だけど……」

 

 助けてもらった事はありがたいし、感謝している。

 

 だけど―――

 

 ユキトは複雑な心境でハルヒロの話に耳を傾ける。

 

 結末だけを語ってしまえば、レンジはイシュ・ドグランと呼ばれたオークに勝った。

 

 他のオーク達もそれを見て退散し、騒ぎは終息した。 

 

 聞いただけなら大した事ないようにも思える。

 

 だがイシュ・ドグランはかなり手強い相手だった。

 

 剣技だけではなく、オークの巨体に似合わない小技も使ってくるような厄介な敵。

 

 仮にあの場でハルヒロと二人で戦う事になっていたなら、間違いなく殺されていただろう。

 

 そんな相手からレンジは腕に深い傷を負いながらも勝利をもぎ取ったのだ。

 

 まあ、彼は終始余裕を崩さなかったが。

 

 「とにかくさ、レンジ達が凄かったんだよ。途中で腕をやられてさ。でもそれを利用してイシュ・ドグランの意表をついて。見ていただけの俺も騙されちゃったし」

 

 「うおー! ピンチを奥の手に変えるとか! くそ! 俺もやりてぇ、ていうか俺もやるぞ、絶対やる!」

 

 話を聞いて興奮したのかランタが席を立ちあがり、高らかに宣言する。

 

 しかし他のメンバーからの視線は冷ややかだ。

 

 「勝手にやって失敗したらいいのとちがう?」

 

 「失敗なんかするかぁぁ!!」

 

 「……その根拠がない」

 

 相変わらずユメとシホルはランタに対して遠慮がなかった。

 

 というか明らかにシホルには毒がある。

 

 よほどランタとは相性が悪いのだろう。

 

 「自信を持つのは良い事だけど、過信はしないように。それが命取りになる事もある」

 

 「うっ」

 

 流石のランタもメリィに言われたのでは黙らざる得なかった。

 

 メリィがかつて所属していたパーティは言わば自分達の力を過信していたが故に壊滅してしまったのだから。

 

 「で、でもさ、レンジ君たちは凄いよね。同期なのにずいぶん離されちゃったな」

 

 「うん、でもユメはユメたちのピースでやってけばいいやんと思うけどなぁ。シアさんにも色々教えてもらってるし」

 

 「ユメ、ペースだよ。まあ、俺もそう思うけどね。というかレンジ達とはものが違うというか、見てて参考にならなかった。まあ強さで言えば師匠とは比べるまでもないけど」

 

 レンジは確かに凄かった。

 

 しかしアナスタシア程ではない。

 

 まあ彼女の場合は別格というか、明らかにレベルが違うので比べるのも違う気がする。

 

 「そういえば、後で師匠には眼の事を聞いておかないと」

 

 「眼?」

 

 「オークとの戦闘中にユキトの眼がまた紅くなったんだよ」

 

 「えぇ! ユ、ユキくん大丈夫やった?」

 

 隣に座っていたユメが驚いてユキトの顔―――正確には眼を覗き込んでくる。

 

 顔が近い。

 

 いい匂いがするけど、これは良くない。

 

 ランタも睨みつけてる事だし、少し離れて欲しい。

 

 「い、今は大丈夫だよ。疲労感はまだ残ってるけど」

 

 「そっかぁ」

 

 前に倒れてしまった事があったから気にしているのだろう。

 

 「とにかく自分じゃ分からなかったけど眼が紅くなって、なんか体が軽くなったというか。調子が良くなったんだ。そのおかげでオークを倒す事ができたんだけど。でもその後で凄い疲れちゃって一歩も動けなくなった」

 

 「なんだそれ?」

 

 「分らない。だから師匠に聞かなくちゃって」

 

 「けどそれ凄くね! オークも倒せたんだろ! ユキトが出来たって事は俺らだって眼が紅くなれば出来るかもしれねーし!」

 

 「やめた方がいいと思うよ。さっきも言ったけど一歩も動けなくなったし、ハルヒロやレンジ達がいなかったら僕は殺されてたと思う」

 

 とにかくあの時の疲労感は半端なものではなかった。

 

 もしも戦闘の途中であんな風になってしまえば確実に命を落とす事になるだろう。

 

 当然、仲間の負担も増し、下手をすればそれがきっかけで全滅する可能性も高くなる。

 

 「んだよ、何弱気になってんだ? 一段上に行くためだろ! お前には向上心ってのはないのかよ」

 

 「あるよ。今のままじゃ駄目だって思ってる」

 

 ユキトの言葉に他の皆も驚いていた。

 

 だが、このままでは駄目なのだ。

 

 「分かってんじゃねーか! 周り見てみろよ!」

 

 ランタの言わんとしている事は分かる。

 

 今、シェリーの酒場に集まっている義勇兵の中で自分達は一番貧相だった。

 

 装備も中古品。

 

 オークの返り血を浴びたユキトやハルヒロなどは服すら薄汚れていた。

 

 かといって義勇兵としての貫禄があるかと言われればそれも無い。 

 

 未だにゴブリンスレイヤーなる不名誉な称号が付きまとっているくらいだ。

 

 「良いか。状況ってのは動いてるんだよ。聞いた所ではさ、新入りが来たんだと。そいつらそろそろギルドでの初心者講習が終わった頃だ。てことはダムローにだって来るかもしれねぇ」

 

 つまり後輩が出来るという事。

 

 ランタの危惧しているのは、このままじゃ後輩に追い抜かれてしまうぞって事だろう。

 

 「焦らない方が良いんじゃない?」

 

 メリィがこちらの内心を見透かしたように呟く。

 

 確かにそうだ。

 

 焦っている。

 

 別に後輩が出来るとか。

 

 レンジとの差を感じたとか。

 

 そう言った事よりも―――オーク相手にまともに戦えなかった事。

 

 それが焦りの原因だった。

 

 成長したつもりでも、何も変わっていなかった。

 

 何よりも恐ろしいのがソレだ。 

 

 そんな焦りを感じたのはユキトだけではなく、ハルヒロもだったようでポツリと呟いた。

 

 「例えばだけど。俺達も別の場所に行って色々試してみるってのはどうかな? ゴブリンばっかり相手にするっていうのも何かルーチンワークみたいになってしまいそうだし」

 

 「ハルヒロォォ!! たまには良い事言うじゃないかよ!! ソレだよ、ソレ!」

 

 悪くない案かもしれない。

 

 確かにゴブリンばかり狩っていても成長は望めない。

 

 別の場所で経験を積むという選択は間違っていない気がする。

 

 「ならユメは反対かな」

 

 「私も」

 

 女性陣からの反対にモグゾーは腕を組んで悩み、メリィは何も言わずに飲み物を口にしている。

 

 「や、別に提案って訳じゃないからさ。でもこの先の事は考えないと。俺達の立場を考えるとね」

 

 「む~ん、ユメは別にこのままでもいいと思うけど、シアさんの事もあるしなぁ」

 

 そう。

 

 それがあるのだ。

 

 また何時アナスタシアの仕事を手伝う事になるかも分からない。

 

 今よりも確実に強くなっておく事に越したことはないのだ。

 

 「とにかくこれで何もしなかったら向上心のねぇ豚と同じだろ」

 

 「子豚さん可愛いやんかぁ!」

 

 「何でそこで子豚が出てくんだよ、バァーカ!!」

 

 「ふ、二人共落ちついて」

 

 良く分からない言い争いを始めたユメとランタをモグゾーが止めに入る。

 

 けど声が小さい所為かあまり効果がないようだ。

 

 「……ユキトくんも、同じ?」

 

 「え?」

 

 珍しい事にシホルがジッとこちらを見ながら問いかけてきた。

 

 ユキトは一瞬だけ言い淀んでしまう。

 

 確かに焦りはある。

 

 でもそれが致命的な間違いに繋がる可能性も十分にあるのだ。

 

 マナトの時のように。

 

 それを最も恐れているのはきっとシホルだ。

 

 しかしこのままでは―――

 

 そんな思考がグルグルと頭の中を過り続ける。

 

 悩みながらもユキトが言葉を口にしようとした時、纏めるようにハルヒロが立ち上がった。 

 

 「とにかく一度師匠に相談してみよう」

 

 「シアさんに相談するのはええかもなぁ。ランタの意見より何百倍も説得力あるやろうし」

 

 皆も反論はないようで各々に装備を持って立ち上がる。

 

 「ユキ?」

 

 「え、ああ。何でもない」

 

 心配そうなメリィに返事をするとユキトもまた剣を腰に差して席を立った。

 

 危険を承知で進むべきか。

 

 停滞を覚悟しての現状維持か。 

 

 どちらが正しい選択なのか。

 

 自身の答えも出ないまま、ユキトはハルヒロ達を追って歩き出した。

 

 

 

 

 「なるほど」

 

 訓練を終え、地面に伏したパーティメンバーを見下ろしながらアナスタシアは納得したように頷いた。

 

 剣を片手に佇むその姿は実に絵になっている。

 

 ただ立っているように見えても恐ろしい程、隙が見当たらない。

 

 「い、痛ぇぇ」

 

 「ぐううう」

 

 叩き伏せられた痛みに呻きながら、立ち上がる事もできない。

 

 相変わらずの容赦の無さに、涙が出そうだ。 

 

 「やっぱりシアさんは凄いなぁ」

 

 「うん、全然歯が立たない」

 

 「そうね」 

 

 流石に女性陣には手加減したのか、メリィ達は立ち上がる余裕があるらしい。

 

 「差別だろ」なんてランタが呟いている。

 

 「今の話だが。狩場を変えるというのは悪い話じゃない」

 

 「で、ですよねぇ! どうだ、お前らぁ!」

 

 ランタがうつ伏せに寝転がりながら、こちらに勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

 何というか器用な奴だなぁと思う。

 

 「お前達に足りないものは非常に多いけど、その最たるものが戦闘経験だ。そういう意味でも狩場を変えるのは良い案だ」  

 

 「でも無理しても危険なんじゃないかって皆で話してたんですけど」

 

 「自分達にあった狩場に行けばいいだろう。それに危険なのは今でも同じだ。例えば戦い方。お前達、ゴブリンばかり狩っている所為で、それに最適化された動きになってきている」

 

 「それって……」

 

 「分かりやすく言うなら、ゴブリン狩りに慣れすぎた戦い方。それはゴブリンには有効でも他には通用しない。今、他の敵と戦えばただそれだけで死の確率も格段に上がる」

 

 誰もが気が付かなかった事を指摘され、絶句してしまう。

 

 そういえばオークと戦った時もかなりの戦いにくさを覚えた気がする。

 

 戦う気はあるのに中々攻めに転じる事が出来なかった。

 

 最初は自分で臆したのかとも思っていたのだが、そういった理由もあったのかもしれない。

 

 「要は経験不足による対応能力が欠けているんだ。それに緊張感の欠如は油断を生む。同じ相手と同じ場所でばかり戦うとそういった弊害も出てくるという事だ」  

 

 自分達が気が付かなかった危険性。

 

 それを指摘され今度こそ誰も何も言えなくなってしまった。

 

 「じゃあどこが良いと思いますか?」

 

 「それは自分達で判断しろ。それも義勇兵としての力量だ」

 

 「ぐっ、ブリちゃんと同じ事を!」

 

 ランタが顔を引きつらせて、首を垂れる。

 

 かつてブリトニーに言われた事だ。

 

 『自分を生かすのは、才覚と独自の判断、己の技量のみ』だと。

 

 そしてそれはきっと正しい。

 

 結局の所、最後にものを言うのは自分達の持つ力と知恵だ。

 

 「あの、もう一つ聞きたいことが。僕がオークと戦った時に起きたのは……」

 

 もう一つ。

 

 今日起きた最も重要な出来事に対する質問。  

  

 その問いにアナスタシアは僅かに顔を曇らせる。

 

 「……思った以上に早い。私との相性の良さか」

 

 「は?」

 

 「いや。それは単に私の力の一部がお前の中で活性化したからだ。前にも教えた通りお前達に飲ませた血はある種のエレメンタルのようなものだ。それが何かがきっかけになって反応したのだろう」

 

 「じゃあ身体能力が向上したのも?」

 

 「その影響に間違いない」

 

 アナスタシアの回答にランタは嬉しそうに飛び上がる。

 

 「おお! じゃあ俺達も!」

 

 「調子に乗るんじゃない。そんなものを当てにするな。力が増したと言っても微々たるもの。証拠に雑魚のオークにさえ手こずる有様だ」

 

 「ぐっ」

 

 「今まで通りお前達はキッチリ基礎を固めて経験を積んでいけばいい」

 

 それ以上は何も言わず、アナスタシアは考えるよう月の方に視線を向けた。

 

 その表情がつらそうに見えたのは気のせいなのだろうか。 

 

 「あの師匠。もう一つだけ聞きたいのですが、紅い眼になると副作用みたいなものはあるのですか?」

 

 「身をもって味わっただろう。確かに力は増す。しかしそれは無理やりな強化だ。反動は肉体に過度な負荷をもたらす。下手をすれば碌に動けなくなる」

 

 やはり動けなくなるほどの全身疲労は紅い眼になった反動だったらしい。

 

 「でもコントロールとか出来る訳じゃないし……」

 

 「ふむ……ならそっちの訓練しないとな」

 

 「え?」

 

 思わず伏せていた顔を上げる。 

 

 そこには紅い月を背に立ち、楽しそうに口元をつり上げたアナスタシアの姿が目に飛び込んできた。

 

 当然、全員が顔を青くしながら息を飲む。 

 

 「さあ、始めようか」

 

 何処までも楽しそうな笑みを浮かべる彼女は間違いなくドSだ。

 

 「ハ、ハハハ、俺死ぬかも」

 

 「縁起でもない事言うな」

 

 だからといって抗う術もなく、ユキト達はただ顔を引きつらせる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 「あ~きつい。つらい」

 

 「いちいち口に出すなよ」

 

 「うっせーよ。いいだろ別に。減るもんじゃあるまいし」

 

 訓練を終え、全員が身体を引きずり義勇兵宿舎への道のりを歩く。

 

 今日はメリィも一緒だ。

 

 いつもは自分が借りている宿に戻るのだが、その気力も残っていないらしい。

 

 「つか、普通の訓練の後でアレはきつ過ぎだろ」

 

 「まあ、な」

 

 ランタは辟易したようにため息をつくとハルヒロも同調したように頷いた。

 

 あの後やらされたのは所謂精神修行とも言うべきものだった。

 

 座禅を組み、体内に存在しているエレメンタルと同調させる。

 

 こうして口に出して言うのは簡単だが、全身ヒリヒリ痛む上に、座禅なんてやったこともないから余計に辛かった。

 

 「平気だったけど」

 

 「私も」

 

 「ユメはちょっと大変やったかなぁ」

 

 普段から魔法を扱うメリィやシホルは慣れたもので軽々こなし、反面ユメは少し辛そうだ。

 

 男性陣は言わずもがな。

 

 全員が辟易していた。

 

 「えっと、明日からの狩りの事だけど……行きたい場所とかある?」 

 

 気分を変えるつもりなのか、ハルヒロが口を開いた。

 

 先ほど指摘された危険性。

 

 リーダーとしてそれを見過ごせないという事か。

 

 「やっぱり俺の実力が発揮される所がいいぜ!」

 

 「どこだよ、それは」

 

 狩場を変える。

 

 言うのは簡単だが具体的な場所は思い浮かばない。

 

 今までそういった情報収集に積極的では無かった所為でもあるが、こういった事はすべてマナトが仕切っていた事も原因だ。

   

 マナトを失ってからは仇を討つ為の訓練に注力していた。

 

 このパーティーの最大の欠点はこういう情報に疎い所かもしれない。

 

 「……じゃあ私から」

 

 手を上げたのはメリィだった。

 

 「メリィは何処か心当たりが?」

 

 「ええ。……サイリン鉱山」

 

 メリィが口にした名称に誰もが驚き、黙り込んでしまう。

 

 そこは彼女にとって忘れられない忌むべき場所だったから。

 

 それでもメリィがサイリン鉱山に行こうというのであれば反対する理由はない。

 

 結局、反対意見も上がらぬまま、明日以降の狩りはサイリン鉱山で行う事に決まった。

 

 

 

 

 オルタナから離れた位置にある森の中。

 

 そこは狩りの対象になる異種族も存在せず、重要な拠点でもない寂れた場所だった。

 

 しかしだからこそ身を隠すには絶好の穴場でもある。

 

 ましてやギルドと敵対している追われる立場の身ともなれば使わない手はない。

 

 故にこの森は反ギルドが使用する拠点の一つとなっていた。

 

 そんな森の奥に建てられた隠れ家では一人の女性が身を顰めていた。

 

 先の戦闘で手傷を負ったアラディナであった。

 

 あてがわれた部屋に常備されていたテーブルやイスは無残な姿に変わり果て、床には彼女の愛剣が突き刺さっていた。

 

 そうなった理由は簡単だ。

 

 アラディナが苛立ちに任せて、すべて破壊したのである。

 

 「アナスタシアめ!」

 

 すでに仲間の神官による治療で傷は癒えたものの、心に刻まれた屈辱までは消えはしない。

 

 あの対戦に備え、新たな武器を手に入れ、万全の対策を練った筈。

 

 それをああも容易く打ち破られ、さらには返り討ちにされるなど。

 

 「次こそ! 次こそは!」

 

 屈辱を糧に固く誓うアラディナ。 

 

 そんな彼女の耳に何かの音が聞こえてきた。

 

 ある程度落ち着きを取り戻したアラディナが様子を見る為に外に出る。

 

 隠れ家の外にある庭では少年が剣を振るっていた。

 

 剣を逆手に持ち、もう片方の手ではナイフを器用に握っている。

 

 「ハ!」

 

 投げたナイフは用意された的へ正確に突き刺さり、振るった剣は確実に舞い落ちる木の葉を斬り裂いた。 

 

 見事な腕に笑みを浮かべながらアラディナは少年に声を掛けた。

 

 「今日はずいぶん気合いが入ってるね、ジュンヤ」

 

 「アラディナか。別に、単に何時もの日課をこなしていただけだ」

 

 「日課ね」

 

 その割に鍛錬はいつも以上に熱が入っていたように見える。

 

 表情まで猛々しいのだから何かあったのは一目瞭然だった。

 

 「そんなにあの義勇兵達が気に入らないのかしら」

 

 アラディナの指摘にジュンヤは僅かに視線を鋭くする。

 

 「……別に、どうでもいい。それにあんな奴ら、この先生き延びる事すらできない。すぐにのたれ死ぬだけだ」

 

 そう言いながらも明らかにあの義勇兵達を意識しているのが分かる。

 

 余程彼らの存在がジュンヤの神経を逆なでしているらしい。

 

 「そんなに邪魔なら始末すればいいでしょう?」

 

 「……どうでもいいと言った筈。それに勝手に動くなと釘を刺されている事を忘れたのか?」

 

 「そう。まあ、貴方が良いならこれ以上は言わないけどね」

 

 アラディナの見透かしたような視線を受けながら、ジュンヤは別方向へ顔を向ける。

 

 視線の先にあるものは数多の義勇兵達が集う街『オルタナ』

 

 ジュンヤの眼はオルタナに居るであろう義勇兵達の方へと向いていた。

 

 


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