アーヴによる人類帝国のアーヴ貴族であるジント【リン・スーニュ=ロク・ハイド伯爵公子・ジント】は、憂鬱だった。彼は、貴族の義務のために主計修技館の学生寮の部屋の前にいて、重い気分をふりはらおうとしていた。
「ふー、やっぱり、気分は重いよ。ディアーホ。これから3年間、僕はここで勉強していくのかというと気分が重くなる一方だ」
一方、猫籠に入れた由緒正しきアーヴ猫の子猫のディアーホ愛想よく鳴くだけだった。
「にゃー。」
「下手したらここで友達は君だけになりそうかと思うと、なんだか行く気分がなくなるよ。でも、ここで3年間頑張れば、ラフィールにまた会える。そのことだけを考えて頑張るよ。」ディアーホに話しかけながら気持ちを決めて学生寮に入寮したジントであった。
入ってみるとすでに一人のアーヴの少年が荷物整理をしていた。
「(あ、そういえば、学生寮は二人部屋だった。・・・どうしよう)」予期しないことにあせるジント
「あなたは、ハイド伯爵公子閣下ではないですか?今度この学生寮で同居人となりますシュリル・ウェフ=キルヒム・ダリシュです。よろしくお願いします。」と星界軍式の頭環に指を添える敬礼をする少年。
「あ、はい、確かに僕はリン・スーニュ=ロク・ハイド伯爵公子・ジントでだけど、そんな丁重な態度をとらなくていいよ。しかも、僕達はこれから星界軍の訓練生として一緒にすむんだよ。確か、星界軍では階級章のみがものをいうよね。それなら、そういう態度はやめてくれないかな。ついでに伯爵公子閣下もやめてくれるとありがたいけど、その呼称になれていないんだ。」アーヴ貴族として扱われることに慣れていないジント
一瞬、沈黙して、その様子を不思議そうにみる少年。
「うん、わかったよ。なら、ジントでいいかい?僕もダリシュとよんでくれると嬉しいな。だって、アーヴ貴族と対等に話す機会なんてめったに無いしね」ひとなっつこい笑顔で答えるダリシュ
「うん、そうしてくれるとありがたいよ。(なんだか、これからの同居人とは上手くいきそうだ。)」
「ところで、君が右手に持っている籠は猫籠かい?」とディアーホのことをのんびりとした雰囲気で聞くダリシュ
「うん、アーヴ猫でディアーホっていうんだ。かわいいでしょ。」と籠から出してダリシュに見せるジント
「君はすばらしいね。僕は猫が大好きなんだ。ディアーホ、君もこれからもよろしくな。」ディアーホの喉をならして喜ぶダリシュ
「まぁ、とにかくよろしく頼むよ。ジント」
「こちらこそ、よろしく、ダリシュ」
そして、二人と一匹の寮生活が始まった。・・・・
数日後・・・主計修技館の入館式もすませて、初めての授業に入るジント。ちなみに主計科の授業は実技訓練と知識を得るための講習と二つに大きく分かれていた。
ジントが入ったクラス1524-03には、15人の訓練生が所属していた。ちなみにダリシュもそこに所属して、男女比は5:10であった。アーヴの世界では男女差があまりなかったので、訓練生のクラスわけもランダムに行われていたため、このような偏った男女比は多くあった。
「それでは、訓練生の皆さん、私がこのクラスの教官となったエーレス・ウェフ=ハリセス・メイファです。よろしね。訓練生の皆さんにいっておくけど、3年間、しっかりと勉強しなさいね。帝国は戦争しているんだから、ここで手をぬいたりしたらあなたたちと、あなたたちの仲間の命に影響がでるかもしれないのだからね。まぁ、とりあえず、私からの挨拶はここまでにして、順番に自己紹介してちょうだい」いかにも知的でクールそうな緑目の女性教官はアーヴらしい態度で挨拶をした。
順番に名前を言って自己紹介しているとジントは一人の少女に目がいった
「ダリシュ、あの子、アーヴなのに眼鏡をしているよ。なんでだい?アーヴの科学技術なら視力の矯正くらい簡単なんじゃぁ・・・」またまたアーヴの不思議の一つ会うジント
「たぶん、僕の個人的意見だけど、家風じゃないかな。アーヴには色々と変った家風があるからね。初めてアーヴと一緒に生活する君にとっては慣れないのはしょうがないけどね。あとで、本人に聞くのが一番だろう」そういうダリシュも彼女に興味を持ったみたいだった。
そして、その子の名前の順番になった。
「えーっと、次は、委員長。」「はい」
「えー、なんだって?」その瞬間、ジントは思わず大きな声をだした。だが、ジント以外のアーヴ達は冷静だった。
「ハイド伯爵公子ですね。何をそんなに驚いているの?」
「あのう、それももしかして、家風なのかい。」「ええ、そうよ。」ジントの態度に不思議そうに答える委員長。
「(ふー、なんてこった。やっぱり、アーヴの世界は難しいや」と心の中で嘆くジントだった。
そして、自己紹介も終わりその日の授業を終えて、学生寮に帰る訓練生たち。ただ、ジントだけが、アーヴの常識とさらに平面宇宙理論などの復習で一人教室で勉強していた。
「ふー、色々苦労しそうだな。ダリシュは、用事があるから先へ帰ったけど、これは、彼にこれから頼ることになりそうだ」と独り言をぶつぶつといっていると、そこへ委員長がきた
「ハイド伯爵公子閣下、何をしているのですか?」と興味ありげにジントの前の机に座る委員長
「もちろん、今日の勉強の復習さ。それと、自分の今までの常識と違うことを記録しているんだよ。それと、ハイド伯爵公子閣下はやめてくれるかな。その呼び名になれていないし、ジントでいいよ。」
「わかったわ。ジント君。なら、私がその勉強とやらにつきあうわ。」ジントにかなり興味を持つ委員長
「こう見えても、私は今回の主計修技館の入学のための筆記試験は一番だったんだから。」
「それは、ありがたいよ。早速だけど、今日の授業の平面宇宙理論とアーヴ船の時空泡との物理的融合性についてなんだけど・・・・」
「これは、エーレス教官もいっていたとおり、この論理を数値化して・・・・」1時間ほどジントの復習を手伝った委員長。
「助かったよ。委員長。でも、ちょっと、君について質問していいかな。やっぱり、その眼鏡と名前が気になってしょうがないだよ」アーヴの疑問点を少しでも解消したいジント
「この眼鏡は、家徴みたいなものね。私達の一族は、みんな視力が弱いのよ。だから、一族は皆コンタクトかメガネをしているわ。私はメガネの方が趣味にあうからしているのよ。まぁ、アーヴの中で眼鏡がつけるくらい視力が悪いのは私の一族くらいね。それと、名前だけど、これ家風よ。私の家の場合、親と兄弟の前以外は、基本的には本名をなのってはいけないの。そのために、仮の名を親に決めてもらうのだけど、私はなぜか『委員長』になった。まぁ、いまさら慣れたけど、アーヴの家風について知らない人が聞いたら、疑問にもつことも当然ね。」ジントの疑問を丁寧に説明する委員長。
「でも、私の家風よりアーヴの間ではハイド伯爵家の方の創設話の方が面白くて、魅力的でかつ疑問が多いと思うけどね。そのあたりを直接ジント君に聞きたいのだけど、いい?」
「えーっと、創設話かい・・・・。(あまり、話したくないな。あれは、故郷の人にとっては犯罪劇だしね。)」なんとかごまかして断ろうと考えるジント
「ねぇ、話してくれないの?」ジントの瞳をじっと見つめる委員長。その瞳は好奇心に満ち溢れていた。
すると、ジントのクリューノに通信が入った。
[ジント、ダリシュだけど。そろそろ帰ってこいよ。夕食のしたくもできたし、ディアーホの世話もしないといけないだろう]というメッセージだった。
「委員長、残念だけど、同部屋の寮生のダリシュに寮に帰って来いといわれたので、帰るよ。その話はまた今度。じゃぁ。」といって、逃げるようにその場からさるジント
「わかったわ。また今度ね。」残念そうにジントを見送る委員長
その日の夕食のジントとダリシュの部屋
「ねぇ、ダリシュ、今日放課後に委員長と話したんだけど、彼女の眼鏡と名前の理由を教えてもらったよ。まぁ、完全に納得のいく理由じゃなかったけど、僕の感覚からすれば変っているね。アーヴの家風ってみんなあんな感じなのかい?」
「まぁ、アーヴの間で仮の名前を使う一族がいるというのは、聞いていたので、別に驚きはしなかったよ。変っているかどうかは主観の問題じゃないかな。僕はジントのいうとおり、変っていると思うよ。でも、だからといって、それが好き嫌いの判断にはならないよ。君は委員長に悪い印象を持ったのかい?」こっちのほうが気になるダリシュ
「いや、どっちかという好印象かな。ただ、故郷のことに関して質問されたのは困ったけどね。彼女はどうやら僕に興味あるみたいだったよ。でも、安心したよ。ダリシュも僕と同じ感覚を持っていて。」
ところで、ジント思いきって聞くけど、、彼女に惚れたのかい?」のんびりとした口調ながらアーヴらしくはっきりきくダリシュ
「いやぁ、とんでもないよ。そんなに僕は惚れっぽくないよ。突然何をきくんだい?びっくりするじゃないか。」動揺するジント
「それは、僕が彼女にひとめぼれしたからさ。ジントがライバルになると心苦しいと思ったけど、良かった。安心したよ。まぁ、ジントにはパリューニュ子爵殿下がいるしね。」穏やかながら安心した様子のダリシュ
「そうなんだ。でも、ラフィールとはそんな関係じゃないよ。」一応否定するジント
「え、殿下の想い人はジントじゃないの?だって、その呼称を言える人なんて見たことないよ。」当然の疑問を抱くダリシュ
「無知と幸運のなせる業さ。簡単に説明すると・・・なんだ。だから、僕も修技館でもラフィールのような扱いをうけるのかなと思ったけど、ダリシュや委員長はあっさり、その例の称号から解放してくれたし、居心地悪い雰囲気ではなかったけど、どうしてだろう。」ジントは思ったよりここの暮らしが上手く行きそうな感じがしていた。
「理由は簡単。皇族と貴族は違うということさ。士族は星界軍で頑張れば、貴族になれる可能性があるけど、皇族には絶対なれない。ましてや。パリューニュ子爵殿下は、13歳で飛翔科の修技館に入学したんだ。これは、アブリアルの中でここ500年ではないことだよ。しかもジント、ここに入るのはたいてい16歳~18歳くらいの年齢が多い。話もある程度あわないことも多かったのかもしれないよ。君も特別な存在かもしれないけど、殿下はもっと特別だってことさ。」いかにも常識だよという雰囲気で答えるダリシュ
「やっぱり、そうだよな。皇帝の孫なんだから・・・。」あらためてラフィールの存在の大きさを認識するジント
「まぁ、君と殿下の関係に関しては、かなり興味深いけど、それとは別に当面の課題に関して協力してくれないかな。」
「当面の課題って何だい?」
「僕と委員長が想い人の関係になることさ。委員長はどうやら君にかなり興味をもっているし、そこを上手く使って、彼女といい関係をつくりたいんだ。ジント、お願いだよ。」口調はゆっくりだが、その言葉には真剣な重みがあるダリシュ
「(うーん、なんだか、とんでもないことになりそうだけど、ルームメイトを助けることが今後の寮生活を円滑にできそうだな。)よし、わかった。全面的に協力するよ。ダリシュ」
・・・後にジントのこの約束がジントの修技館時代にとんでもない事件を巻き起こすのだった。