「ジント、こんばんは。突然だけど、明日の休みは暇?」唐突にクリューノに通信するユーリル
「うん、別に用は無いけど、どうしたの?突然、僕になんか用があるの?」いきなり、聞かれて不審そうに答えるジント
「うん、ちょっと、明日、ラクファカールのイメリア区の商店街で買い物したいのだけど、一緒につきあってもらいたいの。」
「そういうのは、ダリシュに頼んだらいいのじゃないかな。」休日はディアーホとのんびりすごしたいなと思い始めているジント
「僕は、ちょっと、家の仕事があるんだ。だから無理なんだ。実はいうと、以前、ユーリルとこの買い物を約束していたのだけど、今の僕の現状じゃ無理でね。」彼女につきあってくれと目で訴えるシュリル
「しょうがないな。わかったよ。ユーリル。それで、そこのところの地図を送ってくれないかな。それと時刻を。待ち合わせは、君に任せるよ。」
「うん、わかったわ。よろしくね。それと、私の目印は右手に黄色の我が家の紋章をつけたシールをしておくわ。じゃぁね。」といって、一方的に通信を切るユーリル
「ふー、なんだか、強引だな。まぁ、いいか。暇つぶしくらいにはなりそうだよ。」
こうして、ジントは、休日にユーリルの買い物を付き合うことを約束した。
ジントが待ち合わせの場所にいくと、そこには、黄色のキルヒム家の紋章をつけた少女が立っていた。
「あのう。ユーリル…。あれ???」声をかけた少女は瞳も髪も青紫色で顔立ちは整っていたが、ユーリルとはまったく違った美少女だった。
「ジント、私はユーリルよ。ちょっと、変装しだだけ。前に言うのを忘れたけど、私の趣味は変装と思考結晶のハッキング(不正アクセス)なのよ。驚かせてごめんね。まぁ、あまり気にしないで買い物につきあってよ。」声質まで変えてジントに話しかけるユーリル
「あ…。そうなの。でも、なんだか落着かないな。素顔に戻してくれるとありがたいのだけど」
そうすると、ジントの顔にすぐ迫って、目をじっと、見つめてにこりと微笑むユーリル
「その言葉、とても嬉しいわ。私も素顔の方が自信あるけど。でも、これから買い物にいくところは、ちょっと、わけありの場所なのよ。」
「まぁ、詳しいことは目的地に着いてから説明するわ。大丈夫よ。ジント、そんなにたいした問題はおきないわ。」いたずらっ子の笑みを浮かべるユーリル
…・・薄暗いさびれた店が並ぶ通りに行く二人…・
しばらく、店を眺める二人だったが、『トーフ店』という一軒、白い食材を売っている店にとまるユーリル。
「ジント、今日は、この店に入るわ。マスター、P4023-ZとNK3-25あるかしら、確か、最近、ここで手に入ったと聞いたから。」この店の主人に尋ねるユーリル
「なんだい?そのPなんとかとNK云々というのは、この食材と関係あるのかな?」いきなり、わけのわからない記号をいいだすユーリルに疑問をもつジント
「ああ、これね。ここは、単なる白い食材を売っている店ではないの?いわば、それは、カモフラージュで、本当は、非合法で売られている商品を手に入れることができる店なのよ。」淡々と説明するユーリル
「ははは、だから、変装するんだね。でも、その商品はどんなときに使うのかな?できれば、教えて欲しいのだけど、いいかな。」なんだか大変な場所に来たと感じるジント
「いいわよ。両方ともマスターが持ってきたアタッシュケースに入っているけど、どっちもたぶん、すぐに使えるから試してみるわ。」そういって、P4023-Zと書かれたパーツを頭環に装着して、NK3-25と書かれた丸い円盤型の器具を頭環に装着した。
「ジントとりえず、ここにある凝集光銃で私を撃ってみて。」そういいながら、頭環を少し触るユーリル
「え、でも、どういうこと。そんなことできないよ。」躊躇するジント
「じゃぁ、いいわ。マスターお願い。」
「お客さん、わかりました。撃ちますよ。」といって、なんのためらいもなく凝集光銃でユーリルを撃つマスター
すると、ユーリルの正面に一瞬壁ができ、凝集光銃の威力を相殺してしまった。
「ジント、これが、P4023-Zの性能よ。簡単に言うと個人用防御シールドよ。それで、これは、アリエル級小型爆弾でも耐えることができるのよ。だから、敵に囲まれて危機的状況には、かなり必要よ。」再び淡々と説明するユーリル
「それは、すごいや。でも、それは、どうして、非合法なのかな。自分の身を守るためだったら、別にいいと思うし、星界軍でもそんなものがあるとは、聞いたことないな。」ちょっと、腑に落ちないジント
「これは、ある地上世界で開発された当初、すごく広まったのだけど、それが1番使われたのがテロ活動だったの。この防御シールドをして、小型爆弾を使えば、自分の身は助かるし、さらに目標も確実にしかも大きな範囲で破壊したり、暗殺したりできるの。そういう経緯があるから、帝国では、テロ活動を抑えるために禁止したというわけよ。まぁ、この防御シールドは、肉眼ではみえないしね。ただ、アーヴの空識覚では、認識できるわ。だから、防御範囲を微調整できるので、こっちの銃口だけでるくらいに調整すれば、防御シールドをしながら、凝集光銃をうてるのよ。」
「なんだか、すごいね。使わない理由はわかったよ。それで、もう一つのものは、やっぱり、非合法の製品なのかな。」不安なりながらも聞くジント
「これは、簡単に説明すると、クリューノ盗聴装置かな。半径10ウェスダージュに流れているクリューノの電波を探知してそれを自分のクリューノに再生できるよ。これは、意外と便利なんで、性能がよくなるたびに、買い換えているわ。」
「そうなんだ。それは、説明しなくても非合法とわかるよ。ふー、それにしても、こんなところにヤバイものが売られているとは知らなかったよ。ねぇ、もしかして、まだ、買うの?」
「もちろんよ。今日は、とことん、つきあってもらいますから。伯爵閣下」楽しそうな笑みで応えるユーリル
こうして、ジントとユーリルは、帝国では非合法といわれている武器や偽造品などを買いこんだのであった。
「ジント、ありがとう。助かったわ。あなたがいなければ、ここで買い物ができなかったのよ。」近くの衣料店で変装を着替えて素顔に戻ったユーリル
「え、どうして?別に僕は一緒にいただけど、荷物も君の家の方に送ったし、荷物持ちの役割も果たしてないよ。」なんだか腑に落ちないジント
「実は言うと、ここは、紋章院の管轄の場所でもあるのよ。それで、一応、紋章院の者がここで商品を購入するとき、男女二人のペアと決まっているの。そうしないといけない暗黙のルールがあるの。だから、ジントに頼んだわけなの。だって、こんなこと頼めるの兄以外でジントくらいしかいないしね。」
「あ、そういうことか。確かに、君達ことを考えると、僕しか知っている人いないし、ダリシュも君のお父さんも忙しそうだったしね。でも、それは、何に使うの?」やはり、購入した商品の使い道が気になるジント
「まぁ、ほとんどは、訓練用ね。飛翔科修技館の訓練だと私にとっては、生ぬるいし、ときどき、実家で訓練しないと体がなまってしまうのよ。あとは、兄さんが仕事を私に手伝って欲しいときいつでも、できるように準備しておきたいから。それと、今日の夕食は私がおごるわ。いいスルグーが置いてある店があるのよ。しかも、地上世界出身のジント好みの味付けの店でもあるしね。じゃぁ、一緒にいきましょうね。」ジントを夕食に誘うユーリル
「うん、わかったよ。(そんなにおそくない時間だし、帰宅時間にも間に合うしね)」誘いを受けるジント
…・フェイナレー料理店と書かれた店へ向かう二人…・
「ジント、ここの料理は、右と左のページでアーヴ用と地上人用に分かれているよ。だから、あなたの好みに合う料理が食べられるわよ。主計修技館では、そういう料理がないから、ここで食べるのはいいと思うわ。」そういいながら、右のメニューの項目を指でインプットするユーリル
「そうなのか、じゃぁ、これを選んでみるよ。えーっと、水餃子に鱶鰭スープに北京家鴨の炒飯かな。とても、美味しそうだ。」左の項目を押すジント
そして、二人とも一通り、食事を楽しんで、最後にスルグーを飲んでゆったりしていた。
「ユーリル、本当に美味しかったよ。今度も誘ってくれるとありがたいよ。それに、このスルグーも今までに飲んだものと比べると香りも味も一品だよ。ユーリルってスルグーのこういう店とか知っているの?」
「うん、製法から材料からまぁ、お店まで知っているわよ。今度、記憶片を持ってくるわ。それで、ジントも勉強したらどう?スルグーは、色々と奥深い飲み物だから面白いわ」
「うん、よろしく頼むよ。」
食事が終わった後、いい星景が見えるところまで、一緒にいこうといわれたので、ここまできたので、最後までつきあうジント。
でも、そこへ向かうにつれ、ユーリルが心なしか元気がなくなる様子を感じになっていた。
「ユーリル、さっきから、黙っていて元気ないみたいだけど、大丈夫?」
「え…。うん。」
しばらく、星を見つめながら沈黙する二人。すると、唐突にユーリルは話し始めた。
「ジント、ここは、兄と二人きりで初めてデートしたところ。でも、デートのつもりは、私だけだったけどね。そして、私の気持ちを兄に伝えた場所なの。それで…、私は、本当は今日、ここで決めていたことがあるの。」そういいながら、金色の瞳には涙がたまっていた。
「決めていたことって何だい?」ユーリルの瞳がその言葉を促していたように感じたので、聞いてみるジント
「兄への想いをあきらめるということ。本当は、兄が今日ここに来たら、兄の目の前で伝えるつもりだった…。」瞳に浮かべていた涙をポロポロと流し始めるユーリル
「ごめん、ユーリル、僕がここにいるのは、不釣合いかな。」
そういった瞬間、ジントの胸元に顔を寄せて、泣きはじめていた。
「しばらく、このままでいさせて。」
,ユーリルは金色の瞳から涙を流しながら兄の名をつぶやいていた。
それを聞きながらジントは思っていた。
「(そういえば、クー・ドゥリンが女の子の涙は、この世にある最も輝いた宝石の一つだとか言っていたな。なんとなく、彼らしいや)」
しばらくして、ユーリルは落着いたらしくおもむろに顔を上げた。
「ごめんね。ジント、長衣を汚してしまって。なんだかジントには、カッコ悪い姿ばかり見せているわね。本当はもっと優雅に普段は振舞っているつもりだけどね。」といいながら、目を晴らした顔で微笑むユーリル
「(……なんだろう。どうして、この表情を見ると胸がときめくのだろう。こんな表情をラフィールがしたら、すぐにでも告白してしまいそうだな。あれ?なんでユーリルの泣き顔を見てラフィールを連想するのかな。今日の僕はなんだかおかしいな)」そう思いながらジントは顔を赤くしてユーリルの顔を見つめていた。
「ねぇ、どうしたの?ジント。私の顔に何かついている?」じっとジントが見つめるのでユーリルも顔を赤くしていた。
「え、いや、なんでもないよ。じゃぁ、そろそろ帰ろうか。」
「うん。わかったわ。ジント…。ありがとう。」
こうしてジントに惹かれていくアーヴ少女がまた一人増えたのだった。