「ジント、久しぶりだな。」ラフィールからの通信だった。
「ラフィール、久しぶりだね。どうしたの?」突然のラフィールからの通信で驚くジント
「実は言うと…今、学生寮の前にいる。」はずかしそうな感じで答えるラフィール
「えー。ちょっと、待っていて」その言葉を聞き、あわてて部屋を片付けるジント
そして、ドアを開けて、ラフィールを部屋に案内した。
「久しぶりだな。ジント。そなたが寂しがっていると思ったから来てやったぞ」頬を赤らめながらモジモジというラフィール
ラフィールの格好は、星界軍の軍衣ではなく、王女殿下の長衣だった。
「そうか。ありがとう、ラフィール。君が会いに来てくれて嬉しいよ。でも、どうして、軍衣ではなく、長衣なのかい?君は確か、突撃艦の次席翔士をやっていたのではなかった?」
「実は言うと、さっき、皇帝陛下に謁見してきたのだ。父上の誕生日の祝宴のためにラクファカールに帰ってきて、それで陛下にも会って、色々話をしたのだ。」
「そうなんだ。だから、頬が少し赤いのかな。それは、祝宴での飲酒の影響だろうね。でも、君がまだ訓練生の僕に会いに来てくれるとは思わなかったよ。手紙では、主計烈翼翔士になるまでは、会う気はないような感じだったしね。」ラフィールの訪問はジントにとって、かなり意外だったのだ。
「私も気分を変えることだってある。それに、ジント、そなたが寂しそうに手紙を書いたからきたのであって、別に私は会いたいとは思っていないぞ。」言葉と気持ちとは裏返しのことをいうラフィール
「そうなのかい?ラフィール。(相変わらず、嘘が下手だなぁ。)でも、別に僕はさびしがっていないよ。」あいまいな笑顔をするジント
「そなた、その様子だと私が来て、嬉しくないのか。そう思うならいますぐ帰るぞ。」ジントの煮え切らない態度に怒り出すジント
「ごめん、君が会いに来て本当にうれしいよ。だから、もう少しいてくれよ。」ラフィールをなだめるジント
「そうか。なら許す。ジント、そんなことより、私はさっきから待っているのだ。ティル・ノムが来るのを。そなた相変わらず冷凍野菜並みの鈍さだな。客をもてなすということに早く気付くがよい」ジントの言葉に機嫌を直すラフィール
「わかったよ。ラフィール。いますぐロープを浮かべて持ってくるよ。」
ジントは、ティルノムとスルグーと茶菓子を運んでラフィールに渡そうとした瞬間、ラフィールがどういうわけかよろけて、ティル・ノムをこぼしてしまい、髪と長衣を汚してしまった。
「あ、ラフィール、大丈夫かい?」ジントもこんなドジをラフィールがするとは、信じられなかったみたいだ。
「どうやら、多少のみすぎたみたいだ。いつもの感じでとろうとしたので、平衡感覚が鈍っていることを考慮しなかった結果、とんだ醜態をジントにさらしてしまったな。すまぬ。」
「そうなのか。でも、どうしよう。ラフィールの服はないしな。しかも、髪を洗わなければ行けないし…」
「ジント、私は、この部屋の湯殿に入って髪を洗う。服はそなたの軍衣をかりることにする。軍衣は多少のサイズがあわなくて問題無いからな。長衣はしかたないから、着ないで持ってかえる。」(アーヴの軍衣は体のサイズに適合する機能があった)自分の失態なのでしょうがないなと思うラフィール
そういって、ジントの部屋にある湯殿にあしばやに入っていくラフィール
ジントは、その様子を見ながら、うっかり、ラフィールの湯浴みする姿を想像してしまった。その結果、ラフィールが湯浴みを終えて、軍衣を着て髪をしっとりと濡らした姿を見て、ますます、ジントの心は落着かなくなっていた。
「ジント、どうしたのだ。顔が赤いぞ。」
「えーっと、いや、なんでもないよ。ちょっと、暑いせいかな。ははは、ところで、ラフィール、さっき、聞きそびれたのだけど、皇帝陛下とどんな話をしたのかな。ちょっと、気になっているんだ。(とにかく、話題を変えなきゃ。)」なんとかごまかそうとするジント
「え、そなた、知りたいのか?別にたいしたことは、話していない。ただ…ラマージュ陛下の恋の話を聞いただけだ。」そう言って、顔を赤らめて、声も少しずつ小さくなっていくラフィール
「そ…、そうなんだ。(なんだか墓穴を掘った気がする)」ラフィールの反応がいつもとまったく違うと感じがすると思うジント
そして、二人の間には、なんとなく気まずい雰囲気と沈黙が続いていた。
先に話したのはラフィールだった。
「ジント、私のことをどう思っているのだ?」これまで、見たことがないくらい真剣な表情をするラフィール
「え…、どうって…。僕は君とずっと一緒にいたいと思っているよ。だから、あのとき、未来のアブリアル十翔長と一緒に書記としていられることができるとわかったとき、本当に嬉しかったよ。それに僕が『アーヴ貴族』になると決めさせたのも君だよ。ラフィール」ラフィールの真剣な表情に本心で答えるジント
「そうか、それ以上の想いはあるのか?」期待と不安が入り混じった表情をするラフィール
「えーっと、わからないよ。これが正直な気持ちだよ。それにしても、ラフィール突然、そんなこと聞くなんてどうしたんだい?今日の君は何だかおかしいよ。」
「そうか、わかった。ジントつまらぬことを聞いた。ゆるすがよい。それと、今回のことは今度会ったときや手紙でも話題にふれぬがよい。」ほっとした様子のラフィール
「え、どうして?ラフィール」当然の疑問を抱くジント
「ジント、恥ずかしいであろ。とにかく、私は帰る。いいな。ああ、そうだ。ジント、ちょっと、目をつぶるがよい。ジントが今の約束を破らないようにおまじないをするからな。」顔を赤らめながらもはっきりした口調で催促するラフィール
「おまじない?アーヴの君がそんなことを要求するなんておかしいな。」
「とにかく早くするがよい」せかすラフィール
「わかったよ。」
そして、ジントは目を閉じたその瞬間、ラフィールが顔を赤らめてジントの顔を近づけていく。
二人の唇と唇が触れる瞬間、ジントのクリューノがなった。
「(ジント、今、帰ったぞ。あれ、誰かいるのか、空識覚ではもう一人、認識したぞ。)」ダリシュからの通信だった。
その通信で、ラフィールはジントが目を開ける前に離れた。
「…ダリシュ?そうか、ルームメイトが帰ってきたみたいだな。迷惑がかからないうちにいそいで帰るぞ。」なぜか、動揺しながら急いで帰ろうとするラフィール
だが、ラフィールが帰ろうとする前にダリシュは部屋に入ってきた。
「ジント、今、帰ったぞ。あれ、これはこれは、王女殿下ではありませんが、こんな場所で会えるとは、光栄ですね」いつもののんびりとした口調で言うダリシュ
「ああ、ラフィール、彼を紹介するよ。シュリル・ウェフ=キルヒム・ダリシュ主計訓練生だ。僕と同部屋のルームメイトさ。」一応ダリシュを紹介するジント
「そうか、わかった。私は用が住んだのでこれで、帰るぞ。」とにかく、帰ろうとするラフィール
「王女殿下、ムラカラエンリケ、ディエ、マサレアエコスドラリ、ミツレ・ルリルイ」突然わけのわからない言葉でラフィールに話しかける。ダリシュ
「そなた、無礼だぞ…。は、しまった。」思わず言った言葉で失敗したと思うラフィール?
「まだまだ、甘いな。偽王嬢殿下、いや、ユーリル。この言葉は、ウルブネル伯国のエリサリタン語だ。こんな地上世界の言葉を王女殿下が理解するはずないしな。それで、どんなわけでそんな姿をしているのだ?」ユーリルが変装したことあっさり、見破るダリシュ
なんと、ジントに会いに来ていたのはラフィールに変装したユーリルだった。
「兄さん、ごめんなさい。」そういって、変装をとくユーリル
ジントは、あまりの状況の変化にただ呆然としているだけだった。
「ジント、見てのとおりだ。王女殿下の姿にユーリルが変装したみたいだ。ジント、何かされたかい?」状況を整理しようとするダリシュ
「いや、ただ、ラフィールについて思っていることを聞かれただけだよ。でも、ユーリルなんで、こんなことをするんだ。よりにもよって、ラフィールに化けて僕をだますなんて。
僕の心はとっても傷ついたよ。」怒りと苦痛に満ちた表情をするジント
「ごめんなさい。ただ、ジントの王女殿下に対する気持ちが知りたくて、こんなことをしてしまいました。」反省するユーリル
そういう状況の中でダリシュの表情に変化が見られた。それは、ユーリル対する表情だった。それは、世にあまねく知られる『アーヴの微笑』だった。--
「兄さん、怒っているのね。私が親友であるジントの誇りと心を傷つけたから。」その金色の瞳には恐怖が現れていた。
「そうだ。ユーリル。わかっていると思うが君は僕にとってやってはいけないことをやったのだ。お仕置きが必要だ。覚悟はできているかい?」表情はにこやかだが、その瞳には悪意が映っていた。
「ええ。わかったわ。それで、兄さんの怒りが収まるなら」覚悟を決めるユーリル
「ちょっと、待ってよ。なんでそんな展開になるの。確かに彼女は僕の心を傷つけたけど、ダリシュが怒ることではないよ。それにお仕置きって何をするのだい?」話がよからぬ方向へいこうとするのを止めるジント
「何、ジントたいしたことないわ。極めて原始的なお仕置きよ。私の顔面を殴るのよ。まぁ、頬骨くらいは骨折するかもしれないけど、しょうがないわ。アーヴの医療技術ならすぐなおるわよ。」こともなげに話すユーリル
「なんだって、骨が折れるくらい思いきり殴るの、ダリシュがユーリルを。そんな場面みたくないよ。ダリシュやめてくれよ。僕は彼女を許すから。」二人の流血シーンなんて見たくないジント
「ジント、それは、駄目だ。これは、一種の我が家の流儀である。野蛮かもしれないが、たとえ、兄弟でも親友を傷つけることは許されないから。もし、どうしても、ジントが僕のことをとめたいというなら、ジントがユーリルを殴るのかい?」
「えーっと。…わかったよ。(ダリシュはあの様子では手加減しそうもないし。)僕がユーリルを殴ればいいんだね。」
そういって、ジントはユーリルの前に立った。
ジントは、思いきり拳をふり上げてユーリルの顔の目の前におろした。そして、顔に当たる瞬間にその勢いを弱めてさらに手のひらでぴちっと軽く頬を叩いただけだった。
「え…。これでいいのジント?」驚くユーリル
「うん。君らの言う、原始的なお仕置きをしたよ。ダリシュ、これでユーリルを許してくれないか。僕はもう、彼女を許しているのだから。」頬を掻きながらダリシュに言うジント
「わかったよ。ジント、君は相変わらず甘いなぁ。でも、それが君の良さであるしね。ユーリル、今回は許すけど、ニ度とこんなことするなよ。」ジントのことを考えて釘をさすダリシュ
でも、表情はいつものんきそうな雰囲気のダリシュに戻っていた。
「わかったわ。兄さん。それと、ジント…ありがとう。」そういって、おもむろにジントの頬にキスをして、颯爽と帰っていくユーリル
「えっ」といって、ジントは、顔を赤らめてその場をぼーっと立ち尽くしていた。
「ジント、大丈夫か。顔が赤いぞ。まぁ、ユーリルの気持ちは今回の件でわかっただろ。まったく、僕をあきらめたと思ったら今度はジントに惚れるとはなぁ。ま、これも運命だと思ってあきらめろよ。」
「え、なんだって。ユーリルが僕に惚れている。そうなのかい?ダリシュ」やっと気づく冷凍野菜並みの洞察力のジント
「そうだよ。ジント、君も鈍いなあ。今度どうなるかは、知らないけどジントが妹と想人になっても僕はかまわないよ。そういえば、明後日の文芸サークルの合宿があったんだよな。準備はできているのかい?」ジントがこの話題に関して困っている様子なので話題を変えるダリシュ
「うん、ほとんどできているよ。あとは、ディアーホの世話を誰かに頼むだけだ。」親友の気遣いを嬉しく思うダリシュ
「なら、それは、この寮の管理人のエマリエーフさんに頼めばいいよ。ディアーホの世話くらい快く引き受けてくれるよ。僕の方はもうできているからな。」
「うん、そうするよ。ダリシュ。これで準備はおしまいだよ。今日は、遅くなったし、もう寝るね。」
「おやすみ、ジント」「おやすみ。ダリシュ」