試験期間の後の休暇に文芸サークルの合宿のためにジントとダリシュは委員長の家を訪れていた。
委員長の家は突撃艦を改築したアーヴの士族ではありきたりな家だった。でも、他のアーヴと違っていたのは、現在の帝国では珍しい紙で作られていた本がかなりの部屋をしめていた。主計修技館でも図書室というものがあり、委員長以外では誰も使っていない紙の本で埋められていた部屋があったが、その本の量は、委員長の家のほうがはるかに多かった。しかも、明らかに主計修技館の図書室より古い本ばかりだった。
「ねぇ、委員長。この紙の本は、例によって、君の家の伝統なの?」本棚に並ぶ本を眺めながらジントは聞いていた。
「そうよ。ジント君。一応、我が家の家風では、この量を一生かけて読まないといけない。まだまだ、読みきれていないけどね。ああ、それと、言い忘れたけど、今、家にいるのは、ジント君たちだけよ。私の母親も妹もちょっとした旅行に出かけて、いないのよ。」紙の本を脇に抱えて話す委員長。
「そうなんだ。でも、逆に気を使わなくていいかな。アーヴの常識も知らない僕だから迷惑かけないように考えなくていいからね。」いつものように曖昧な笑顔をするジント
「そうね。リン訓練生は、常識しらずだからね。」エレセーヌ
「そうよ。リン訓練生。あまり非常識なことしちゃだめだよ。」クミセス
「まぁ、ジントなら大丈夫だよ。それより、早速、合宿のメニューをこなそうか。一応、今回の目的はそれだからね。」ダリシュ
「わかったわ。じゃぁ、歴史小説の書き方のポイントからはじめるわ。」委員長
こうして、3日間の合宿の初日はすすんで何事も無く過ぎ去っていった。
その夜、委員長&クミセス&エレセーヌは委員長の部屋で密談をはじめた。
「・・・それで、決行は何時?」
「当然合宿最終日の夜よ。『合宿明けの開放感』というシチュエーションを利用するわけ。」
「なるほど。合宿といえば、いわば禁欲の期間。それが開放される瞬間を狙うのね!」
「クスッ。さすが、話が早いわ。」
「あのう・・。」
「まず私たち2人が彼を適度に酒で酔わす。」
「そして、委員長。あなたの出番よっ!『ヨバイ』で彼をメロメロにするのよっ!」
「ちょっと待って・・。」
当人以上に盛り上がる2人を不安そうに見つめる委員長。
「大丈夫!心配しないで!屍は私たちが拾うわっ!」
「玉砕よっ!当って砕けるのよ!」
(人選を誤ったかしら・・・。)
後悔し始める委員長。
,文芸サークルの合宿の最後の課題の紙で書くSFのショート・ショートも終わり、五人は合宿の最後の夜に宴会をはじめていた。最初は他の4人とお酒を飲むペースを同じにしていたジントだったが、アーヴの深酔いしない遺伝子工学の力に負けて、フラフラになっていた。
「ダリシュ、委員長、エメレル訓練生、サリセーフ訓練生、僕はもうだめだよ。君たちのペースに合わせていたら地上人の僕のみがもたない。だから、もう寝るよ。」ギブアップ寸前のジント
「そうか、ジントはもう寝るか。じゃぁ、僕も休もうかな。」ダリシュ
「ダメよ。ダリシュ君、宴はこれからよ。一緒に楽しみましょう。」ダリシュを止める役目をするクミセス
「リン訓練生は、委員長が部屋まで送るから安心していいわよ。」委員長をフォローするエレセーヌ
「わかったわ。ジント君、大丈夫?この酔い止めを飲めば少しは楽になるわよ(これは、酔い止めと同時に媚薬もちょっと入っているわ)」策をめぐらす委員長。
「うん、わかった。」そういって、薬を飲んで委員長と一緒に自分の部屋へ戻るジント
だが、その様子をダリシュは遠くでちらりと見ていた。
ジントが泊まっていた部屋まで連れていって委員長はそっとジントをベッドに寝かせた。
ジントは酔い止めの効果で気持ち悪さは解消したが、それと同時にモヤモヤとした落着かない気分になっていた。そこへ、薄暗い明かりの中でジントが眠っているベッドの側で委員長がゴソゴソと何かしていたのでジントはそれをなんとなく見ていた。すると…
「い、委員長。どうしたんだい。急に軍衣を脱ぎ出して下着姿になるなんて。」突然の委員長の行動に動揺するジント
「ジント君、私はあなたが好き…。愛しているのよ。だから、私を抱いて」いつもはしている眼鏡をとり、顔を真っ赤にしながらせまる委員長。
委員長の一族は、真剣に愛の告白をするとき、普段眼鏡で隠されている美貌をあらわして、告白するのが流儀だった。
「でも、委員長、僕は…」とジントが何かを言いかけようとしたとき、委員長はジントの顔を豊かな胸で抱きしめた
ジントは媚薬の効果もあって、本能の要求を理性で抑えるには、限界が近づいていた。さらに委員長は、ジントの手をとり、自分の胸に手を当てた。
「ねぇ、ジント君、私の胸はこんなにドキドキしている。ジント君と一つになれることが嬉しいのよ。ジント君、私の名前は、シオン・ウェフ=ミュリエル・セシル。覚えておいて、私の名を家族以外で伝えるのは想人だけだから。」そういいって、ジントの唇を奪おうとする委員長。
ジントはぼーっとする意識の中で委員長の美貌が迫っているの感じていた。このまま、流されていくのかと思っていた。すると意識の中で突然ラフィールの声が聞こえた気がした。
『ラフィールと呼ぶがよい。』はじめてあったときの言葉だった。
「やっぱり、駄目だ。」そういって、迫ってくる委員長の肩をつかんで、自分の体からつき離すジント
「ジント君、どうして駄目なの?私はこれほど恥ずかしい行動をとったに、どうして?そんなに魅力がないの?」恥ずかしさと悔しさで涙ぐむ委員長
「別にそういうわけではないけど、とにかく駄目なんだ。こういうことは、愛し合う男女がやるものだし、なし崩しでやるものじゃない」不屈の精神で委員長の誘惑をはねつけるジント
「私はジントを愛しているわ。だから、ねぇ、一緒になりましょう。」そういって、強引にジントの服を脱がせて強硬手段をとろうとする委員長。
媚薬と酒精が少し残っていたために体の力が落ちていたジントは抵抗できなくなっていた。
「委員長、とにかくやめてくれよ。こんなことは、無理やりするものじゃないんだ。本当に怒るよ。」必死の抵抗をするジント
そのセリフをいった瞬間
ジントのクリューノがなった。
「委員長、そこまでだ。実は言うと、君の言葉はさっきから筒抜けなんだ。ジントがいやがっているのにこれ以上やると今からとめにいかないといけない。君もそんな格好を僕に見られたくないだろう」それは、ダリシュからの通信だった。
「ダ、ダリシュ君、どうして?あの二人はどうしたの?」ダリシュを止める役目の二人を思い出す委員長
「実は言うと、ジントの体に盗聴機を仕掛けておいた。今回の合宿は最初から様子がおかしかったからね。それと、さっきジントに媚薬を飲ませたよね。酔い止め薬と称して。そういうのもよくないな。委員長、君には失望したよ。こんな方法をとるなんて。そういえば、彼女達はたぶん、ぐっすり眠っているよ。君が薬を使ったので、こっちも睡眠薬を使わせてもらったよ。」すべて見とおしていたダリシュ
「ダリシュ、ありがとう。でも、どうして最初から助けてくれなかったんだい?」
「いや、ジントがあのままなし崩しに委員長の誘惑に負けていたら、別にしょうがないと思ったよ。君も男だしね。それに委員長の気持ちもわかっていたから二人が合意のもとだったら、とめなかったけどね。」状況を見てから判断したダリシュ
「そうだったのか。まぁ、それもある種の気を使うことか。とにかく、助かったよ。ダリシュ」感謝するジント
「ダリシュ君、はっきりいって、私は機嫌が悪いわ。今日は帰ってもらって。ジント君もよ。」ジントに誘惑を拒否された上にそれをダリシュに聞かれていたので、恥ずかしさと怒りを感じる委員長。
「わかったよ。委員長。じゃぁ、また、今度。」ばつが悪そうに部屋を出て帰り支度をするジント
「委員長。ジントを誘惑するときはもっと優雅にやったほうがいいと思うよ。それと、今回のことで君に対する気持ちが覚めたのは確認したよ。」ダリシュも帰る準備をする
結局、二人は寮に帰っていた。
こうして、委員長の「嵐山作戦」は失敗に終わった。ジントとダリシュが帰った後、クミセスとエレセーヌは委員長にボコボコにされたのは、いうまでもなかった
そして一週間の休暇が終わり、授業が始まる。
・・・しかしクミセスとエレセーヌの席は空席だった。
休暇中に山篭りをしていて熊に襲われた、というのが専らの噂だった。実際、彼女たちは入院中だった。
「熊に襲われたんだって!かわいそうに・・。」真に受けるジント。
「へ、へぇー!やっぱりこの時期の熊は凶暴よねー?!」しらばっくれる委員長。
「・・本当に熊だったのかな?」委員長の方を見ながら、全てを見透かしたようなダリシュ。
「くっ、熊よ!クマ!!あの子達野性を甘く見たのよ・・・。」
ダリシュの視線が痛く、委員長の自己欺瞞も尻すぼみになる。
こうして、緊張感のあるまま、授業の日々が終わり、週1回ある休みの日になった。