訓練競技会当日
「ジント、どうした、緊張しているな。でも、格闘戦競技なんて楽勝だぞ。僕も参加しているしね」気楽に声をかけるダリシュ
「うーん、でも、いくらくじ引きで競技を決めるとはいえ、あれが僕の参加競技になるとは思わなかったよ。個人的には一番やりたくない競技なんだけどね。」不満を言うジント
「ジントしょうがないんじゃないかな。空識覚がない君だと、船の操作系の競技は参加できないしね。まぁ、その条件の中では、この競技になってもおかしくないよ」
「まぁ、たしかに、そうだけどね。とにかくできるだけ努力するよ。それと、ふと思ったけど、ダリシュは今回は本気を出すの?」ふと疑問を抱くジント
「いや、出す気はないよ。あっさり、負けるさ。君と同じでね。それより、ユーリルの方が見物だよ。なにしろ、彼女は本気をだすからね。あ、噂をすれば、なんとやら。ユーリルがあっちから来るよ」といって、ジントの真後ろを指差すダリシュ
「ジント、兄さん、こんにちわ。また会えて嬉しいわ。特にジントわね。」うっとりと恋する乙女の瞳でみるユーリル
「そうなんだ・・・。とにかく、よろしくね。」曖昧の笑顔でごまかすジント
「ああ・・その曖昧な笑顔が私の乙女心をくすぐるの!」
悶えるユーリル。
「ああ・・そう、なんだ・・・。」
表情の選択に困るジント。
と、その様子を木の陰から見つめる委員長。
「な、なんなのあの娘?!私のジント君と親しげに喋って・・。」
嫉妬に燃える。そして行動に移った。
「痛ッ!」
二人の間にわざとらしく倒れこむ委員長。
「だ、大丈夫?」
常識的な質問をするジント。
「へ、平気・・・痛い!やっぱりだめみたい。ねえ、ジントくん。私を抱きかかえて医務室へ連れて行ってくれない?」
「え、・・うわっ!」
ジントの返事よりも早くジントの首に腕を回す委員長。
「お願い、早くぅ!」
一連のやりとりを見て、
(な、何なのこの娘?!ジント君に馴れ馴れしくして・・!)
殺意に近い感情を抱くユーリル。
・・・これが両雄の初対面だった。
「あ、委員長。こんにちは。大丈夫かい?彼女は僕の妹だよ。仲良くしてくれよな。」その様子を知ってか、知らないか、のんきそうに話すダリシュ
「え…委員長、…委員長ですって………(その名前は、私が愛したダリシュ兄さんの心を奪った女狐。いや、憎っくき相手。それがなぜ、ジントに?)」実は言うと、すでに、ダリシュが惚れた女性は委員長だと知っていたユーリル。
「ふーん、ダリシュ君の妹さんねーよろしくね。」そう言いながら眼鏡の奥に敵意のある瞳を見せて微笑む委員長。
そのときでも委員長はジントの体抱きついたままだった。
「はい、初めまして。よろしくね。(ダリシュ兄さんの心までを奪ったばかりか、今度はジントに手を出す気ね。この女は絶対敵だ。)」
言葉とは裏腹にさっき以上に殺気がこもった瞳で睨み返すユーリル
そんな険悪の雰囲気のまま、ジントは、落着かない様子でダリシュに目でなんとかしてくれと訴えていた。
「ジント、委員長をつれて、医務室へ送ってやれよ。あ、ユーリルもジントに用があったみたいだから、一緒に行くと良いよ。僕はここで待っているから。」のんきそうに、ジントをさらに窮地へ落とす言葉を言うダリシュ
医務室への道中・・。
「足が痛いのー!」
必要以上にジントに密着する委員長。斜め後ろから強烈な視線を感じるジント。
「ねえ、ジント君。重くない?」
鬼のような質問をするユーリル。
「なんですって?!」
キッ!と発言者を睨みつける委員長。
「あは、あははは・・。だ、大丈夫だよ。僕は見た目より力があるから・・。」
嫌な汗をかくジント。
「(く…、この女が憎い。殺したい…………でも、我がキルヒム家の家訓では、恋敵を殺すのは美しくないわ。それに、私の相手は、委員長だけではない、王女殿下もいる。ここは…。)」何か策を考えるユーリル
「ねえ、ジントって、確か嘘は嫌いだよね。だまされることもいやだったよね?」そういいながら、委員長を眺めるユーリル
「え、そうだけど、どういう意味?」不審そうにユーリルを見るジント
「委員長の怪我よ。この怪我、どうみたって、立てないとは思えないわ。たぶん、今日の競技会を棄権するための仮病ね。訓練生のみんなが一生懸命頑張っているのによくないと思うわ」委員長の嘘を見ぬくユーリル
「え、委員長そうなのかい?まさか、そんなことないよね。」委員長を信じるジント
「え…。それは…(く、この女見ぬいたのね。このままでは、ジント君に嫌われてしまう)」追い詰められる委員長
「まぁ、嘘かどうかは、医務室に行けば、わかるわ。ジント、早くつれてあげましょう。」ジントを急がせるユーリル
すると、委員長は突然、ジントの体から離れた。
「ジント、もういいわ。ありがとう。どうやら、治ったみたい。」あせる委員長
しかし、その様子を無言で睨みつけるユーリル
両者の間にはとてつもなく張り詰めた空気が流れていた。
「ああ、そうなんだ。でも、良かった。たいしたことなくて、それじゃぁ、ダリシュのところへ戻ろうか。」空気のあまりの険悪さに鈍いジントも気付き、ダリシュの元へ戻ることを提案するジント
「そうね。そういえば、ジントは何の競技に出るの?私は、けっこう、かけもちでやっていて、今のところ三つでなくてはいけないの?まったく、大変だわ。」そう言いながら、何気にジントの腕を組むユーリル
「ええーっと、格闘戦競技だよ。あの、その手を・・・」自分の右腕がユーリルの胸の辺りに触れて顔を赤くするジント
「頑張ってね。ジント君、私も応援するから」といい、委員長も負けじともうひとつジントの腕をからめてくる。
外から見れば、両手に花という状態ではあったけど、ジントの気分はなぜか憂鬱だった。二人がジントをはさみながら互いにアーヴに微笑で睨みあうという状況は、いくら鈍いジントでも重いものだった。
その状況の中で、ダリシュの元へ着く三人。
「ジント、委員長は大丈夫みたいだったね。でも、今の君の状況、地上世界の言葉で両手に花というのはこんなことを言うのじゃないかな。君ら三人の状況を周りの訓練生が興味深げに眺めているよ。」ジントの気分はよそに面白そうに言うダリシュ
「い、いや、これは……花とゆうか、戦場…」
勿論、その2人には独占欲からくる競争心で聞こえていない。
,「ね、ねえ!ジント君!?あなたの好みのタイプの女性ってどんな感じ?」
「わ、私も聞きたいわ!!」
2人から熱い視線が注がれる。
「え、ええっ?!・・・そうだね・・・。」
少し遠い目をするジント。
「・・・いつもは傲岸不遜で高飛車なんだけど、でも硬い小刀みたく自分より硬いものに当るとぐにゃりとしなる前にぽっきり折れてしまいそうな脆さを持った娘かな・・。」
「・・・・。」「・・・。」
無言でジントの顔を見つめる2人。
(・・・なにか抽象的だけど、とても具体的な答えね・・。)
(ま、まさか彼の心には既に誰か住んでいるのかしら・・。)
「それは、たぶん、王女殿下だろう。なあ、ジント」あっさり、ジントの考えを読むダリシュ
「え、それは・・・・・・・」顔を赤くするジント
その反応を見て、ユーリルと委員長は確信した。自分たちの真の恋敵はラフィールだということを。
「まぁ、はっきりしないのは、君らしいけど、この主計修技館を卒業したら殿下の突撃艦に書記としてのることが決まっているのだろ。それまでには、ある程度自分の気持ちは考えた方がいいのじゃないかな。」何気なく、ジントの進路を話すダリシュ
「(そうだった。王女殿下が恋敵なら勝負はジントが主計修技生としている今しかない。)」ユーリル
「(そんな、今のままだと確実に王女殿下にジント君をとられてしまう。今のうちに勝負を決めなきゃ)」委員長。
ダリシュの発言が二人をいっそう燃え上がらせるのだった。
「ねぇ、ジント、言い忘れていたけど、昼食は私と一緒に食べましょう。実は言うと、ジントのために手作り弁当を用意したの。」先手をうつユーリル
「えー、あなたも・・・。ジント君、実は言うと、私も手作り弁当を作ったの。私の方を食べて、一緒にいましょうよ。」反撃に出る委員長。
「いいえ、私のよ。ジント」
「ぜったーい!!私のお弁当よね。ジント君」
そういって、両者はジントの目の前でお弁当を両手に差し出しながら互いを睨み合う状況だった。
「あははは・・・・(ど、どうしよう。このままじゃぁ、この場所で戦争が始まるかもしない)」二人の迫力に屈してとめられない状況のジント
すると、ダリシュがおもむろにその弁当を二つとも取り上げた。
「兄さん、何するの?返してよ。」
「ダリシュ君、何するの?それは、ジント君が食べるのよ」
両者とも激怒していた。
「まあまあ、二人とも抑えて、ここは勝負といかないか?二人の弁当をジントには食べてもらうけど、それで味が美味しいと思ったものだけ食べる。そして、勝者には昼食のひとときを二人だけで独占できるというのは、どうかな。敗者は、弁当ともどもその場からさる。もちろん、判定するのはジントだけどね。」二人とも引き下がりそうも無いので、この案を提案するダリシュ
「(確かにここで、無駄に争っても、意味が無いわ。ここわ。勝負よ)」ユーリル
「(ふん、あんな女に負けるはずないわ。この弁当は私がこの1週間必死に作ったもの。勝てば、ジント君を独占できる。その勝負受けるわ)」委員長
「わかったわ。兄さん。その案をうけるわ。」
「ダリシュ君、私もうけるわ。」
「あのう・・・・僕の立場・・・・」自分が迷っているうちに話がさらにヤバイ方向へいっていると確信するジント
午前中のプログラムはつつがなく終了し、ランチタイムを迎える。
各々仲の良い者同士が集まって輪を作り、和気藹々と会話しながら弁当に舌鼓を打つ。
が、その一角では一寸触発な危険な空気が立ち込めていた・・。
「さあ、やってまいりました!『手作りお弁当』対決です!両雄の愛情のこもったお弁当が、今まさにジントの舌に優劣を問われようとしています!ジントとの食後の甘い一時を手にするのはどっちだ!?」
すっかり司会役のダリシュ。
「この勝負、もらったわっ!」「フン!弱い犬ほどよく吠える!」息巻く2人。
「あ、うっ・・。」もう後にはひけないジント。
すると、他の訓練生たちもその4人の様子を見て、何かイベントがあるかと思い集まりだしてきた。
「見ろ、委員長だ。あの主計科訓練生は委員長だよ。あの一族を見るのは、珍しいな。」とある主計科訓練生
「それより、あの飛翔科の訓練生は・・・『黄金眼の天才児』だ。嘘だろ、この二人が何か争っているみたいだ。面白そうだ。みんなにも伝えよう。」某飛翔科訓練生
こうして、野次馬が次々と集まり出した。
ユーリルは、飛翔科修技館に入学して以来、歴史上最高の成績を次々とうちたてていたので、いつしか、他の訓練生から『黄金眼の天才児』といわれるようになっていた。
「ねぇ、どうやらあの地上世界の少年を巡って争っているみたいだ・・・・。あの人、見たことある。王女殿下と愛の逃避行をしたハイド伯爵閣下だ。これは、面白い。こんな面白い場面、みんなに教えなきゃうらまれるぞ。」とある訓練生がつぶやき、さらにヤジウマが増えでした。
「ねぇ・・・。ダリシュ、なんだか、僕達、何か注目されているみたいだけど、大丈夫かな。」周りから異様な視線を感じるジント
「ジント、そんなこと気にしている場合か、さあ、勝負をはじめるよ。君も味見に集中してくれよ。」そういって、まず、先行の委員長の弁当を開くダリシュ
,ジントは周りの視線を気にしながらも弁当をついばんでみたが……
「・・・・・・・・・」
「どう?私のお弁当」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ジント、感想を言わなきゃわからないだろ」
「素材の味しかしないんだけど…」
「おおと、地上世界出身者にしては味が薄すぎたかぁ!」
マジに司会をするダリシュ。
それもそのはず、弁当の内容は
・白米
・刺身の盛り合わせ
以上だった・・。刺身は弁当のおかずとしては問題があり、既に歯ごたえもなく生臭さだけが鼻についた。
しかも素材の味を生かそうとする余り醤油を用意していなかった。
「そ、そんな・・!最高の食材を集めたはずのに・・。」
現実を受け止められない委員長。
「フッ!あなたは食材に溺れたのよっ!!」
バッサリ切り捨てるユーリル。
「対するのはユーリルだぁ」
と、ダリシュが司会を進める中でジントが弁当の中身を味見する。
一口運んでみるが……、
「か、辛すぎる!」
「おおとっ、地上人という事を意識しすぎたかぁ?ジントの味覚には逢わなかったぁ~っ!」
結局、ジントは、両方の弁当にもう一口はしをつける気にはなれなかった。
すると、二人の少女から睨まれる。
「ねぇ、ジント君、続けて食べてよ。」委員長
「ジント、お願い。その弁当頑張ったの」ユーリル
二人の迫力におされぎみだったが、助け舟を出すダリシュ
「ねぇ、これは、引き分けだね。どっちの料理も結局、ジントの口を合わなかったことさ。食べられない料理なんて、勝負以前の問題だからね。ここは、ジントは独占することは、あきらめて、4人で仲良く昼食を食べよう。僕も皆の分の弁当を用意したから。」そういって、弁当箱を広げるダリシュ
「わかったわ。兄さん。」
「そうね、ダリシュ君の言うとおりね。ここは、引き分けで身を引くわ」
二人も納得した。
そして、緊張感はあるが、昼食は4人でとった。
「ダリシュ、このお弁当美味しいよ。君にこんな才能があるとは、意外だな。驚いたよ。」ダリシュの弁当を美味しそうに食べるジント
「ありがとう、ユーリル、君はまだまだ、僕の腕にはかなわないな。精進しろよ。」と微笑むダリシュ
「兄さん、さすがね。相変わらずの料理の腕だわ。地上世界の料理もアーヴの料理も1級品ですものね」そういいながらもダリシュの弁当を美味しそうにほおばるユーリル
「ダリシュ君、意外・・・・・。こんな美味しく弁当ってできるものなのね。勉強になったわ。今度こそ成功させて見せる。」委員長も美味しそうに食べていた。
こうして、4人の昼食は終わり、午後のプログラムつつがなく進行して、委員長もダリシュもジントも自分の競技を終わらせて、ほっと一息ついて、ユーリルが参加する最後の競技の交通艇障害物競走を観戦するところだった。