ジントの修技館時代    作:いち領民

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ジントの修技館時代 第17話

合同訓練競技会は、クラスをランダムに分けて、さらに8つの軍に分けて、チーム対抗戦を行っていた。そして、最後の競技の交通艇障害物競走は、1番得点が高く、盛りあがる競技だった。

ユーリルが所属していたバルケー王国軍は、トップのクリューヴ王国軍とわずか5点さで、この競技で1位をとれば、優勝できる状況だった。

そして、交通艇障害物競走は、各軍の代表が1名選出されて、修技館合同競技場をスタートして、ラクファカールを1周して戻ってくるものだった。しかも、様々なポイントに障害物が設置されており、それをかわしながらゴールを目指すという過酷なものであった。

 

「ねぇ、ダリシュ、これで1位をとれば、僕らのバルケー王国軍が勝つのだよね。ユーリルもけっこう、はりきっているみたいだし、大丈夫だよね。」すっかり、傍観者のジント

 

「そうだね。まぁ、余裕だと思うよ。彼女を上回る操舵ができるアーヴなんて、ほとんどいないと思うしね。」いつものように穏やかに話すダリシュ

 

「えー、でも、難しいんじゃないの。私達と同学年に『疾風ノール』という異名の持つ操舵が凄腕の訓練生がいるみたい。さっき、飛翔科の友達と話をしていたら、そんな話題をしたの。今回の競技会の1番の目玉が『黄金の天才児』vs『疾風ノール』ということみたいね。かなり、そっちでは、盛りあがっているみたいよ。」委員長。

この合同競技大会の最後のメイン競技の交通艇障害物競走の飛翔科や主計科だけではなく、他の修技館でも放送されることになっていた。それだけ、毎年盛りあがる競技であって、訓練生であれば、誰もが注目するものであった。特に、今年は、前年度で1年生ながら、『疾風ノール』という異名を持ち、圧倒的な強さで優勝したエクリュア・ウェフ=トリュズ・ノールと星界軍飛翔科修技館の歴史上の最高記録を次々と打ち立てている『黄金眼の天才児』ことシュリル・ウェフ=キルヒム・ユーリルの対決という祭り好きなアーヴ達にとっては、とても楽しみなものであった。

そのため、レース前に交通艇に乗りこむ前に一言インタビューがあった。そのため、乗りこむ前に宇宙港の一角で代表8名の訓練生は集められていた。

 

「(はぁー、あまりやる気しないな。今日の私の中で1番、力を入れたジントとの昼食は、邪魔が入るし、お弁当はジントに最後まで食べてもらえなかったし、いくら私でも、モチベーション下がるわ)」一人で考え込むユーリル

 

すると、考え事をしていたユーリルは隣いたエクリュアにぶつかってしまったが、きづかなかった。すると、エクリュアは、黙って無表情だったが、一応後輩であるユーリルにぶつけられて、さらに無視をされたので、怒りが沸いていた。

 

「えーっと、次はシュリル訓練生、意気込みをどうぞ?」一応、インタビュアーの役目をしてきく教官

 

「え、私ですか。別に、何もありません。」考え事をしている途中で聞かれたので、気のない答えをするユーリル

 

「そうか。余裕だね。では、最後は、前年度の優勝者エクリュア訓練生。今年の意気込みをどうぞ?」勘違いをする教官。

すると、ユーリルの方をじっと睨み一言だけいった。

 

「潰す」

 

「え…。はい、わかった。では、これで、全員の意気込みを聞いた。それでは、各代表者、交通艇に乗りこんで。」スタートの用意を指示する教官

 

各代表8人全員が一人用の交通艇に乗りこみ、スタートの準備が整った。

 

「それでは、スタート。」教官が合図をして、交通艇障害物競走が始まった。

 

すると、エクリュアは、最初からものすごいスピードで圧倒して他を引き離したが、ユーリルは、まったく、スピードをだしてなく、他の訓練生からも差をつけられて、最下位で発進した。

 

「あれ、ユーリルどうしたのかな?いきなり、最下位だよ。何か調子が悪いのかな?」心配するジント

 

「ああ、たぶん、気持ちの問題だな。ジントと楽しい昼食を過ごせなかったのがかなりショックだったんだろうね。まったく、そんな私情を競技会に持ちこむとはまだまだ、修行が足りないな」難しい顔をするダリシュ

 

「えーっと、僕のせいなのかな?だとすると、どうにかしないと、何か考えは無いのかい?ダリシュ」自分の責任だと思いこむジント

 

「別にいいんじゃないの。あの子が負けても。だいたい、そんなことでやる気をなくす方がダメなのよ。ジント君が心配することじゃないわ」ユーリルのことを心配するジントを見て、嫉妬する委員長。

 

その様子を見ながら、ダリシュは、何かを考えを思いつたらしく、いつも以上に穏やかな笑みをした。

 

「ジントいい方法があるよ。ちょっと、耳を貸して。それと、委員長、君の同意も一応、必要なんだけど、いいかな。」

 

「なんだい、ダリシュ…。えー、ユーリルが1位をとったら、キスをプレゼント?でも、僕は…・」動揺するジント

 

「何よ。それ、絶対反対よ。なんで、そんなことを言うのよ。ダリシュ君。ジント君、絶対そんな話にのっちゃだめよ」怒りを見せる委員長。

 

「待ってくれ、まだ話は終わっていないよ。もし、この話を伝えてユーリルが負けたら、委員長にキスをするというのは、どう?これなら、委員長にもメリットがあるよ。だから、委員長の同意が必要だといったのさ。もちろん、ジントのキスもユーリルが1位をとったらもらえるという前提条件でこの賭けをやるけどね。」状況を楽しむダリシュ

 

「なるほど、それなら、わかる。私にもメリットになる可能性が高いのね。どっちにしろ、今のままで負ける。だから、そんな賭けをしたいということなのね。ねぇ、ジント君やりましょう。私はその話のってもいいと思うわ(いくらあの子でもここから挽回するのは無理よ。トップはなんといっても『疾風ノール』なんだから)」素早く頭で計算する委員長

 

「あのう…・僕は。」

 

「まぁ、ほっぺたくらいならできるだろう。ジント。ジントは、僕達の軍に勝ったほしいのだろう。だったら、やるべきだよ。今、こうしている間にも状況は悪化しているんだ。僕からも頼むよ。ジント」

最後のダリシュの頼みが決めてとなり、結局ジントは、その話をしぶしぶ了承した。

 

そして、レース中のユーリルのクリューノにすぐにその話は伝えられた。

 

「…・・ということなんだ。ユーリル。君が負けてしまうと、ジントのキスが君から委員長にいってしまうよ。必死でやらないといけないと思うよ。」といって、ダリシュはユーリルに話を伝えた。

 

「絶対、嫌。死んでもトップをとるわ。見ていなさい。委員長。」やる気どころか、これまでにないくらい真剣になるユーリル

 

その話を聞いた瞬間、ユーリルの船は一気に加速をして、エクリュア以外の交通艇は一瞬にして抜き去った。

 

一方、序盤で圧倒的大差をつけたエクリュアは、交通艇を操舵しながら、歌を歌っていた。歌詞は、さっきぶつけられたユーリルを独創的な罵倒をした自分のオリジナルのものに、アーヴらしからぬ音程に常人が聞けば、騒音としか認識しない歌を歌いながら楽しそうに操舵していた。

 

すると、後方から自分とどんどん距離を縮める星界軍の飛翔科修技館の標準形式の交通艇の存在を空識覚で感知すると、途端に不機嫌になった。

 

「誰?」独り言を言うエクリュア

 

そして、その交通艇にバルケー王国軍の紋章を認識させるまで接近されるとその搭乗者がユーリルであることを認識した。

 

エクリュアの中で自分と差をつめることができる訓練生なんて、絶対いないと思っていたし、その状況をまのあたりにするまで、ユーリルが『黄金眼の天才児』といわれていることに関して、バカバカしいにもほどがあると思っていた。

 

「クス、面白い」

エクリュアの中でアーヴの一人としての戦闘本能を刺激された。

 

この交通艇障害物競走は、三つのエリアに分かれていた。

1番最初Aエリアは、純粋なスピード勝負のコースで障害物はなにもなく、次のBエリアから障害物が設置されていた。障害物は基本的に、凝固物質や電磁網といったものが使われていた。これらは、船を重くしたり、動きを鈍くしたりするので破壊するものではなかったので、訓練生の安全は保たれていた。そして、最後のCエリアになると、交通艇装備されている凝結弾が使用許可できるエリアになる。凝結弾は、相手の交通艇にあたると重くすることができ、重くなればなるほど、相手のスピードが落ち、最終的に自分の有利のレースをもっていく武器として使用するものだった。

 

Bエリアに入る頃までにはエクリュアとユーリルの差は0.5ウェスダージュまで迫っていた。

 

「去年と、同じ障害物、私は2度目だから有利」エクリュアは、自分の有利さを意識しようと言葉で自分に言い聞かせた。

 

障害物は、360度あらゆる方向から凝固物質が流れてきた。それをよけながら、最短のコースを進むという操舵は、標準のアーヴでは、かなりきついものだった。たいていのものは、とにかく、凝固物質を避けて、遠回りでもいいから進むか。あえて、ここは、重くなってもいいから最短コースでいくか二者択一しかできなかった。

でも、エクリュアは10ダージュ、ユーリルはわずか5ダージュのギリギリの差でかわしながら最短コースでその障害物をクリアーした。

 

それを会場でみていた訓練生達は、感嘆の声と共に歓声もいっそう大きくなった。

 

次の障害物は、地上世界で言う縄跳びのような電磁網が回転していてそれが、交通艇が進む方向にあるいは、垂直にあるいは、斜めにあるいは、2重にと何層もあった。しかも、タイミングを一定ではなく、微妙にずらしたものや、視覚ではとらえきれないほど高速回転しているものまであった。

 

これも大抵のアーヴの技量では、一つ一つの電磁網をかわしていくしかなかった。タイミングを見計らい、時には、交通艇を停止させていくような厳しいものだった。

 

だが、ユーリルもエクリュアもわずかなスピード調整のみでギリギリでかわしつづけた。

 

そして、最後のBエリアの障害物は、前者の二つを組み合わせたもので、これを一気に突破できるアーヴはごく限られていた。もし、これができたなら、交通艇実技のSランク評価(ちなみにSランク評価は飛翔科修技館で30年に1回でるかでないかの逸材がとるような評価)になることは、間違いなかった。

 

しかし、エクリュアとユーリルは、まるで、そこに何もないかのようにあっさりと突破した。

特にユーリルは、トラップを突破しただけでなく、エクリュアとの差もさらに0.2ウェスダージュまで迫っていた。

 

「ふ、でも、私の勝ちは決まり」

最後のエリアに突入して勝利を確信するエクリュア

 

「これは、きついわね。何か策を考えないといけないわ。」しばらくして、自分が苦境に立たされていることに気付くユーリル

 

最後のCエリアは、実は言うと、圧倒的に先頭をいく交通艇が有利だった。凝結弾の発射口は、前と後ろについていたが、当然、前方に発射されるとそのとき発射した力で加速が減少する。逆に後ろの発射口なら加速は減速されることはなく、さらに凝結弾の質量が減る分、さらに交通艇のスピードは上がることになっていた。

つまり、後方の交通艇は、発射するなら絶対にあてなければいけない。しかも、一発や2発では加速の減少分を補えないので、かなりの数を当てつづけなければならない。いわば、追っている側は一発勝負の厳しい状況だった。

 

エクリュアは、そのことを去年のレースでわかっていたので、早々と凝結弾を連続発射して、弾がなくなるまで交通艇を軽くした。

もちろん、ユーリルはそれを難なくかわしたが、軽くなった分、ジリジリとエクリュアとの差が開いてきた。

 

「やはり、ここは、勝負をかけなきゃいけないわね。」そういって、なぜか、まるで、凝結弾をすてるように、後ろに何発も発射して弾丸を2発だけ残してエクリュアと同じくらい交通艇の軽さにするユーリル

 

「クス、今ごろ気付いても遅い。」

さきほどの差で0.4ウェスダージュまでエクリュアとユーリルの差は開いていた。

その後、操舵の力でなんとか0.3ウェスダージュまで差を縮めたが、合同競技会場まであとすぐのところまで、迫っていた。

合同競技場の中を一周して、ゴール地点を通過すれば、勝負は決まることになっていた。

 

交通艇が合同競技場の会場へ続く狭い通路に入って「もう私の勝ち」とエクリュアがそう思った瞬間。

ユーリルは、凝結弾を発射した。

 

エクリュアは、反射的にそれをよけて、通路のはじに寄せた瞬間、その隙間に最後の一発の凝結弾を命中させた。エクリュアの交通艇と通路が凝結弾によって、一瞬くっついてしまい、そのために、急激に交通艇にブレーキがかかった。

 

そして、その一瞬の隙を見逃さずに反対のはじから一気にエクリュアを追いぬき、そのままゴールを通過して、今年の優勝者はシュリル・ウェフ=キルヒム・ユーリルに決まった。

 

会場は、この逆転劇に大興奮だった。誰もが、エクリュアでさえもが勝利を確信した状況での大逆転劇に訓練生の興奮はピークに達していた。バルケー王国軍では、『黄金眼の天才児』を賞揚する声がいくつも上がった。

 

 

優勝したユーリルに教官が感想をきくと

 

「これは、愛の勝利です。」と満面の笑みを浮かべてVサインをだすユーリル

 

「ジント、君のおかげだな。一応、約束は守ってくれよ。委員長、惜しかったね。でも、君もかけにのったのだからしょうがないさ」ダリシュ

 

「ダリシュ君、わかったわよ。私帰るわ。ジント君があの娘にキスしているところなんて、見たくないし。じゃぁ、ジント君、さようなら」そういって、ものすごく怒りに満ちた表情のまま、委員長は足早に帰っていった。

 

そして、とても上機嫌にユーリルはジントのところへ来た。

 

「あら、委員長はどこ?」なぜか勝ち誇った風に聞くユーリル

 

「えーっと、帰ったよ。」ばつの悪そうな表情をするジント

 

「逃げたわけね。まぁ、いいわ。それで、ジント、早くキスのプレゼント頂戴。私はこのために、今日頑張ったみたいなのものだわ。それと、兄さん、ありがとう。最後にこんな賭けをさせてくれて。」本当に嬉しそうに言うユーリル

 

「ユーリル、じゃぁ、やるよ。えーっと、ほっぺたをこっちに向けて、あと目を瞑ってもらえないかな。ちょっと、恥ずかしいから」一応、男らしくジントの方からきりだす。

 

「えー、ほっぺたなの。まぁ、いいわ。ジントは照れ屋だからね。」そういって、目をつぶりジントの唇を待つユーリル

 

そして、ジントがほうにキスをしようとして唇を近づけた瞬間、ユーリルはその方向に唇を向けて、ジントはユーリルの唇にキスをしてしまった。

 

「あ、ごめん。ジント」わざとらしく顔を赤くしながら謝るユーリル

 

「ユ、ユーリルなんで、目を瞑っているのに。でも、どうして?」一瞬にして頭が混乱してしまい言葉が続けられないジント

 

「ジント、鈍いなぁ。空識覚というものがあるだろ、僕達には。こんな簡単な罠にひっかかるなんて、気をつけたほうが良いぞ。」ジントの狼狽ぶりを穏やかに眺めるダリシュ

 

「ジント、ありがとう。最高の優勝商品よ。では、兄さん。また、今度。じゃぁ、ジントさようなら。」満足そうに颯爽と帰っていくユーリル

 

ジントは、頭が混乱していたので、その様子を見守ることしかできなかった。

 

 

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