ユーリルは、寮に帰ると、すでにバレタインデーのことに気持ちがいった。そう思ったとき、父のハーデスからメッセージが届いていた。
<ダリシュとハイド伯爵閣下に不穏な動きあり、バレンタイデーの当時、逃走する可能性あり。逃走先は、今のところ調査中。ユーリル、私はお前のために全面的に協力する。個人的にはハイド伯爵閣下は私も気に入っているからな。ぜひ、二人が結ばれて欲しい。以上、ハーデスより>
「兄さん…。ジントに頼まれたね。でも、逃がさないわ。私には父が今回のことは、全面的に協力してくれるのですから」
そういって、微笑むユーリルだった。
一方、委員長は、すでにとある地上世界から手に入れたアリレームを用意しており、あとは、告白のための作戦を考えていた。
「やはり、これでいくわ。」そういって、想像する委員長。
…………委員長の想像…………………
「ジント君、私のアリレームうけとって。ちょっと、トロトロに甘いアリレーム」
そういって、口にアリレームを頬張り、少し噛み砕き、唇を突き出す委員長。
「委員長、嬉しいよ。君のアリレームいただくよ」
ゆっくりと委員長の唇に近づき、キスをするジント
そして、口移しでアリレームを渡す委員長。
「ジント君、美味しい?」顔を赤くしながら言う委員長
「うん、最高に甘くて美味しいよ。」
ジントも顔を赤くする
「でも、ジント君にもう一つ、食べてもらいたいのがあるの。」
ジントに抱きつき、耳元でささやくように言う委員長
「なんだい?委員長」
期待を込めて聞くジント
「私、シオン・ウェフ=ミュリエル・セシルを食べて、お・ね・が・い(はぁと)」
「わかったよ。委員長いや、セシル」顔を赤くしながらも嬉しそうに言い、委員長を抱きしめるジント
……委員長の妄想終了……
「うーん、我ながらいい作戦だわ。この前はあの女に先手をとられたけど、このバレンタインデーを知っているわけないし、大丈夫よね…。でも、私の勘によると嫌な予感がするのよね。ちょっと、不安だわ。」独り言を言う委員長。
すると、委員長のクリューノがなった。
「セシル、お久しぶりね。あなたの母よ。最近、どう頑張ってる?」
委員長の母からの通信だった。
「お母さん、大丈夫。訓練の方は順調にやっているわ。でも、それ以外がなかなか上手くはいかないけどね。」
「ああ、ハイド伯爵閣下のことね。何か進展はあった?詳しく聞かせて」娘の恋愛に非常に興味を持つ委員長の母
「………ということなの。なんだか、邪魔なのがでてきてね。たださえ、王女殿下という強力なライバルがいるのに、頭に来るわ。」ユーリルのことを話す委員長。
「そう。大変ね。そうだ…。ハイド伯爵閣下について、もっと知りたいならいい人がいるわ」何かを思いつく委員長の母
「え、誰?私もライバルが色々出てきたので、誰かの助けが欲しいと思っていたところなの。クラスメートじゃ、あてにならいしね(クミセスとエレセーヌは失敗ばかりするしね)」厳しい委員長。
「カシュナンシュ・ウェフ=ゴス・エール星界軍情報局長官、あなたの遺伝子提供者よ。彼ならあなたを助けてくれるわ。ぜひ、連絡してみればいいわ。」
「ええ、パパが私に協力してくれるの。それは、助かるわ。」満足そうな委員長。
(ちなみに委員長の一族は男の遺伝子提供者をパパといって、女の遺伝子提供者をママという伝統がある。)
「うん、最近、娘が恋愛でちょっと、悩んでいると話したら、ぜひ協力したいといっていたの。だから、安心していいわ。じゃぁ、そろそろ時間だし、寝るわ。また、今度ね」
そういって、委員長の母からの通信は切れた。
後に委員長は、カシュナンシュ大提督の情報により、ジントが帝宮へ逃走するという情報を得て、彼と一緒にバレンタイデーの日にジント達を追跡することになった。
バレンタインデーの前日、ジントとダリシュの部屋
「ねぇ、ダリシュ、どうしてディアーホも帝宮につれていくの?一泊二日しかこの部屋をあけないし、別にいいと思うけど」猫籠を抱えるジント
「うん、まぁ、とりあえず、用心にこしたことは、ないからさ。猫質をとられたら、君があっさり、降参されても困るから。」鞄から装飾銃や麻酔弾を出して丹念に調べて、さらに頭環を標準式に戻し、準備するダリシュ
「確かに、ディアーホを誘拐されたら大人しく要求に従うかもしれない。でも、ユーリルがそんなことするかな?彼女はけっこう、ディアーホを気に入っているしな。」
「ユーリルは、そんなことしないぞ。もう一人の方さ。ジント、ここ2・3日、君が監視されていることは気づいたかい?ジント」興味深げにジントを眺めるダリシュ
「え…。全く、気付いていないよ。誰に監視されているの?もしかして、ユーリル?」相変わらず鈍いジント
「違うよ。星界軍の情報局の特務1課の連中さ。最初は、僕をマークしているかと思ったけど、よくみると違う。君をマークしていた。それで、とりあえず、理由を考えてみた。すぐに結論はでたけどね。」穏やかに微笑むダリシュ
「星界軍の情報局だって?なんで、僕がマークされなきゃいけないんだ。全く、覚えが無いよ。」ダリシュの発言に動揺するジント
「理由は、委員長さ。彼女の遺伝子提供者は、情報局の長官をやっている。彼は、ちょっと、変わり者でね。こういう個人的なことでも、迷わず、部下を使うような人なんだ。この説明でわかっただろ。ジント、君は、ある意味、恐ろしい立場にいることは確かだ。」ますます穏やかに微笑むダリシュ
「そうなんだ。アハハ。(…ダリシュ、絶対、この状況楽しんでいる。あの微笑みはそうだ。)」苦笑するしかないジント
「それでだ。これから、帝宮いくまで、連中を叩かなきゃいけないな。だから、こんな準備をしているのさ。それと、ジント、君のクリューノにこのカバーをつけてくれ、これで、クリューノからの探知は不可能になる。だから、ジント、帝宮につくまでクリューノを使うのは禁止だ。連絡はこれでとる。まぁ、古代地球で携帯電話と言われていたもんだ。特殊な番号をいれて、通信するんだ。番号は、8989142607だ。メモっておけよ。」携帯電話を渡すダリシュ
ダリシュが準備をしていると、彼のクリューノがなった。
「よう、息子。元気にしているか?私はいたって、健康だ。とりあえず、言っておくことがある。降伏するなら今のうちだぞ。大人しくハイド伯爵閣下の身柄をこっちに渡すんだ。ユーリルがぜひ、用があるんだ。」ハーデスからの通信だった。
「父さん…。そういうことか。でも、どうしてユーリルの味方をするんだい?」
「もちろん、娘がかわいいからに決まっているさ。それに、私はハイド伯爵閣下を気に入っている。あと、言っておくけど、正式な『青の牙』は使わないぞ。これは、きわめて個人的行動であるし、ヘルマスターはお前だからな。」といいながらもハーデスの声にはある種の余裕が感じられていた。
「そういうことですか…わかりました。引退した各王国のマスターを自費で雇うみたいですね。まったく、そこまでして、今回のバレンタインデーを成功させたいのですか?父さん」ハーデスの意図を理解しながらもあくまでも穏やかに話すダリシュ
「当たり前だ。一人5000スカールは払っているんだ。それくらいの価値はあるさ。たまには、娘のために大枚をはたくのも気分がいいものさ。さて、おしゃべりはそこまでにして、もう一回いうぞ。帝宮にこられるのは、ダリシュがいくら優秀でもハイド伯爵閣下というお荷物がいる以上、無理だと思うな。降参しろ」息子にさとすように話すハーデス
「それは、断ります。親友の頼みを断るほど、僕は友情に薄い男ではありません。それに……こんな楽しい状況、そう簡単に手放せません。さて、僕はこれから寮をでますけど、今から襲いますか?」探るように話すダリシュ
「うーん…。まぁ、それは作戦上の秘密にしておこう。じゃぁ、お前との戦い、楽しみにしてるぞ」
そういって、ハーデスの通信は切れた。
「さてと、こちらは、準備万端だ。ジント、いくぞ。」リュックを背中に担ぎ、装飾銃を握り締めるダリシュ
「うん、わかったよ。ダリシュ」不安そうな顔でジントはダリシュについていった。
フォルシュ・アロン=フリート・公女・アルネージュ千翔長はとても不機嫌だった。カシュナンシュ大提督から言い渡された任務が明らかに彼個人的なものであり、彼の遺伝子提供者の惚れている人物を拉致するという優雅さから程遠い仕事を頼まれたのが、彼女はとても不本意だったからである。
「まったく、あのカシュナンシュ大提督にもあきれたもんだわ。ハイド伯爵閣下を拉致するのに特務部隊の1部隊の戦力(約60名)を使うなんて、過剰すぎるわ。でも、あのシュリル訓練生というのがちょっと、ひっかかるわね。情報局のデータバンクで検索したけど、普通の情報しかでなかった。紋章院にあたったら、なんだか秘匿扱いだし、情報局の長官のコードでも取り出せなかった。気になるわ」独り言を言いながら、学生寮の様子を望遠鏡で眺めるアルネージュ
「アルネージュ千翔長、どうしました?何か考え事ですか?」副長のダルク
「まぁ、気になることがちょっとあるだけよ。でも、こんな任務さっさと終わらせて帰りましょう。あんななりあがり地上人の貴族の子供をつかまえるくらいわけないわ。」不機嫌なまま作戦を進めるアルネージュ
「はい、わかりました。ところで、実弾を許可されているみたいですけどいいのでしょうか?邪魔する敵を排除せよというのが長官の命令とはいえ、今のところ、あのシュリル訓練生以外は、阻害因子はなさそうですし、万が一、当たり所が悪くて、彼が死んだら責任とかは…・・」実弾を使うことをためらうダルク
「そんなもの私は知らないわ。責任はこの作戦を考えたカシュナンシュ大提督が負うのよ。実行部隊の私達に責任もへったくれもないわ。とにかく、いい。はじめるわよ。いい、まず、狙撃隊のα班、β班、γ班でシュリル訓練生の動きを止めて、彼がとまったら、A、B、Cの3班が逃がさないように3方向からハイド伯爵閣下を確保、以上。簡単なんだから、さっさと終わらせてよ。」
アルネージュは矢継ぎ早に命令をだし、あとは、二人が狙撃ポイントに移動したら合図するだけだった。
すると、突然、異変が起きた。
「狙撃班のα班、攻撃を受けています。」突然、学生寮から30ウェスダージュほど離れた作戦本部であるテントの中のアルネージュの元に報告が入った。
「何?どこからなの。状況確認して…」突然の異変に動揺するアルネージュ
「あ…。まさか、シュリル訓練生…ガガガ・ピー」
「α班、通信途絶です。」あわただしくなる作戦本部
「とにかく、作戦を強行します。狙撃ポイントでなくても、シュリル訓練生を攻撃しなさい。生死は問わずよ。」部下の最後の報告を信じ、反撃のための命令を出すアルネージュ
「今度は、β班、γ班、A班、B班、C班、同時に攻撃を受けています。信じられません。α班などの狙撃班は10ウェスダージュは離れています。それに、A、B班はシュリル訓練生の間に攻撃を防ぐための障害物があるはずです。たとえ、高性能のライフルでも反撃は無理なはずです。しかも、同時なんて…・」突然の状況にすっかり、混乱する副長のガルク
「ガルク、落ちつきなさい。60名の命がかかっているのよ。全員、とにかくシュリル訓練生を集中攻撃です。同時に攻撃すればいくらなんても、防げないはずよ。彼は、我々が考えていた以上に恐ろしい敵だということよ。」とにかく、冷静に対処しようとするアルネージュ
しかし、アルネージュの命令もむなしく、全ての班の通信は切れた。
「(なんていうことなの。もしかして、…ここも危ないかも)…・は。そうだ。全員、P4023-Z(個人防御兵器)を起動させなさい。早く。これは、命令よ。」本部に待機していた5名の作戦本部の情報局員に自分も頭環を操作しながら命令するアルネージュ
だが、彼女の命令をいった瞬間にすでに、本部にも弾丸が襲い、副長のダルク以下、4名は次々と倒されていった。
アルネージュは、なんとか間に合い、一発の弾丸が防御兵器に防がれて、地面に落ちたことを確認した。
「みんな、大丈夫」そういって、部下の様子を見るアルネージュ
「…これは、生きている。でも、どういうこと…・・麻酔弾」
部下の生死を確認して、落ちた弾丸を調べたら麻酔弾ということを認識したアルネージュだった。
「でも、これは、火薬発射式のタイプ、弾が尽きたら弾丸装着しないといけない。そんなことをあの60名近くの集中砲火を浴びながらやっていたということなの?なんという怪物…。恐るべしシュリル訓練生。そうだ、彼をマークしていた望遠カメラの記録映像があるはず。それを見て、カシュナンシュ大提督に報告しなきゃ。」作戦が彼の力を見誤り完全に失敗したと思うアルネージュ
5分後、記録映像を見て、作戦失敗の原因を分析してアルネージュは報告した。
「カシュナンシュ大提督、以上により情報局特務部隊は、全滅です。幸い、全員、麻酔弾によって気絶させられただけなので、数時間後には彼らは目覚めるでしょう。全員の生存も確認できました。それで、敗因は、彼の実力を甘く見ていた。その一言に尽きます。これを見てください。」
そういいながら、記録映像をカシュナンシュのもとに送るアルネージュ
「見ての通り、我々の攻撃を全て、あの青い装飾銃を盾代わりにして防いでいます。あの銃はどうやら特別製みたいで、傷一つついていません。そして、驚くことにその銃で防ぎながら弾を込めて、反撃するという作業を行っています。そのスピードはこの超高感度カメラでもぼやけるくらいのスピードです。そして、1番驚いたのは射撃の連射スピードとその正確性です。麻酔弾を受けて全員は、腕、もしくは、足、肩など。万が一でも致命傷にならない個所をうけています。そして、彼と我々の射線上に障害物はあるときは、跳弾を使って、狙撃しています。ここの本部の30ウェスダージュは離れていて、障害物はあるのにそれを使われて攻撃を受けました。」うんざりするような口調で説明するアルネージュ
「やはり、あの程度の戦力では無理だったね。アルネージュ千翔長。いや、君には悪いことをした。もっと、調べてから戦力を整えるべきだったよ。」悪びれもせずに言うカシュナンシュ
「ということは、我々が失敗する可能性を知っていたことですか?」その言葉に怒りを見せるアルネージュ
「まぁね。君に作戦を伝えた後、もう一度、調べた。皇帝陛下のデータバンクを不正にちょっと覗き見してね。そうしたら、彼、シュリル・ウェフ=キルヒム・ダリシュは、紋章院の特殊精鋭部隊『青の牙』のリーダーであるヘルマスターということがわかった。いやぁ、すまんな。伝えるのが遅くなって。」楽しそうに言うカシュナンシュ
「あ…『青の牙』のリーダーですってぇー。なぜ、そんな大事なことを最初に伝えなかったの。わざと伝えなかったとしか思えないですわ。もし、彼が殺す気だったら、60名の部下は、今ごろ忘れじの間へ行っていたところですよ。あなたの個人的な作戦のおかげでね。」ダリシュの正体を知り、ますますカシュナンシュに対する怒りを見せるアルネージュ
「大丈夫だよ。彼は優しい性格だから。陛下のデータにもあったけど、『青の牙』以外の任務で人を殺すことはないと書いてあったから。とにかく、こっちに帰還してくれ。作戦を立てなおす。まだ、チャンスがあるからね。」
そういって通信は切れた。
「く、あんな上司がいるから。情報局は猫の餌係りなんていわれるのよ。まったく…とにかく、出なおすわ。」
自分が上司に恵まれない不幸を呪いながらアルネージュは、カシュナンシュ提督の元に帰還した。