『猫の楽園』で遊んでいたダリシュのクリューノが突然、異常な警告音を出した。
それを聞いた瞬間、ダリシュの形相が変った。猫たちは、雰囲気を察して、ダリシュから離れた。
「ダリシュ、どうしたの?」とてつもなく怖い表情になっているダリシュに声をかけるエクリュア
「ノール、どうやら大事なようができた。僕は、行かなきゃいけない。じゃぁ、また。」そういって、素早く去っていくダリシュ
「そ、わかった」
『猫の楽園』の宇宙港へ向かう途中
「(誰かがジントの頭環とクリューノを破壊した。何か、ジントにあったということだ。でも、ジントの頭髪に埋め込まれている特殊な発信機で位置はわかるはずだ)」
そう考えて、ダリシュは位置を確認した。予想通り、ジントの場所はわかり、それが主計修技館から離れているのが確認された。
「やはり、誘拐された可能性が高いな…。そいつらは、絶対に許さない。僕の親友であるジントをこんな目にあわせるなんて、やつ裂きにしてやる。いや、首謀者はアーヴの地獄行きだ」完全に怒りを現すダリシュ
そして、ジント奪回のための作戦を素早く頭にめぐらせて、行動に移すダリシュだった。
,「ダリシュ君、私にも手伝わせて。捕まってしまったのは私の雇い主だもの。生憎(あいにく)だけど、情報戦は不得意なのよ。今回に限って“部下”になるわ。死ねと言えば、喜んで死に、戦えと言えば、たとえ陛下であっても戦います」
大喬の真っ直ぐな眼差しに、ダリシュは一時的に部下にした。
「そこまで言うのなら、分かりました。全て僕の言う通りに動いて下さい。僕の親友も捕まってしまったので」
「判かったわ。行きましょう!」
「では、大喬さん。あなたは、今でも囮の連中を追跡しているのですよね。」
「ええ、そうよ。」
「では、彼らを全員殺してください。ジントとドゥヒール殿下は僕達に任せてください。」低くつぶやくように言うダリシュ
「え・・・。殺すの?捕まえるのではなく。」あっさりと抹殺命令を出すダリシュに驚く大喬
「ええ、ジントの位置はこっちでつかんでいますから、彼らから情報を得るより、他の方法の方が早いです。それに、僕は、ジントをさらった連中を一人も生かしておくつもりはないですから。ああ、それともう一つ殺し方に条件をつきます。」静かに怒りを込めながら言うダリシュ
「条件?どういうこと」普段とは様子が違うダリシュに戸惑う大喬
「なるべく、苦しむように殺してください。『闇の狩人』の大喬さんなら造作もないことでしょう。」アーヴの微笑もかすむような凄惨で悪意に満ちた笑みを浮かべるダリシュ
「それは、優雅とはいえないと思うわ。」
「・・・・大喬さん、これは、命令です。あなたは、さっき部下になるといったでしょう。あなたの好みで変える気はないのです。それに、目標を殺すことこそ『闇の狩人』の本領がはっきされるのですから」
「わかったわ。それと、小喬にも手伝ってもらうといいわ。」小喬にも協力を提案する大喬
「たぶん、小喬さんは、僕の指揮下には入らないでしょう。彼女はかなり誇り高いですから。だから、彼女の行動は、彼女自身に任せます。彼女がどんな行動をとろうと僕は対応できますから」
「さすがね。ダリシュ君、小喬の行動も計算済みとはね。やっぱり、敵に回したくないわね。じゃぁ、あいつら、殺しに行くわ」
「さてと、そろそろ行こうか。あいつらのアジトの潜入に。ユーリル、情報は集め終わったかい?」ユーリルにクリューノに連絡を図るダリシュ
「ええ、集めたわ。兄さんからジントが誘拐されたと連絡あって、その後、犯人の情報集めを頼まれたけど、大体の情報は集まった。そして、アジトの場所の見取り図も手に入れたわ。」情報集めに奔走していたユーリル
「そうか、わかった。では、ユーリルは、王子殿下の身柄確保を優先。僕はジントの身柄確保を最優先する。それと、支援部隊は、現在ラクファカールにいる『青の牙』のメンバーは少ないから、アークエンジェルのミカエルたちを使う。彼女達なら、派手にやつらを殺すだろう。では、ユーリル、いくぞ。」そういって、ダリシュは通信を切った。
「こんにちわ、皆さん」
大喬は囮のアジトへ侵入し、堂々と話し掛けた。
「なっ、(気配を俺に感じさせねえとは…この女、かなりやるぜ)」
「そろそろ大喬さんが派手におっぱじめたろうから、僕らも侵入するか」
ダリシュも、密かに罠を用意してあった。侵入し、張本人と鉢合わせした頃に救援要請が入るように。
「あと、3分で救援要請が入るな。彼らは信用するかな、信用して深追いしてくれば作戦成功。もし付いて来なくても、もう1つの罠に引っかかる」
ダリシュは包囲網を確実に狭めていく。
ラクファカールの主計修技館から300セダージュ(30万キロメートル)ほど、離れた小惑星帯の巨大な岩石の中に誘拐屋「ブレーメン」のアジトがあった。そこに、ジントとドゥヒールは捕まっていて、牢屋に別々の部屋で手錠をかけられて入れられていた。
「はぁ、僕はどうなるのだろう?ダリシュが僕たちのことを気付いてくれば、助けてもらえると思うけど、本当に不安だ。」落ちこんでいる様子のジント
「ハイド伯爵閣下、すいません。もし、彼に何かあったら、僕のせいになる。そうしたら、姉様だけでなく、ユーリルさんまでも、悲しませる。僕に力があったら、助けることができるのに、アブリアルというのに本当に無力だ」ジント以上に落ちこんでいるドゥヒール
それを監視室から、モニターをキングは、依頼者と共に眺めていた。
「ホーガン閣下、我が誘拐屋のブレーメンに依頼、ありがとうございます。契約どおり、アブリアルの王子を捕まえました。まぁ、余計なおまけもついていますがね。」自分の仕事に満足そうに言うキング
「ふむ、さすがだな。この依頼に私の財産の半分をなげうっただけある。アブリアルの王子であるドゥヒールを私の玩具の一つに加えられるとは、嬉しい限りだ。ところで、あの青年は何者だ?」60歳くらいの老人だが、体つきはがっちりしている男がいった。
「ハイド伯爵閣下です。まぁ、例の王女殿下との地上世界の愛の逃避行を繰り広げた張本人といえば、ホーガン閣下もわかると思います。賭博王の異名をもつあなた様でもね。」もったいぶる風に言うキング
「なるほどな。これは、面白い。地上上がりの貴族とは言え、王女を救った英雄も玩具の一つにいれてもいいな。よし、彼もひきとろう。報酬も上乗せする。」しわだらけの顔で無気味に笑うホーガン
「これは、ありがたい。我々の苦労も報われます。しかし、あなたも酔狂ですね。これがばれたら、アーヴの地獄行きは確定だと思いますけど。」あえて、あおるように言うキング
「私の人生は常にギャンブルだった。そして、それには、命を賭けたものもあった。でも私は常に勝ってきた。これも一種のギャンブルだ。自分の身はアーヴの地獄行きという負けとアブリアルの王子という勝ちを賭けての人生のギャンブル、興奮するとは思わないか。」恍惚の表情を浮かべるホーガン
ダリウス・ホーガンという人物は、領民から国民になった理由は、二つあった。それは、彼の性癖が同性愛者ということが彼の故郷の地上世界では大抵のところと同じで異端であり、かなり迫害されたものであった。そして、もう一つの理由は、彼は根っからのギャンブラーだった。彼の夢は、その地上世界だけでなく、アーヴの世界でもギャンブルで勝ちつづけることだった。そして、念願の国民になった後でも彼はギャンブルを続けた。そして、勝ちつづけた。そのため、彼は闇の世界では「賭博王」という異名を持ち、一つの惑星が余裕で買えるほどの巨万の富を築いたのであった。
「ホーガン閣下、私は、それについては、同意しかねますが、報酬さえもらえれば、我々は仕事をします。とりあえず、例の口座へ振り込みお願いしますね。」さすがに彼の趣味には付き合えない様子のキング
突然屋敷に侵入者の警報音があたりに響きわたった。
「まだだ。てめぇ、つけられやがったな。食い止められなかったら、報酬はなくなると思え」
ホーガンはキングを睨みつけ、無言で“行け”と命令した。
「判りました、こんな小僧、すぐに八つ裂きにしてやる」
キングは武器を手に取り、モニターに映っているダリシュの場所へ向かった。
その直後、入れ替わりにダリシュが部屋に入ってきた。
「なんだ、貴様は、」ホーガンは激昂した表情で聞いた。
「初めまして、ホーガン閣下。あなたをアーヴの地獄へ誘う案内人のシュリル・ウェフ=キルヒム・ダリシュです。覚えておいてください。もっとも、それ以外の方は、ここで、死にますから」とアーヴの笑みを超えるような壮絶な微笑を浮かべるダリシュ
「く…。あの映像は、偽者か。」護衛の一人が聞いた。
「ああ、あれは、この『ヘヴィ・ベル』でちょっと、細工を。あれは、僕ではなく、小喬という人を映像で僕のものにしました。ここで、1番腕の立つキングという人を離す為のおとりとしてね。(小喬さん、ごめん。囮として使って)」悪意に満ちた笑顔をするダリシュ
すると、ダリシュの元へ通信が入った。
「兄さん、ジントと王子殿下の身柄確保に成功しました。アークエンジェルのミカエルとガブリエルとラグエルとレミエルでこらから、護衛して、このアジトから二人を脱出させます。二人とも、ぐっすりと眠らされているみたいなので、このまま行きます。」不敵に笑うユーリルからの通信だった。
「くそ、お前ら、早く、こいつを撃ち殺せ。」そういって、発砲命令出すホーガン
そして、そこにいた20人くらいのブレーメンの構成員は、凝集光銃を連射した。
だが、ダリシュはそこから、一歩も動かず、すべて、オリハルコン製の装飾銃『アース』で防いだ。そして、次の瞬間、ダリシュが目を瞑ると、アジトの全ての電灯の電源が落ちて、その部屋共々も真っ暗になった。
銃声が数十発響き、次の瞬間、電灯がつくと、ホーガン以外は、全員倒れていて、うめき声をあげていた。全員、口から泡を出して、苦しそうに視線を漂わしながら地面に倒れていた。
「ちょっと、弾丸に即効性の毒を仕込んでおきました。たぶん、1時間くらいは、持つと思いますよ。ただし、その分苦痛は、尋常じゃないですよ。体が徐々に腐っていくというものですから。さてと、あなたは、ここで死ぬわけには行きません。アーヴの地獄が待っているのですから。」
そういって、素早く間合いをつめると、手刀を延髄にあて、ホーガンを気絶させて、彼をかつぎ、その場を離れるダリシュ
宇宙港まであとちょっとという所で、護衛が立ち塞がった。ダリシュは抱えたまま、戦闘態勢を整えた。しかし、その護衛の後ろから手が伸び、口を塞ぎ、首を切った。
「御免なさい。通信をするつもりだったんだけど、クリューノ、壊れちゃった」
彼女は笑みを浮かべていたが、身体は返り血で真っ赤に染まっていた。
「気道の半分しか切っていないから、彼は相当苦しむはずよ」
命令上、全員苦しませて殺さなければならず、即殺より難しく、少しながら攻撃を受けていた。
「姉さん、大丈夫なの?左手首の傷、静脈が完全に裂けているわ。早くしないと手遅れになる、行きましょう。ダリシュ君、よくも私を囮に使ったわね」
と、怒りの込もった口調で言う小喬。
「あのね、私が小さい頃、私を助けようと捕まったことがあるの。で、左手の甲に、コンドルをあしらった焼入れを入れられたの。普段クリューノの下に隠れて見えないけど、決してその火傷を消そうとしないの。ダリシュ君……」
泣きながら言う小喬をそっと抱き、
「僕達より苦労していたんだね、君たちは」
「有難う、貴方の胸の温もりで元気が出たわ。ハイド伯爵閣下の診断に行ってくるわ。そろそろ目を覚ますでしょうから」
そう言って、艦橋を後にする小喬。
小喬が医務室に入ると、ベッドには、ジントとドゥヒールが眠っていた。そして、ユーリルは、ジントの手を握りながら心配そうにジントを見つめていた。
「ユーリルちゃん、ハイド伯爵閣下も王子殿下も大丈夫みたいね。でも、とんだ災難だったわね。」
すると、ユーリルは怒りの瞳をみなぎらせながら、小喬を睨んだ。
「小喬さん、大喬さんに言っておいて。彼女が無能だから、ジントがこんな目にあったのよ。もし、兄さんがいち早く気づいていなかったら、もっと、危ない状況になったわ。」金色の瞳を細めるユーリル
「まぁ、姉さんにも失敗はあるわ。許してあげてよ。ユーリルちゃん。」なだめにかかる小喬
「ふん、別にいいわ。こうして、ジントが無事だったし、文句はあとで、たっぷり、本人に言うから。」
そういって、ジントを眺めていると、ジントは、ゆっくりと目を覚まして、周りの状況を確かめた。
「あれ、ユーリル…………どうして…僕はここに?」まだ、薬の影響で頭が回らないジント
「ジント、兄さんと私でジントを誘拐した奴らから助けたの。もう安心して、でも、よかった。本当によかった。」
そういって、ジントを抱きしめて、金色の瞳から涙をこぼすユーリル
「あの…ユーリル。わかったよ。だから…その…」ユーリルがなかなか離さないので困り果てるジント
そこへ、ダリシュと大喬は医務室へ入ってきた。
「どうやら、ジントは大丈夫みたいだな。ジント、ユーリルは、君を助けるために色々と頑張ったんだ。それくらいのことは、許してやれよ。」安心した風に言うダリシュ
「わかったよ。ダリシュ」抱きつかれながら頬をかくジント
しばらくすると、ドゥヒールも目が覚めた。
,「(どうして、僕はここにいるのかな?)…ここは、どこだろう。」ジント同様に状況がわからず、周りを見渡すドゥヒール
「ドゥヒール殿下、お目覚めですか?この度は、私の失態で、このような惨事を招いたことを深くお詫びします。」ドゥヒールに気づき、謝る大喬
「そうか、大喬が僕を助けたのか。あれ…どうして、シュリル訓練生がここにいるのだ?」ジントを抱きしめているユーリルを見て、驚くドゥヒール
「王子殿下、大喬さんが助けたのではなく、私と兄さんが助けたの。そのことを理解していただきたいわ。それに、殿下がジントに会いに行かなければ、こんなことには、彼も巻き込まれなかったのに。どうしてなの?」詰問するように鋭い目つきをするユーリル
「あ…それは(状況はよくわからないけど、僕が原因で誘拐されたし、しかも、ユーリルの気持ちを確かめたいからハイド伯爵閣下に会いにいったと知ったら、怒りそうだな)」困り果てるドゥヒール
「まぁ、ユーリル、殿下をせめるのは、それくらいで許してやれ。今後、こんな災難が起こらないように2度とジントに近づかないようにすればいんだから」と口元は穏やかだが、瞳はユーリル以上に怒りの色を見せているダリシュ
「二人とも、ドゥヒール殿下に対して態度が無礼過ぎます。どちらが大事なのですか?」さすがにドゥヒールがかわいそうなので、とがめる小喬
すると、二人は同時に間髪いれずに一緒に答えた。
「ジント!!」ダリシュ&ユーリル
その発言でドゥヒールはますます落ちこんでいた。
「王子殿下、気を落とさないでください。どっちにしても、こうして無事助かったのです。このラシェールという船でこのままクリューヴ王宮に運んでもらいますから、安心してください」慰めるように大喬は言った。
「ところで、ダリシュ君、今回の誘拐騒動の主犯格のホーガンとキングは、どうしたの?この船で運んだわけではないみたいだし。」二人の主犯が気になる小喬
「彼らは、ミカエル達によって、『青の牙』マスター専用特殊戦闘艦『影船』2番艦・ドゥグナーにのせて、とある施設へ送りました。まぁ、クリューヴマスターのシータさんが責任を持って、護送するといったので、これで、彼らのアーヴの地獄行きは、決まりでしょうね」
「ドゥグナー…。11代皇帝の名前ね。ああ、そういえば、このラシェールという名も10代皇帝の名前ね。ということは?」何かを思いついた風に言う小喬
「小喬さん、たぶん、正解ですよ。この『影船』の名前は、この船が正式に『青の牙』のマスター専用に製造されたときにいた歴代の皇帝の名前をつかったのです。ちなみに、11代皇帝ドゥグナーがこの船をつくったのですけどね。まぁ、それからか、常に最新式の装備にはかえていますけど、名前はその当時からかわらないですね。ちなみに、『青の牙』では、『影船』のことを通称<陛下戦隊>という風に言っています」小喬の意図を理解して、説明するダリシュ
「なるほどね。でも、11代の中で8つだけということよね。他のはずされた3人の陛下はちょっと、気になるわ」考え込む大喬
「それは、その皇帝陛下のためにも一応、秘密ということにしておきます」穏やかに微笑むダリシュ
「さてと、一応、決着ついたし、皆さん帰りましょうか。あとの処理は、帝都警務隊にまかせるから。それと、面倒なことは、クリューヴ王殿下に説明して、それで、決着させるわ。いいでしょう。ダリシュ君」小喬
「わかりました。王殿下に任せます。ジント、僕らもクリューヴ王宮についたら、そこから、交通艇で学生寮に帰ろう。さすがに、主計修技館の学生寮まで、ラシェールを持っていくわけにはいかないからな」
「わかったよ。ダリシュ。とにかく、ありがとう。君達が僕を助けていなかったら、死んでいたかもしれない。本当に助かったよ」安心した風に言うジントだった。
それを見ていた小喬は、
「姉さん、行きましょう。後は二人に任せればいいわ(姉さんをは何もしなかったわけでは無いのに、まるでオマケのように扱うなんて。もしあと1ダージュずれていたら死んでいたのよ!?)」
表情に決してださないが、大喬を侮辱したことで怒りはダリシュ以上だった。
「小喬、逃げるのはよくないわ。それに、ちゃんとした手当てをして欲しいの。止血も済んでないし」
と、何とかしようとする大喬。
「ごめんなさい、忘れていたわ」
と、軽く受け止め、すぐにちゃんとした手当てをする小喬。手当てが終わるとまるで逃げるように医務室を出て行き、すぐに泣き崩れた。
「どうして…?……姉さんは……ダリシュ君の命令をちゃんと守ったのに…」
怒りは悲しみへと変わり、学生時代に虐められていた時を思い出していた。
「(いつも、私たちだけが、のけ者にされる。確かに、私達は互い違いだけど……。サタン事件の終了時のナシーカさんの気持ちが痛いほど良く判るわ)」
過去を思い出せば出すほど涙の勢いは増していった。
,その状況を見ていた大喬は、そっと、小喬の背中を抱いて優しく言った。
「まったく、相変わらず泣き虫ね。姉想いなのは、わかるけど、今回の件は私にも責任があるわ。それに、この程度の傷で死ぬほど、私は弱くない。小喬、あなたの欠点はものごとをネガティブに考えすぎることよ。それに・・・寂しいことだけど、ダリシュ君にとって1番大事なものはハイド伯爵閣下、今回のことでよくわかったわ」ちょっと、落ちこんだ様子の大喬
「姉さん・・・。でも、姉さんが、ダリシュ君をこんなに想っているのに、こんな扱いをうけるなんて、ひどいわ」ダリシュに対する怒りはまだ、さめない小喬
「そうね。でも、もし、ハイド伯爵閣下に傷の一つでもついていたら、たぶん・・・私は、もう2度と彼には会うことはできなかったでしょう。だから、私自分は傷ついたけど、まだ、ダリシュ君に会えなくなるよりはましだと思ったわ」小喬の髪を優しくなでながら言う大喬
「でも・・・・」まだ納得できない小喬
「では、視点を変えるわ。小喬の1番大事な人は、誰?」美しい容貌を小喬に顔のまじかまで、接近させて、瞳を見つめながら言う大喬
「姉さん・・・」思いきり顔を近づけられたので、少し恥ずかしくなって顔を紅くする小喬
「そう。ありがとう。じゃぁ、例えば、私が他の人によって、ちょっとしたミスをして、命の危険に陥ったらどう思う?しかも、その人は、気をつけて対処すれば、まったく問題ないほど能力を有しているなら、どう思う?」試すようにきく大喬
「それは・・・。絶対、許さない。ちょっとした油断で姉さんの命に危険を起こす原因になったら、その人の手足を切断してやるわ・・・。」その状況を想定して判断する小喬
「そうでしょうね。私も妹のあなたがそんなことになったら、そう答えるわね。つまり、そのときの私が今回はハイド伯爵閣下の立場だったの。もし、ドゥヒール殿下だけが誘拐されていたら、ダリシュ君はあんな態度をとらなかったし、こんな無茶な命令もしなかった。そう判断するわ」今回の状況を分析する大喬
「でも・・・・納得できない。姉さんは、死にかけたじゃない。その左手の傷は・・・・」
「小喬・・・。どうやら、あなたより、ダリシュ君の方が私の腕を評価しているみたいね。確かに、即殺より難しかったけど、あの程度の敵を命令どおり苦しませて殺すことができる腕は、もっていると自負しているわ。」
「だって、本当は姉さんには、無茶して欲しくないの」あくまでも、ダリシュを許せない小喬
「小喬・・・・(今は何を言っても無駄か。あの子は、一度思ったら聞かない頑固な面があるからね)」困り果てる大喬
その様子を見ていたドゥヒールは、
「すまない。僕の不注意で…」
「大丈夫よ、王子殿下。私達は学生時代から虐められている。こうゆう事はしょっちゅうあったから」
大喬はそう言うと、ドゥヒールを優しく抱き、医務室へ戻り、簡素な椅子に身体を休めた。
(あのコ(小喬)の言う通り、あと1ダージュずれていたら間違いなく動脈が切れていた。死にはしないけど、壊死しそうね。まぁ、小喬の頑固は今に始まったことではないから、3日は過去ばかり振り向くわね、あのコの性格じゃ)
廊下で泣き崩れる小喬を思い出し、小さく溜息を吐いた。
数時間後、ダリシュ達は一旦、クリューヴ王宮に行き、ドゥビュースに今回の誘拐事件の説明をすべてすまして、ユーリルは飛翔科修技館、ジントとダリシュは主計修技館へ帰っていった。