結局、その日は、買い物を三人で済ませた後、別荘へ帰って、翌日、ユーリルとジントはデートすることになった。
「ねえ、ジント、どこへ行こうか、とはいっても、ここは、娯楽施設はそんなにないけどね。動物園くらいかしら。」
「動物園?どうして、紋章院の訓練施設の惑星にそんなものがあるの?」
「いったでしょう。ここは、あらゆる環境に対応するための場所よ。地上世界には様々の動物がいるでしょう。そういう生態を知っていて、密林や海やその他の自然環境に囲まれ場所でも隠れたり行動できるためよ」
「なるほど。確かに、いわれてみれば、そうかもしれないね。じゃあ、いこうか、動物園。」
「ええ、じゃあ、それが終わったらディナーね。そのときは、着替えるわジントも一緒によ。お店に予約しておくわ」幸せいっぱいの笑顔をユーリルはした。
そのときは、二人はわからなかった。二人を追う追跡者がいたということを。
「こちら、マーメイド、グリーン。目標、アルファとベータを追跡中、今のところ、気づいている様子は、ないです。随時、報告します。」
「了解、では、マーメイド、ローズあとは、頼むわよ。私は、自分で休暇を楽しむから」そういって、クリューノの通信はとぎれた
「あーあ、ユー姉が、男と二人でいるよ。ムカつく。ねえ、ファラ、監視だけじゃなく、邪魔しようよ」
藍色でポニーテールの髪型でユーリルより2~3歳くらい下の小柄でエメラルドグリーンの大きな瞳のアーヴの美少女はつぶやいた。
「カテジナ、私達の任務の目的は、ティアラから、頼まれた監視よ。それは、忘れないで。もっとも、何かことが起きたら、阻止していいわよ。」
紫色の肩まで、ソバージュがかかった髪型で長身の琥珀色の瞳の美女がなだめるように言った。
このティアラに監視役として頼まれた少女の二人は、ユーリルに気付かれないように追跡していた。
しかし、そのうちの一人のカテジナの方がだんだん、ユーリルがジントの腕をからめて、ジントが鼻の下を伸ばしている様子を見て、イライラしていた。
「(うー、私のユー姉が、あんな地上人のぼっちゃんの貴族とデートしてるなんてぇ・・・・・)」そのエメレラルドーグリーンの瞳には嫉妬の炎が燃え上がっていた。
思わず、力が入り、必要以上に接近した。
「ジント、ちょっと、待ってて。その・・・・トイレ」そういって、恥ずかしそうにユーリルは一端、ジントから離れた。
「あれ、ユー姉があいつと離れるよ。ファラ、いや、ローズ、どうする?」
「トイレを行くみたいね。デートなら、ハイド伯爵閣下のところにもどってくるでしょう。待っていた方がいいんじゃないの。」
「うん、わかった。じゃあ、そうす」
とカテジナが声を上げようとした瞬間、二人の背後に両手に銃をつきつけたユーリルが立っていた。
「二人とも動かないで。ファラとカテジナ、なんで、あんたたち、ここにいるの?」
その金色の瞳は猜疑心に満ちていた。
「えーっと、どうしよう?ローズ?」あせりながら言うカテジナ
「うーん、マーメイド、こういう事態は、考慮してなかったからな。まあ、いいか。単刀直入に言うと、ティアラに頼まれたから」
冷静にファラは伝えた。
「ハー・・・。そういうことね。まったく、あの人の策士ぶりには、あきれさせられるわ。自分以外に監視役をつけるこということね。まったく、」
ティアラの思惑を知り、ため息をユーリルはついた。
「それにしても、ユーリル、あなた、腕を上げたわね。いつ、気付いたの。私達のこと。それに、背後をとるなんて。」ファラは、感心したように言った。
「さっきよ。あなたたちも、もっと、修行積んだほうがいいわよ。当分、つぎのマスターになるのは、かかりそうね。」皮肉たっぷりにユーリルは言った。
「うーん、ユー姉、とりあえず、この銃おろしてくれない。理由はわかったのだから。」
後ろむきで甘えた目でカテジナは訴えた。
「わかったわ。まあ、監視役ならしょうがないわ。とりあえず、このままコソコソされるのは、嫌だから、ジントに紹介しておくわ。」
そういって、二人をつれて、ユーリルは、ジントに状況を説明した。
「こっちの、背の低い方が、ラシューフ・ウェフ=ミセア・カテジナ、スキールマスターの娘ね。それで、こっちの大きいのが、キュール・ボルジュ=クリテース・ファラ、バルグゼーデマスターの娘よ。どっちも、まあ、私から見れば、まだまだのレベルだけどね」
そういって、明らかに機嫌が悪そうに二人をユーリルは、ジントに紹介した。
「・・・・・リン ・スユーヌ・ロク・ハイド伯爵・ジントです。」苦笑いの表情でジントは言った。
「・・・え。・・・・・まさか貴方があの・・・・。」ファラもカテジナもジントの名前を聞いたとたん多少の動揺が隠せなかった。
「とある地上世界で王女殿下と愛の逃避行したっていう、地上人の貴族・・・。」とファラ。
その言葉を聞いたとたんますます機嫌が悪くなるユーリル。その表情を見て泣き笑いともとれる表情をするジント。
「ということは、ユー姉と王女殿下に二股かけているの。もう、許せない。ハイド伯爵閣下、私と勝負よ。」
いつのまにか、特殊合金の槍を持ち出すカテジナ
だが、その行動をとった瞬間、周りの空気とユーリルの表情が一変した。
「誰と誰が勝負するの?カテジナ、その槍で何をする気?もし、ジントにカスリ傷一つ、つけてみなさい。あなた、死よりも恐ろしいものみせてやるわ」
その表情は凄惨な残虐性を秘めた美しさだった。
「ごめん。ユー姉、もう、そんなことしないよ。だから、怒らないで、お願いだから」
その表情を見て、カテジナは、涙目でおびえていた。
「怒った表情もステキ……ポッ」となぜか、顔を赤らめるファラ
「あなたたち、私はジントに王女殿下がいることはしっているわ。でも、あえて、その苦難を乗り越えて、二人は、愛をかちとるのよ。それに、もう一つ言っておくわ。私は、異性愛主義者なの。あなたたちの性的倒錯の趣味に付き合うきわないわ。」
きっぱりと、拒否するユーリル
「えーん、ユー姉、男なんて駄目だよ。やっぱり、私のようにかわいくて、頭が良くて、性格良くて、おまけにユー姉さまのことをこれほど、愛している人は、いないよ。」
再び、カテジナは、涙ぐんだ。
「私も、ユーリルが好き。」そういって顔を赤らめて自分をファラは指差した。
「(ユーリル……て、こっち(百合系)のアーヴ少女にもてるんだね。アハハ)」そのやりとりにジントは苦笑するしかなかった。
「・・・・・はぁ・・・。」ジントとユーリルは心の奥底からため息をついた。
『・・・一体何なんだろう、この状況は・・・。』ジントとユーリルの真後ろには殺気立った視線でジントを睨むファラとカテジナの姿を見て居心地悪そうに身をすくめた。
『・・・・・せっかくジントと二人きりでデートするはずだったのに・・・。』デートをぶち壊されて不機嫌になるユーリル。
『ユー姉(ユーリル)とこの男がいい不囲気なんか絶対にさせないんだから・・・!』と決意を新たにするファラとカテジナ。
その背後を一瞥してますます嘆息するジントとただでさえ機嫌が悪いのにますます不機嫌になるユーリル。
こうした異様な不囲気に囲まれて園内を歩いていた4人はふとある店に目が留まった。
看板に『らむーる・あん・ぷらーじゅ』と書かれていたアクセサリー店だった。
「いらっしゃいませ。」と四人に挨拶する地上人の店員。
「ねぇ・・ユーリル、動物園にアクセサリー店があるの?」店の中に入って珍しそうに見るジント。
「うん。ここのアクセサリーはこの園内では結構有名なのよ。特にこの十字架のチョーカーと十字架のペンダントはね。何でもそれを付けると恋がかなうらしいわ。店の名前がノヴ・ラテン語の基礎となった言語から来たからね。確か・・・。」と頬を少し赤くなりながらも考えるユーリル。
「ああ・・思い出しわ。『流れる愛』よ。・・・」と手をたたくユーリル。
「ねぇ・・・ジント・・。これって、私たちにふさわしいと思わない?」と、うっとりとした目でジントを見るユーリル。
「え・・・ええっ!」と赤くなるジント。いくら鈍いジントでも、これはわかっていた。
「な・・・・・何よ、あれ・・・・。私のゆー姉にぃ・・・・・っ!!」ジントとユーリルの間に流れる不因気に怒りのあまり言葉に詰まるカテジナ。
「・・・・・落ち着きなさいよカテジナ・・。」怒り狂ったカテジナの前に頭痛をこらえるファラ。だが彼女はファラのつぶやきを聞いていなかった。怒りの表情のまま二人の下に向かうカテジナ。それを見てファラは青ざめた。「って・・。ちょっとどこいくのよ!やめなさいよ!ここで槍をだすの・・・・!」
次の瞬間、ユーリルの表情に変化が訪れた。
先ほどまでジントに見せた恍惚な表情は消え『アーヴの微笑』の表情を浮かべカテジナに向ける。
それを見てカテジナはもちろんファラもジントも青ざめた。
「あ・・・・・。ユ・・・・・ユー姉・・・・・。」恐怖のあまり涙を浮かべるカテジナ。
「カテジナ・・・・・。ちょっと来なさい。」『アーヴの微笑』を浮かべたままユーリル。
そういって店を出て行くユーリルとカテジナ。
店にはジントとファラが残った。
「・・・・・あー。こ・・こわかったぁ・・・。」と安堵のため息をつくジントとファラ。
少しの沈黙。
「あ・・・えーと・・。」とジント。だが、何から話せばいいかわからない。
「ファラでいいわ。その代わり私も貴方をジントって呼びたい。」とファラ。
「そう言ってくれると助かるよ。」と少し安心するジント。「伯爵閣下は余り慣れてなくて。」
「変わっているわね。貴方って。ヘルマスターの言った通りだわ。」そう言って苦笑した笑みを浮かべるファラ。
「へぇー、ダリシュをしっているのかい?」
「ええ、もちろんよ。彼は史上最強で最高のヘルマスター、カテジナも含めて私達にとって、雲どころから成層圏を通り越して、はるか宇宙の星のような存在よ。その能力の高さを評してのことだけど。」
「そうなのかい?でも、実感はあまり、わかないな。僕と一緒にいるときは、いつものん気そうだし、ディアーホ・・・・これは、僕の猫だけど、それをかまっているときの雰囲気なんて本当にのんびりしているよ。」
「まあ、基本的には優しくて穏やかだけど、任務のときは、厳しいわ。そのおかげで、助かった仲間は何人もいるのだけどね。彼と初めてあったときは、本当に恐怖したわ。だって、私の父と模擬戦をしたのだけど、当時、私にとって雲のような圧倒的な強さを持った父が、14歳の少年に素手で叩きのめされた。本当に震えたわ。」
当時を思い出して、おびえた表情を浮かべるファラ
「そうなんだ。僕には、すごいと思うけど、怖いと思ったことは一度も無いけどね。」
「そう・・・・・・だから、ジントはヘルマスターの親友になれたのね。」
その発言で何か思うファラ
『・・・・・もしかしたら、ユーリルもそういう魅力に惹かれたかも・・・。でも、軽々しく断定出来ないわね。』考え込んだ後、ファラは思い切った表情でジントを見る。
「ねぇ・・・ジント、話し変わるけど、貴方ユーリルの事どう思っているわけ?」
「え・・・うーん。ダリシュの妹ってしか見てないけど・・。こっちも聞くけど君はユーリルの事どうおもっているの?」と気おされながらもジントは言った。
「私は確かにユーリルの事が好き。・・・でも、カテジナの様な『好き』じゃないわ。」
そういってファラは自嘲的な笑みを浮かべた
「・・・・ユーリルがいなかったら今頃私は生きていなかったわ・・・・。」
「・・・・・え・・。」突然の発言に驚くジント。
「・・・それって、どういう・・」
「あのときの事は今にも忘れられない・・・。」
「・・・〈サタン戦役〉・・。私とカテジナが『青の牙』に入隊して初めて任務が付いた戦いだったわ・・・。」
「〈サタン戦役〉・・・」
「そう・・・。思考結晶体〈サタン〉が起こした反乱のことよ。機密に触れるから詳しくは話せないけど・・。」
「・・・・じゃぁ・・。君達やユーリルもその戦いに・・。」
「私達だけじゃないわ。ダリシュ様や当時ヘルマスターだったハーデス様をはじめ『青の牙』ほぼ全員と〈闇の狩人〉も参加していたわ・・・。」
「・・・・・ダリシュとハーデスさんと大喬さんと小喬さんもこの戦いに・・・・・。」
「・・・ええ。」そう言って暗い表情をするファラ。
「・・・・この戦いで多くの仲間が死んだ・・・。父もその戦いで・・・。でも・・、ダリシュ様がいなかったら、帝国は間違いなく滅んでいたわ・・。」
「・・・・・ダリシュが・・・・。」ファラの言葉が信じられず呆然とするジント。
「・・・ええ・・・。私はユーリルに助けられ、再生槽のなかに眠っていた時には反乱自体が終結していたわ。病院で目が覚めて、カテジナに話をきいた時は信じられなかったわ・・・。」
怯えた様にファラは言った。
「・・・・・・・・。」
ジントはもう言葉が出なかった。
ジントとファラがそんなやり取りをしていると、カテジナが涙目でお尻をさすりながら帰ってきた。
「さあ、ジント、カテジナとは話がついたわ。監視はするけど、二人の雰囲気は壊さないといっていたわ。だから、安心してね。」
「えーん、ファラ、ユー姉がいじめるよー。こんなに私は愛しているのに。」
「自業自得よ。それに、カテジナ、ジントは、ヘルマスターの親友だって、あなた、ジントに危害を与えると、そっちの方が怖いかもよ。」
「え・・・・・、あの怪物ダリシュと親友・・・・・あわわ。ハイド伯爵閣下、もう、2度としませんので、今回のことは、ダリシュには、いわないで・・・あはは」
急にあわてたように誤魔化すカテジナであった。
「ところで、ファラなんで、ジントというの?ハイド伯爵閣下でしょう。宮中序列の礼儀をわきまえれば、」ユーリルは、少し不満そうに言った。
「ジントがその方がいいっていったの。別にいいんじゃない。ユーリルも、言っているのだし。」
さらっと言い返すファラ
「それもそうね。あなたの場合、心配はないから、別にいいわ。他意はないみたいだしね。」
「・・・・・・そうか、ほっとしたよ。(でも、どうして、彼女は大丈夫なんだろう?僕を名前を呼ぶのは)」ジントは心の中でふと疑問を抱いた。
それを、思ったジントの考えを見透かすようにユーリルはジントに向かっていった。
「ファラは、根っからの同性愛者だからよ。彼女の主義が変るとは思えないわ。ジント」
そういって、ユーリルは悪戯っ子の笑みをむけた。
「あははは・・・。そう・・・。」ジントはもう笑うしかなかった。
だが、二人は気づいていなかった。
ファラのジントを見る表情にかすかな変化があったことに。
こうして、四人はアクセサリーを買って店を出た。
ユーリルには十字架のチョーカーをジントは十字架のペンダントを二人にはピアスを買った。
だが、二人の顔色が優れなかった。
ユーリルは不機嫌を顔に張り付いた表情で歩いている。
『せっかくジントと二人っきりでアクセサリーをみてまわるはずだったのぃーっ!』
どうやら、デートをぶち壊されたことをよほど根に持っているらしかった。
『うぅー。・・・ユー姉がこわいよぉー・・』
カテジナは今のユーリルの表情と先程のことを思い出して涙目になっている。
一方、ジントは考え事をしていた。
『まず、ファラのユーリルに対する想い・・。あれは多分精神的なものだろうな。でも、気持ちがわかる気がするな。命を賭けてまで助けてくれたなら・・・。』
ファラはというと、
『・・・私、どうして<あのこと>をジントに話したんだろう・・。親とカテジナしか話したことないのに・・・。でも・・。』
ファラはジントを見て誰にも聞こえないように小声で言った。
「(・・・・ジントか・・・。)」
ファラは気付いていなかった。初めて異性を意識してしまったことに。
ファラの視線に気づかないジント。
『それと、ファラの言っていた〈サタン事変〉・・・。でもどうしてだろう・・。過去の出来事のはずなのに、何か不吉な予感がするのは・・・。』
後にジントの不吉な予感は当たることになる。
それも、そう遠くない未来に起こる〈サタン事変〉匹敵する出来事が起こることを・・。
しかも、その原因がジント自身だということも。
こうして四人は異様な不因気のまま動物園を出た。
しかし彼らは気付いていなかった。怪しい影が四人を見つめていたことに。