「ねぇ、ダリシュ、ダリシュってば?」ぼーっとしているダリシュの方をゆするジント
「うん?ジントか。どうしたの?」
「どうしたって、授業が始まっているよ。ここ最近、一段とぼーっとしておかしいよ。何かあったのかい?」
「うーん、委員長のことばかり、考えて他のことが集中できないんだよ。いわゆる恋の病ってやつさ。彼女のことを考えると胸がしめつけられて、心臓がドキドキして、どうしようもないんだ。でも、片思いだから辛いよ。彼女と想人になれるこれにはどうしたらいいかと悩んでいるよ」苦悩の表情をするダリシュ
「そうなんだ…。(アーヴもウジウジと悩むんだ。新しい発見だ。でも、僕も初恋のあのときもこんな感じだったのかな)」
そして、その日の授業も終わり、ダリシュは寮に帰って、ジントはいつもの復習をやっていた。そこへ、クラスメートのアーヴ少女の二人がジントに声をかけた。
「リン訓練生、あのう、ちょっと聞きたいことがあるのですけど、いいですか?」クラスメート達はおおむねジントが伯爵公子閣下の称号を嫌がっていたのを知っていたのでこの名前で呼んでいた。ジントの名前で呼ぶのは、ダリシュと委員長のみだった。
「うん。いいけど、サリセーフ訓練生とエメレル訓練生、僕になにかようかい?」いつもは、挨拶以外ほとんど話しかけない二人が声をかけたことを不思議がるジント
「うん。えーっと、ダリシュ君についてなんだけど、彼は好きな人がいるのかなって思って。何だか、最近の様子がちょっとおかしいから」エメレル
「そうなんです。ダリシュ君がおかしいのは、恋愛中だとみんなが噂しているので、仲の良いリン訓練生ならわかると思って聞いてみました。」サリセーフ
「うん、確かに彼は恋愛中だよ。でも、片思いみたいだ。」二人の熱意にしかたなくこたえるジント
「え、誰なんです。彼が好きな人は?」二人とも思わず熱がこもる。
「え、委員長だけど、彼女はダリシュに対してはそんな感情はないみたいだよ。」
「えー、そうなんですか。がっかりです。」落ち込むサリセーフ
「嘘でしょ。私ではないの?」泣き出すエメレル
「どうしだんだい?あのう、僕が悪いことしたのかい?」突然の状況に動揺するジント
「私達、二人ともダリシュ君が好きなのです。というか、クラスのほとんどの女子がダリシュ君に惚れていて、彼の様子がおかしいので、思い切って、聞いてみようという話になって、それでリン訓練生に聞こうと思ったのです。でも、残念な結果でした。」サリセーフ
「あのう、なぜ、彼がもてるのかききたいな。僕の感覚からすると色男というイメージはないけど。」この点がきになるジント
「彼は、抑制機能がある頭環をつけて生活を送っているのですよ。こんな苦しい状況なのにいつも落着いていて、しかも誰隔てなく優しいです。それに普通のアーヴとは、違う感性が魅力的です。何より、地上世界出身の貴族と一緒に暮らせること自体、相当の寛容さです。リン訓練生あなたが、アーヴ貴族として非常識なことをして、私達に不快な印象を与えたときも、私達に対して謝ったりして、影で彼がフォローしてくれたのです。そういうところがすごく素敵です。」サリセーフ
「そうなんだ。気付かなかったな。ところで、ダリシュには君達が好きだということは伝えたほうがいいのかい?」
「いえ、ダリシュ君の気持ちがわかったので、いいです。それでは、さようなら」落ち込んだ様子で帰っていく二人
「(ふー、ダリシュがもてるなんて、意外だったな。でも、僕はなんだか非常に危険な立場に立っている気がするな。もし、ダリシュと委員長が想人になったとして、僕が協力したなんてみんなに知られたらどうなることやら。どうやらラフィールがいった忠告が現実的になってきた気がする)」ひとり、ぶつぶつ言いながら帰るジント
ジントが寮の部屋に入ろうとしたとき、一人の金色の瞳をしたアーヴ少女が部屋の前に立って、クリューノで話していた。
(あれ、誰だろう。見かけない子だな、もしかして、ダリシュの知り合いかな)」
そして、ジントがその少女に声をかけようとしたとき、ダリシュが部屋からでてきた。
「ユーリル、部屋を片付けたから、入っていいよ。でも、あまりものに触るなよ。ハイド伯爵公子閣下の私物もあるんだからな。」その少女を部屋に招くダリシュ
「ダリシュ、その子は誰なのかな。教えてくれないかな。」と気付いていない様子なので声をかけるジント
「あ、ジント、帰っていたのか。まぁ、詳しい説明はなかでするから。」
そして、3人は部屋に入った。
「彼女は僕の妹のユーリルだ。よろしくな。たぶん、今日だけではなくて、何回もここに遊びに来るつもりだから、一応、紹介しておくよ。」ジントに紹介するダリシュ
「ええーっと、僕はリン・スーニュ=ロク・ハイド伯爵公子・ジントです。よろしく。」とあいまいな笑顔をむけるジント
でも、ユーリルはジントに見向きもしないで、ダリシュの方をじっと見ていた。
「兄さん、会いたかったわ。ここ半年間、本当に会えなくて、さびしかった。やっぱり、私も一緒に主計修技館に入れば良かったわ。だって、愛する人の側にいれないことがこんなに辛いことなんてわからなかったから。」といって、ダリシュに抱きつくユーリル
「(これって、もしかしてダリシュにほれているとことか?いわゆる地上世界的には禁じられた兄妹愛かな)」自分が無視されたことなんて気付かずとまどうジント
「ごめん、ユーリル。君の気持ちはわかっているけど、僕にはすでに好きな人が居るんだ。
」意を決して委員長のことを話すダリシュ
「う、嘘でしょ。そんな…。ねぇ、嘘だといって。だって、前にあったときには想人は誰もいなかったわ。」金色の瞳にはめいいっぱいの涙が浮かんでいた。
「嘘じゃないよ。これは事実さ。この修技館である女性にほれたんだ。ユーリルが来たとき、直接、このことを言おう決めていたんだ。」
「いったい、誰なの?兄さんの心を奪った女狐は。」その金色の瞳には嫉妬と悲しみが浮かんでいた。
「教えない。ユーリルの性格を考えると、その方が賢明だとわかっているから。ユーリル、君はこの事実をうけとめてくれよ。そして、僕をあきらめるんだ。その方が君にとっては幸せだ」説得にかかるダリシュ
「嫌よ。絶対あきらめない。だって、私・私。ずーっと兄さんのことが…・」もう完全に涙がとまらなくなり、最後のほうは声がでなくなっていた。
そして、そのまま泣きながら彼女は出ていった。
ジントは、あまりの修羅場に声を失っていた。
「あのう、事情は少ししかわからないけど、彼女をとめにいかなくてもいいの。一応、妹なんだし」とりあえず、ダリシュに声をかけるジント
「いや、いいんだ。ジント、驚かせて悪かったな。まぁ、色々と家庭の事情があってね。彼女もこれで僕のことをあきらめてくれればいんだが…。そうだ、ジント、もし、彼女が委員長に関して君に探りをいれてきたら、なるべく情報を与えないようにしてくれないか。それと、僕をあきらめるようにとも説得してくれないか。」また無理何題を頼むダリシュ
「え、えーっと。とりあえず。努力するよ。でも、君も大変だね。ならあんな状況になったら、困るよ。」とダリシュに同情するジント
「まぁ、いつか、こうなることはわかっていた。僕は彼女を妹としか見ていなかったし、想人ができたら、ちゃんとこのことを言おうと決めていたからね。それより、ジント、委員長と僕は未だに友達という立場だが、これ以上に進展する何か策はないかな?僕は日常のほとんどをそれに費やして考え込んでいるのだけど、なかなか良い案がでないんだ。ジントも一緒に考えてくれないか。」
,「うーん、難しいな。そうだ、こんな案はどうかな?男と女が危機的状況に陥ったとき、そこで助け合うことで、愛が芽生えるときいたことがある。」ふとデルクトゥー時代の三流ドラマを思い出すジント
「え、そうなのか。うーん…・」しばらく考え込むダリシュ
「まぁ、実際にそんな場面なんてめったに無い話だけどね。まぁ、戯言だと思って流してくれればいいよ。」
「うん、ジント、その案でいこう。少し考えたけど、あと3ヶ月後に宇宙にでて救命艇を使う緊急避難訓練の実技訓練がある。そのとき、ちょっと、細工をしてジントのいう危機的状況を作ろうかなと思う。ジント、さすがだ。僕にはとうてい思いつかない案だよ。」すっかり、その気のダリシュ
「ダリシュ、あのう。やめた方がいいと思うよ。そんなことをして、教官にばれたら、どうなるか?それに、危機的状況するということは、失敗したら命に左右することじゃないか。」冗談のつもりで言ったことが危ない方向にいっていると感じるジント
「ジント、大丈夫だよ。あくまでも危機的状況を作り出すだけであって、安全処置も色々考えて、細工するよ。まぁ、僕に任しといてくれよ。あと3ヶ月後が楽しみだ。そのときは、全力をだすよ。この制御機能の頭環も普通に戻してね。」
「そうなのかい。まぁ、君がそこまで決意しているならとめることはできないな。でも、無理しないでほしい。」
後にジントのこの案が例の事件へと発展することはまだ、本人は気付いていなかった。