こうして、ダリシュとジントはお酒を飲みながら語っていた。
「ジント、実は言うと、家の決まりで親友と想人以外は、『青の牙』やキルヒム家の家業について話してはいけなかったんだ。だから、君にも委員長にも詳しいことは今まで話していなかったんだ。でも、君と親友になったおかげで、堂々と僕自信のことを話せて嬉しいよ。」林檎酒片手にしんみり語るダリシュ
「そうなんだ。…僕もアーヴの中で親友ができると思っていなかったし、君と出会えて嬉しいよ。」少し顔を赤くして恥ずかしそうに言うジント
「王女殿下に出会ったことよりもかい?」「え…。それは…。」
「冗談だよ。君と王女殿下の出会いは、君をアーヴ貴族であることを決めさせたほどの出会いだから、それがどれほど重要か。わかっているつもりさ。ジントが王女殿下をどれほど想っている事もね。」優しい笑顔で答えるダリシュ
「…そうなんだ。まぁ、ラフィールとの関係は、自分の中でこれからだと思っているから、どうなるかわからないよ。」ちょっと、困った表情をするジント
「まぁ、その話は今度聞くよ。ところで、ジント、このキルヒム家の歴史を話すよ。まぁ、少し長くなるかもしれないけど、ジントには知っておいてもらいたいからな。」
「うん、わかったよ。じゃぁ、聞かせてくれよ。」興味深々な表情のジント
「僕の一族のシュリル一族のもとは、根源士族のカリュー一族から生まれたものなんだ。そして、帝国が成立してから200年くらいしたときに、色々な貴族や士族が家や一族の紋章を作り出していたので、それを帝国で公的に管理しようという動きがでたんだ。それで元々、記録を担当していたカリュー一族とその親戚のシュリル一族が各貴族や士族の家の紋章を管理する機関を作ることになったのさ。」一息入れるために林檎酒を少し飲むダリシュ
「それから、どうなんだい?」さらに興味を持つジント
「そのときは、単に貴族や士族の紋章を記録するためだけの機関を作ろうという話だったのだけど、シュリル一族きっての天才がこれに秘密警察的な要素を取り入れようと主張した人がいたのさ。それが、我が家の始祖と『青の牙』の創設者であるシュリル・ウェフ=ハリス・キルヒムさ。当時はかなり反対されたみたいだけど、皇帝陛下に直談判してまで、この話をとりつけたみたいだ。」
「なんだか、凄い話になってきたね。でも、いち士族が皇帝陛下に頼めることなんてできるの?」その辺りに疑問を持つジント
「彼は、天才だったのさ。特に情報に関しては。他にもアーヴの思考結晶技術の進歩にかなりの貢献をした人物でもあったのさ。だから、一族のものも彼の意見を無視できなかったということになった。もっとも、その秘密警察的な部分に関しての資金は彼が交易で上げた利益だけで、行っていたので、他の一族のものも納得したのさ。まぁ、交易者としてもかなりの人物だったみたいだ。それで、そのとき、彼は8人の子供を育てて、それを『青の牙』の後継者の家にしたのさ。その8人のうち7人はシュリル一族の氏姓もキルヒム家も変えて、しかも家徴も家風まったく変えさせて、自分の一族との共通性をなくしたんだ。」
「どうして、そんなことをしたんだい?」鈍いジント
「もちろん、この仕事が家業だから。僕達の家業はいかに相手にばれないことが重要だから。一族の共通性なんてまっさきに調べられる対象となるからだと思うよ。それと、8人にしたのは、帝国の八王国をそれぞれの家の担当区域にするためだろう。いっておくけど、『青の牙』は星界軍の情報局なんかよりはるかに歴史も古く優秀だ。これも始祖キルヒムのおかげだと思うよ。」
「ねぇ、ダリシュ、君の家の創設話はわかったけど、ちょっと、気になることがあるんだ。確かに、紋章院は重要な機関かもしれないけど、どうしてキルヒム家は、帝国において情報収集の権限が皇帝陛下と同義なんだい?」さっきの話で一番気になることを聞くジント
「それは、始祖キルヒムが帝国を救ったからさ。これは、帝国において超極秘事項だけど、ジントには、教えるよ。帝国暦300年に起きたゾハル戦役、当時、帝国の10倍の戦力を持っていたゾハル神国との戦争さ。このとき、キルヒムは、たった一人で帝国を救ったのさ」驚くべき事実をつげるダリシュ
「え、確か、その戦争は、委員長に講義をうけたとき、ラクファカールにあと一歩まで、攻め込まれて、皇帝と皇太子も戦死して、かなり危機的な状況の戦争だったよね。でも、あのときは、敵が戦争途中で身内もめをして、それを星界軍がついて勝利した戦争だったよね。」委員長の講義を思い出すジント
「よくわかっているな。そうだよ。歴史上ではそういう記録になっているが真実は違う。当時、齢100歳を越えるキルヒムがたった一人で戦争を終わらせたのさ。自分の命とひきかえにね。」
「でも、たった一人でどうやって、帝国の10倍の戦力もある敵にかったんだい?信じられないよ。」
「ジント、確かにそう思うけど、彼はやってのけたのさ。自分の知恵を使って。彼はある特殊な思考結晶ウィルスを使ったのさ。これに感染した敵の戦艦の思考結晶は敵・味方識別信号の味方の艦にぶつかるように設定されたのさ。アーヴ以外の人類は船の操作を思考結晶にゆだねていたからこの作戦が成功したんだ。でも、彼は成功率を高めるために旗艦に一人で乗りこんで、そこから泡間通信で周りの船をどんどん汚染させて、ゾハル神国の艦隊は大混乱に陥りそこを星界軍がせめたのさ。はっきりいって、こんな芸当ができるのは、当時の帝国には彼しかいなかったのさ。そして、彼がそのときの暫定皇帝に要求した褒美が自分の家の後継者に情報に関する権限を皇帝陛下と同義にするということだったんだ。」次々と驚くべき真実を話すダリシュ
「ふーん、すごいんだね。『天才』といわれるのがわかった気がするよ。」
「帝国を裏から支えているのは我々だと自負しているからね。ジントも自分ができる範囲でアーヴ貴族として頑張れよ。じゃあ、僕はそろそろ寝るから。おやすみ。」眠気が出てきたので話を終わらせるダリシュ
「わかったよ。とりあえず、自分の部屋で今の話を頭の中で整理して、寝るよ。じゃぁ、ダリシュ、おやすみ。」とにかく、すごい秘密を知ったなと実感するジントであった。
キルヒム家の1日は特殊工作員となるための訓練であけくれていた。ダリシュとユーリルは1日の中で基礎体力訓練、銃訓練、格闘術訓練、地上世界の文化、語学講義、情報分析術の講義など、朝から晩までハードな訓練が続いた。ジントもダリシュの誘いで少しやってみたが、最初の基礎体力訓練で自分には無理だと判断してあとは眺めているだけだった。
その日の夕食
「ダリシュ、ユーリル、君達本当にすごいよ。こんな厳しい訓練をやりつづけているなんて、信じられないよ。主計修技館の訓練よりはるかにきついよ。でも、僕にはとても無理だよ。」
「ジントは意外に体力無いんだな。もっと、地上人は体力あると思ったよ。なら、ジント頭を使う情報分析術の講義や地上世界の文化や語学講義に一緒に参加しないか。これだったら、大丈夫だろう。今後の役に立つと思うよ。そうだ、ジント。ハイド伯国のマルティーニュについて教えてくれよ。ついでにマーティン語も学びたいしな。」ほとんど疲れた色も見せずにいつもの調子で言うダリシュ
「うーん。まぁ、いいけど。そんなに大した講義できないよ。どっちかというとヴォーラシュ伯国のデルクトゥーの方が思い出深いし、そっちのほうが詳しい話はできるよ。」一応はダリシュの提案をうけるジント
「まぁ、ヴォーラシュ伯国はいったことあるので、僕は別にいいよ。そうだ、そっちはユーリルに教えてくれよ。彼女はその地上世界にはいったことないし、いいと思うよ。その時間は、僕は他の訓練しているよ。それで、いいよな。ユーリル」ユーリルに話をふるダリシュ
「うん、いいわよ。私もハイド伯国の言葉や文化の講義を受けるからね。ジント、よろしくね。」
こうして、ジントは、二人にハイド伯国とヴォーラシュ伯国の文化や語学を教えて、自分の経験談も混ぜて、楽しいながらも真剣に講義した。そして、ジントがキルヒム家の館に居候して、ユーリルの飛翔科修技館の祝宴にも参加し、ダリシュがキルヒム家が後継ぎの試練を突破して、キルヒム家の家長と『青の牙』の長になったことも見届けて、1ヶ月が過ぎた。
,「ジント、君がここに住んでから1ヶ月が過ぎたな。もう、明日から主計修技館で2年目になるけど、一緒に頑張ろうな。」
「うん、わかったよ。ダリシュ。これからもよろしく頼むよ。僕もアーヴの士族の生活を特殊なものながら体験したので良い経験になったよ。」
「ジント、私も明日から飛翔科修技館暮らしだけど、距離は交通艇で1時間くらいだから、休みのときは遊びに行くからね。そのときは、よろしく。」