その日、雁夜は普段通り、フリーランスのジャーナリストとして記事を書くための取材をするべく、アフリカのとある紛争地域に来ていた。
取材地に向かう道中、雁夜は自身の過去を振り返る。
中卒程度の学歴で、かつ身元保証人となってくれる親族もいない自分が生計を立てていけるだけの金を稼ぐためには、ある程度のリスクを負う必要がある。
そんな理由から、始めた戦場ジャーナリストとしての仕事にも、やり始めて数年経った今では慣れたし、もはや好きになったと言っても良いだろう。
もちろん、仕事中に危険な目に遭わなかったワケではない。むしろ、数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきたと言って良いだろう。
そんな修羅場を雁夜が潜り抜けてこれたのは、自身の愛車であるZundappKSの軍用バイクと、戦場ジャーナリストとしての仕事を始めて、最初の現場に向かう前日にある男から譲り受けたルガーP08のアーティラリーモデルとモーゼルC96の二丁拳銃によるところが大きいだろう。また、最初はデザインかと思いあまり気にしていなかったが、二丁拳銃に狼のルーンが刻まれているということを知って以来、それも自身の生存に役立っていると個人的には思っている。
また、戦場ジャーナリストとしての仕事をする上で致し方ないことではあるが、殺しも経験した。やはり紛争地域のテロリスト集団にとってみれば外国人人質は喉から手が出るほど欲しいのであり、雁夜も幾度となくターゲットとされた。よりタチが悪いのは、敵と誤認して発砲してくる輩であった。そんな輩達から自身の身を守るためには、殺しをせざるを得なかった。もはや何人殺したか数えていない。並みの兵士の何倍もの人数を手にかけただろう。
今となっては、雁夜は殺しを手段として用いるようにすらなった。そう、他のジャーナリストが手に入れることのできない情報を手に入れるためには、多少、手を汚すことも必要なのだ。
そんな事情から殺しを重ねていくうちに、それに対する抵抗心も薄れていった。現に、今となっては殺しに対する抵抗心は皆無と言って良いだろう。
いつの間にやらそんな冷徹な人間に自分がなってしまったということを感じながら、雁夜は考える。「あの男」は何者であったのかと。
無論、「あの男」とは雁夜に狼のルーンが刻印されたルガーP08のアーティラリーモデルとモーゼルC96の二丁拳銃を譲渡した男のことである。確かに二丁拳銃は役に立っているが、狼のルーンが刻印されている時点で通常のものでないことは明白極まりない。しかも、そもそも今の戦場ジャーナリストとしての仕事を始めたのもあの男の紹介によるものである。
さらに気になるのは彼が別れ際に言っていた
「いずれわかるだろう。」
という言葉の意味である。
雁夜には未だに何がわかるのかすらわからないし、なぜあの男がわかるのかもわからない。
雁夜が目的地へあと少しで到着するという所まで来た所で、突然、背後から銃声が聞こえた。
…おかしいな、ここらで戦闘?
そう思うのも無理はない、雁夜が現在いるのは反政府ゲリラの拠点からさほど遠くない場所なのだから。
雁夜の予想は正しかった。
が、それは同時に雁夜にとっては好ましくない状況を意味した。
…クソッ、嵌められたか。
そう、先ほどの銃弾は明らかに自分の方に向かって来ているである。それに加え、何発もの銃弾が続いて発砲されている。
嵌められたことは実に不快ではあるものの、戦場ジャーナリストの仕事には付き物と言ってよい。ゆえに雁夜はそれ自体については深く考えず、ガンホールダーからルガーP08のアーティラリーモデルとモーゼルC96の二丁拳銃を取り出し、銃弾が向かってきた方向に向かい発砲する。
二丁の拳銃から発砲された銃弾は、敵がいると思われる地点に向かい真っ直ぐに飛んで行く。その数秒後、それほど離れていない場所から悲鳴が聞こえ、こちらに飛んでくる銃弾も少なくなったので、恐らくは敵の内の何人かに当たったのであろう。その結果は雁夜に幾分かの安堵をもたらした。
しかし、まだ安全というわけではない。現に敵からの銃撃は未だに続いているし、後ろから追って来ている敵もいる。ゆえに雁夜は、銃撃を止めない。敵を抹殺するまで、攻撃の手を緩めるわけにはいかないのだ。
そのまま雁夜が攻撃を続けつつも、逃走ルートを探すべく前方にバイクを走らせていくと、前方に反政府ゲリラの拠点とみられる都市が見えてきた。
…クソッ、よりによってこのタイミングで
そう、全方に見える都市に突入すれば、自分が逃げ切るのほぼ100パーセント不可能。しかし敵に追われており、前に進む以外、雁夜には道がない。
もう諦めるしかないのか…
雁夜がそう思ったときのことだった、愛車であるZundappKSの軍用バイクが普段とは全く異なる乗り心地になったのは
第2話です
更新遅くて大変申し訳ございません。
最近、結構忙しくなってしまったもんで…
今回も読んでくださり、ありがとうございました。