この素晴らしい世界に安寧を!   作:阿良良木歴

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この失態に絶叫を!

ヌメヌメと黒焦げを銭湯へとぶち込み、1人ギルドへと向かう。せめて落ち着いて食事でもして気分をリセットしたい。昼過ぎだから混んでるとは思うが、端かカウンターが空いてれば多少落ち着けるだろ。そう思い扉を開けると、

 

「花鳥風月!」

 

「「「うおぉぉー!!」」」

 

「……」

 

落ち着きも静けさもない盛り上がりを見せていた。元凶は駄女神。後でカズマにアイツを殴る許可を貰おう。幸いカウンター席は空いてるし、気付かれないように席に着き肉料理を注文する。

 

「あ、ユウマではないですか。遅い朝食ですね」

 

「ちげぇよ、早朝からクエスト行ってきたんだ。まあ朝飯食ってないのはあってるけどな」

 

駄女神に気を取られ、座った席の隣がめぐみんだと気づかなかった。まあ名前と厨ニ病、それに爆裂魔法しか打てない事を抜けば常識人に近い奴だし大丈夫か。

 

「……何故でしょう、喧嘩を売られた気分です」

 

「気のせいだろ。そういえばカズマは?」

 

変にカンが鋭いな、コイツ。

 

「カズマは今、盗賊スキルを覚えに行っているのです」

 

「へぇ。スキルってどうやれば覚えるんだ?」

 

「誰かにスキルを見せてもらって、それをスキルポイントを使って修得します。同じ職業じゃなくても素質さえあれば覚えることも出来るのです」

 

「ふぅん。じゃあここに出てるのは全部修得出来るんだな?」

 

「見せてください。……確かに大丈夫です。それにしても、武士なんて職業あまり見ないですね」

 

「そうなのか。まあぶっちゃけ職業なんて何でも大丈夫だろ」

 

「あ、いえ。武士自体は結構誰でもなれるのです。ただ、武士専用スキルが刀でしか使えず、このあたりの武器屋では扱ってないのです」

 

「……は?」

 

「おまけに一応は上級職の部類の割には完全にソードマスターの下位互換ですし、進んでなる人はあまりいないかと」

 

「……」

 

ま、まあなんとかなる!

 

 

***

 

 

「お、ユウマじゃないか」

 

「ようカズマ。盗賊スキル覚えたんだ……って?」

 

にこやかにこちらに歩いてくるカズマとは対照的に、しゃくり上げながら歩く銀髪の盗賊女性。さらにその横には昨日の危険な美人さんが恍惚とした表情でついてきていた。

 

「そっちのお二人さんはどったの?」

 

「ん?ああ、この2人はーー」

 

「彼女なら大丈夫だ。ただ単にパンツを剥ぎ取られ、有り金全部奪われただけだ」

 

場の空気が凍った気がした。

その後の説明でもカズマのやった事が事実である証明にしかならなかった。

 

カズマさん引くわー。

 

「それで、カズマは盗賊スキルを覚えられたのか?」

 

「え、ああ。まあ見てな。スティール!!」

 

気を取り直してそう聞くと、自信ありげにカズマが答えた。そのままスキル名を叫ぶと同時にカズマの突き出された右手が輝く。それが収まったが、特に財布も武器の正宗も健在だ。

 

「失敗か?」

 

「いや成功。だけど……なんだこれ?」

 

カズマが手にしていたのは三角形の黒い布だった。こんなもの、オレ持ってたっけかな?

 

「貸してくれ。……やっぱオレこんなの持ってないな」

 

「あ、ちょっとユウマ?」

 

ほのかに温もりを感じるそれを受け取り、様々な角度から見るが心当たりが無い。温かいし、もしかしてハンカチかなにかか??そういえばさっき黒い布が落ちていたのを拾ってワイシャツの胸ポケットに突っ込んだ記憶がある。そう思い、1度匂いを嗅いでみることにする。

 

「すうぅぅぅ」

 

「きゃぁあああっ!?」

 

「あぐぁ!?」

 

甘いミルクのような匂いの布を調べている途中、可愛らしい悲鳴とありえないくらいの鈍痛が後頭部を襲った。あ、やべ。痛みが強すぎて自然と涙が。

 

「なんなんですか!?冒険者から変態にジョブチェンジしたカズマもカズマですが、人のパンツの匂いを嗅ぐなんてユウマはカズマを越える変態だったんですか!」

 

「な、なんの話だ……」

 

「とぼけないでください!詠唱は以下略っ、"エクスプロー"ーー」

 

「わあぁっ、バカやめろ!!ここら一帯丸ごと更地にするつもりか!?」

 

「離してください!そいつ殺せないです!!」

 

焦った様子で羽交い締めにするカズマと暴れ回るめぐみん。混乱する意識の中、女性陣の酷く冷めた視線と男性陣の尊敬混じりのサムズアップが印象に残った。

 

 

***

 

 

「ユウマお待たせ~、って。なにしてるの?」

 

「日本人最大級の謝罪と誠意の心を示している」

 

土下座は日本の文化です。額をキッチリ地面に擦り付ける綺麗な土下座です。腹切りとかは流石に死にたくないので隠すことにする。

 

「許されないです……アレは絶対、許されないです」

 

赤い顔でブツブツと呟くめぐみん。オレの後頭部には痛いくらいに突き刺さる視線。正直、メッチャ怖いです。

 

でも女の子のパンツの形状なんて知らなかったんです!オレんち男ばっかだしぃ?母親いないしぃ?彼女もいないからそういう情報全くなかっただけなんです!!

 

「ま、まあ!アイツもあんだけ謝ってるんだし、そろそろ許してやっても良いだろ?」

 

「……そうですね、少し大人気なかったです。もう頭を上げてもーー」

 

「ねぇユウマ、日本人最大級の謝罪って腹切りじゃないっけ?ほら、自分で腹を切って他の人に首落としてもらうやつ」

 

「前言撤回です。腹切ってください。それがイヤなら後一時間はそうやっててください」

 

こんの駄天使がぁっ!?せっかく許してもらえそうだったのにぃ!怨念込めた視線を送ると、何を勘違いしたのか目を輝かせて腕を振り下ろす動作をし始めた。腹は切らねぇよ!!

 

「ふむ、謝罪ならこうした方がこちらの気も晴れるのではないか?」

 

「んぐっ!?」

 

頭上から降って湧いたタマモの声と共に頭の重さが増す。感触と目の前の足の本数から察するに、

 

「テメェ何踏んでやがるっ」

 

「文句あるのか、変態」

 

「ぐぬぬ!」

 

「ほれ、めぐみんもやると良い。愉悦じゃぞ?」

 

「さ、流石にちょっと躊躇うのです」

 

とか言いつつしっかり頭を踏み付けるな!周りの目とかちったァ気にしろ!!

 

「な、なんでしょう、何かに目覚めそうです」

 

「お主はなかなか素質があるのぅ。次はグリグリと踏みにじるのじゃ」

 

「い、いい加減にーー」

 

「匂いフェチ、ロリコン、パンツ愛好家。どれがお主の好みじゃ?」

 

「ぬ、がぁああ!」

 

結局、本当に1時間土下座させられた。

 

 

***

 

 

「それで昨日の美人さんがカズマの新しいパーティメンバー?」

 

「……まあそうだな」

 

何事も無かったかのように話し出すオレを胡乱げな目で見つめた後、渋々といった様子で肯定するカズマ。ああ、やっぱり問題児だったか。つかさっきから凄く妬ましい!といった表情で見られている。なぜ?

 

「コイツはダクネス。クルセイダーって上等な職についているが、ぶっちゃけただのドMだ」

 

「ただのドMの時点でおかしいが、納得した」

 

踏まれてるオレが羨ましかったのか、かなり重症だな。蔑み混じりの視線をダクネスに送ると視線を逸らされた。が、微妙に頬を赤くしてモジモジしている。……重症じゃなくて末期だったか。

 

「そういうユウマだってなんだかんだ、パーティメンバー揃ってるじゃないか」

 

「物理で殴るエレメンタルマスターに味方を攻撃するアークウィザード、擦り傷で致命傷のソードマスターがか?」

 

「……ごめん」

 

「謝るな、余計悲しくなる」

 

怒ってるんじゃない、悲しいんだよ。

 

「それで、なんでナナシはオレの後ろに隠れてるわけ?」

 

「ご、ごめんなさい。ただ……関わりたくない人が」

 

「だってさ、カズマ」

 

「なんでオレって決めつけた!?」

 

「だってパンツ剥ぎ取り魔じゃん」

 

「匂いフェチに言われたくねぇよ!」

 

「あ?」

 

「あ、ごめんなさい。怒んないで」

 

相変わらずヘタレ。

 

「おお!そこにいるのはタマモではないか!!」

 

「げ、ダクネス……」

 

「んだよ、お前ら知り合いか?」

 

凄い眉間に皺を寄せたタマモが嫌悪感丸出しで答える。

 

「う、うむ。1度だけ一緒のパーティに入った時があったのだが。正直、ドM過ぎて精神が崩壊するかと思った」

 

「なんでだよドSのお前とは相性良いだろ?」

 

「バカものっ!真のドSとは他のドSを屈服させることに快感を覚えるのじゃ!!」

 

「知らねぇよ」

 

むしろ相性が良いもので固まってくれよ。みんなの平和のために。

 

「じゃからお主やカズマは妾の標的じゃ。覚悟しておれ」

 

「カズマ、パーティメンバー交換しよう。めぐみんでいいから」

 

「おいこら!勝手に妾をいらない子にするでない!!」

 

「ユウマ、何故あなたが妥協した感じで私を選んだのか、小一時間問い詰めてもいいですか」

 

タマモが袖を引っ張りバランスを崩したのとめぐみんがオレに詰め寄ってきたのが同じタイミングで、後ろにいたナナシとめぐみんが初対面した。

 

「あ」

 

「あぅ」

 

今更感半端ないが、オレを盾にするように抱き着きまたも隠れる。にしても、だぶだぶのローブじゃわからなかったが……でかい。何がとは言わないけど。

 

「ひーしゃん……ひーしゃんではないですか!!」

 

「ひ、人違いですぅ!!」

 

おおぅ、力をもっと込めてくれ。そうすれば背中の幸せな感触が……って。

 

「ひーしゃん?」

 

「はい。その子の名前です」

 

くるっと首を後ろに向ける。視線をあらぬ方向へと逃がすナナシ、もといひーしゃん。

 

「なんで偽名使ったの?」

 

「お、怒らないで……」

 

なんでみんなオレが怒ってるって思うの?そろそろ本当に怒るよ?

 

「だって、ひーしゃんなんて名前……普通じゃないです!」

 

「……せ、せやな」

 

ごめん、と小さく謝る。涙目でオレを見上げるひーしゃんの表情は、もの凄い絶望感が漂っていた。あとめぐみん、ひーしゃんの名前カッコイイなんて追い討ちかけるのやめなさい。

 

「そいで、2人はどーいう関係??」

 

「同じ里の出身です。紅魔族の里の学校で先輩後輩でした」

 

「へぇ~」

 

「ひーしゃんは良い後輩でした。一緒に爆裂魔法の練習をいっぱいしました」

 

「……ん?」

 

「私にすごく懐いてくれて、どこに行くにも一緒だったのです」

 

「ちょっと待て、めぐみんの方が年上なの?」

 

「?そうですが?」

 

「ちなみに今いくつ?」

 

「13です」

 

ってことは、ひーしゃんが12……。オレはめぐみんの体を上から下までじっくり眺めた後、背中の幸せを再確認し、

 

「この世は不条理に満ちている」

 

「おい、今日はよく喧嘩を売る日ですね。いいでしょう、表へ出やがるのです!」

 

「緊急!冒険者の皆様は正門前に集合してください!!」

 

やばい、命が危険だ。焦ったオレの耳に届いたのは、めぐみんの怒りをかき消す様な受付さんの声だった。




もっとテンポよくギャグがしたい
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