この素晴らしい世界に安寧を!   作:阿良良木歴

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このデュラハンさんに哀れみを!

「--ジョン!!」

 

めぐみんの聞き飽きた詠唱と共に古城に爆裂魔法が炸裂した。眩い閃光の後、遅れてやってきた爆風がオレの頬を撫でる。爆裂魔法を不気味な古城に打ち込み続けておよそ一週間、雨の日も雪の日も通うめぐみんには呆れを通り越して尊敬すら覚える。倒れるめぐみんと解説するカズマを横目に大きく欠伸をしてから立ち上がる。

 

「満足いったか?そんじゃあ帰ろうぜ」

 

「むぅ、ユウマは無関心過ぎます。もっと爆裂魔法に興味を示して欲しいのです」

 

手馴れてしまったひーしゃんのおんぶの準備をするオレの背中にめぐみんの不満げな声が降りかかる。別に興味が無い訳じゃない。オレも男だ、爆裂魔法みたいに高威力高燃費なロマン砲を撃ちたい衝動は人並み以上にある。ただ、

 

「ユウマさん、魔力が無いから……」

 

「「あ……」」

 

「……その顔やめろよ」

 

背中に乗ったひーしゃんの一言によりカズマとめぐみんは可哀想なものを見る目でオレを見つめていた。一番悲しいのはオレだっての!

 

「だ、大丈夫ですよユウマ!きっといつか爆裂魔法を撃てる日が来ますよ!!」

 

「いいんだよ、男は誰しも日に二、三発は爆裂魔法を撃てるから。……白濁としたヤツをな!!」

 

「下ネタじゃねぇか!!」

 

うるせぇ、カズマ。オレのやさぐれた心じゃこんな事しか言えねぇんだよ。めぐみんは顔赤くしてんじゃねぇ、なんでその歳で意味がわかるんだよ。ひーしゃんも耳元「あうあう」言うなよ、オレが恥ずかしくなってくるわ!

 

「とっとと帰るぞ!!今日は来るの遅い時間だったんだから」

 

「そ〜だな、早く帰らないとあの駄女神がうるさそうだ」

 

よいしょっ、とめぐみんを背負ったカズマと一緒に山道を降る。最近、クエストをしていないのに足腰だけが着実に鍛えられている気がする。……冒険者ってなんだっけ?

 

 

***

 

 

『緊急、緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し戦闘態勢で正門に集まってください!』

 

そんな事を思い帰った翌日、ギルドで駄べっていたオレ達に受付嬢さんのもはや聞き慣れてしまった緊急アナウンスが耳に届く。今度はスイカでも飛んでくるのかと正宗片手に正門まで来てみれば、威圧感が尋常じゃないモンスターの姿に顔が引き攣る。

 

首無しの馬に乗った首無しの騎士。RPGでお馴染みのデュラハンであることは一目見た時から気づいた。だけど、なんでこんな街にきてんの!ここ駆け出し冒険者の街ですよね!?他の冒険者も強敵突然の襲来に呆然と立ち尽くしていた。そんなオレ達を観察する様にゆっくりとあたりを見渡したデュラハンは口を開いた。

 

「私は先日、この街の近くの廃城に越して来た魔王軍幹部の者だが。……私の城に毎日毎日爆裂魔法を撃ってくる頭のおかしい奴はだァれだぁぁぁ!!!」

 

……あ、アカンヤツや、これ。

 

「爆裂魔法?」「爆裂魔法って言ったら……」

 

冒険者の視線は自然とめぐみんの元に集まる。少し顔の引き攣っためぐみんはその視線を隣のひーしゃんに誘導。あわあわし始めたひーしゃんは助けを求める様に顔をオレに向ける。釣られてオレに集まる視線。オレはしれっとした顔で隣の見ず知らずの女ウィザードへ。視線は最終的にそこに収束した。

 

「え、え?わ、私!?私、爆裂魔法なんて使えないよ!」

 

と、涙目になりながら言葉を発する女ウィザードに罪悪感を覚えたのかめぐみんはため息を1つ零すと、泣きながら首を振るひーしゃんを引きずりながら前へと歩いていった。オレはポケットからある物を取り出し、2人に気づかれない様について行った。幸いにもめぐみんとひーしゃんは緊張やら恐怖やらで気づいた様子はない。近付くにつれ、デュラハンさんが本気で怒ってるのが肌で感じ取れる。

 

「貴様らが毎日毎日城に爆裂魔法を撃ち込んでくる大馬鹿者か!

私を倒したいなら、堂々と攻めて来ればいい!戦わないならば街で震えてるがいい!!

ねぇ、なんでこんな嫌がらせするのぉ?あの意味わかんないくらいの爆発音のせいで寝不足!毎日毎日城の修繕修繕修繕ッ!!私は魔王軍幹部であって土木作業員ではないのだ!!」

 

一息に言い切ったデュラハンさんは自分の頭を投げたり叩きつけたりしながら、いかに自分が怒っているかを力説してくれた。いやつーか、痛くねぇの?真後ろからめぐみんに目を向けると、震えながらも何かを決意したようでキッと視線を鋭くデュラハンさんを睨んだ。同時にひーしゃんも半泣きになりながら何かを諦めた顔になっていた。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操る者!!」

 

「わ、我が名はひーしゃん。紅魔族随一の魔力量の持ち主にして爆裂魔法を操る者、です!」

 

「そして我が名はおにおこ!!紅魔族随一のキレキャラにして暴力を極めし者!!」

 

ここでオレ参上!突然の声にめぐみんとひーしゃんが驚いたように後ろにいるオレの方を向き、そして唖然とした様子で口を半開きにしていた。それもそのはず、オレの両目は今紅く輝いてるからだ。

 

さっきポケットから取り出したのはウィズの店で売っていた『なりきり!紅魔族変身セット』の紅いコンタクトだ。紅魔族に変装するための物なのに装着すると魔法が使えなくなる、というポンコツ商品である。さすがウィズ。商品がいい感じに使えない。でも元から魔法が使えないオレなんかからすれば、イタズラに丁度いい品であり、こういう場面で重宝もするのだ。

 

(ユウマ!?何をしているんですか!?)

 

(おもしろそうだから混ざってみた)

 

(なにもおもしろくないですよぉ!)

 

混乱するめぐみんとひーしゃん。そんなもん知ったことか。オレはオレが楽しいと思ったことをするまでだ!

 

「……貴様らの名前はなんだ?ふざけてるのか?」

 

「ちがわいっ!!」

 

名前を侮辱され怒り始めるめぐみんだったが。ぶっちゃけオレは偽名、ひーしゃんは名前がおかしいと悩んでる人だ。何も否定出来ない。

 

「我らが城に爆裂魔法を打ち続けたのは、魔王軍幹部のあなたをおびきだすための作戦。

こうしてまんまとこの街に一人ででてきたのが運の尽きです」

 

お、上手い言い訳が飛び出た。趣味全開のクセに、ものは言いようだな。カズマもそう思ったのか、こそこそとアクアに耳打ちしていた。

 

「しーっ!黙っておいてあげなさいよ。今日はまだ爆裂魔法使ってないし後ろに沢山の冒険者が控えてるんだから強気なのよ、今いいとこなんだからこのまま見守るのよ!」

 

あ、駄女神が空気読んでねぇや。カズマみたいに小声で話せよ。めぐみん耳まで赤くなってんじゃねぇか。

 

そこでフッと気づく。どう考えても悪いのはこちらなわけで。

 

(これ、普通に謝れば良かったんじゃね?)

 

(私も、そう思います)

 

「とにかく。今後一切、私の城に爆裂魔法を撃つのはやめろ。わかったな?」

 

いやお前が空気読むのかよ!?めぐみんスルーしてもらえてちょっとホッとしてんぞ。そう思ったのも束の間、

 

「無理です。紅魔族は1日に一回爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

「ふえぇっ!?」

 

紅魔族への熱い風評被害である。

 

「……どうしてもやめる気はないと?」

 

「爆裂魔法は私の生き甲斐です。それにこちらには頼もしい味方がいるんです。先生!お願いします!!」

 

めぐみんはにやっと笑い、後方の誰かを呼んだ。けど、駄女神じゃ状況変わんねぇぞ!?

 

意気揚々と飛び出してきた駄女神に釣られるようにカズマやパーティメンバーもぞろぞろと前に出てきた。

 

「魔王の幹部だかなんだか知らないけど、私がいるこの街に来たのが運の尽きだったわね!さあ、覚悟はいいかしら!!」

 

「ほう?これはこれは、アークプリーストか。だが魔王軍幹部のこのオレが、駆け出し冒険者の街の低レベルなアークプリーストに浄化される程落ちぶれちゃいない」

 

いや、ソイツ馬鹿だけどレベルだけはカンストしてるから食らったら洒落にならんと思うぞ?考えていたが口には出さない。と、デュラハンさんは何かいいことを思いついたかのように声を上げた。

 

「そうだな、ここは一つ紅魔の娘を苦しませるとしよう」

 

「そんなもの、私の祈りで浄化してあげるわ!」

 

「遅いよ。

汝に死の宣告を、お前は一週間後に死ぬだろう」

 

デュラハンさんがめぐみんに向けた指先から、黒い何かが迸る。一直線にめぐみんに向かっていくそれを、間に入ったダクネスが受け止めた。

 

「ぐあぁあ!?」

 

「ダクネス!?」

 

すぐさまダクネスに駆け寄るカズマとこれ以上何かされるものかと間に立つオレ。場を緊張感が支配する。

 

「ダクネス、大丈夫か?」

 

「ああ、なんともないようだが……」

 

「ふむ、予定とは違ったが仲間同士の結束の固い冒険者にはこちらの方が堪えそうだ。

紅魔の娘よ、ソイツは一週間後に死ぬ。大人しく俺の言う事を聞いていれば良かったのだ」

 

「……ッ!」

 

デュラハンさんの言葉にめぐみんの表情が歪む。当然だ、自分が原因の事で無関係のダクネスが殺されそうになっているからだ。なんだかんだ真面目なめぐみんだ、きっと罪悪感に苛まれているに違いない。でもな、

 

「……なるほど、つまり。

呪いを解いて欲しくば、オレの言う事を聞けと。つまりはそういう事なんだろ!」

 

「……ふぁ?」

 

震えながら顔を赤く染めたダクネスは、オレの予想通りの言葉を発した。カズマはドン引きでダクネスを見つめているし、タマモは額に手を当てながら空を仰いでいた。

 

「クッ、呪いくらいでは私は屈しはしない!屈しはしないが……

どうしようカズマ!?見るがいいあのデュラハンの兜の下のいやらしい目を、あれはこのまま私を城へと連れ帰り、呪いを解いて欲しくばだまって言う事をきけと凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だ!

この私の身体は自由にできても心まで自由にできるとは思うなよ!城に囚われ、理不尽な要求をされる女騎士……予想外に燃えるシチュエーションだ!」

 

やばい、ダクネスの妄想が暴走してる。カズマが一言も話せないまま自分でヒートアップしてやがる。

 

「では、ギリギリまで抵抗はしてみるから邪魔はしないでくれ!」

 

捕まってるのに邪魔するなとか斬新すぎる。

 

「では、いってくりゅ~!!」

 

「やめろバカ!デュラハンの人が困ってんだろ!」

 

デュラハンさんに嬉嬉として走り出したダクネスを辛うじてカズマが捕まえた。ジタバタと暴れるダクネスを見てホッと安心した顔をしたデュラハンさん。

 

「落ち着くのじゃダクネス、奴の面構えをよく見るのじゃ」

 

おっと、今日は珍しく真面目だなタマm「アレは自ら大胆な事が出来ぬ、むっつりスケベの目じゃ!」

 

……このパーティに常識人はいないのか。

 

そんなオレの絶望には目もくれず、タマモはデュラハンさんの評価を続ける。

 

「頭の中ではえげつない様なエロい事を考えているくせに実行には移せないヘタレじゃぞ。大方、出来てスカートの中を覗くくらいじゃろ。その頭をわざとスカートの中に転がす程度のただのゲスじゃ。お主が期待する様な事は何も出来ないぞ?」

 

やめて!デュラハンさんのライフは0よ!!

 

プルプル震えたデュラハンさんは涙目になりながらオレ達を指さし、癇癪を起こした子供のようになっていた。

 

「と、とにかく俺の城に爆裂魔法を放つのはやめろ!いいな!!

そして紅魔族の娘よ、そこのクルセーダーの、呪いを解いて欲しくば俺の城に来るがいい!

俺のところまで来る事ができたならその、呪いを解いてやる!だがお前達にはたしてたどり着くことができるかな?フッフフフ。あーはっハッハッハ!!」

 

そう言ってちょっとテンションがおかしくなって高笑いしながらデュラハンさんは帰っていった。目元に涙が伝っていなかったら悪役っぽかったのに……。

 

 

***

 

 

デュラハンさんが去った後、めぐみんは1人静かに歩き出していた。

 

「何してんだよめぐみん」

 

「ちょっとあの城に行ってあのデュラハンに、直接爆裂魔法を食らわせてきます」

 

こちらを振り向かず、めぐみんは言う。心情とか覚悟とか、そんな感じのものを漠然と感じる。まだ子供のくせに、

 

「バカかお前は。お前みたいな子供が行ったって、途中の雑魚にやられて終わりじゃねぇか」

 

「ば、馬鹿とはなんですか!?それに子供では「だからめんどくせぇが、オレも行く。保護者として、やっちまった事には責任持たねぇとな」

 

それにおもしろそうだしな、と笑ったオレを目を見開いたまま見つめるめぐみんはちょっとマヌケ顔で面白かった。

 

「オレも行くよ。めぐみんをあそこまで運んでたのはオレだしな。雑魚くらいなんとかしてみるさ」

 

「わ、私も行きます!私も爆裂魔法を撃ち込んでたので当然です」

 

「みなさん……」

 

ちょっと涙腺に来たのか、めぐみんは少し目が潤んでいた。

 

「や、やめるんだみんな。私の為になんて……」

 

「待ってろよダクネス、きっとオレらでお前を助け「セイクリッド!ブレイクスペル~」……おい」

 

覚悟を決め、みんなで幹部の城まで行こうとしたオレの耳に、アクアの間の抜けた声が届く。でもってダクネスも完治してしまった。すぐに街の人達がアクアを取り囲んだ。

 

……とりあえず覚悟決めた、オレ達のやる気返せ!

 

なんかアクアのドヤ顔を見る度に、オレの心が死んでいくような気がした。

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