カーディンさんと仲間達は改心出来るのか? 作:はぐれファウナス
「ヒッ、ひぃぃっ!? こ、こここここ、ココ・アデル!!?」
「アンタは…ふーん、成る程。道理でウチのウサちゃんにチョッカイ掛けてくる訳だ…でぇ? アンタがリーダー?」
ドアを破壊して現れた闖入者の顔を見るなり、女好きのダヴがあからさまに狼狽した。
他チームのメンバーを女子限定で、イチイチ記憶しているダヴだ。
眼前の非常識極まりない破壊女のプロフィールも、当然頭に入っているのだろう。
リアクションから察するに、過去にアプローチを仕掛けて大火傷を負ったに違いなかった。
だが、ココ・アデルの名はカーディンらにも聞き覚えがあった。
ビーコン・アカデミーでも指折りの実力者であり実戦にも出撃する連中の1人――つまり、現状の自分たちとは比較にならない、遥か格上の怪物だ。
しかし、我らがリーダーはいつでもアクセル全開スタイルだった。
「あァン? あのファウナス女の礼だぁ? 一丁前にお礼参りかよチビ女ァ!」
「バッ、おまっ、やめろカーディ――!」
ダヴが慌てて緊急停止させようとしたが、もう遅い。
「やれやれ…どうしてビーコンにこんなチンピラが紛れ込んでるのかしら。部屋もクッサイし、最悪ね」
ココがサングラス越しに部屋を見回し、心底ゴミを見るような目を向ける。
「ケンカなら買うぞコラァ!!」
完全に沸騰してメイスを構えようとするカーディン。
「ステイ! ステイだってカーディン!」
と必死に叫んで引き剥がそうとするダヴ。
チームCRDLの私室は、一瞬にして爆発寸前の戦場と化したものだったが…
結果から言えば、それは「戦闘」ですらなかった。
ココ・アデルが肩に下げた大きなボックスバッグ。
それが一瞬で巨大なガトリング砲へと変形したかと思うと、容赦ないオーラ銃撃がチームCRDLの私室を文字通り席巻した。
「ぶべらっ!?」
「ぎゃああああ!」
「待って、話せば分か――あばっ!」
抵抗する間すらない。
ダヴも、スカイも、ラッセルも、まとめて部屋の隅へと吹き飛ばされ、オーラ銃撃で蜂の巣となった。
リーダーであるカーディンは何とか耐えたものの、大振りのメイスを構えた瞬間に懐へ潜り込まれた。
ガトリングの銃身で殴られ、床へと叩きつけられていたのだ。
「ふんっ、口ほどにもないわね。次、ウチのベルベットに近づいたら、バイタル・フェスティバルのステージ上でミンチにしてあげる」
ココはガトリングをバッグの姿へと戻すと、優雅にモデル歩きで去っていった。
破壊された扉の向こうから「ココ、やりすぎだよ…」という微かな声が聞こえたが、今の彼らにはそれを気にする余裕などなかった。
ーー数時間後。
散らばった漫画や壊れた家具の真ん中で、チームCRDLは全員、死屍累々といった様子で床に転がっていた。
「……だから止めろっつったんだよクソ…」
ダヴが顔を腫らしながら毒づく。
「オレのモヒカンが…五厘っす…」
ラッセルは涙目。
スカイは無言で、ボコボコにされた痛みに耐えるように丸まっている。
いつもなら、ここでカーディンが「テメェらが使えねえからだろうが!」などと怒鳴り散らしていただろう。
だが、今のカーディンは静かだった。
天井を見つめたまま、ただ、己の無力さと、胸の奥にある苦い記憶と向き合っていた。
(まただ。また何もできなかった……)
フォーエバーフォールの森でジョーンに助けられた時も。
そして今、上級生にゴミのように蹴散らされた時も。
自分はただ、威張っているだけの裸の王様だった。
目を閉じると、脳裏に浮かぶのはあの人の姿だ。
カーディンが幼く、ただの粗暴な子供だった頃。
圧倒的な強さでグリムを屠り、しかし誰よりも不器用で、だけど誰よりも真っ直ぐな…自分にハンターの背中を見せてくれた、憧れの人――
『オゥコラ、カーディン。真の強さってなぁ、重い武器を振り回すことでもケンカに勝つ事でもねえ! 勘違いしてんじゃねぇぞボケ! 守るべきものがありゃあ、泥をすすっても立ち上がれる、ハートの強さのことだ!』
あの人の言葉が、今の自分に激しく突き刺さる。
今の俺は、泥をすすることすら拒んで、カッコつけて威張っているだけじゃないか。
「……おい」
カーディンは重い体を起こし、床に転がっている三人に声をかけた。
声はいつもよりずっと低く、棘がなかった。
「あぁ? んだよカーディン、またお小言か?」
ダヴが警戒するように言う。
カーディンはちっと舌打ちをすると、頭をガシガシと掻きむしり、視線を逸らしながら言った。
「…悪かった」
「「「は?」」」
三人の声が完璧にハモった。
あの傲慢の塊のようなカーディンが謝るなど、世界がひっくり返るより有り得ないことだった。
「悪かったっつってんだろ! 耳が腐ったわけじゃねえなら、もう言わせんな。ダヴの言う通りだ。俺様は頭に血が上ると周りが見えなくなる…小細工は嫌いだが、あのクソ女やジョーンの野郎にこのまま負けっぱなしってのは、絶対に我慢ならねえ」
カーディンは床に落ちていたメイスを拾い上げ、肩に担いだ。
「やってやるよ、訓練だ…テメェらの言う、連携ってやつを、俺様にも叩き込みやがれ」
一瞬の静寂の後、ラッセルが腫れ上がった顔で笑った。
「……へへ、そりゃあ教え甲斐があるっすね、リーダー」
「チッ、まあお前が足を引っ張らないなら、付き合ってやるよ」
ダヴも呆れたように笑う。
スカイは小さく、だけど力強く頷いた。
壊れた部屋の中で、チームCRDLの、本当の四年間の始まりが静かに動き出そうとしていた。