ギャンブル少女ばくち☆マギカ《完結》   作:ラゼ

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切言の物語

「行きましたね」

「ええ、今のうちだわ」

 

見滝原総合病院。深夜の病院という、少女には少々恐怖を感じるそんな場所で二人の魔法少女がこそこそと不法侵入していた。

九曜葵、巴マミの二人だ。彼女達が何をしようとしているかというと、病院という場に相応しい治療行為のための侵入である。

 

それはほむらの度重なる繰り返しの中で断トツに多い失敗要因、美樹さやかの魔女化に伴う様々な悪影響を取り除くための行動の一環だ。

 

そもそもさやかが魔法少女になる原因は上条恭介という幼馴染みの怪我を治すためであり、それがなければ積極的になろうとはしないのだ。

魔女になる原因も恋愛関係がこじれた果ての絶望と、魔法少女の真実を知った絶望のダブルパンチをくらった結果なので精神的に軟弱というわけでもない。

 

しかし必ず魔女になる女としてほむらは彼女を魚雷ガールと呼んでいる。人魚の魔女になる地雷少女。略して魚雷ガールだ。

けっして繰り返しの中でよく喧嘩を売られたからとか、そんな理由ではない。

 

何にしても、キーは美樹さやかへの苦言や鹿目まどかへの懇願ではなく上条恭介へ恩を売ることでしょうと提案した葵。

ほむらは恋愛に疎くどうしていいかも解らなかったのでその辺りに手を出した過去は一度もなかったのだ。

 

それを聞いたマミと杏子からマジかよ…な視線で見られたほむらは時を止めながら二人の首にチョップしまくった。

 

引きずり込む率七割の黄色と心中する率四割の赤色が言うなと。もちろん心の中で思うだけに留めていたが。

 

そんな訳で彼女達二人は上条恭介を治療すべくここまでやってきたのだ。ちなみにほむらはまどか周りのキュゥべえ排除、杏子はさやか周りのキュゥべえ排除役をしている。

いつまでも彼女達に話をしない訳にはいかないが、今はまだその時ではないのである。

 

「ここですね…個室とはブルジョワな。保険適用外でお金がかかるというのに…これだから貧富の差というやつは」

 

珍しく愚痴を漏らす葵。困窮するとよく実感出来る貧富の差につい口にしてしまったのだろう。

 

「ふふ、葵さ…葵にもそんな一面があったのね」

「聖人君子というわけじゃないんですからこのくらいは許されるでしょう。政治家は批判されるのも仕事の内ですよ」

 

貧富の差まで政治家のせいにされては彼等もたまったものではないだろう。まぁ絶対に違うとは言い切れないのが最近の世の悲しいところであるが。

 

そんな益体もない話をしながらそっと部屋の中に侵入する二人。病室と考えれば随分広々としている部屋に、柔らかそうな掛け布団が見えるベッドが一つ。その上には上品そうな寝息をたてるイケメン中学生が夢の中に沈んでいる。

 

「では失礼して…」

 

布団ごと抱き抱えて窓から身を乗り出して屋上に跳ぶ葵。物理法則は何処へ行ったのだろうか。

 

「へ? う、うわぁぁぁぁ!?」

 

力加減を間違えて屋上より更に数十メートル上空に跳んでしまった葵、そんな衝撃に起きない筈もなく寒空の下で月を近くに感じながら浮遊感を味わうという恐ろしい体験を強制的に味合わされる恭介であった。

 

「こんばんは。魔法少女です」

「意味不明だよっ!」

 

これで意味が解れば彼も立派な魔法使いだ。もしくは超能力者か。

 

「疑問だらけなのを承知で聞きます。その怪我の程度は把握出来ていますか?」

「っ…!」

 

訳の解らない状況ではあるが、それでもその話題は彼の逆鱗だ。中学二年生という若さでありながら、将来を嘱望されている天才バイオリニスト上条恭介。その道では有名な少年であるが、現在は事故に遭い手足を怪我しているために活動を休止している。

 

そう、現在はといったが実際を言ってしまえばそれは未来に於いてもだ。先日医者に告げられた腕の状態は、日常生活に戻れるどころか音楽を弾くような繊細な動きは二度と出来ないかもしれないという絶望の宣告だった。

 

なんとか手術を出来る医者を探してみると励まされたものの、医者の表情を見れば結果は推して知るべしというものだろう。

それでも必死にリハビリを耐えて、懸命に奇跡にすがり続けていたのだ。

 

そしてそんな状況で、触れられたくない部分を易々と侵す見知らぬ少女。

 

幼馴染みで大事な人間ならばまだ無遠慮に踏み込まれても我慢していた、出来ていた。知らぬ事とはいえ、腕の復活が絶望的だというのに安易に頑張れと励ます幼馴染みに怒りを感じた事は一度や二度ではない。

それでも笑顔で接するのは本当に心配してくれているのが解るからだ。だがしかし、見知らぬ他人にずけずけと踏みいられて平静でいられるほど彼は温厚でも大人でもない。

 

「…君に言う必要があるのかい?」

 

それでも怒鳴ったりわめき散らしたりしない辺りが彼の非凡さを窺わせる。天才というのは得てして極端に早熟か未熟な場合が多いのだ。例え音楽という領域における天才だとしても。

 

「把握しているようで助かります。不躾で悪いのですが、取引をしませんか? 内容は『これから話す事を全て信じ、この街を救うお手伝いをすること』です。対価は怪我の治療を約束致します」

「何を―――」

「とはいえ実際に体験しなければ解りませんよね。マミさん、お願い出来ますか?」

「えぇ…」

「あ、マ、マミ。お願いできますか?」

「ええ!」

 

ちょっとめんどくさい。そう思った葵であった。

そんな微妙な表情の葵には気付かずに、やる気をみなぎらせて治療に臨むマミ。

 

回復は専門ではないが、マミの魔法は『繋ぐ』ことに強い効果を発揮する。魔法少女になった時の願いが『命を繋ぎとめる』というものであるが故だ。それは固有魔法であるリボンにも象徴されている。

 

つまるところ上条恭介の断裂してしまった腕の神経は現代医療では繋ぎ治すことは出来ないしマミの拙い回復魔法でも治療は難しい。が、神経を繋ぎ合わせるという一点においてマミの魔法はこれ以上なく有効な手立てとなるのだ。

とはいえ確証はないためにマミの横で葵も奇跡を願ってはいるのだが。

 

「うん…これで大丈夫! 足の方は完全とはいかないけど、自然に回復を待つよりはマシな筈よ」

「魔力の消費は無し…マミだけで大丈夫だったみたいですね」

「は…はは…。夢…? そうだよな、いくら何でも非現実すぎるし」

 

グッパグッパと動くようになった掌を開け閉めしながら呆けたように呟く恭介。

まぁそう思いますよねとその様子を見ながら共感を覚える葵。人はあまりにも非常識な事態に直面すると何故か現実より自分を疑ってしまうこともあるのだ。まさにキュゥべえとの邂逅時の自分を見ているような気分になるのも仕方ないだろう。

 

しかしあまり時間を掛けて病院側に異変を察知されても困るため、男を手っ取り早く正気に引き戻す一番の手段を葵は選択した。

 

「ていっ」

「おごぉっ!! …か、かふぅっ…!」

 

男の誇りを叩く葵。元男としては取りたくない手段だが元男だからこそ、その痛みは何よりも現実的だと知っている。

 

「夢だと思いますか?」

「ノゥ…」

 

流石はグローバルなバイオリニスト。英語もばっちりだ。そんな風に思った葵を横目に見ながらドン引きしているマミであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着きましたか?」

「う、うん」

 

少しやり過ぎたなと腰の辺りをトントンと叩いてあげている葵。深夜の病院の屋上でファンタジーな格好をした少女が少年の腰を叩いている様はなんともシュールである。

 

「事後承諾のような形にはなりましたが、私の話は聞いていただけますか?」

「うん。腕が治るならなんだって犠牲にしてもいいとさえ思っていたんだ。僕に出来ることならなんでもするよ」

 

自分の腕に頬擦りしながら歓喜している恭介はどうみても変態ではあるが、恩を感じてくれているのならそれに越したことはないなと葵はスルーした。

 

「ではまず私達の素性についてですが、先程も申し上げた通り魔法少女です。とは言ってもお伽噺に出るようなファンタジーなものではなく世の理に組み込まれたシステムのような現実的なものではありますが」

 

そう話を始めて葵は魔法少女の歴史や悲劇、年頃の少女にとってのキュゥべえの危険性、それを余すことなく伝えた。

 

「そう、なんだ…。でも何故それを僕に? 治してもらっておいて言うことじゃないかもしれないけど、あまり僕に出来ることがあるようには思えないんだけど…」

「当然の疑問ですね。そこについては色んな繊細な事情が絡む上に信じがたいことだらけなので、だからこそ先に貴方を治療したのです。信じていただけますか…と問いたいところですが、信じていただかねば困るので信じてください」

「う、うん…?」

 

無茶苦茶な要求だが、ここについては恭介次第でしかないので葵もほむらも賭けることにしたのだ。どのみち全てにおいて安牌など存在しえない。いかなければならないところは突っ切るのみだ。

 

「貴方の幼馴染み、美樹さやかさんは貴方の事を好いています」

「う、うん…はい!? いきなり、というか話が繋がってな―――」

 

さやかはやんちゃで男勝りな家族のような存在だ。それが自分を好きだなどと恭介は考えたこともない。

 

「そして貴方のクラスメイト、志筑仁美さんも貴方を愛しています」

「ちょっ、まっ…えぇー!?」

 

志筑仁美とはまどかやさやかの友人であり、仲良し三人組でもある。美人で大金持ちのお嬢様でもあり男にとっては高嶺の華としか言いようがない存在だ。それが自分を好きだなどと恭介は考えたことも、いや妄想したことくらいしかない。

 

「そして私も貴方を…」

「え……!?」

 

目の前の美少女は腕を治してくれたとはいえ出会ったばかりの赤の他人だ。

それが自分を好きだなどと恭介は考えたことも、いや考える間もなかったが、こういう状況を考えるともしかして自分が好きだからこんなことになっているのかしらと自惚れるしかない。

 

「とても羨んでいます」

「えぇー…」

 

まぁ葵からすれば、というか男から見れば羨ましすぎる状況だろう。嫉妬も羨望も仕方ない。

 

「他人の恋愛事情に首を突っ込み、あまつさえその心情を勝手に暴露するなんて馬に蹴られるどころの話ではないと解ってはいるんです。ただ放置すれば命にかかわるのでこういう手段になってしまいました。申し訳ありません」

「…」

 

上条恭介は天才である。それはバイオリンに限ったことではあるが、その頭脳も中学生の範疇では高いものがある。そしてその頭脳が導きだした。葵が来た理由も、先程の話をした訳も。

 

「…大体理解出来たよ」

「えっ」

 

さぁ本題だ、とほむらの話をしようとしたところでこの恭介の返答だ。葵が驚くのも無理はないだろう。

 

「さやかと志筑さんが僕を取り合って喧嘩したんだろ? それで僕のバイオリンで二人の気を鎮めてほしいと」

「全然違います」

 

お前は青き衣を纏った少女かと突っ込みを入れる葵。そうなると王蟲はさやかと仁美になるので葵も大概に酷い。

 

「全然違います」

「なにも二回言わなくても…」

「全然違います」

「三回目!?」

 

早く話を進めましょうと、おずおずと横から口を出すマミ。脱線しすぎましたねと、葵は真剣な顔つきで話を続ける。

 

話すのは先程の恋愛事情を知る理由、つまりほむらの繰り返してきた世界そのものだ。さやかが魔法少女になる理由、魔女になる理由、そして見滝原の危機。全てを簡潔に解りやすく伝えた葵は、ふぅと息をついでマミが差し出してきた紅茶を有り難く受け取った。

 

よく考えればこれはつまりマミの魂の味なのだろうかとどうでもいいことを思考しているあたり、疲れは無さそうだ。

 

「…その、なんて言っていいか解らないけど…本当のことなのかい?」

「誓って真実です。もちろん主観が入り乱れてますので間違いがないとは言い切れませんが」

「…」

 

いきなりこんなことを言われて真実だと信じる方がおかしいだろう。しかし怪我が治ったのも、いや治してくれたのは間違いなく真実だ。

 

「信用出来ない、と言えばやっぱり腕は元に戻されるのかな…?」

「いいえ。さやかさんが魔法少女になる理由が無くなっただけでも充分ですから。それにもう治ったものをどうこうは出来ないですよ。新しく怪我をさせるならともかく、そんな事は頼まれてもしませんけどね」

「…そっ……か」

 

俯き、悩む恭介。とてもではないが信じられない、突拍子もない話。だがそれを言うのは人生を変えてくれたほどの大恩人。長い時間悩み続け、そして何度かの逡巡の後恭介ははっきりと答えを示した。

 

「……うん、信じるよ。僕にも協力させてくれ。どこまで出来るかは解らないけど」

「―――っ。ありがとうございます…本当に」

「それは僕のセリフじゃないかな?」

 

にこりと爽やかな笑みで葵の感謝に切り返す恭介。これは確かにモテても仕方ないかとため息をつく葵であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学に通う女子中学生、美樹さやかは完全無欠に一般人である。授業中はつまらない授業を受けながら教科書に落書きをし、昼休みになれば友人と和気藹々と弁当を食べる。

 

午後はまたぞろつまらぬ授業を受けながら午睡の誘惑に耐え、放課後は親友達とお喋りしながら帰路につく。小遣いに余裕があれば寄り道をして買い食いをすることだってある、ごくごく普通の少女である。

 

普通ではないところをあえて挙げるならば、それは幼馴染みでもあり想い人でもある上条恭介の存在だろう。将来を有望視されているバイオリニスト上条恭介。現在は事故に遭い手足を怪我しているが、復帰すればまた素晴らしい音色を響かせてくれるだろうとさやかは確信している。

 

そんな少年への想いを募らせ日々悶々としているのも中学生らしいといえばそうなのかもしれない。そんな彼女は今、悩んでいることがあった。

 

「はい、ほむらちゃん。もう熱くないよ」

「あ、ありがとう、まどか。でもそんなに気を使ってくれなくても…」

「駄目だよ! 先生にもほむらちゃんのこと頼まれたんだから、これも保健係の仕事だよ?」

 

目の前でまどかに甲斐甲斐しくお世話されている、先日の言葉通り転校してきたほむら。葵との約束でしっかり面倒を見てやろうと張り切っていたさやかであったが、結論から言えばそんな必要は全くもってなかったのだ。

 

授業で当てられると全問正解、体育で走れば全中記録、称賛する周りのクラスメイトには当たり障りなくふるまう。容姿といえばこれまた端麗。

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花といった言葉を見事に体現しているような存在だ。

ちなみに本性は「立てば爆薬座ればボカン歩く姿は爆弾魔」なハッピートリガーといったところだろうか。もちろんさやかは知りもしないが。

 

とにかくまさに完全無欠といったその様子にたじたじなさやか。まどかなど気後れしてしまうほどだ。しかし昼休みに何とか仲良くなろうとして、冗談でお弁当のおかずを「あーん」とほむらに迫ったまどか。

 

その瞬間胸をおさえて倒れたほむらに大慌てで保健室に連れていくことになったのだ。先生に聞くところによると心臓の病気で入院をしていたらしく、恐らく仲良くなろうと無理をしたために倒れたのではないかと言うことだった。

 

それを聞いたまどかは午後の授業もそっちのけでほむらに付き、首を変な角度にしながら「家族…友人…大事…ら」と寝言をいう彼女を看病したのだ。

 

放課後にはすっかり良くなって帰ってきたほむらとまどかだが、その力関係は既にまどか>ほむらとなっていた。

自分の役割はこれだ! とでもいうように気弱だった性格を置き去りにしたようなまどかの様子に今度はほむらの方がたじたじになっていた。

 

そして四人で放課後に喫茶店に入り、珈琲を頼んだほむらがカッコよくカップを開けようとして失敗し、火傷をしかけて悲鳴を上げたことでもはやそれは覆せないものとなったようだ。

 

「きましたわー!」

「仁美ぃ…」

 

まどかがほむらの手に氷を当てている様子を見て喜色をあげる、大事な親友の残念な部分を発見したさやかは残念な声を上げた。しかしこれがさやかの悩みであるかと言われればそうでもない。彼女が悩んでいるのは―――

 

「ねえねえ、ほむらー。今度の休みまどかと買い物予定なんだけど一緒に行かない?」

「っ…。そうね。行かせてもらおうかしら」

 

そう、ほむらの態度についてだ。他の人には普通に接しているし、まどかには随分親しげな雰囲気なのに自分と対する時だけは歯に何か挟まったような返しかたなのだ。

 

嫌悪や怒りなどといった感じではなく、とはいえ喜びや嬉しさでもない。そのぎこちない笑顔にはなんともいえない複雑な感情が見え隠れしているのだ。周りからも単純馬鹿と思われているさやかだが、人のそういった部分には人一倍敏感なところもあったりする。

 

「うーん…なんかしちゃったのかなぁ」

「あらどうかしましたか? さやかさん」

「ううん。何でもない」

 

デリカシーの無さは自覚しているさやか。気付かない内に触れられたくない部分にでも踏みいってしまったのかと気を揉む。

 

「ま、その内なんとかしますかっと! それより仁美、時間大丈夫?」

「あらもうこんな時間ですの! 皆さん、私先に失礼致します」

 

お稽古ごとに習い事。お嬢様の仁美には自由な時間が少ないのだ。まどかもさやかもそれが解っているため無理に引き留めたりはしない。

 

挨拶を終えて足早に帰った仁美を見送り、CDショップに行こうと提案するさやか。恭介へのお見舞いになけなしのお小遣いをはたいて古い円盤を買おうとしているのをまどかに見破られ挙動不審になるものの、否定はしないようだ。結局仲良く三人で向かうことに相成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やー、いいのが見つかってよかったよかった。恭介もこれで少しは元気出ればいいんだけど」

「きっと喜んでくれるよ!」

「そうね…」

 

買い物を終えて病院までやってきた三人。面会出来る時間までギリギリとあって少々急ぎ足だ。受付へ面会を希望して手続きを済ませる。

 

「なんか看護婦さん変な顔だったね…?」

「うん…なにかあったのかな?」

「…」

 

上条恭介への面会希望と言ったさやかに微妙な表情で手続きを始めた看護婦。いったいなんだったのだろうと会話しつつ、皆でトイレに寄った後エレベーターを乗り継ぎ目的の部屋へ到着した一行。ノックをして病室に入ったさやか達の目にまず入ったものは頭を抱えながら悶える、眼鏡をかけた壮年の医者だ。そしてその横に医者を必死で宥める看護婦の姿もあった。

 

「ガッーデム! ありえん! 私は認めんぞぉー!!」

「いや、現に治ってますし…先生、気をしっかり」

「私はしっかりしているとも……そうか! 私がおかしいのではなく世界がおかしいんだ!」

「先生!?」

 

ベッドの上に座りつつドン引きしている恭介。しかし要リハビリ患者が一晩で完治していれば医者の反応も仕方ないだろう。しかしそれにつけても随分ファンキーなお医者様に恭介とその横にいる葵とマミも冷や汗をしきりにかいている。

 

「あの先生、精密検査も終わりましたしもう退院準備も終わったので…」

「ノン! これは是非とも解明しなければならない怪奇現象なのです! 奇跡などという訳のわからぬものをそのままにしておく事などできる筈も―――」

「患者のプライバシーに関しては守秘義務がありますよね? 体に異常が見られないのなら後は恭介の問題です。退院を止める権利は病院にありませんし、学会等への発表も患者の許可無しには出来ません。あしからず」

「ぐ、ぐぬぅ」

 

テンションMAXな医者に冷や水を浴びせるように言葉で攻める葵。恭介もこんなことで有名にはなりたくないので傍観するのみだ。

 

「恭介の親御さんももうすぐ来ますし、そろそろ諦めてください。世の中には解明できない奇跡なんてありふれてますよ。医者ならまず患者の完治を喜びましょう?」

「し、しかしこの現象をもし解析出来たのならば他の怪我に苦しむ人々も助けられるかもしれんのだ。後生だ! せめて後一日!」

「う…。そう言われるとあれですが、申し訳ありません。無理です」

 

にべもなく断る葵に、遂に諦めてがっくりと項垂れる医者。彼は彼で情熱を持って医者をやっているのだ。人類の新たな可能性を感じるこの一件に執着するのは当然とも言える。しかし葵の言う通り全ては患者の許可ありきだ。拒否されている以上、論理的にも倫理的にも法律的にも彼に止める権利はなかった。

 

「わかった…だが気が変わったらすぐに連絡してくれ。些少だが謝礼も出るだろう」

「ええ。すいません」

 

そういって医者を見送る葵。そして当然ながらドアの真ん前でやり取りを見ていたさやか達にも気付く。というよりは病院につく前からほむらのテレパシーで知っていたのだ。

 

医者と看護婦がちらりとさやかを意味ありげに見た後退室するのを確認し、葵は声を掛けた。

 

「お待たせしました。いらっしゃい」

「あ、どうもどうも……じゃないよっ! 何で葵がいるのさ!? というか後ろの巨乳美女は!? 何で恭介治ってんの!?」

「私がいるのはやんごとなき事情からです。後ろの巨乳美女は巴マミ、貴女の先輩でもあります。恭介が治っているのは私達のおかげです、存分に感謝してください」

「訳わからんっ!」

「さやかちゃん…」

 

ハイテンションな医者の後はハイテンションなさやかの相手とは疲れるなと内心やれやれとため息をつく葵。

 

「今めんどくさいとか思ったでしょ! そういうの解るんだから」

「めんどくさいな…」

「だからって声に出すな―!」

(めんどくさいな…)

「!?」

 

なに今の!? と脳内に響いた声に驚くさやか。何気にキュゥべえを活用しまくりの葵である。

 

「話たいことは色々あると思うのですが、そろそろ恭介の両親が来ると思いますので…。今日の深夜に迎えに行きますのであけておいてくれませんか?」

「え…うん。いやいや、そんな時間に外に出たら怒られるから」

「そこはなんとかします」

 

では、と恭介とマミを連れ立って病室を出ていく葵。その際に意味ありげに目配せをし、ほむらはそれに頷く。恭介がさやかに後でね、と耳打ちして意味ありげに見た後通り過ぎた。耳に想い人の息がかかり真っ赤になるさやか。

 

「うう…もう訳わかんないよぉ…」

 

恭介と親しげな葵も、謎の金髪巨乳美女も、突然の退院も何一つ解らないさやか。そんな彼女にほむらが優しく声を掛ける。

 

「さやか」

「え…どしたのほむら」

 

いつになく優しげな表情をしたほむらに更に混乱するさやか。もしかしなくとも今までで一番の笑顔かもしれない。

 

「スカート」

「へ?」

「スカートが下着に挟まってるわ」

「え…? ぎゃぁーーーー!? い、いつから!?」

 

恐らく先程のトイレだろうと冷静に指摘するほむら。医者と看護婦、それに恭介の意味ありげな視線はこれだったのかと気がついたさやか。先程までの疑問は全て吹き飛び、ベッドにダイブインして悶えている。

 

「さやかちゃん…丸見えだよ…」

「青色ね…」

 

頭隠して尻隠さずの格言通り、掛け布団に頭を突っ込むさやかのスカートは捲れあがり丸見えだった。しかし本人は想い人の残り香に興奮していたので気付かなかった。自業自得である。

 

そして一人残るさやかを置いて仲良く出ていったほむらとまどか。部屋の清掃にきた人に声を掛けられるまでその状態だったさやかは、もちろん丸出しのパンツを見られて悲鳴を上げるのであった。




マミと杏子の説得はどうしたって? もはや予定調和が目に見えてるのでカット。濃い描写が欲しい人は脳内で補完してくだされ。
本編でも軽く触れる程度にしますので。
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