銀の匙 ~素晴らしい家畜生活~   作:グレッグル

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一の匙 出会い

「広くね、この学校……」

 

大きな広場にポツリと佇みながら、小さな声でそうつぶやいた。

あたり一面雪で覆われており、写真でしかみたことのないような美しい雪原が広がっっている。

 

男の名前は殺生院 東吾

 

180㎝を超え、この学校の学生服と思われる黒い学ランを着こなしている。学ランを着ていれば高校生と思われるが、顔つきは多少ながら高校生らしい顔つきではない。

体格も良く出来上がっているという評価が正しいと思われる。

 

 

「失敗したなぁ、まさか学校で迷子になるなんざ思わなかった……。つか、やっぱ所々から動物の匂いするし、さすがは農業学校だな。たしかに動物たちにとっては素晴らしい環境だもんな、ここは」

 

 

地面を踏めば雪のせいで多少は沈むが、それを気にせず来た道に戻ろうと後ろに振り向く。

 

 

「っと、お前を忘れるところだった。おいコラ牛! いや正確には子供だから……おいコラ子牛! お前さんのせいで、こんなところに来ちまってどう落とし前つけてくれるんだい。乳もんで、おいしい牛乳にすっゾ!」

 

 

彼の横にはまだ小さいがらも、子牛が傍で佇んでいた。そんな子牛は殺生院の文句を聞いておらず、制服の裾を哺乳瓶を飲むかのように吸っている。

そんな様子を見ながら殺生院は深いため息をつき、その場に座り込む。

 

こんなこと起こるなんて想定外だ―――

 

まだ十数分前に、殺生院はこの学校で入学についての説明を受けていたころであった。

入学よろしくのように、次々へと様々な分野を担う先生方がかく施設を親切丁寧に説明したことから事件は起こった。

 

 

 

 

 

 

『えぇ、君たち酪農科学科はこの学校ではとくに実習が多い。この学校自体が大きな農場と思えば簡単な話だ。わかっているだろうが、基本での農家は休みはない! ということだ』

 

『マジッスか先生、じゃあ家の近くにある農場のジジババはもうサイボーグに転職しているってわけですね』

 

『そういう事だ殺生院、農家の人たちはショッ○ーに改造されたのではなく、作業服を特殊戦闘服といい、汗拭きタオルをマフラーと呼ぶサイボーグへとジョブチェンジするんだ』

 

『先生、それたぶん年代的にわからない人が多いと思います。ちなみに自分、フランソワー○ちゃん大好きです!』

 

『理想が高すぎるぞ殺生院』

 

 

こんな会話を殺生院と先生が話しながらも、近くの施設まで集団で移動しつつある。すでに振り終えた雪がそこらじゅうに溜まっているが、道という道にはすでに除雪作業が進んでいる。

生徒の集団は施設の中に入り、あたりを見渡す。

 

 

『ここは牛舎だ。酪農科である君たちはこれから朝晩ローテーションを組み、さまざまな家畜たちの世話をしてもらうからな』

 

 

先生はとりあえず次の施設へと移りたいのか説明をテキパキ進め、先を進みだす。生徒たちもそれにつられて付いていく。

勿論殺生院も行こうと思っているが、先ほどから制服の裾をねちょねちょ吸う不届き物がいるため、上手く進めないでいる。

何事かと思い振り向くと、そこには牛舎だからこそ小屋に入っているはずの子牛がなぜかここにいた。

 

 

『ん? なんだお前さん、はぐれたのか?』

 

 

そう声をかけると、この牛舎で働いているであろうまた別の先生が声をかけてきた。

 

 

『すまんな、いまそいつの寝床の藁を変えていてちょっと近くを歩かせてたんだ』

 

『そうでしたか。おい、お前のベッド新しくなるらしいな』

 

 

優しい声をかけながら子牛の喉や首元を撫で、裾を食べるのをやめさせようとしている。

子牛は気持ちよさそうに声をあげて、目を細くしてだした。その様子に先生は関心しているように、殺生院に目を配る。

殺生院は子牛が嬉しいとわかり、笑顔で子牛を撫でまわす。

しかし、先ほど子牛を撫で始めた途端、妙な感じがしだしている。殺生院は入り口に目をやると、少しであるが地面が揺れているのがわかる。

それは殺生院しか気づかず、他の生徒たちは牛舎で餌を頬張っている牛たちを見ている。

 

すると、嫌な感じがすぐさま事件を起こした。

 

 

『おぉおーーーーい!!!!!! すぐそこから離れろおぉーー!! 牛が突っ込むぞーーー!!!!!』

 

 

静かな平穏が一匹の暴れ牛によって崩壊された。入り口の方面から一直線で向かってくる大きな牛がたからかに声をあげながら、興奮を最大まであげている。

 

 

『ッ!? みんなすぐ非常口からでるんだッ!!』

 

 

先ほどまでサイボーグの話をしていた先生は、被害を最小限に抑えるために生徒たち非常口まで誘導しようとしているが、すでに牛は牛舎の中に入り生徒たちに向かおうとしている。

先生は生徒たちを庇おうと走り出すが、距離が近いため間に合わない。

一人の女の子が怯えながら牛を見つめると――。

 

 

『落ち着きな、じゃないとモテないぜ』

 

 

何かがぶつかる音が一瞬した。目の前には殺生院が暴れていた牛を下からすくうように抑えていた。それも、牛の頭の方から。

他の人は全員あっけらかんとしていおり、唯一殺生院だけは先ほどの子牛とは違い大きな牛を撫でながら、だんだんと頭のほうへと手を移動させる。

牛も先ほどのような怒声と思われる声をあげず、今では落ち着きを取り戻し安らいでいる。

この牛の放牧を担当していたと思わしき人物は息を荒げながら、牛舎に入ってきた。

 

 

『だ、大丈夫だったかッ。ハァハァ、さっき、ハァさっき近くで放牧していたんだが……ハァ。森林から突然でてきたヘビにビビッてな………こいつたぶん発情期迎えているから、それでいつも以上に興奮しだして……ハァハァ。けが人はいないかッ』

 

『いや、幸いけが人は0だ。この牛は念のために獣医さんに診てもらうとして………助かったよ、殺生院』

 

『なにいってんスか。自分、力だけが取り柄なんでなんてことないですよ』

 

 

それぞれ安堵しながら、最悪なことが起こらなくて喜んでいる。殺生院は頬を人差し指でかきながらも、先生に褒められて照れている。

そんな中に、子牛の寝床を整備していた先生が大声をあげた。

 

 

『あっ!!! いなくなってる!!!』

 

『え…』

 

 

先ほどまで殺生院に懐いていた子牛はこつぜんと姿を消していた。牛舎の外を見ればまだ子牛の足跡らしきのがあり、たぶん暴れていた牛の声を聴いて外に逃げていったのだろう。

ヤバいとと頭の中で鐘をならし、殺生院は勢いよく外に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

――――――と、これがさきほどまでの経緯である。

殺生院はこの子牛を見つけるために迷子へと転職し、子牛というパートナーを手に入れたのであった。

 

 

「どうすっかなぁ、帰ろうにも突然飛び出したから怒られるだろうしな。どう穏便にするかが問題だ」

 

 

殺生院悩む。

下手にやれば先生たちに不審な目で見られるのは目に見えている。なら、どうすればいいか?

重い足取りで来た道を戻り、今度は子牛を離れさせないようにわざと裾を吸わせながら進む。

 

 

「なぁ、俺はどうすればいいかな? 『迷子になりました、許してテヘペロ』とか、いったら大丈夫かな?』

 

『モ~』

 

「なに? 『許してちょんまげ、の路線でいこう』だと? お前さん、俺より年下なのにその世代なのかよ、さすがは大自然の巨乳だな」

 

『モ~』

 

「あぁ、お前オスだったのか。なら大自然の巨こ」

 

 

ん、と言いそうになるところで大きな何かに当たり言葉を遮られた。木にしてはやわらかいし、なにより毛があった。

前をみても黒いなにかしか見えないが、目線をすこしあげるとそれがなにかわかった。

 

 

「みつけた」

 

「こ、こ黒王○!!?」

 

 

 

ここは家畜や作物、自然と共存し学業を学べる北海道の数ある農業高校の一つ。

『大蝦夷農業高等学校』

これはある意味深い男と、夢を諦めていた女の子の甘酸っぱいストーリーである。




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