主人公と遭遇しました。
ナルトのペンキ攻撃によって髪やら服やらベッタベタにペイントされた子供たちはキャンキャン怒っている。
「サイアク…もう落ちないじゃない、これ」
「やばんだわ!サイテーー!」
「髪までかかった…ありえねー」
「へっへーんだ!ザマミロ!!悔しかったらここまでおーいでぇ!!」
かすかに覚えのある悪童ぶりである。
く、クソガキだァーー!!
私若いころに夢小説読みすぎたんだなあ。
可憐なちびナルトなどいない。
原作初期のクソガキっぷりだ。思わず拳骨かましたくなった私悪くない。
そして怒れるちびっこを更に挑発しようとするナルト。
子供たちはしかし、そんなナルトをひと睨みしただけで背を向けた。
「ほんっとムカつく…消えてよね」
「お母さんいないからあんなに乱暴なのよ」
「まじでウゼー。かかわらねーようにしようぜ」
「え、おいお前ら……っ!!」
取っ組み合いの喧嘩になるかと思われたけど、意外にも子供たちはあっさり引いてナルトから距離をとる。
拍子抜けしたのはナルトも同じで、慌てた様子で彼らに追いすがったのだが。
「わっ!!」
石につまずいて盛大に転び
↓
ペンキ缶が手からすっぽ抜け
↓
ひっくり返った缶から中身がナルト自身に景気よく降りかかる
というコンボが繰り広げられるのを、私は呆然と見ていた。
ドリフかな?
さすが漫画の世界。
「…プッ」
「アハハハハ!バカじゃねーの!」
少しの沈黙のあと、どっと笑いが起きた。
自分たちよりたっぷりのペンキを引っかぶったナルトを見て、子供たちは彼を罵る。
「いい気味」
「そんなんだからともだちいないのよね」
「あんなのほっといて帰ろうぜ」
「バーカ」
…おおう、すんごい嫌われようだ。
九尾のことで意地悪されるのは可哀想だし理不尽だと思うけど、今の件については当然の報いといえよう。自業自得だ。
子どもたちは思い思いにナルトを罵りながら、さっさと帰ってしまった。
ナルトはと言えば、擦りむいたひざ小僧をおさえてうずくまっていている。
妙に静かだと思ったら小さな肩がときどき上下しているのが分かって動揺した。
な、泣いてる。マジか。
漫画やアニメでは、嫌われていても、寂しそうでも、涙なんて見たことがなかった気がする…
キャラクターなのになんて思って、ひどいことを考えている自分に気付いた。
生きてるし、人なんだ。
考えるし、悲しんだりする。
同じ次元に生きていて同じ空気を吸っている。
キャラクターなんかじゃない。
そんな当たり前のことに、衝撃を受けた。
そして衝撃を受けてる自分に一番、驚いた。
思えば可哀想な子だ。
家族がいなくて、腹にいる九尾のせいで嫌われていて。
里の人々は九尾とナルトを同一視している。大事なわが子を脅威から遠ざけたいと考える。あの子と遊んではいけないよと教える。
そう言い含められている子供たちへ、たとえばまともに接していたって、友達なんかできなかっただろう。
陽気でおバカなクソガキ。表面だけを見るとそうなんだろう。
でも、あんな悪戯も、みんなに構ってほしくてしたのだと分かる。
丸くなった背中がひたすら哀れでたまらなくなった。
私とナルト以外誰もいなくなった広場で、私はその背中に近付いて声をかけた。
「あの。大丈夫?」
「!!?うわっ!?」
まだ人が残っていると思わなかったのか、ナルトは驚いて弾かれたように顔を上げた。
こちらを向いた眼もとが赤い。
やっぱり泣いてたんだと気付くと同時に、バシャッと不吉な音を聞いて私は凍りつく。
……おいまさか。
「「あ……」」
スカートに斬新なアートォォォォ!!!
驚いた拍子に、ナルトはハケを持ったままの腕を振り上げてしまったらしい。
撥ねたペンキが、私のワンピースの隅にべたっと付着していた。
てめぇスカートなんてこれ一着しか持ってねーのになんて事を…
一張羅を駄目にされて貧乏魂に着火しかけたけれども、私は堪えた。
そう、相手は子どもだ。いったいお前は何年生きているんだ、大人な対応をするのだシャムよ。
私は気を取り直し、しゃがんだままで固まっているナルトへ手を差し伸べた。
「転んでたでしょ?怪我とかしてない?」
「っ、だいじょうぶ……すぐ、なおる」
「ほんとに?」
遠目にけっこう痛そうな擦り傷が見えたのだ。
強がってるのかと思ったけど、半ズボンの下の膝小僧は無傷だった。
一瞬怪訝に思ったけど、九尾の力で治癒力が半端なく高いんだっけ。忘れてた。
こういうところも気味悪がられてしまう一因なんだろう。今後なるべく人前で怪我をしないといいんだけど…。
「……そう?じゃ、ペンキ、片付けよっか」
「……うん」
そうして私とナルトは、広場に飛び散ったペンキの後始末(上から砂かけるだけ)をざっとした。
ペンキの空き缶はあとでゴミ箱に捨てよう。
私は、頭からかぶったペンキのせいで全身真っ黄色のナルトに向かい合った。
問題はこっちなんだよね。
ナルトは声をかけた時からずっと怯えた顔のままだ。叱られた子犬みたいな態度のナルトに、私は極力優しく聞こえるように意識して口を開いた。
「うーん、その服はもう駄目だね…。
ペンキって、一度ついたら落ちないんだよ。もう捨てなきゃいけないの。髪もこれ、けっこう刈らないとだねえ」
服は言わずもがな、元から黄色いから目立たないけどよく見ると髪の毛までべったりだ。
すでに乾いてバリバリになっている。ちょっと切るだけじゃどうしようもなさそうなレベルだ。どう足掻いてもバリカン不可避。しばらく坊主頭だろうなと想像してちょっと笑ってしまったのは許してほしい。
「悪戯もほどほどにね。
女の子の髪にかかってたら嫌われるどころか殺されてるよ」
「…っ、おまえも」
「ん?」
「おまえも、オレのこと、嫌いになる……?」
「……まあ…わざとされたら殺意かも」
「っ!」
からかい半分でちょっと本音を漏らすと、でっかい眼がすぐ潤みだした。
どうやらちゃんと反省しているみたいだから、お節介のお説教はもうやめにする。
取り返しのつかない悪戯はしちゃいけない。それが分かってくれたらいいなと思ったのだ。
ナルトと九尾は別の存在だって理解している大人として、教えてあげたかった。
きっと、今のナルトをちゃんと叱ってくれる人はとても少ないだろうから。
「もういいよ。嫌いじゃないから泣かないでよ」
「……ほんとに…? でも、服…オレ……」
「いいってば」
ナルトがまだ気にしてるのをちょっと意外に思いつつ、私は自分の汚れの具合を確かめた。
黒い無地のワンピース。端っこに、黄色いペンキがちょっと撥ねただけだった。
ナルトの手にぶら下がるペンキ缶を見て私は閃く。まだ着られるかもしれない。
「ねえ、それちょっと貸りていい?」
「…え? う、うん」
怪訝そうなナルトからペンキ缶とハケを受け取って、私はスカートの汚れに上書きをした。
ぎょっとして固まったナルトを横目にハケを滑らせ、黄色のボーダーを数本描き足せば、さっき撥ねたペンキの跡はすっかり隠れる。
よし。もともとこういう柄の服に見えなくもない。着たままだから描きづらかったけど、我ながら上出来である。
「これでまだ着られるから、大丈夫だよ」
「…すげえ!じょうず!似合ってるってば」
「そ?ありがとよ」
私の思い付きに、ナルトはちょっと感動したみたいだった。
何せ元美術部よ。褒められて悪い気はしないのでエッヘンと胸を張る。
洗濯に耐えられるかどうかは謎だけどね。剥げるだけならまだしも他の服に色移りしてはたまらないのでしばらくは別洗いだ。
でもこの子にそれを言う必要はない。やっと笑顔を見せてくれたからオールオッケーだ。
「それじゃ私は帰るね。きみも気を付けて」
「うん。かたづけ手伝ってくれて、ありがとってば…」
帰ると言った瞬間シューンとめちゃくちゃ寂しそうな顔をされた。なんだこの可愛い生き物。
一瞬でほだされたけど私べつにショタコンじゃない。
どちらかと言うとシブイおじさまが好みだから信じてほしい。
萎れた肩に後ろ髪を引かれる思いだが、そろそろ帰らないと姉さんが心配する。
こっそり帰って書類をぱぱっと隠し何食わぬ顔でただいまを言うのがベストなのに、玄関先で待ち構えられていたら詰みだ。
そうだ、書類は一旦ベランダに隠して、普通に玄関から帰宅しよう。隠した書類は後で姉さんの目を盗んで回収すればいい。
と歩きながらそこまで考えて、そこで初めて自分が手ぶらなのに気付いた私マヌケすぎる。
え、まじで?
「ノオオオオオ!書類どこ!?まさか落とし…どこに!?」
「――ーい、おーい、なあってば!」
パニックに陥る私に追いすがって声をかけたのは、ついさっき公園で別れたナルト少年だった。
「これ、忘れてる……」
「へ?」
息を切らしているのは走って追いかけてくれたからだろう。
その手にはまさに私の書類の入った封筒がある。
お前が神か。
「大事なもん、だろ?」
「うん、うん!ありがとう助かった!ねえこれどこに落ちてた?」
「公園の、ブランコの上に…」
「Oh…なるほど」
おそらくナルトに声をかけた時に置きっぱなしにしちゃったんだろう。私のアホ。
個人情報満載の書類である。仕事なら考えられないミスだ。超凹む。
この世界で一般市民ひとりの個人情報がどれほどの価値を持つのか知らないけど、自分が許せん…。
「…もしかして、アカデミーいくの?」
地味に落ち込む私に書類を手渡しながら、ナルトが尋ねた。
封筒には大きく「忍者学校入学のご案内」と印字されている。
そういえばこの子同い年だし、同じ書類を最近手にしたのかもしれない。
頷いて肯定すると、ナルトははにかんで変な顔をした。
嬉しそうな、不安そうな?ほっぺたが紅潮しててとにかく変な顔だった。
「オレもっ、アカデミー、通うんだってば。らいねん、だからその…」
「うん」
言葉が尻つぼみになってしまっているが、まだ何か言いたげにしているので私は待った。
しばらくモニョモニョするとナルトは意を決して、というように口を開く。
「と、ともだちに、なってください!!」
「(……おっっ前って子はもう……)」
私は思わず天を仰いだ。
こんなに素直な子だったのか。
劣悪な育成環境にあってどうしてこんなに真っすぐ育つことができたのか。
あまりのピュアさに打ちひしがれる。
言葉に詰まっているとナルトがもっと不安そうな顔をしたので、私はあわてて返事をした。
「っそんなことか!いいよいいよ!どんと来いだよ!こちらこそよろしく!!」
「っ、ほんとか!?」
何故かキレ気味に返してしまったというのにナルトは嬉しそうだ。
というか現在Friend/zeroの私的にも願ったり叶ったりの話じゃん。
お互い友達第一号だね!よろしく!たのむ!
ナルトは何かまたちょっと泣いてる。
嬉し泣きとかやめろ。願いだから涙を拭いてくれ。お姉さんもらい泣きしちゃう。
私若いころに夢小説読みすぎたんだなあ。
悪辣なスレナルなどいない。
大人を泣かせるんじゃないよォ!!
「お、おれ、おれってば、ナルト。うずまきナルト」
「よろしくね、ナルト。私は東天紅シャム。シャムでいいよ」
こうして私たちは友達になった。
次の日、同じ公園で待ち合わせてやって来たナルトは髪を短く刈っていた。晴れ晴れしい笑顔に私もニッコリした。
オウ、なかなか似合ってるじゃないの。