東天紅の子   作:かしみや

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【005】ゆとりじゃない!!!!

 

 

姉さんの「お土産」。

それは14年前に撮影されたというウエディングフォトだった。

新婚の父さん母さんと2人の後ろで仏頂面してるおじいちゃん。

私はそこで初めて、姉さん以外の家族の姿を見た。

 

母さん。

綺麗な人だ。うちは一族の血が濃そうな、黒髪の美人さん。姉さんと、顔がとてもよく似てる。

白無垢を着て頬を染めて、幸せそうに微笑んでいる。

父さん。

優しそうな人だ。幸せで今にも死にそうな、砂糖菓子みたいなフニャフニャの顔で写っている。

顔がだらしないぞ。お母さんにベタボレだったんだなあ。

 

お祖父ちゃん。

めでたい日なのに、めちゃくちゃしかめっ面で写っている強面のお爺さん。頑固そう。

お歳のわりに見事な黒髪の中、一筋だけ赤い部分があるのが目を引く。

黒に赤のメッシュですか。

なかなかシャレオツですね……

 

ところでアンタどっかでお会いしませんでしたかね……

 

ああうん

コイツだよコイツ!!

私を拉致虐待して殺害したのコイツ!!!

 

脳みそがものすごい勢いで回転して、今までずっと気にかかっていた謎が解けたような気がする。

1秒が恐ろしくゆっくりに感じて、頭の片隅で「ハッ!アハ体験!」とアホな事を考える余裕すらあった。

 

なんと私(パン屋の娘)をモルモットにして散々嬲って挙句殺したマッドサイエンティストは、

私(東天紅の娘)と血のつながった家族(お祖父ちゃん)だったのだ。

 

――いや、本当は気付いていた。あのジジイが東天紅シャムのお祖父ちゃん、東天紅チャボだという事くらい。

九尾が現れて研究所が破壊されたあと、血相変えたジジイが連れてきた血まみれの女性は、きっと母さんだった。

そしてお母さんの腕の中に守られていた赤ん坊がきっと、生まれたばかりのシャム。

あえて考えないように、頭の隅に追いやっていただけで。

考えたところで真実を知るすべはないし、ムカつくだけだと分かってたから。

 

パン屋の娘だった私が死んだあの日の真相はおそらくこうだ。

私はやっぱり、一度目のように「転生」をしたわけじゃない。

現在私が憑依しちゃってるこの体は、あの時ジジイが運んできた赤ん坊のものだ。

 

そして本当なら術の対象は私じゃなくてあの二人だった。

あのとき奴は遠くに転がる私の存在なんて忘れてただろう。ガン無視されてたし、器械に繋がれていたのはお母さんと赤子(シャム)だし、こうなってしまったのは完全に手違いで事故だったに違いない。印を組んだ後、力強く開いた手も母さんとシャムに向けられていたのに。どういう手違いが起きたのかは、私にも分かんないけど。

 

とにかくジジイは娘の命を助けようとした。あの術は、死んでしまいそうだった母さんの命を繋ぐための術だったんだろう。

「ジジイ自身、もしくはシャムの生命エネルギー的なものを母さんに分け与える」というような。

失敗してしまったけど、最期の力を振り絞って、娘を助けようとしたと。

 

……いや、違う。

私は自分でこの仮説を否定した。

 

姉さんから見て、東天紅チャボという人は――

頑固で厳しい人だったけど、彼は彼なりに家族を大事にしていた良き祖父だったようだ。

誰かにとって憎むべき殺人鬼である者が、誰かにとっては愛すべき家族だった……なんてよくある話だけど。

 

果たしてその男は東天紅家の人たちにとって「愛すべき家族」であったのか。

私にはそれも疑問だ。

 

もしかしてあの男は、

「孫の体」に「娘の魂」を移そうとしていたんじゃないか?

 

私にはこの世界の科学技術や高等忍術のことは分からないけど、私の身の上に起きた結果をみるに、あの術は「生命力を分け与える」というよりは、「精神を他人に移す術」だったように思う。

しかも、生前研究所で聞いたアイツの言動を思い出してみれば、その術では精神は「共存」ではなく「上書き」されるもの。

 

つまりは、

娘だけを救うつもりだったんだ。

まだ赤ん坊だった孫娘を犠牲にして。

 

そう考えると、胸がすっと冷えるような心地がした。

この感情は軽蔑であり、落胆だ。

 

断定はもちろんできない。

あの男に痛めつけられた経験や記憶が、こんな想像をさせるのかもしれない。

私を害した人間が、実は家族思いの良いやつであってたまるかと思い込みたいのかもしれない。

だけどもう私にはそうとしか考えられなかった。

 

だって、あいつは「命には序列がある」と言った。

見ず知らずの人をモルモットのように扱える人間だった。

そして、シャムは無傷だった。

自分自身ではなく、無傷の孫だけを機械につないだ意味は…?

 

もしこの胸糞悪い説が正解だったとしたら。

何かの手違いで私がINしちゃったけど、術が成功していた場合は、この体には『母さんの精神』が入っていたはず。ちいさな赤ん坊の魂は、どこかへ行ってしまって。

えげつねえ。

それで生き永らえたとして、母さん本人が喜ぶわけがないのに。

アサヒ姉さんの昔話を聞く限り、母さんは、めっちゃ子煩悩な優しいお母さんだったはずだ。

自分の命のために、我が子を生贄にして平気でいられるような人間だったとは思えない。

父親の手によって娘が殺されたと知れば、憎んだだろう。

 

あの男は、たとえ自分が憎まれたとしても、娘に生きていてほしかったのかな。

そうだとしたら、なんというエゴだろう。

母さんにとって、きっと何より大切なものは我が子だったはずなのに。

 

個人の視点に立てば、人間の命の重さは平等じゃない。それは分かる。

自分にとって大切な人と、赤の他人とだったら比べるまでもないから。私だってそうだ。

それでも、悪いけど、チャボという男は人として大事な何かが壊れてるとしか思えない。

無関係の人間をさらい利用して、愛する人の子供をも犠牲にした。

もしかしたら、忍社会特有の何か重大な事情があったのかもしれないけど。

何にせよ私の理解の及ばない次元の話だ。分かりたくもないとも思った。

 

 

「シャム、大丈夫ですか?少し休みますか」

「あ、いや大丈夫です。まだいけます」

 

物思いに耽っていると、隣で高速腕立て伏せしていたリーさんが、同じく腕立て伏せ(標準スピード)をする私を気遣ってくれた。

もうやめよう、あの男のことを考えるのは。

「そうですか。では続けましょう。ノルマまであと少しですよ!」と腕立て伏せを再開したリーさん。幼いながらも紳士なのである。

 

リーさんは、一歳年上のゲジゲジ眉毛がトレードマークの男の子。彼と私は現在、毎日こうして一緒に鍛錬をする仲だ。

初めてナルトのほかに修行仲間ができた私は、このところ年相応に、健全に青春しているんじゃないかと思う。

彼と出会ったきっかけは、この冬が始まる頃のことだった。

 

忍者学校(アカデミー)のシステムは、日本の小学校のそれとよく似ている。

私やナルトのように早くから入学する子供もいるけど、大体の生徒は6~7歳で入学し、平均して6年間かけて卒業してゆくみたいだ。

忍者の学校というのだから、入学前までは戦闘に関することばかり学ぶのかと思っていた。

けど実際は、入学してからの一年間は読み書き計算などの一般教養を勉強することになった。

座学に関して言えば、いまさら平仮名だの足し算引き算だのさせられるのかと思うとゲンナリしたものだけど、いかに字を美しく書くかとか、暗号文を作って勝手に計算を難しくしてみるとか、そういう楽しみ方をしてたから意外と充実したものだったかもしれない。

 

体術の授業も、生徒たちの身体能力はオリンピック選手並だけどやってることは体育と同じ。たまに組手をするけど、基本は走り込みとか器械運動とか、身体づくりがメインの内容だ。年齢を考慮すれば当然か。

2年目でようやく、訓練用の刃をつぶしたクナイを持たされたくらいだ。木の葉の忍者養成機関、生徒に対して意外と過保護である。入学前に大仰な同意書を書かされた身としては正直拍子抜けしたよね。

いや私としては大歓迎だけど。怪我しないのに越したことはない。過保護万歳。

大戦時代ならこんなにのびのびと育ててもいられなかっただろうから、いまの平和を築いてくれた全ての人に感謝したい。

 

そんな意外とヌルい(失礼)忍者学校のカリキュラムだけど、日本の学校と大きく違うところが、実力主義だという点である。

定期的に実力テストというものがあって、座学、体術、忍術すべての科目で一定の成績を収めねば卒業どころか次のカリキュラムに進むこともできない。

出席さえしていれば、成績に関わらず自動的に学年が繰り上がる小学校と違って、アカデミーではデキる奴はどんどん飛び級していくし、出来ない奴はいつまでも一年生のまま。慈悲はない。

まあ仕方のないことだった。1年生の間はそれこそランドセルの似合いそうな子供たちだけど、一般教養を一通り習得したあとは本格的に忍術を学んでいくことになる。

忍術や体術の授業は危険を伴うものになってくるから、実力の伴わない者を参加させるわけにはいかないもんね。

 

そして私はというと、座学と体術はクリアしているものの、忍術のテストに初回から連続で落ち続けていた。

基本中の基本、身代わりの術ができなくて。

今年度最後になる秋のテストにも落第し、めでたくもなく留年が決まってしまった。

救いとも言えないけど、仲間はいる。ナルトも一緒に試験に落第し続けていたため、私たちは二人仲良く留年決定だ。悲しいね。

 

私もナルトも、チャクラをうまく練ることができない。

通常なら教えられずとも、無意識下で行えるような、ごく基礎的なチャクラコントロールすらできないのだ。

原因はおそらく、それぞれの特殊な境遇と体質にある。

だけど試験を担当する教師は、私たちの事情を知る由もない。落ちこぼれの烙印を押されてしまったのは仕方のない事だ。

 

とはいえ、ナルトは主人公。細かいことは覚えてないけど、生まれ持った才能の助けもあって、いつか入学してくるであろうサスケやサクラたちと一緒に卒業できることは確実だ。

思うに彼が術を失敗する原因は、膨大なチャクラを有するために、使用する分のチャクラ量をうまく調節できていないためだ。

基礎体力とチャクラのコントロールを身に着ければ、忍術なんて膨大なチャクラ量を味方につけてめきめき上達するはず。

現に、テストの課題である「代わり身の術」も、あと一歩というところまでは持っていけてる。ナルトは大丈夫だろう。

 

だがしかし。私については何の保証もない。

魂と肉体、本来なら別々だった2人の人間が1つになってしまったのが「東天紅シャム」という存在だ。

原作では今の私のように、他人の体に憑依して生きてた人物がいたし、そいつは普通に忍術を使いこなしてたけど、よくよく考えてみるとそれは尋常なことじゃない。

忍術は、読者だったころにそう思っていたほど万能じゃないのだ。

 

自分の体の事だから、歩けるようになってすぐ図書館に通い詰めて、一般人にも閲覧できるレベルの資料は読みつくした。

そうしてみて分かったけど、この世界の常識から言っても「魂を他人に移す技術」なぞマジイミフである。

 

普通のやり方でチャクラが練れないんなら、他人同士の精神エネルギーと身体エネルギーを調和させる方法はないかと思って探したけど、まず精神エネルギーと身体エネルギーを切り離すなどという発想をする人はいなかったようで、有益な情報は何も出てこなかった。今のところはお手上げ状態だ。

大蛇丸とかいう中ボスならドンピシャの研究をしてたはずだけど、とても手を出せる領域じゃない。

 

忍者であれば閲覧できる資料はぐんと増えるのに…。その忍者になるために忍術ができなければダメだっていうんだから、どうしようもない。

 

このままでは忍者になるどころか、来たる里の危機から身を守ることすらできないんじゃないかと、私はめちゃくちゃ焦っていた。

いっそ姉さんと一緒に、忍の来ない人里離れた山の中にでも暮らしたほうがいいかもしれないと思い始めていたのだが。

 

『忍術は全く使えないが、体術の成績が良かったため、特例として進級した生徒がいる』

 

そんな噂を聞いて私は一縷の希望を見出した。

ぶっちゃけると私は、忍者として出世はできなくても、卒業さえできればそれでよかった。

卒業して忍にさえなってしまえば、禁書の一部の閲覧許可をもらえる。

ジジイが使ったあの術に似た技術がないか調べ、仕組みや原因が分かれば、何か工夫をして、忍術が使えるようになるかもしれない。

 

居ても立ってもいられなくなった私はすぐさま校舎内を駆けずり回り、噂の彼を探し出して接触したのだ。

 

「え、はい、ロック・リーは僕ですが…」

 

鬼気迫る表情の私に若干引きつつも話を聞いてくれたリーさん。これが出会いだった。

 

果たして噂は本当だった。

リーさんは、体内のチャクラそのものは感じることができるものの、コントロールがドヘタなのか、忍術を一つも使えないのだ。

そんな彼だけど、試験担当の教師に頼み込んで「体術だけでも戦えます」と自分の才能を示し、本人たっての強い希望で、卒業までは様子を見ようということに決まったのだという。

 

その話を聞いて、私はハッとした。

私は座学と体術は常に上位をキープしている。なのにリーさんのように、忍術の試験を免除されることなかった。

試験を免除してもらった彼と、一方成績は良かったのに落とされた私。その違いは何か。

 

それは……相手の心を動かす熱意だ。

 

「無理を言って、体術のテストの点数の半分を、忍術に入れてもらったんです」

 

とリーさんは教えてくれた。その無理を通すために、土下座までして呆れられたのだとも。

 

それに比べ私は何のリアクションを起こすこともなかった。

落ちるのが分かり切っている試験だからと、失敗したあとは壇上からそそくさと退場していた。

教師を説得してみるだなんて、考えた事も無かったのだ。

 

そういえば私は、「子供の中に1人混じった大人」という環境に気恥ずかしさがあったせいで、がむしゃらな姿勢を見せることを「大人げないこと」と思っていた節がある…かもしれない。

いや、生存率を少しでも上げるために体術の修行は欠かさなかったし、けっして怠けていたわけじゃないんだけど。

けど「人前で努力することは恥ずかしい」と思っていた私のアカデミーでの姿は、先生方からすればさぞ冷めた子供に見えたことだろう。

組手では一度も攻撃を当てられた事がない、身のこなしを評価してもらってるから体術の成績はいいけど、相変わらずビビりまくってるし。

忍者になりたくないんじゃねーの?とすら思われていそうだ。

この覇気の無さといったら、まるで就活地獄のさ中でさんざん囁かれた「ゆとり世代」そのものじゃないですか……。

違う…違うんです……

 

ちっぽけなプライドはポイして、リーさんのように真っすぐ頼んでみればよかったのだ。

なんてもったいないことを……。私はもう少し、少年の心を取り戻す必要があるようだ。

 

「リーさん、もしよろしければ修行ご一緒してもいいですか」

「?はい、それは構いませんが……無理はしないでくださいね!」

「ありがとうございます」

 

リーさんマジ紳士。

こうして私は弟子入りを果たしたのだった。

 

弟子入りといっても私が勝手にそう言ってまわってるだけで、やっていることと言えば、ただリーさんの後ろについて同じメニューのとレーニングをしているだけだ。私のノルマは彼に比べて少な目にしてあるけど。

筋トレご一緒していいですかと言ったあの日から、走り込みにうさぎ跳びに逆立ち歩行。リーさんの後ろについてまわる私の姿はさながら金魚のフン。

彼を見習ってもっと我武者羅に努力してみようという前向きな気持ちが大半だったけど、2割くらいは「この姿をどこかで見ているだろう先生方への印象アップ」というゲスい目的があった汚い大人には金魚のフンがお似合いだ。

それでも私はやるぞ。私と姉さんの将来のために絶対忍者になってやるのだ。

時々リーさんが眩しすぎて真っ直ぐ見れないけど、それでもお前の側にいていいかな……?

 

肝心なNARUTO知識は飛んでる癖に、なんで他の漫画のセリフは一字一句覚えてるんだ私は。

とにかく進級できるまではお供させてくださいな。

 

 

 * * * * *

 

 

赤子のころ、つかまり立ちをして歩けるようになった瞬間から体を鍛え始めた私だけど、彼についていくのはかなりきつかった。

瞬発力はけっこうある方でも、持久力、体力はそこそこだったのだ。

過酷なトレーニングを終えて家に帰れば、食事も風呂も投げて泥のように眠る日々。

私が寝落ちした後も数時間修行を続けているというリーさんは化け物だと思う。

そんな生活を続けてしばらく、最近やっと帰宅後に晩御飯を食べる余裕が出てきた。私も順調に化け物じみていってるのだろうか。

 

そんなある日のこと。

座学のテストがやばいということで、その日リーさんは珍しく(本当に珍しく)修行をお休みしていた。

どこにいるのか、ナルトも捕まらず、私は一人でいつものメニューをこなしていたのだが、里内走り込み30週目に突入したあたりで背後から声がかかった。

 

「東天紅シャムだな」

「はい…?」

 

夕方のそこそこ賑わっている商店街の片隅で、男の忍が一人立っている。

ごく普通の木ノ葉ベストを着た忍だけど、能面みたいな無表情がちょっと怖いと思ってしまった。

知らない顔だ。

 

「えっと、いかにも私が東天紅シャムです…何かご用でしょうか」

「………」

 

オイ溜めるな。一体何の用だ。

私なんかしたっけ……

 

何故か叱られるのを待つ子供のような気分になってしまって居心地が悪い。

あんまり嬉しくない用事のような、気がする。

心当たりもないのに漠然とした不安に冷や汗が出そうになった時、名前も知らない忍が言った。

 

 

「ついて来い。ダンゾウ様がお呼びだ」

 

 

 

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