東天紅の子   作:かしみや

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【006】足音

 

無表情の忍の案内で、詰め所に入り、廊下を抜け、地下に降りる。

受付のフロアはこれから任務に向かう人や、逆に任務帰りで報告に来た人なんかでそこそこ賑わっていたのに、階段を下りたあたりからはひと気が急に少なくなった。どんどん奥まったところに進んでいく。

途中で動物を模った奇妙なお面を付けた忍とすれ違った。あれが暗部か。初めて生で見た。ヤバそうな臭いがプンプンする。忍でもないアカデミー生(しかも6歳児)の私が入っていい場所じゃない気がするんだけど…。

 

――随分歩くな。一体どこまで行くのやら。

鍛えてるから歩き疲れたりとかは全然しないけど、空気が重すぎて気疲れしてきた。ここまでずっと無言を貫いてる案内人の存在と相まってかなり居心地が悪いんですが。

 

同じような眺めがずっと続く廊下に飽き飽きしてきたところで、案内役の忍が立ち止まった。扉に表札はない。

ノックのあと硬い声で「失礼します」と言って入室した彼に続いて中に入る。

広くて薄暗い部屋の中央に、いかにも重役という厳格な雰囲気の老人が座しましていて私はチビりそう。

 

「(わーいマジで6歳のジャリガキが面会する相手じゃないよー!)」

 

頭と顔の右半分を包帯で覆った、顎にバッテン傷のある男。

志村ダンゾウ――木の葉の重役のひとり。

木ノ葉の暗部養成部門「根」のリーダーで、木の葉の裏の部分を牛耳っている人物だ。

っていうのはこの里で暮らす者共通の認識であり、私はそれより多くの情報を持ち合わせてはいない。実際に顔を見たのも初めてだ。

 

重要人物っぽいのに、虫食いの原作知識の中にこの人のことは残っていなかった。

私の知識の偏りに大きいも小さいも無く、重大な情報でもすっぽ抜けてたりするから、たとえばこの人がワルそうな見た目に反してとびきりの人格者であっても、その反対に世界征服を目論むNARUTO界のラスボスだったとしても、私には判断ができない。

ただこの人が就いてるポストの性質を考えると、つい警戒してしまう。

遠くない未来に世界を揺るがす何かが起こるとそれだけは知っている私としては、力のある人間は誰も彼も怪しく見えてしまうんだけど。

 

とにかく偉い人だもんね。私は神経を張り巡らせて礼をとった。

三代目火影という里のトップに会った時はこれほど気を使わなかったのにってのはまあ、場の雰囲気がね。

 

「東天紅シャムです」

「よく来たな。話は聞いている。お前は忍術が使えないそうだが、その他の能力は目を瞠るものがあると」

「とんでもない、もったいないお言葉です」

 

恐縮どころかおったまげた。何度も試験に落ちている落第生に対しての評価としてまったく相応しくない。

こんなに偉い人の耳に入るほど自分が優秀だなんてとても思えないんだけど。担当教師にはため息ばかりつかれるのに、ここにきてどうしてそんなに過大評価されるのか。

親の七光りって忍社会でも有効だったんだろうか。

聞いた話でしかないが優秀だったらしいお母さんや、忌々しい祖父の顔が浮かんだ。

 

それとも何か企んでいるんだろうか。ヨイショして手のひらで転がしてやろうってか。

簡単には騙されてやらないぞ私は。ヌケサクのチキン女とはいえ、見たままの6歳児とはそりゃ違うのだ。

 

「して、眼はどうだ」

「眼?ですか?」

 

唐突な質問に思わずオウム返しした私の、ちょっと失礼なリアクションに対しては何も言わず、ダンゾウ様の口からは予想外のワードが続けて出てきた。

 

「写輪眼は開かぬか」

「いえ……」

 

イヤ無理ですよ。変わり身の術もできないのに。

うちは一族にしか発現しない故に謎が多い能力だけど、さすがにチャクラコントロールもままならん幼児に使えるわけがない。

まして私は純血の「うちは」ってわけでもないし。

 

「お前の母親、東天紅タマは、写輪眼を開眼しておった。木ノ葉上層部の者以外には隠していたようだがな」

「…知りませんでした」

 

そうなの!?母さん、写輪眼使えたんだ…。

ひいおばあちゃんがうちは一族で、ひいおじいちゃんが、一般の家出身の民間人。

その間に生まれた、ハーフ?(というべきなのか)の東天紅チャボ。

「うちは」ではないけど、そこそこの名家出身のおばあちゃんとチャボの間に生まれたのが母さんだ。

優秀だとは聞いてたけど、開眼が本当なら結構すごい事じゃないだろうか。3世代越しの隔世遺伝だ。やるな母さん。

 

……なんてのんきに感心してる場合じゃないよね。

 

以前それなりに調べたけど、よその血が混ざっても写輪眼が発現した例なんて聞いたことない。

そもそもが、写輪眼を持ちながら一族以外の者と結ばれた人なんていなかったから、当然の事と言えるけど。

ひいばあちゃんだって、開眼してなくて半人前の扱いだったからこそ、ひいじいちゃんと結婚できたのだ。

 

だから母さん自身が開眼したと言っても、信じる者がいるかどうか。

「うちは一族の誰かから眼を奪ったのだ」と、疑われるかもしれない。

母さんは、うちはと争いたくなかったから、自分の眼を隠したのかな。

 

嫌な予感の通り、ダンゾウ様のお話は不穏な方向に進んでいらっしゃった。

 

「お前は知らされておらんだろうが――死体が見つかっておらんのだ」

「……え?」

「あの『大災害』の後、お前の父親や祖父の死体は発見され、他の犠牲者と共に弔われたが…その祖父と一緒におったはずの東天紅タマの死体だけは見つからなんだ。ワシは、うちは一族に奪われたのではないかと睨んでおる」

「それは…写輪眼を持ってたからですか」

「そうだ。死体に残された写輪眼から、里に一族の秘密が渡るのを恐れたのだろう。あやつらは、木ノ葉によからぬ感情を持っておる」

「よからぬ、感情――」

「お前はまだ幼いから知らぬだろう。木ノ葉とうちは一族の間には、創設期からの根深い因縁がある。奴らの逆恨みに過ぎぬモノだがな。

そして『うちは』の血を引きながらも、身柄が一族の管理下にないのは現在、お前たち姉妹だけだ。もし今後写輪眼を開眼したとして、どう利用されるか分からぬ。あやつらを信用せんことだ」

 

母さんと結ばれた父さんは、忍じゃなかったけど「うちはせんべい」の息子。純血かは不明だが、正真正銘うちは一族の人間だ。

そしてその間にうまれた私とアサヒ姉さん。

ふたたび血が濃くなったともいえる存在だ。母さんが本当に開眼していたとしたら、私たちが開眼する可能性は十分ある。

そして、過去に縁の切れた一家が、一族に味方するという保証はない。取り戻せないなら、木ノ葉に一族の力が渡るくらいなら――と考えてもおかしくない。

私たち、けっこう危ない立場だったのか。

 

自分たちの生命の危機に直結するダンゾウ様の話を聞き漏らさないよう神経を使いながらも、私の意識は半分話の趣旨とは違う方向に向いていた。

 

「遺体が見つかっていない」ことの意味について考えていた。

 

あの時私は、壊れた寝台に拘束されたまま、少し離れた位置から事の成り行きを見ていただけだ。

あの人は血がたくさん出ててピクリとも動かなかったけど、脈や呼吸は確かめていない。

 

母さんの……東天紅タマと思われる女性の、生死を確かめていない。

 

 

母さん――生きてるの?

 

 

「シャムよ。写輪眼を開眼したら、誰にも気取られてはならぬぞ。火影はうちは一族擁護派だ。故に、タマの秘密もあやつらに漏れてしまった。

 開眼したらワシのもとに来い。『根』は闇の組織だ。ワシの下にいる内は、やつらの脅威から守ってやれる」

「……はい。ありがとうございます。肝に銘じます――」

 

ダンゾウ様は…駄目押しのように、「うちはの人間が九尾をけしかけたせいで、5年前の災害が起きたのだ」と言った。

けっして「うちは」を信用してはならぬ。

そう繰り返した彼に頷いて見せ、私は考え事で頭を埋めながら、部屋を後にした。

 

 

 

 * * * * *

それからしばらくして、三代目に呼び出された。

 

「シャムよ。もし写輪眼を開眼した時は、むやみに他人に知らせてはならぬ」

 

だいたいはダンゾウ様が話した内容と同じものだった。

違うのは「うちは一族を信用するな」とは言わなかったことと、

開眼したとき「自分に知らせろ」ではなく「誰か信頼できる者にだけ打ち明けろ」と言ったところだ。

疑わしいというだけで人を悪く言わなかった三代目の人の好さは信じられるかもしれないけど。

 

 

 

ひとつだけ断言できる。

 

もし写輪眼なるものを開眼できたとして。

 

 

私は■■■■には絶対報告しないだろう、という事だ。

 

 

 

 * * * * *

 

 

「お、シャムおかえり。三代目の話って何だったんだ?」

「ただいまーナルト。試験免除した分、課題たっぷり出すから覚悟しろってさ。

 それより君は次のテストで受からないと学年離れちゃうよ。早く上がっておいでね」

「うっ…!受かる!絶対受かってやるってば!!」

「うんうんその意気」

 

術の修行をするというナルトと別れて帰路につく。私はウチで進級祝いをするから鍛錬はお休みだ。

一度帰って姉さんに試験の結果を報告すれば、ささやかなご馳走の為に買い出しに出された。

日が落ちて肌寒くなってきたので、上着を羽織って家を出た。アパートの側のイチョウがほとんど葉を散らしている。冬の足音が近づいていた。

 

リーさんに倣って熱血志向に徹すること、一年と少し。

サスケとサクラその他見覚えのある顔ぶれが入学してきたり、イルカ先生の登場に感動したり、姉さんがシスイさんとラブフラグを成立させてたり、何故かサスケに目の敵にされたり、それが原因ですべての女子が私の敵になったりした――イベントが目白押しの一年の間、

私はひたすら身体を鍛え、

鍛え、

鍛えぬき、

先生方に努力を示すため、自分を苛め抜いた。

 

そうして今日、ようやく進級のお許しが出たのだが、

座学と体術の成績がトップなのに1年も足止めされていた理由が「私の年齢の低さ」だったと知らされた私の心境を述べよ。

 

いくら優秀でも、忍術の一つも使えないのに、こんなに幼いうちから進級させられないと。

私の歳がみんなと並ぶのを待っていたと。

 

 

だったら!!もっと早くそう!!言ってくれれば!!

 

トレーニングはあそこまで過酷にしなかったよ!?!?

 

 

試験の免除を必死にお願いする幼気な私に対して真実を言うのは心が痛んだのだろうか。

毎度毎度言葉を濁しやがって。

 

……いや、過ぎたことはもういいや。

想定してた以上に体力ついたし、うん。プラスに捉えよう。

 

とにかく私は晴れて進級が決まった。心配なのがナルトだ。

原作で同期だった面子がこの学年に揃った今、ナルトは次の試験に落ちるとサスケサクラと下忍チームを組めなくなってしまう。

原作乖離の危機なので何としてでも受かってほしい。彼には運命のライバル・サスケと競い合って力をつけて頂きまだ見ぬラスボスを倒してもらわなきゃいけないんだから。

世界の、ひいては私の平穏のためにも死ぬ気で頑張ってくれ。

 

術の出来は本当にあと少しってとこだから、あとはやる気次第だろう。

私に競うように鍛錬してたナルトの実力は間違いなく上がってるはず。落ちることは私と私の一年間が許さん。

 

 

「あ、シャムちゃん。こんにちは」

 

シスイさんとイタチさんだ。

商店街の肉屋で2か月ぶりの肉を包んでもらっていると、シスイさんに声をかけられた。

2人とも最近多忙だったみたいだから、こうして一緒に出歩いてるところに会うのは珍しい。

 

「こんにちは。お2人は今日オフ?」

「そんなとこ。シャムちゃんはお使いかな?」

「うん。やっと進級が決まったから、そのお祝いするの」

 

2人とも、足踏みしてた私を随分心配してくれていた。

近いうちに会いに行くつもりだったけど、こんなに早く報告ができてよかった。

 

「わ、おめでとう!頑張ってたもんなあーシャムちゃん」

「おめでとう。サスケも喜ぶ。仲のいい友達が一緒に進級できて良かったよ」

「うーんイタチさん…それはどうだろうね。でもありがとう!」

 

シスイさんは自分の事のように喜んでくれたし、イタチさんは安定のブラコン節を炸裂させつつ祝ってくれる。

私とサスケのことを喧嘩するほど仲がいいというお約束の関係だと思っているイタチさんとしては、今のも嫌味のつもりは全くないんだろうが、サスケが聞いたらムキになって怒りそうなセリフだ。

 

「でも、結局忍術は使えないままなんだ。それがちょっと悔しいかな」

「そうだね。でもシャムちゃんはまだまだ若い。これから伸びていくはずだよ」

「ふとした切っ掛けで克服できることもある。焦らず自分のペースでやればいい」

「そうだね。ありがとう」

 

優しい言葉が染みる。なんだか申し訳ない気持ちになった。

忍術の才能がまったく無い人というのも、まれにいるらしい。

私自身は術が使えない原因が分かってるから必要以上に落ち込んではいないんだけど、気を使わせちゃったかな。

 

「よし、俺たちにもお祝いさせてよ。何かほしいものはある?」

「えーと、うーん」

 

ほんとに気をつかわなくていいのになあなんて思いつつ。

問いかけてきたシスイさんへ、わざとらしくシナをつくって囁いた。

 

「じゃあ、――あなたの時間をくださるかしら?」

「ん”ん”っ?」

「姉さんが拗ねてたんだよね。最近お店に顔出してくれないって」

「ああそういうことか…びっくりした…シャムちゃん、君はそういうのどこで覚えてくるの…」

「イタチさん、笑ってないで。あなたもなんですけど。お兄さんに構ってもらえなくて拗ねた弟君のサンドバッグになるの私なんですけど」

「いや、すまない。シャムは全部うまく受け流してくれるから、あいつも安心してじゃれ付けるんだろう」

「痛いの嫌だもん。いい迷惑です」

 

私はいいから二人を大事にしてやってくれ。

特にブラコンの方のお兄さん。弟さんにストレスを与えないでください。もれなく健康を損ないます、私の。

サスケってばメキメキ戦闘力上がってて怖いんだよ。

今はスタートダッシュの差で私が一歩リードしてる感じだけど、何せポテンシャルが違う。追い抜かれるのも時間の問題だと思う。6歳児のくせしてやたら鋭い蹴りを入れてくる。末恐ろしい。私が怪我を負う前に暴力行為をやめるようコントロールしてくれ。頼むから。

ライバルポジはナルトがいるからそっちで満足してくれたらいいのに、八つ当たりの矛先がいつも私なのが解せぬ。一応女子なんですけど。

座学と体術のトップをいつも私がかっさらうから気に入らないみたいなんだけど、サスケってそんなに成績にこだわる子だっけ?原作の知識も遠いし、この年頃の子どもなんて私にとっては未知の生物である。

 

 

兄貴分2人と談笑しながら、ふとあの警告を思い出した。

 

開眼したら、

 

気取られてはならぬ。

知らせてはならぬ。

 

この世界で私が無条件で信じて頼れるのは、私自身と、主人公だったナルトだけだ。

姉さんは守るべき対象だから。

イタチさんは、一族代表の家の長男だから、彼自身のことは好きだけど、立場を考えれば頼るべきじゃない。

シスイさん――この人はどうだろう。私にとってどういう存在だろう。

今の私のヘッポコスペックからは考えられないけど、もしも私が写輪眼を得たとして……打ち明けることができるだろうか?

 

今は分からないけど、できることなら、私は彼らの方を信じたい。

ぽっと出てきて口だけ出してきた偉い人より、そばにいて触れあって、手を差し伸べてくれた人を信じたい。

その時自分がどういう選択をするのか分からないけど、それが今の気持ちだ。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

2人と別れておつかいを完遂し、帰宅するとオニオンスープとサラダが出来上がっていた。

感動した。今日はこれに加えてリブステーキとマッシュポテト、なんとブドウとオレンジまでついてくる。

ああ、こんな豊かな食卓を見るのはいつぶりだろう……!!

 

「姉さん姉さん私も手伝う!ありがとう!!感動をありがとう!!」

「ふふふー。出世払いで返すがよい!さー、手洗ってきて」

「合点承知!!」

 

姉さんお手製のご馳走と、マフラーのプレゼントを貰って、その日は心もお腹も満たされて幸せな気持ちで眠りについて。

 

幸せなこのときの私は不穏の気配に気づいていなかった。

 

 

 

 

この日から、シスイさんとイタチさんの姿を見なくなった。

 

 

私は何を忘れてる?

 

 

 

 




 

次回から空白の一年編かな。
誰の視点から始めるか悩みます。
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