~3分後~
静かに店の扉が開き、一人の女性が店内に入ってきた。
「お、来たか」
ヤフェトは女性の姿を確認すると手を上げた。女性はそれに気づくと優雅な足取りで静かにヤフェトの方に歩み寄り、ヤフェトの向かい側に座った。
「ひさしぶりだな」
ヤフェトは女性に言った。
「ああ、そうだな」
女性は微笑みながら答えた。
「仕事は大変そうだな。なかなか休みも取れないみたいじゃないか。皇帝っていう仕事は。人目を忍んで、変装までしないとここまで来られないなんて」
「仕方ないではないか。これは我々アブリアルの義務だ」
女性の名はアブリアル・ネイ=ドゥブレスク・アブリアル伯爵・ラマージュ。現皇帝陛下である。今日は一年にたった一回の休日を利用し、元部下であり友人でもあるヤフェトに会いに来たのである。二人は心の内では愛し合っていた。が、二人の間には名前という大きな壁が存在していた。そのため結局友人以上の仲で接しあうことは無かった。少なくとも他人に気づかれるほど大っぴらには。
店内には他にも数名の客がいたが、変装しているのと小声で話しているおかげで誰もラマージュには気づいていない。
「別に非難している訳ではないよ。ただ、大変そうだな、と」
「確かに大変ではある。しかし私がやらなければこの帝国は崩壊してしまうであろ。ところで、今日は剣はどうした?」
「それがな・・・・・・・・・」
ヤフェトはその理由を説明した。
「ほう、ではそなたの孫娘とラフィールは友人なのか?」
「ああ」
そこまで聞くとラマージュはクスクスと笑い、それから言った。
「まるで昔の我々の様だな」
「あははっ、確かに。さて、それじゃあそろそろ行こう」
「ああ、そうだな。あまり時間も無いからな」
そう言って二人は店を後にして人混みのなかへ消えていった。
一方ラフィール達は目的のレコード店に辿り着き、店内を歩き回っていた。
そして、店内でレコードを眺めていると、8歳くらいのアーヴの少年がラフィール達に近づいてきて、二人をじっと見ていた。
「そなた、どうしたのか?そんなにアブリアルが珍しいか?」といって、その少年に気づき、ラフィールが頭をなでようと瞬間。
その少年の瞳が感情のないものに変化して、突然口を開けて、小型のバルカン砲ができて、銃を乱射した。
「王女殿下、危ない。」シータは、その異変に素早く気付き、その弾丸を全て、剣で防ぎ、アーヴ少年を一刀両断にした。
真っ二つにされた少年の体は機械でできていた。
「こ・これは、どういうことなのだ?」ラフィールも突然の状況の変化に驚いた。
「ラフィールちゃん、あそこ・・・」店の外を指差すと、まるで生気のないうつろな目をした集団が店の周りを囲んでいた。
「どうやら、レオの仕業みたいですね。王女殿下。機械のオモチャで私達を殺そうということですわ。これは、面白くなってきました。退屈しなくてすみそうです。」真剣な表情ながら楽しそうなシータ
「私も出来る限り後方支援します」
物陰に隠れて弾装に弾を満タンにしておく。1000個全てを別々のマガジン(弾装)に入れる。弾が1000発。1つのマガジンには計8発しか入らないその分、リロードが短い。合計125個の予備弾装が出来上がる。
ドゴォン ドゴォン・・・・・・・・・
キュピィン
「弾切れ…」
装填時間はわずか1秒。その1秒を利用し大半の敵をなぎ倒してゆくシータ
「男爵閣下…、貴方は裏口を御願い。邪魔でしょうがないもの」
「最後の1言は余分です」
ラフィールと共に裏口へ回り、ナシーカがリロード中にラフィールが掃討しラフィールがリロードの時はナシーカが援護するというコンビネーションが出来ていた。お互いの隙をなくすという重要な作戦だった。
「キリが無い……!奴らは一体どれだけ作ったのだ?」
「さぁ?…。機械なら人間と違って大量生産が安易に行えるし、飛躍的に安価ですむもの」
ただ、……2人は同じ事を考えていた。
(人間の形をしているとは卑怯な)
(人の容姿をしているなんて卑劣な事を)
その時だった。
ジャッキィン
後ろを振り返ると、どこからか進入してきた機械達がいた。ヴァルカン砲を構え、ぴったりと狙いを定めている。
「行くかどうか…」
ラフィールがそこまで言うと、
「迷った時は……!」
ナシーカが先を言い、今度は2人で同時に言った。
「行く」「行く」
と言い、背中合わせに一斉射撃を行う。お互いの背中を任せる。
しばらく撃ち続けたあと、ポケットにもう弾装が入ってなかった。
「ラフィールちゃん、ごめんね。弾が……」
「その先は言うでない。私もだ」
じりじりと歩み寄ってくる機械たち。ヴァルカン砲の有効射程距離に入った瞬間だった。何条もの凝集光が機械を一掃した。
「間に合って良かったよ、ラフィール」
ラフィールには酷く懐かしく、親しみがあった声。
「こ、皇帝陛下……なぜここに?」
ここは裏路地とはいえ、だれかが聞いているかもしれないので小声でナシーカは驚きを露にした。
「説明はあとだ。表へ出るとしよう。レーグルス男爵閣下が今ごろ表の敵を片付けたころであろうからな」
表へ出るとそこには機械の残骸が散乱しており、残骸の中に2人が立っていた。
「お、無事だったか?ナシーカ。王女殿下もお怪我はございませんか?」
三人に気づいたヤフェトは振り返ると言った。
「うん、おかげで助かったわ」
「そなたに感謝を。私も無事だ。ところで、一体どうやってこれだけの敵をたった二人で倒したのだ?」
ラフィールは二人に尋ねた。
「だいたい半分は私がこの剣で、残りは男爵閣下が倒しましたの。男爵閣下は最初は公女閣下の銃をお使いになられていましたが、弾切れになると今度は素手で次々と倒していらっしゃいましたわ」
シータが答えた。
「素手!?そなた、私をからかっているのではあるまいな?」
ラフィールはシータを凝視して言った。
「彼女の言葉は真実ですよ。銃は確かに強力ですが、弾切れでは何の役にもたちませんからな。残りは素手で倒しました」
ヤフェトが代わりに答えた。
「本人がそう言うのであれば信じよう。しかしそなた、さっきの剣術といい今の格闘術といい人並みはずれているぞ。何か学んでいたのか?」
ラフィールは尋ねた。ヤフェトは答えた。
「昔、私が爵位を息子に譲った後、武術でも学ぼうかと思ったのが始まりです。学び始めると私は段々それにのめり込んで行き、そして思いました、”もっと強くなりたい”と。そこで私はいろいろな地上世界を旅して多くの武道家に弟子入りし、様々な武術を学びました。そしたらいつの間にかここまで強くなることができた、という訳です。今は息子が死んでしまったので私が爵位に復帰していますが、ナシーカが成人して爵位を継ぎ、良き人に出会う事ができたら、私はまた旅を続けようと思っています」
「そうであったか。ところで、もう一つ質問があるのだが」
「何ですかな?」
「そなたと御祖母様とはどういう関係だ?」
答えたのはラマージュだった。
「男爵は昔私が十翔長になって突撃艦の艦長となった時、軍匠列翼翔士として私の船に乗り込んでいたのだよ。それ以来、私が帝国元帥となるまでずっと男爵は私の忠実な部下として職務に励んでくれた、いわば戦友だ」
「そうですか。わかりました。そういう関係だったのですね。でも、まさか、こんなところに来るとは思いませんでした。」皇帝陛下に答えられたので緊張するラフィール
「あら、王女殿下しらなかったのですか?男爵閣下は、ラマージュ陛下の懐刀といわれたほどの翔士だったのですよ。でも、陛下どうしてこんなところに?もし、今回の騒動で陛下の身に何かあったら帝国はどうなるのですか?いくらなんでも、護衛もつけずに来たのは、軽率だと思います。」心配そうに言うシータ
「確かにそうかもしれないな。でも、結果的に我が身には何も傷がつかなかった。それで、よいではないか。でも、私の休暇時間ももうすぐなくなる。そうしたら、護衛もここに殺到するから、もう大丈夫であろ。それと、今回の騒動の原因は何なのだ?詳しく教えるがよい」ラマージュ
こうして、状況を知っているシータがレオなる人物がナシーカとラフィールの命を狙っているという話をした。ついでに、プラキア卿がこのレオを自分自身の手で倒したいという希望だったので、彼女以外では積極的にレオを殺しにはいっていないことも説明した。
「え、プラキア卿が?レオに復讐するために特訓をしているのか」
「お姉様が・・・。」
「そうか、そういう状況なのだな。うーん、私が勅命を出せば、そのものもすぐに捕らえて、殺すことができると思うが、プラキア卿のことを考えるとやめておいたほうがいいということか。男爵、そなたは、どう思う?」ラマージュ
「これは娘たちの問題でもあるからな。大人が口出ししなくてもいいだろう。ただ、国が危うくなったら全面協力します」
とヤフェト。
「お姉様には悪いけど、私は……」
その先は言えなかった。その問いに答えたのはラマージュだった。
「するがよい。私も100年ほど前、そなたと同じ様に犯されたことがあってな。復讐は自分の存在を守る為に必要だ。プラキアと協力するがよい」
と、言い宇宙港にさっていき、ヤフェトも続く。
「ナシーカ、折角そこまでおっぱいが大きくなったのだから死に急ぐ様な真似はするなよ」
ヤフェトが言うとナシーカは顔を真っ赤に紅葉させた。
「もう!お祖父様ったら」
手を振り、宇宙港へ戻っていった。
「あ、私まだレコード買ってない!」
再びレコード店へ戻ったが、ぼろぼろになってほとんどが売り物ではなくなっていたが、
「あ、あった。これ、ずっと探していたの」
程度も良好で、銃弾も浴びていなかったので直ぐに購入した。
「それじゃあ、やる事は全部やったし、帰ろう」
ナシーカがラフィールの方を向いて言った。
「そうだな。今日はいろいろありすぎて疲れた」
「そうね。シータさんはこれからどうするんですか?」
「私は一旦は女殿下のお側を離れさせていただきます。しかしまたすぐに会えることでしょう」
「どういう意味だ?」
とラフィール。
「後二ヶ月で修技館は新年度になって教官の異動がありますでしょう。そのとき私は休職されるセーヌイ・ボルジュ=ヴァレリアル・リース教官の代わりとして修技館に赴任することになっています」
「え、あの人休職するんですか?」
驚くナシーカ。
「ええ。聞いた話ではお子さまが生まれるから育児休暇を取られるとか」
「そうか。では二ヶ月後、また会おう」
ラフィールは言った。
「ええ、必ず」
そう言ってシータは去っていった。
「さあ、私達も帰ろう」
「うん」
こうして二人も修技館へ戻った。
一方ラマージュとヤフェトは・・・・・・
「全く、今日は厄日だな。いろいろありすぎる。せっかくの休み、そなたと二人っきりで過ごそうと思っていたのだが」
残念そうに言うラマージュ。
「運が悪かったのさ。仕方がないよ。おっと、もうすぐ君の護衛がやって来る時間だ。それじゃあ私はこの辺で」
「もう行ってしまうのか?」
「仕方ないだろ。君と私の関係が、護衛の人達を通じて皇族方に知られでもしたら、もう二度と会わせてもらえなくなってしまうかもしれないじゃないか。レーグルス男爵家がいくら皇族方と仲が良いって言っても所詮はスポールだ。友人として付き合っているうちは皇族方も黙っていて下さる。しかし恋仲なんて事になったらさすがに皇族方も一族の恥だと考えるだろうから黙ってはいないだろう」
「分かっている。確かにアブリアルである私とスポールであるそなたが恋仲であるなどということが他のアブリアルの耳に入れば私もそなたも間違いなくただでは済まないであろうし、他のスポールの者の耳に入れば我々を罵倒する格好の材料になるであろう。だが、私は・・・・・・私はそれでもそなたが好きなのだ」
ラマージュは悲しそうな目をしてヤフェトを見つめた。
「分かっている。私も君と同じ気持ちだから。私も今でも君を愛している。だが、アブリアルとスポールとの間にある壁はあまりにも高すぎる。私達二人では・・・・・・どうしようもない。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・そんなに悲しそうな目をしないでくれ、頼むから。別れが辛くなる」
「すまない・・・・・・・・」
「・・・・・・・それじゃあ私はもう行く。今日は、いろいろあったけど、楽しかった」
ヤフェトはそう言ってその場を後にしようと踵を返した。が、その瞬間ラマージュはヤフェトを背中からそっと抱きしめ、顔をヤフェトの背中に埋めた。
「・・・・・・・・・ラマージュ?」
突然の事に驚くヤフェト。
「・・・・・少しだけ・・・・・こうさせてもらえないか?・・・・・・・」
「・・・・・・ああ、いいとも」
ヤフェトは優しく言った。
こうして二人は暫くそのままでいた。この時ヤフェトを後ろから抱きしめていたのは、皇帝としてのラマージュではなく、一人の一途な女性としてのラマージュだった。やがて、ラマージュは手の力を抜いた。手がヤフェトの背中から離れ、だらんと下に垂れ下がった。ヤフェトはゆっくりとその場を後にした。護衛達が到着したのは、その三分後だった。