ラマージュが医療室に着いた時には再生槽に入れられていた。
「間違いない。私の娘の…ラフィールだ」
近くにいた専門の技師兼医療班の“努”が付くほどのエリートにこう尋ねた。身体交換の痕跡と洗脳の確認はどうだ?、と。その技師は心理科で、洗脳の技術に詳しい。
「いえ、なにも。身体交換をすればここに特有の傷があり、この子にはない。洗脳をすれば瞳孔の反応に支障がでる。この子は多分……、いえ、間違いなく、ファリース子爵殿下です。凝集光の傷も、新型装置で消しました。大した生命力ですね、普通の翔士ならばとっくの昔に死んでいますよ」
ラマージュは首を振り、
「いや、助かったのはこの子の生命力ではない。そなたたち、医師の『力』と技術の進歩であろう。礼を言う」
「私はこれで失礼します。もし、何かあったのでえれば、隣の事務室にいますのでなんなりと」
医師はそう言って。扉に入って行った。
「うっん……母上……?」
「そうだ、私を覚えていて嬉しい。私は酷い親だ。そなたがそんな目に会っても私は助けれなんだ」
「母上、ついに会えたのですね。うれしいです。私・・・・、私、頭に何か入ってきたけど、耐え抜いた。絶対、母上に会うと決めて、ずーと、ずーっと戦っていたの。」ファリース子爵
「そうか、つらかったのか。もう、大丈夫だ。安心するがよい。私がそなたを守ってやるからな」抱きしめるラマージュ
そこへダリシュとベルガと『黒き槍』のベルガの部下、数名が医務室へ入ってきた。
「陛下、親子対面の状況は、失礼ですが、ファリース子爵殿下を尋問させていただきたい。」穏やかな様子で頼むダリシュ
「そなた、この子を疑っているのか?この子は洗脳も身体交換もうけていないぞ。だから、サタンのスパイではないぞ」キっとダリシュをにらむラマージュ
「そうですね。でも、僕の部下がサタン艦隊にヴォベイルネー鎮守府を攻撃れさたとき、ファリース殿下を確認したと言っています。そのとき、その艦隊に『青の牙』の一人がもぐりこんでいたのです。」
「嘘だ。それは、この子のクローンであろ。なぁ、ラフィール、そなた、このことをおぼえがあるか?」
「私・・・・。わかりません。私、ついさっきまでの記憶しかないの。あの事故のあとの記憶は、ほとんどない・・・。」
「うーん、おかしいですね。クローンではないことは、確認ずみなのですけどね。僕は部下を信用しています。少なくとも、今、突然、現れた子爵殿下よりはね。どっちにしても、陛下、尋問のために彼女の身柄を預からせていただきたいのです。あの記憶片よりも情報を持っていそうなのでね。」陛下に懇願するような態度を示すダリシュ
「いや、私。こんな人のところ、行きたくない。母上、どうにかしてください。」嫌がるファリース子爵
「そうか。ハーデスの息子よ。尋問はここでやるがよい。いいな。これは、勅令だ。ラフィール。私が見守っている。めったなことは、させん。」決意するラマージュ
「そうですか、わかりました。それでは、子爵殿下、どうして、あの記憶片を持っているのです。それと、どうやって、サタンから脱出したのです。」ヴォベイルネー鎮守府襲撃は覚えていないと判断してこの質問をするダリシュ
「わからない。気がついたら、連絡艇にのっていて、敵らしきものが後ろから攻撃してきて、必死に逃げたの。宇宙港についたと思って、安心したら気を失ったみたい・・・・。」なんとか思い出そうと必死のラフィール
「そうですか、ようは、ほとんどわからないか。これは、困った・・・。これ以上質問してもおぼえてなさそうなので、次の質問で最後にします。あなたは、僕たちの敵ですか、それとも、味方ですか?」今度は真剣にファリース子爵の瞳を見るダリシュ
「もちろん、味方だ。私が母上の味方のはあたりまえであろ。」
一瞬、瞳に困惑の色を見せて、もとの表情に戻るファリース子爵。でも、ダリシュは、その異変を見逃さなかった。
「よく、わかりました。では、陛下、尋問は終りましたので、僕は帰ります。ベルガさんたちも行きましょう。あ、陛下、部屋の外でレーグルス男爵閣下が心配そうにしています。あの方にもねぎらいの言葉をかけてください。」
「ああ、わかった。そなた、これで、ラフィールの疑いは晴れたのか?」
「ええ、確信をつかみましたよ。」と意味ありげな微笑をしてその場をさっていくダリシュ
すると、なぜか、ファリース子爵は、拳を握り締めて、瞳も憎しみと怒りの色を見せて、壁の向こうを見つめていた。その向こうにはヤフェトがいた。
ラクファカールにある黒き槍の本部
「ダリシュ君、どうして、子爵殿下を殺さなかった。君なら、彼女が敵だということはわかっているだろ
」いつもは、無口だが、珍しく声を荒げるベルガ
「ええ、でも、彼女の目的が達成されても、我々にあまり損害はでませんから。それに、彼女の脱出はサタンの予想外の行動というのも事実ですし、ここは様子みです。」何かを思うダリシュ
「どういうことなのだ、説明してくれないか。」
「彼女の目的は、レーグルス男爵閣下の命だけです。他には、考えられません。あの事故前のファリース子爵殿下に関して、調べましてね。そのとき、この日記が出たのです。ここには、男爵閣下への憎しみが書いてありました。詳しい当時の状況は、わからないですが、殿下はどうやら母親をとられたと思っているみたいです。自分にあたえられるはずの愛情はすべて、男爵閣下が独占しているとも書いてありました。」資料となる記憶片をベルガに渡すダリシュ
「なるほど・・・・。君は恐ろしい少年だ。ここまで、見こして男爵閣下を陛下の護衛につかせたのか。陛下と一緒なら、子爵殿下も手が出しにくい。彼女が男爵暗殺を成功しても、失敗しても、陛下によって子爵殿下は、処分されるということか。おまけに、君は男爵閣下を陛下を前線へ導く危険因子とも考えている。両方いなくなってしまえば、今後、陛下を迷わすものは、いなくなるということか。」ベルガ
「それは、買い被りすぎです。ベルガさん。子爵殿下がこちらにきたのは、偶然です。でも、その偶然も利用しないとね。でも、男爵閣下が陛下と一緒にいればいるほど、子爵殿下は殺意を抱くのは、予想できます。そのとき、陛下がどうするか?そこが今後のポイントでしょうね。どうころんだところで、僕は対応策を考えています。」
「ところで、一つきになったのだが、なぜ、子爵殿下には洗脳の兆候がなかったのだ。私もあの医師を知っている。彼が誤診するとも思えない。ましてや、嘘をつくなんていうことは、ないと思うのだがな」疑問点を口にするベルガ
「それは、答えは簡単。子爵殿下は自らの意思でサタンの元にいったのです。人の憎しみや恨みが狂気に変わることはよくあります。たとえ、アブリアルでもね。それに、当時の資料に、私の叔父であるタトゥースと子爵殿下が接触したのもありました。父が書き換えたタトゥースの資料は、父が保存しておいたので、それを見て、知りました。さて、ラマージュ陛下、想人と娘どっちに味方するのでしょうか?いずれにしろ、陛下は悲劇をみるでしょう。」陛下を想い悲しげになるダリシュ
「何と言っても、レーグルス男爵閣下を見た瞬間、口調と目つきが変わりましたからな」ベルガ
「まぁ、陛下の対応次第では両方を手に出来ます。もちろん、確率は一割にも満たしませんが」
結局のところ、どっちに転ぶかはラマージュ次第である事は明白。