こうして、ラマージュ陛下とファリース子爵が対面している頃、ラフィール達は、今後の敵に対抗するため、修技生としての訓練だけではなく、それ以外の強化訓練をプラキアとシータから受けていた。
「これで今日の訓練は終わり。よく頑張ったわね、私の可愛い殿下」
「まったく、これくらいの訓練でヘトヘトになるとはまだまだね」
と、シータが愚痴を零したとき、
「あのね、殿下はまだ9歳ですよ?9歳。それを考えると素晴らしい物です」
と、ラフィールの身体から滴り落ちる汗をふき取っていたら、ファリースが部屋に入ってきた。
「レーグルス男爵閣下は?」
「ああ、お祖父様ならまだ再生槽の中よ。あと一週間はあのままよ。でも…何故?」
ファリースはラマージュと話している時の事を話した。
「ラマージュ陛下はまだ親としての経験がないからどのように接していいのか判らないのですよ」
と言った後、プラキアはとある事に気が付いた。
「ファリース子爵殿下、よろしいのですか?今日は16歳の誕生日ですよ?いいのですか?行かなくて」
「私の誕生日なんかだれも祝ってくれない!」
「それは違うな。誤解は早いうちに解いておこう。私がファリース子爵殿下に会わないのは、私がスポールの者だからだ」
壁に手を着きながら歩いてくるヤフェトにナシーカが気をつかい、肩を貸す。
「どういう意味!結局、種族を理由に逃げているだけじゃない!」
「それは違うな。ファリース子爵殿下はスポールの者が嫌いらしいからな。そんな所へ私がのこのこやってきたら殺されるかもしれない」
「じゃ、じゃあどうして…ココに…」
ナシーカが言うと、
「それは私の誤解だったからだ。ファリース子爵殿下は何者にも優しい。ただ、硝子の様に触れると壊れやすいのさ」
彼は痛み止めに酒を煽っていた。しかし、一度も飲酒経験のないヤフェトは酔いつぶれてしまった。
「酔った時は正直になるって本当ね。全く、こんな真剣な話の最中に口説くなんて。お祖父様のエッチ」
そう言いながらヤフェトを再生槽へ入れた。
「ラフィール。それで、初めて男爵閣下に会った感想はどう?」ファリース子爵にむけて言うシータ
「そのいやみったらしい口調。シータ・・・。そなたか。久々だな。修技館時代の悪友がこんなところにいるとは、驚いたぞ。そなた少し老けたな。」旧友に会って、驚きながら喜ぶファリース子爵
「あら、ラフィールは、あのときと変らないのね。しばらく、生命維持装置かなんかで眠っていたのかしら。まぁ・・・いいわ。特別な詮索はしないわ。・・・で、どう感想は?」嬉しそうに聞くシータ
「別に何も・・・・・・。ただ、母上が惚れる男とは思えないな。あの男には皇族やスポールを怒らしてでも母上を手に入れようという気概がなかった。それが一番ゆるせん。そんな男に母から愛情を奪われたこともな。」怒りの瞳で睨むファリース子爵
「なるほど、アブリアルらしい考えね。愛は奪うものか・・・。でも、その様子だと男爵閣下を許す気には到底、なりそうもないわね。・・・・そうだ。男爵閣下のことは別として、これから二人きりで飲みましょう。久々に悪友の嫌味を肴にのむのも、子爵殿下にとっては良い経験でございますわ。殿下」最後は、ちょっとした悪意を込めて称号を言うシータ
「そうだな。そなたの嫌味を聞かされるのは、きついが、反撃の準備のネタもいくつもあるし、あえてつきあうとするか。」悪口を浴びせながらも嬉しそうに言うファリース子爵
こうして、二人きりで飛翔科修技館の学生寮にあるシータの部屋へ二人は向かった。
「酒類はなににします?」
「私は…、果実酒がよい。16%以上の」
その時、ファリースは、ラマージュが子守唄代わりに歌っていた曲を思い出し、口ずさんだ。
真よ この酒は心にしみる......
たとえ月日を無理に数えてぽっかり空いた穴に背いて
楓もいつか年を重ねて帰らぬ人を思ふ
憎みきれない背中と バカらしくもある言葉
いつか絆を支えた 真よほら、仲間達を見ろ
白く眩しい光の中で愛に包まれて
男の夢を、堅い誓いを永久に語ろう
真よ この酒はお前の旅路の杯さ
真よ この酒は瞳にしみる......
「お酒を呑みながら唄う歌ね。よく合うわ」
「子守唄とは程遠いけど…私はこの歌で逃げる決心がついた」
「そう、悲しげな歌ね。唯一の思い出…か」
シータは昔の事を思い出した。
「私達がまだ星界軍に勤務していた時は、この曲だったわ」
シータは昔部下として、そして同僚が艦と共に散った事を思い出した。シータは泣き上戸だったのだ。
いのち温(ぬく)めて 酔いながら
酒をまわし飲む
明日の稼ぎを 夢に見て
腹に晒(さら)し巻く
海の男にゃヨ 凍る波しぶき
北の漁場はヨ 男の仕事場サ
宇宙を海に例えて男性が好んで歌っていたそうだ。あいにくシータは女性故に一番しかしらなかったが。
「有難う、誘って。楽しかった」
シータの部屋を出てしばらく歩いていると、ヤフェトに出会ってしまった。ヤフェトはプラキアと雑談しており、一緒に部屋に帰る途中だった。
ファリースは銃を取り出し、ヤフェトに狙いを定めた。しかし、それに反応したのはプラキアだった。銃を持っている右手を壁に叩きつけ、銃を落す。
「レーグルス男爵閣下、陛下を」
「言われなくったって」
走り去ってゆくヤフェトを確認して、尋問した。
「どうしてそんなに悲しい事をするの?」
「だってあの者は愛を独り占めする卑怯…」
そこまで言った時、プラキアはファリースをひっぱたいた。いや、力の限り殴ったの方が正しかった。ファリースは反射的に睨みつけたが、プラキアはその時泣いていた。ファリースは何故、プラキアが泣いているのかは判らなかった。
「それでは…、貴方は、レオと何一つ変わらないわ!」
「あんな者と一緒にするな!」
反論するが、
「いいえ、何一つ変わらないわ。愛して欲しいから誰かを殺す…。何一つ変わらないじゃない!どこが違うと言うの?貴方は陛下の…愛を受け止めようとしないから、愛が判らないのよ!」
と、プラキアも食い下がらない。
「そなたに何が分かる!」
「貴方こそ陛下や閣下の気持ちを理解しているというの!?」
「黙れ!」
「嫌よ!愛っていう物は創り上げる物。決して奪い取る物なんかじゃない!」
,ファリースは、ハっとした様に俯いた。
「貴方は、昔の私を見ているようで面白いわ」
「どういう意味だ?」
「貴方とは次元が違うでしょうけど、お母さまに愛して欲しいと願うばかりにお母さまを不幸に陥れた。それに気が付いた時には遅かった…。貴方は私によく似ている。だから貴方には、私と同じ道を歩んで欲しくなかった。だから…」
プラキアの頬を大粒の涙が伝う、
「でも、どうすれば…」
「ゆっくりでもいい。積極的に話して、親しくなりなさい。時間はかかるでしょうけど、気がつけば、私の可愛い殿下とレーグルス男爵公女のように種族を超えても絶対に切れない絆が出来ますから」
プラキアは、スッと手を離し、何処かへ去っていった。ファリースはただ、そこに座り込んでラマージュが来るのを待った。
「さすが、クリューブ王の想人だ。ラフィールの良心を取り戻すとは」
座り込んでいるファリースに駆け寄り、手を差し伸べたのはヤフェトだった。
「貴方のように綺麗な方にはそんな物騒な物は似合いませんよ。貴方には笑顔が一番!」
ファリースはクスッと笑い、それを見ていたラマージュは同感だった。
「そなたの笑うところを私も見たことは無かった。さぁ、我が家に帰ろう、ラフィール」
「はいっ」
ファリースは思った。どんな形でもそれが『愛』だということに。