こうして、戦線は一時、膠着状態になった。すると、連絡艦<コーマルル>より通信が入った。
「敵、サタン艦隊の後ろに8つの時空泡が接近してきます。その大きさはは突撃艦の単艦時空泡より一回り小さいです。このような大きさの艦は帝国星界軍では登録されていません。」不思議に思う通信参謀
「8つ…。どうやら、『青の牙』の援軍が来たようだ。」ラマージュ
「しかし、たかだか8つの艦で状況が打開できるものですか?陛下」いつもは冷静だが、奇妙な援軍を不思議に思うファムランシュ
「そなたは、わからないと思うが、あの『青の牙』マスター専用特殊戦闘艦『影船』が8隻そろって戦闘に参加したのは、『青の牙』が作られてから一度しかなかったのだ。これは、ジムリュアの乱のときだ。そのとき、何年と続いた内乱が彼らが参加してからわずか一週間で終結した。これは、皇帝のみが閲覧できる秘匿クラスSの記録でしか見られない情報だからそなたにわからなかったであろう。」
説明するラマージュ
「なんと、それは、知りませんでした。ですが、いくらその『影船』とやらが優秀でも8隻では、どうしようもないでしょう。サタン艦隊は、まだ60個分艦隊以上は残っていますよ。陛下」
「そうだな。だが、考えも無しにハーデスが来るとはおもえん。とにかく、ここは様子を見るしかないであろ」
ラマージュがその話をしていたとき、状況に変化が現れた。
「陛下、敵サタン艦隊の時空泡、次々と消滅しています。…・その時空泡の数、10個、20個、どんどん、増えています。すでに半分以上消失、まだ消えつづけています。…・・わずか、10分でサタン艦隊全滅しました。信じられません。」驚愕の声を出す通信参謀
「どういうことだ。まぁ、いい。もうすぐハーデスたちがくれば、わかるであろ」
まもなくして、ミスティック門を抜けて、8隻の鳥のような形をした船が入ってきた。
「こちら、『青の牙』マスター専用特殊戦闘艦『影船』一番艦ラシェールのハーデスです。陛下の援軍に来ました。そのついでに、サタン艦隊をとりのぞきました。」敬礼しながら報告するハーデス
「そなた、どんな魔法をつかったのだ。あれだけの艦隊、消滅させるとは。」気になっているので、素早く聞くラマージュ
「その説明は、彼女に任せます。」といって、ハーデスの隣にいた12~13歳くらいの薄水色の瞳と髪の巻毛をした美少女が指した。
「皇帝陛下、はじめまして、私は、アクリア・ウェフ=イトス・ミルフィーユです。『青の牙』の一員です。陛下の質問ですが、簡単に答えますと、サタン艦隊の思考結晶をのっとって、時空泡発生機関を機能停止にしましたの。」愛くるしい笑顔で答えるミルフィーユ
「なんと…そんなことができるか。逆にこっちの方が思考結晶をのっとられるのではないか?それにそなたのような子供がそんなことができるとは思えぬ。」これまでのサタンにのっとられた艦が多数あったことを思い出すラマージュ
「陛下、この姿は家徴なので、見た目よりもっと、年齢は上ですわ。それに、擬似生命思考結晶体は、タトゥースだけが作れるとは限りませんわ。私はこの子の力を借りて、サタン艦隊の思考結晶をのっとりました。名前は、『ヘヴィ・ベル』、この子は、ダリシュ坊やが作ってくれたの。それをサタンに対抗するくらい成長させたのが私です。陛下」子供らしいかわいい声で話し、鐘の立体映像を見せるミルフィーユ
「そうか、わかった。とにかく、だが、今でもあれだけの艦隊をそなたが全滅させたとは信じられないが、とにかく、感謝しよう。」
「陛下、このアクリア諜報員は、紋章院では『電子の妖精』といわれるほどなのです。思考結晶にリンクできる数少ないアーヴなんです。だから、今回のことができたのです。」横にいたハーデスが説明する。
「陛下、それで、私はあの軌道城館をさきほどから、ハッキングしているのですが、どうも本体は思考結晶ではないみたいです。ですから、のっとりは、不可能ですね。システムの中心が人の脳を使っているみたいなのです。」すでに、軌道城館の思考結晶のハッキングにかかっていたミルフィーユ
「なんと、仕事が速いな。でも、脳があの巨大な軌道城館を動かしているのか?そんなことができるのか?」疑問に思うラマージュ
「陛下、できます。タトゥースは人間の脳のデジタル化や思考結晶にリンクする技術を持っていましたから、でも、それでも、その本人の性格や心や記憶を移すには50%が限界なのですけどね」横から説明するハーデス
「そうか、わかった。とにかく、その脳を壊さないとあれは、機能停止には陥らないということか。ということは、あそこに潜入する部隊を編成しなくてはいけないだろうな。我々の今の戦力ではあの防御磁場を突破するのは困難だからな」納得するラマージュ
「防御磁場は凝集光のみ防げる。逆を言えば実体は通過できるということだ。母上、私が連絡艇を操舵し、防御磁場を潜り、力場を逆転させてきます。不可能ならあの得体も知れない主砲を破壊します」
ファリースの提案に不安になるラマージュ。
「たしかにあの主砲をよけられるのはそなたしかいないのだが、そんな危険な事をさせたくない」
ラマージュの個人的な理由に怒ったのはなんとファリースだった。
「母上!私は私です。確かに“陛下”の娘です。でも、それを理由にするのなら不公平です。他の女性にもその様に言って下さい!」
「判った。しかしそなた1人では難しいであろ。アクリア諜報員、頼めるか?」
頼むと、
「ええ、喜んで。でもいくら私でも護衛の方々が必要です。となると交通艇か艦載艇は用意してくださいね」
とだけ言って通信は切れた。
「中はどうなっているか判らないわ。どうしよう。私、行こうか?」ナシーカ
「ナシーカが行くなら私も行く」ラフィール。
「ならば私も行かない訳にはいかないわね」プラキア
ラマージュは気を利かし、操舵し安い交通艇を選んだのだった。
交通艇は発進した。
「主砲、交通艇に向かって発射……よけ切りました」
ファリースの操舵する交通艇は信じられない動きをしていた。操舵の技術は衰えることなく本来の力を発揮した。
「あ、あれが……。“妖精の指”の……技術…。ありえないけど、今は頼るしかないのか」
と、先任砲術士。自分と比べ物にならない操舵に驚いていた。無駄な動きは一切無く、その一つ一つの動きには、キレがあり、見る者が見れば美しい軌道であった。その操舵をする左手の指には『妖精の指だ』と噂され、ついにあだ名が…いや通り名が“妖精の指”や“天使の左手”と呼ばれていた。
「ラフィールの左指は本当に妖精の様に繊細で細長く、操舵も素晴らしい。私はあの子の親になれて誇りに思う」
「いや、あの子の指は本当に妖精の指さ。その名の通り」
と、戻ってきたヤフェトが言う。いまや“妖精の指”を知らぬものは誰一人居ない。宇宙ショーの操舵士に呼ばれたぐらいだ。そのショーはアクロバットやジャックナイフなどの高等技術で構成され、ほとんどの者が見に来る。操舵士に選ばれた者とゆうだけでは有名にはならない。
相手側のミスで航路を微妙にずれた船体がジャックナイフの時、それは接触する航路になってしまっていた。もしその時接触していればその船体が観客席に突っ込み、大参事となっていたであろうと推測されていた。ファリースは絶対に不可能と言われるその体制で航路を変更、1シェスダージュの隙間でクリアした。
その事が公になり、“妖精の指”という通り名が出来たのだった。
その事を言うと、
「す、凄いです、これで10発目なのに、全てよけきってます!あ、今防御磁場の内部に侵入」
多数のエネルギー反応をラマージュの頭環でさえ感じる事ができた。
「副砲です。でも全て……完全によけ切ってます。今のところ無傷です」
埠頭に侵入した彼女達が激戦を強いられる筈だということにラマージュは気付いていた。主砲と副砲さえ沈黙すれば全艦突撃できるものだが……。
「陛下、それに、ミルフィーユさんが、主砲や副砲の発射のタイミングや射線を事前によんで、それをファリース子爵殿下に伝えています。軌道城館の電気信号の情報を『ヘヴィ・ベル』を使って、読みとっているのです。もっとも、あれだけの操舵能力がないと、ミルフィーユさんの情報伝達も意味をなさないですけど、子爵殿下の能力なら、射線がわかれば、あの程度のことは、楽勝でしょうね。」いつのまに艦橋に着いていたダリシュが説明した。
「なるほど、ハーデスがアクリア諜報員をサポート役にさせた理由がわかる。それにしても、そなたは、どうして、あの船に乗りこまなかったのだ。ハーデスはのりこんだぞ。」不思議に思うラマージュ
「ええ、最初は乗りこむつもりでした。でも、今回の子爵殿下の作戦について、僕が嫌な予感がすると父に伝えたら、旗艦に残るように命令されました。今回の騒動の全面的な指揮は、『青の牙』では僕がしていますが、父は上司なので、命令には従うしかありませんですから。ついでに、各マスターも父の命令で、待機しています。」陛下を見つめるダリシュ
「そうなのか。だがそなたは、反対しなかったではないか。」ダリシュの発言に眉をひそめるラマージュ
「その時点で、明確な反対する理由がなかったからです。どっちみち、敵の懐に入らなければ、僕達に勝機はありません。あくまでも、僕の勘にすぎませんから。でも、その予感は当たるかもしれません。さきほど、部下にプラキア卿達が殺したレオの死体を調べたら、首から上が消えていました。」
しばらく、艦橋にいなかった理由を説明するダリシュ
「なんだと、レオは死んだはずではなかったのか。」
「ええ、死んだのは確かですが、首から上をとっていったのは、たぶん、サタンの配下のものでしょう。ミルフィーユさんに頼んで犯人の船員名簿の検索をしてもらったのですけど、一部のデータが破壊されていて、わかりませんでした。でも、この艦隊にいないのなら、軌道城館にいる可能性があるということです。」
「く、だが、もうラフィール達は、敵に潜入した。今の状況では、救援にいけるほどの操舵の持ち主は、いない。どうすれば、いいのであろ。」娘のことを思い不安になるラマージュ
「陛下。それは、大丈夫です。『青の牙』にもあれくらいの操舵ができる人間はいます。だから、状況が変化したらいつでも突入できるように準備しておきます。では、ユーリル、『ラシェール』の操舵の準備まかせた。僕がサポート役に回るから。」自分の隣いたユーリルに頼むダリシュ
「ええ、兄さん。わかったわ。いつでも発進準備できるようにしておくわ。では、陛下、いってきます。」敬礼して艦橋から去っていくユーリル
「陛下、これから、僕も各マスターと一緒にラシェールに乗りこんで、状況を見極めてから突入しようと思います。それとも、もしかして、陛下、私と一緒に来るつもりがあるのですか?」ラマージュの何かをいいたそうな眼差しを感じるダリシュ
「…っ。あると言ったら、そなたはどうするのだ?」
と、ラマージュ
「陛下、もしそのように言ったのならばもう二度と王宮から出られないように監視をつけます。陛下があっての帝国ですから。我々は死んでも直ぐに代わりの者が着ます。でも皇帝はそうは簡単にはきめられないでしょう?もし、そんな時に敵にこられたら帝国全体が混乱し、全滅します。皇帝は、たとえ飾りでも居てくれないと困るのです」
と、嫌味を多少混ぜて説明する。
「仕方ないな。しかし、ラフィールが『青の牙』の入隊を希望している。考えておいてくれぬか?」
ダリシュはしばらく考え、
「ええ、いいでしょう。いくら操舵のウデがいいといっても“妖精の指”にはかないませんから。もし入隊できたとしてもしばらくは訓練で苦労されるでしょう」
「もし出来ないのならばラフィールは、教官になりたいと言っていた」
「陛下、ファリース子爵殿下には教官の方がいいかもしれませんよ」
25
そして、ダリシュは『青の牙』マスター専用特殊戦闘艦・1番艦のラシェールに乗りこんだ。
ダリシュはユーリルの隣の副操舵席に座り、軌道城館の様子を眺めていた。
「兄さん、まだ、発進は、しないの?」
「いや、まだだ。もう少し様子を見る。」
すると、久々の二人きりなので、兄に話しかけるユーリル
「そう、ところで、兄さん、さっきの話を聞いたわよ。それによると、ファリース子爵殿下を『青の牙』にいれる気なの?私はやめた方がいいと思うわ。子爵殿下は、性格がまっすぐ過ぎると思うわ。とても、諜報員には向いていないと思うけど。」
「僕もそう思う。でも、陛下の頼みだ。性格はあわないなら、子爵殿下自ら判断するさ。本当は反対しようかと思っていたけど、あそこで、陛下が機嫌を損ねると、また前線に行きたいとか言われても困るし、一応は、考えてみるといったよ。でも、最終的に決めるのは、父さんだからね。」
「クス、大変ね。ラマージュ陛下のお相手も。兄さんの性格から考えると、本当は言いたくない嫌味や苦言をいったりして、嫌われ役も大変ね。」
「まぁ、それは、しょうがないさ。父も陛下とのやりとりは、経験だといっていたけど、陛下は自分自身の重要度をわかっておられないみたいだ。どれだけ、陛下を他の臣下が頼りにしていて、精神的支柱になっているのかとか、皇帝という肩書きに忠誠を誓っているのではなく、ラマージュ陛下自身に他の方々がどれだけ、必要としているかとか、それなのに前線で戦いたいと言って本当に困るよ。」愚痴を言うダリシュ
「あら、兄さんが愚痴を言うなんて、珍しい。でも、そうね。アブリアルの止める役目は、大変。しかも、アブリアルの中で最も、アブリアル的なのが、ラマージュ陛下ですものね。ところで、もう一つ気になったことがあるの?」からかう風に話すユーリル
「何だい?ユーリル」
「ファリース子爵殿下と私どっちが操舵の腕はいいの?本気で答えてね。」今度は、真剣な瞳でダリシュをじっと見るユーリル
「ファリース子爵殿下さ。ユーリルとは、ほんのわずかな差だけど、彼女の方が腕がいい」
「そう…・わかった。」
「ユーリル。その様子だと悔しそうだね。でも、しょうがないよ。君はまだ、14歳、パリューニュ子爵殿下と同じ年なのだから。」
「兄さん、年齢なんて、関係ない。私も操舵には、かなり自信があるのよ。だから、とても悔しい。…・決めたわ。兄さん、飛翔科修技館に入る頃には、ファリース子爵殿下の記録を絶対抜いていみせる。しかも、圧倒的によ。それくらい、必死で努力するわ。」ダリシュの発言を聞いて、決意するユーリル
後に、ユーリルが飛翔科修技館で全ての科目に星界軍飛翔科修技館の歴史上最高の成績を修めて、『黄金眼の天才児』といわれるようになったのは、ここが原点であった。
「そうか、頑張れよ。ユーリル。(ユーリルの負けず嫌いの性格を考えると、こう言って正解だな。まぁ、子爵殿下の方が現時点で勝っているのは事実だしね。)」いつもの穏やかな笑みで答えるダリシュ
「ところで、兄さん、せっかく、二人きりなんだし、久々にアレやっていい?」甘えた眼をするユーリル
「ふー、ユーリル、いい加減、兄離れしたほうがいいぞ。でも、しょうがないな。いいよ。」
「なんだかんでいって、ダリシュ兄さんは優しい。だから、好き」
そういって、ダリシュの胸元に顔をうずめて、スリスリするユーリル
「まったく、これから、命をかけた突入する艦を操舵するアーヴとは思えないな。ユーリル」
そういって、ユーリルの頭をなでるダリシュ
こうして、ダリシュとユーリルが兄弟の親睦を深め合っている頃、軌道城館内部ではファリース子爵殿下達は過酷な戦闘に突入していた。