一方ダリシュ達はラマージュの命令に従って破壊できそうな物を片っ端から破壊していた。全員万が一のために余圧兜や余圧手袋などを着用し、減圧に備えていた。作業を開始してから30分後、突然ウェスコーマスターが叫んだ。
「みんな、隠し通路があったぞ!」
残りのマスターとダリシュ、それにミルフィーユが行ってみるとそこには確かに幅80ダーシュ(80㎝)、高さ200ダーシュ(200㎝)ほどの通路があった。
「どの様に隠されていたんですか?」
ダリシュがウェスコーマスターに尋ねた。
「ここは絵で隠されていたんだ。ほら、今そこに置いているやつ」
そう言ってウェスコーマスターは壁に立て掛けてある絵を指さした。
「つまり、絵さえどければいつでもこの通路を使うことができた訳ね。という事はこの奥には何かがありそうね。行ってみる?」
ミルフィーユが全員に尋ねた。反対する者は誰もいなかった。
ダリシュ達は通路を進んだ。通路の突き当たりには扉があった。ダリシュは各マスターとミルフィーユに目で合図を送った。全員が武器をかまえた。それを確認してからダリシュは左手を各マスターとミルフィーユの方に向け、人差し指、中指、薬指だけを立てた。そしてまず薬指を折り曲げた。続いて中指を。そして人差し指を折り曲げた瞬間ダリシュは勢い良く扉を開け、その先の空間へ駆け込んだ。それに各マスターとミルフィーユが続いた。
その先は部屋になっていた。そしてその中には一人のアーヴ女性が椅子に腰掛けていた。その女性は手に直径30ダーシュ(30㎝)ほどの水晶玉のようなものを持っており、それにはキセーグが繋がれていた。
「ようこそ」
その女性は穏やかな口調でそう言った。
「貴方、ひょっとして<グランマ>ではないですか?」
その声を聞いたこの中では最年長のバルグゼーデマスターが驚いたように言った。その女性は少し笑い、
「そのコードネームで呼ばれるのは久しぶりだわ。確かに私は<グランマ>よ。ところで貴方は?」
「現バルグゼーデマスターのキュール・ボルジュ=クリテース・ダルリー。昔のコードネームは<ワイルダネス>」
「まあ、貴方があのちび助だった<ワイルダネス>なの? 大きくなったわね」
今度は<グランマ>が驚いたように言った。
「ダルリーさん、この方を知っているのですか?」
ダリシュがバルグゼーデマスターに尋ねた。この質問は他のマスターとミルフィーユの質問でもあった。バルグゼーデマスターは答えた。
「知っているも何も、この方はタトゥースと君のお父さんのお母さんだよ」
残った全員が驚いた。バルグゼーデマスターはそれにはかまわずに<グランマ>に尋ねた。
「ところで、何故貴方はこんな所に? 確か30年ほど前に死んだ筈では?」
「それは私が上手く偽装工作したのよ。私は思考結晶にリンクできる能力を持っていたし、その他にもいろいろな事ができたから可能だったのよ。ところで、」
<グランマ>はダリシュの方を向いて、
「そこの若い方、名前を聞かせてもらえないかしら?」
「シュリル・ウェフ=キルヒム・ダリシュです。ハーデスの、息子です」
ダリシュは答えた。
「まあ、通りでハーデスに似ていると思ったわ。・・・・綺麗な目をしているわね。汚れの無い、綺麗な瞳を」
「<グランマ>、その貴方が手にしている物は何ですか?」
バルグゼーデマスターが尋ねた。
「これは、疑似生命思考結晶体<コルべット>。貴方達が<サタン>と呼んでいる物よ。これには私の息子、タトゥースの記憶なんかが入っているわ」
「では、貴方は我々の敵なのですね?」
ダリシュが言った。
「そうなるわね。でも私は貴方達と戦うつもりは無いわ」
「え、何故です?」
意外な答えにダリシュは驚いた。
「復讐はもう十分果たした。これ以上戦っても何にもならない、とこの子が判断したからよ」
<グランマ>は<サタン>を少し持ち上げて言った。そして続けて、
「さあ、お行きなさい。この船は後7分13秒で自爆するわ。今更貴方達の命を奪おうとは思わない。ここから急いでお立ち去りなさい」
「敵の言葉を素直に信じるほど僕はお人好しではありませんよ」
ダリシュは言った。<グランマ>は少し笑って言った。
「信じてくれないのであればそれでもいいわ。でも、良く考えてみて。もし貴方達が私の言葉を信じないで、そしてそれが真実であったとしたら。そしてもし貴方達が私の言葉を信じて、そしてそれが虚言であったとしたら」
「・・・・・バルグゼーデマスター、あの方の言葉、信じてもいいのでしょうか?」
ダリシュは尋ねた。
「信じてもいい、と思う。私は<グランマ>が嘘をつくとはどうしても思えない」
「そうですか・・・・・・。分かりました。貴方の言葉、信じましょう」
ダリシュは決断した。
「ミルフィーユさん、各マスターの方々、撤退してください。これは、命令です。」ダリシュ
「わかった。いきます…・。ダリシュ坊やどうしたの?」
入ってきた通路から全員が出ようとしている中、ダリシュだけがその場を動いてなかった。
「僕はここに残ります。ちょっとやり残したことがあるのです。だから、皆さん、先に脱出してください。ミルフィーユさんもです。」
いつものおだやかな口調の中に決意した雰囲気があった。
「ダリシュ君、何をいうんだ?君は<グランマ>を信じるのではなかったのか?」バルグゼーデマスター
「少し、違います。あなたをの言葉を信じるといったのです。ですから、僕以外の全員を撤退させるのです。」
一歩もひかない雰囲気でダリシュはいった。
「しかし、君をおいていくなど、絶対できない。ここのみんな、いや『青の牙』みんなにとって、君は必要なんだ。例え、我々の命を引き換えにしてもね。」
バルグゼーテマスターも譲らなかった。
「そうだ。ダリシュ君が残るなら私も残るわ。」バルケーマスター
他のマスターも同意見だという風にうなずいていた。
その様子を<グランマ>は、見て驚いた。
彼女がヘルマスターだった時代では、表面上では各マスターは忠誠を誓っていたが、実際は互いの仲はあまりいいものではなく、自分の家の優秀さを競い合おうという雰囲気まで出ていた。ましてや、まだ、ヘルマスター前のキルヒム家の後継ぎの子供にここまで、信頼して忠誠を使うなど前代未聞のできごとだと思った。
「皆さんの気持ちはわかりました。しかし、これは、命令です。父の代理としてね。それに僕は残るといっても、ちょっとした仕事をやってからすぐに戻ります。だから、撤退してください。」
「…・・わかりました。ダリシュ君、絶対、生きて帰ってください。皆もそう願っています。」
そういって、べルグゼーデマスターをはじめ、各マスターとミルフィーユは撤退した。
「ふーん、信頼されているのね。あなたは。」
少し寂しげな表情になる<グランマ>
二人きりになるのを確認すると、ダリシュは、<グランマ>を見つめいていた。
すると、突然、彼の瞳から涙があふれいた。
「何を泣いているの?」
ダリシュの表情の変化に疑問を抱く<グランマ>
「あなたは、さっき、もう復讐を十分果たしたからやめるといった。でも、その復讐のために何人の命をおとしたのですか?シータさん、クルゼーアさん、ハイリッシュさん、マナサーユさん、その他、『青の牙』のメンバーだけでなく、紋章院の諜報員、翔士、翔士修技生…・・。彼らのことを思うと僕は悲しい…・・。涙がでます。」
「これは、復讐といっても戦争です。それで、人が死ぬのは当然です。それにいちいち悲しんでは気が持ちませんよ。あなたは、かなり優秀だと聞いたのですが、そんなことで涙を流すようではヘルマスターにはふさはしくありませんね。」
さげすんだ風にいう<グランマ>
「そうですね。感情を抑えなくては冷静な判断ができない。諜報員の常識です。でも、僕は…・もうそろそろ限界が来ました。これ以上、この戦いで死人はだしたくありません。だから、あなたと<サタン>を殺します。僕の手で」
最初は涙を流していたダリシュの表情が徐々に変わり、最後はアーヴの微笑もかすむくらいな残虐で怒りの色に満ちた表情へ変っていた。
その表情を見た瞬間、<グランマ>は彼女の100年以上の生きていた年月の中で最大の恐怖を感じていた。理性では、感情的な子供だと判断しようとしていたけど、本能は、これまでにない危険を感じていた。
「(・・・・・この子は一体?・・・・・・私が手足を震えさせるなんて信じられない・・・・・・)」
「私を殺すのは別に構わないわ。まあ、恐くないと言ったら嘘になるけれどね。でもおしゃべりしている間に自爆まで残り5分を切ったわ。そしてここから一番近くの救命夾まではどんなに急いでも3分はかかる。2分で私を殺すことが出来る?」
「出来るではありません。やるのです」
「なるほど。それじゃあ仕方がないわね」
<グランマ>は<サタン>を持ったまま立ち上がった。ダリシュはそれを見て、武器をかまえた。二人の間に沈黙が走った。
次の瞬間ダリシュは<グランマ>に向かって引き金を絞った。それを見て<グランマ>は、<サタン>を右手だけで持ち、左手を自由にして、小指をくいっと動かした。次の瞬間衝撃波がダリシュの身体を襲い、ダリシュは壁まで吹き飛ばされた。
「があっ!! な・・何だ・・・今の・・・」
「<かまいたち>というのをご存じ? これはそれを自分なりに改良したものよ。これでも今のは手加減したほうよ。本気でやっていたら、今頃貴方の身体はぶつ切りになっていたわ。それでも貴方は・・・・」
「倒す!!」
「良い答えね。さすがはハーデスの息子」
ダリシュは立ち上がると銃をかまえた。が、すぐに<グランマ>の衝撃波が襲いかかった。
「うぐっ!」
「冷静になりなさい。冷静にならなければ、勝てる勝負も負けますよ」
「くっ、くそっ・・・!(こいつ、強い。今まで戦った中で一番強い。しかも、まだ本気を出していない。まるで僕を試しているみたいだ)」
「いったでしょう。冷静になりなあさい。さぁ、どんどん行きますよ」余裕の<グランマ>
再び、衝撃波を今度は間髪入れずに連続で放った。
すると、ダリシュと<グランマ>の中間でそれは、爆発した。
「何・・・・・?」<グランマ>
「さきほどの技はもう会得しました。」そういって、銃を持つ逆の手で衝撃派を作り出したダリシュ
ダリシュは、突然銃を構えるのをやめて、<グランマ>に話しかけた。
「あなたのおかげで、冷静になりました。それで、思い出してのですが、レオの首はどうしたのですか?彼の空識覚にはもう一つの『サタン』がうめこまれていたはずです。それと、僕は殺す気はないのですか?あなたは、まだ、本気をだしていないみたいだ。」アーヴの微笑で見つめるダリシュ
「残念だけど、貴方の予想はちょっと違うわ。埋め込まれていたのは空識覚ではなくて頭環よ。同じ様なものだけどね。生まれつきこの場所で生まれた子は別だけど、連れてきたあの子は、頭環に仕込むしかなかった。もっとも、彼自身の心の奥にある、理性が完全に押さえている“心の欲”を引き立てる程度だった。それでもちゃんと、復讐を果してくれた。面白いものよね、友達同士で殺し合うなんて。私も見てみたかったな。でも、本気を出していないのは良くお分かりで」
笑みすらみせる≪グランマ≫に、先制を仕掛けたダリシュ。ダリシュが本気をだしても容易くはじき返す。苦戦を強いられ、再び睨みつける。
「ある種の洗脳ですか。もっとも、レーグルス男爵公女には酷いことだ。本人には伝えないでおこうと思ったけど、本人にこの会話を聞かせるとは。さすがは『思考結晶の天才』だね。だけど、僕は貴方を倒す。もはや、貴方は<グランマ>ではない、敵だ!」
その瞬間、片手だけの本気で、ダリシュはことごとく吹き飛ばされた。先程壊した扉に一直進に、まるで体がそこへ吸い込まれるかのように。だが、壁に当たったにしては衝撃が少なかった。
「青の牙も、その程度なの?」
と、見慣れぬ女性がそこに立っていた。もし、この女性がいなかったら、ダリシュは今ごろ首の骨を折っていただろう。
「冷静になったと、言ってもまだ感情に振り回されているわ。いい?常識に捕らわれていては、勝てないわ。貴方と敵のうちに会わなくて良かったわ。妹が私に会いたいと探し回ったみたいだから」
「貴方は小喬さんの、姉君…?とい事は、……もしかして“大喬”ですか?」
「ええ、そうよ。武器も同じく扇子。あの『人形』に捕らわれてはだめ。私が『人形』の動きを止めます。その内に…」
「分かりました」
<グランマ>は、手を差し出し、衝撃波を作り出すが、簡単に相殺し、一気に小競り合いにまで持っていった。片手を水晶から離し、両手で攻防をする。しかし、大喬は吹き飛ばされた。
「僕らの勝ちです、サタン」
「し、しまっ」
大喬の手から滑り落ちた扇子を拾い、思考結晶を両断した。グランマは悲鳴をあげる間もなく絶命した。
「ありがとうございます。大喬さん、助かりました。それにしても、その戦闘力…・。もしかして…・あなたがたは、“闇の狩人”…・・あのドゥグナーが設立した。帝国の危機に出現するといわれている最終兵器、あるいは、秘匿戦力…・。あなたがたの伝説は聞いたことがありますから。」
「あら、さすがの情報力ね。まぁ、戦闘能力では私達が上ですけどね。」ニヤリと微笑む大喬
「そうですか……。だったら、なぜ、もっと早く、この戦いに参加してくれなかったのですか?あなたたちが参加していたら早く終わって、犠牲者もこれほどでなかったのに…・・」悲しげな表情を浮かべるダリシュ
「いったでしょ。私達は最後の切り札なの。そう、簡単にはでないわ。敵の所在地もつかめなかったしね。それにしても、ダリシュ君、あなた優しいのね。」
「何故そう思うのですか?僕は今まで“冷酷”とは呼ばれたけど、“優しい”とは始めての評価です」
「理由より、早く脱出しましょう。サタンを破壊した今、ヤマトは破壊されるわ。行きましょう!」